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終幕 祐司・卓・彼は戦車のように勇ましく進む。その雄姿と栄光は高き塔のように悠久の時を刻むでしょう

後書きが長い。

 人はいつか必ず死ぬ。一度は死ぬ。

 それはごく普通で当たり前のことだけど、考えれば考えるほどに恐ろしくて悲しいことだ。

 どんなに強い人でもどんなに凄い人でも死ぬし、どんなに惨めでどんなに情けない人でも死ぬ。

 死にたくないなんて思うのは我侭かもしれない、せめて寿命で、って思うけど、やっぱり人は病気とか事故で死んじゃう時もある。

 彼が死んだ時、僕は僕が殺した三人のことを思い出す。 

 どんなにムカつく奴でも許せない奴でも、死にたくはなかっただろうし、あんな子供で死んでいいわけがなかった。

 そう考えると、胸がきゅっと痛くなる。



 出所した時、祐司は小学四年生相当であった。だがチェンジャーであるために彼が小学校に戻ることはなかった。

 それは祐司にとっても幸運だった。今更どんな顔をして学校に戻ればいいのか、それに引っ越しや他の学校への転校も彼がチェンジャーであるために許されなかった。

 実は、それでも彼は小学校の宿直室に住んでいた。

 毎日日替わりで用務員さん、もしくは残業ついでの教師が泊まったりする場所だが、学校の空気を味わえるとかいう意味不明な理由でそこに住まわされたのだ。

 といっても、祐司だって家がなくなっている以上他に住む場所もないし、そこなら天海陽先生など授業を引き続き受けることができたため、良かったと言える。

 けれど彼は専ら勉強以上に創作活動に乗り気になった。

 生徒が帰った放課後など、中学高校の美術室や技術室を使わせてもらい対象年齢以上のことだってたