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星奈、変身する

 家から出て逃げ出す人が多数いる中、人のいない裏路地で星奈は動きを止めた。

「……スター、お願い力を貸して」

『駄目だ! もし力が発動できず、君の体に悪い影響を与えたらどうする!?』

 それでも星奈の決意は揺るがなかった。もしかしたらスターがそんなわけはないと嘘を吐いたことが、彼女には分かっていたからかもしれない。

(守るんだ、みんなを)

『星奈、今からでも学校に向かうんだ。頼むから危険な真似は……』

「私はっ! それでも!」

 星奈の感情の全てが強い決意に変わった時、彼女の体を不思議な光が包んだ。

『!? 馬鹿な……』

 スターすら気づかず、星奈すらスターが自分の想いを組んでくれたとしか思っていない。だがフールの例のように、変身は人の方の意志を優先する。

 首元までだった髪が胸元まで伸び、髪飾りは肥大化して頭の両端で結ぶ。

 薄水色のシンデレラのようなドレスには、短いスカートにはマーブルのように星形がちりばめられており、お腹の部分にも星形のボタンがあしらわれている。

 右手に光るピンクの持ち手があるステッキの先には、やはり星を模したモニュメント。

「聖なる輝き、スター星奈、誕生!!」

 右手は親指から中指までを開き頭の右側に当て、左手でステッキを持ち胸元に掲げる、と、決め決めのポーズまでとって星奈は叫んだ。

『ポーズを取っている場合か! いやその名前はマズい! というか何故変身するんだ!?』

「ええ!? スターが認めてくれたんじゃないの!?」

『認めるかっ!! それとせめて顔は隠せ、どうにかして』

 髪が伸びているとはいえ、そのままの顔では跡が悪い。

「えーっと、じゃあ……出ろ、スターマスクっ!」

 適当に杖を振って叫んだところ、本当にそれが出現した。

「うわーっ! 魔法だ、すごーい!!」

『喜んでいる場合か!』

 星形のマスクは目の部分だけが空いている、しかもゴムなしで自然と顔にくっついた。

 ただ星奈はがっかりしている。あまり格好良くも可愛くもない。

(……モミジの葉っぱを被っているみたい)

『ほら、戻るぞ! 頼む、頼む、星奈……』

 スターは叱ることはなく、懇願するように祈った。

 星奈にはその感情が痛いほどわかる。自分を心配してくれていることも承知だ。それでも、止まるわけにはいかない。

(ごめんね、スター……。それじゃ、空を飛ぶっ!)

 適当に杖を掲げたところ、星奈が空を飛ぶことはできなかった。

「……あれ?」

『星奈、諦めて帰ろう。空を飛んで帰ることはできないが』

「知っているんなら教えてよ! それより、どうやったら急いで敵のところに……」

『いうわけないだろう!』

 スターの祈りと怒りを頭に受けつつ、問答している暇もないと星奈は自力で現場に向かう術を試し続ける。

(えっと、瞬間移動! 大切な人のところへダッシュ! うー、星? 星がないと駄目なの?)

「星形の、乗る奴!!」

 本当に適当な考えだったが、それが正しかった。

 浮かぶ星形の板に星奈が掴まると、それは超能力で動くように急浮上し高速移動し始めた。

『やめろ、星奈!!』

「うわー速い速い!! でも、行っけー!!」

 星奈は戦いを、これから命がけで戦うということにも気付かず、戦場へとひた向かう。



 ビルに自ら貼り付けになっていた正義はようやく体を地に降ろした。

 数十メートルは離れているものの、黒い巨人の姿はくっきりと見える。

『しっかりしなさい!! 何をビビっているの!? あんたの正義はそんなもの!?』

(正義……、いや、こんなものは正義じゃない。あんな悪に勝てない俺など、正義では……)

『うじうじしてんじゃないわよ! たった一回失敗した程度でふざけてるの!?』

 正義の絶望や悲嘆はジャスティスにもちゃんと流れている。彼がどれだけショックを受けたかも充分に分かっている。だが同時にジャスティスは正義の志も知っている。

 だからこそジャスティスは許せない。たった一度の失敗で何をそこまで嘆くのか。怪我もしていないのに。また愚か者などに敗北を喫することすら彼女には許せない。

 怒るジャスティスと嘆く正義のアンバランスさがますます戦意を失わせていく。

 そんな風に正義がどうしようもなく座り込んでいる時に、彼は見た。

 輝く衣服を纏った流れ星のような少女を。

(……あれは?)

『スターね。元々私達が大体『平和派』と『戦争派』に別れているのは知っているでしょ? スターは平和派の代名詞みたいな奴だから、私達の味方になると思うわ』

 ジャスティスの言葉と同時にその安心が正義にも伝わる。けれど、目の前の少女からどうしても正義は心配を離せなかった。



「おやおやぁ? 火野札市のニュースがトップに来ているでござる」

『ふむ、ネットのニュースというものも侮れないのである』

 内容は動画にまでなっているフールのもの、それを今更日出三は気付いていた。

(他のカードか? なんで言わなかった?)

『日出三が痩せるまで戦いは避けるべきである。故に隠していたのである』

(そんな積極的に戦おうなんざ思ってねえよ。けどもし俺らまで巻き込まれたらどうすんだ?)

『場所は大体分かるである。なので問題ないのである』

 日出三はマジシャンを胡散臭く思いながらも、例のスレッドを開き、コメントを見た。

 伸びは相変わらずだが、しかし核心に至るレスがあった。

(マジシャン、これはどう思う?)

【私もジャッジメントと名乗る優柔不断な女性の幻聴が聞こえるのですが、何か知っていますか?】

『間違いないのである!! ジャッジメントはその優柔不断さのために各国の王達を平和派と戦争派に分けてしまった、戦争の原因たる女性であるよ!!』

傍迷惑(はためいわく)な奴だな、しかも注目すべき奴でもない)

 だが見ていけばまだ意見はある。

【チャリオットとかいう軍人みてえな男がフールを倒せって言っている。俺がおかしくなったわけじゃねえのか】

 それ以降は、そのチャリオットとジャッジメントに対する会話が少し続いていた。ちゃんと日出三は【一は少し買い物に出るでござる】とコメントを残していたためにスレッドがなくなることもなかった。

(決まり、か?)

『二人も集まったのは充分である。しかし、チャリオットは戦争派の過激な男、あまり嬉しいニュースではないのである』

 そんなことは日出三にとってどうでもよい。マジシャンを異世界に戻す手段を見つけるか、平和的な身の振り方を見つけるかの二つなのだ。

 そして更新の最後の方にまで目を通すと、一つ注目すべきレスがあった。

 ハンドルネーム『世界』と名乗るものだ。

【君達は進化した人類なんだよ。僕もこの名の通りのカードを持っている。これは確かに科学を超えた以上の、魔法や物理法則を超えた進化という他ない力を持っている。君達の力を僕に見せてくれないか?】

『ワールド! 両派に属さない最大の帝国を持っていた王である! それが動いているとは……』

(俺も知っているよ。ワールド、時を止めたりするのか?)

『それは神にしかできないである』

 どうやら漫画のようにはいかないらしい。しかしタロット最後のナンバーということもあり、異世界でも特別待遇であるらしい。

【僕達はとある市に、不自然に集まっているね? その市庁の経度と緯度をパスワードにチャットを開くよ。カードを持っているなら分かるよね? それじゃ、続きはそこで】

 その文章の後にはチャットルームのあるURLが残されている。

(火野札市のことも分かっているとなると間違いないな。といっても、今はフール騒動で何となく察することもできるか)

 日出三はURLを繋ぐと同時に火野札市のホームページに飛び、経緯を調べることにした。なかなかページが繋がりづらかったが、やがてそこに入ることができた。


ワールド:おや、ようやくマジシャンの登場かな?

ジャッジメント:コメントは過去ログってのを見たら分かるのよね?

マジシャン:これはこれは、どうもワールドさん、チャットルームつくり乙です

 

 過去ログをざっと洗うと、チャリオットもいるがタイプミスなどが多く慣れていないらしい。また、それ以外に視聴している者が一人だけいて、それはエンペラーを名乗っている。


マジシャン:意外と集まりましたね。五人ですか

ジャッジメント:宇津野派や

マジシャン:?

ワールド:マジシャンのタイピングが速いって言いたいんだろう。五人は、確かに上出来かな

ワールド:でも全部で二十二人いるはずだよ。今外で戦っている三人を除き、行方知れずの教皇と吊るされた男を除いても十七人、できれば会いたかったよ

マジシャン:それは失礼しました。あのサイトはたまにウイルスが検出される危険なサイトなので個人的にはこういう話ができるとも思いませんでした

チャリオット:お前らはやすぎ、直接喋れないの

マジシャン;チャリオットさん、ハテナマークはシフトと平仮名の『め』のところを一緒に押すんですよ


『……むう、日出三から面倒臭いという感情が流れてきて、我までだるくなってきたのである』

(しかしパソコンが下手な人まで一生懸命調べてここに来てくれたと思うと、無碍にはできないだろ)

 まるでそんな葛藤を読み取ったかのようにワールドが更なる提案を始めた。


 ワールド:それじゃ皆さん、火野札市にお住まいですよね? 北浅木(きたさぎ)にある火野札生物化学研究所って知ってますか?

 ワールド:そこを私が自由に使えるので、そこで直接会いませんか? エンペラーさんも歓迎しますよ


(オフ会キター!! しかもワールドの喋り方が変わっている。少年のような話し方から一人称が私になっているし丁寧語! 怪しい、色々怪しい!!)

『それでどうするであるか? 罠だとすれば、ワールド相手となると少々厳しいのである』

(もしワールドが罠を張っていたとしたら、その時はジャッジメント達と共闘する。けれど、エンペラーとかは来ない可能性もあるな……。もう少し話を聞き出すか)

 無論、このメンバーが日出三とマジシャンを罠に嵌めている可能性も考える。だがスレッドを立てた時間とカードを拾った時間から考えてその可能性は低いだろうと踏んだ。


 マジシャン:そんなところに集まるんですか!? なんだか国家機関って感じがして、とても自由に使える感じがしないですよ!?

 ワールド:実は大学教授でして、主任研究員をしているんです。だから研究室を自由に使えるんですよ

 マジシャン:あの、お名前とか教えてもらっていいですか? その研究室に直接集合する方が、怪しまれずにも済みますし

 ワールド:少し恥ずかしいですけど、絶対来てくださいよ? 仁藤玲子です


 即座に日出三はそれを調べた。ワールドの言葉に嘘偽りが一切ないか、また彼女の家族関係までも調べるようにした。研究室を自由に使える研究員の立場なら仁藤(じんどう)玲子(れいこ)の名を騙るだけで、罠を張ることも可能なのだ。そこまで言う以上は仁藤玲子の研究室を使えるのだろうが。

(……美人キター!! このみだれ髪! 人妻のような色気! 巨乳! 白衣! うほほ……)

『日出三! ワールドは敵である!』

(わ、分かってるって。しかし女性とは思わなかった。やっと俺の時代が来たか)

 不器用そうなジャッジメントとチャリオットもネットで性別を偽るようなことはしないだろう。となるとジャッジメントも女性。チャリオットは教養のない馬鹿男と思ってよいだろう。

 唯一エンペラーは彼にとって悩みの種だ。この状況で何も言わずに情報だけ見るというのが、もし読むだけの一般人なら平気だが、今暴れているフールのような力を持っているならば、危険極まりない。

 だがその考えに応えてくれるように、初めてエンペラーがコメントをした。


 エンペラー:ワールド、あんたの真意を教えてくれ。何故集める? 殺す気か? 味方を作る気か?

 ワールド:先ほどスレッドでも言いましたが、私はこれを異世界から来た新たな存在だとは思っていません。これは人類の新たな進化なのです

 エンペラー:正気か?

 ワールド:いたって正気です。共に新たな世界を作りましょう。世界を作るといっても、フールのように暴れたりはしませんよ? ……まあ、いずれ誘いかけますが

 エンペラー:マジシャン、あんたの意見を聞かせてくれ


(なんで俺なんだ! 俺はたぶんジャッジメントくらい優柔不断なんだぞ!?)

『そんなことはないのである。我と出会い即座にスレッドを立てて意見を仰いだお主の行動力は立派である。評価されて当然であるよ』

(あ、あんま褒めんなって。俺褒められるとすぐ調子に乗っちまうんだよ)

 マジシャンとエンペラーから評価されることをもどかしく思いながら、日出三は自分の発言の重要さに胃が痛む思いをする。それでも彼は選んだ。


 マジシャン:私はとにかく行ってみようと思います。ここで一人で待つぐらいなら、動いてやられる方がマシだと思いますから

 ワールド:だからやりませんって!

 エンペラー:まあ、五十点の答えだな。面白い、時間を決めろ

 ジャッジメント:皆さん速いです! あとは見るだけです


 その後、エンペラーが時間を提示した。場所は変わらず仁藤玲子の研究室。

 時間はその日の夜十一時であった。


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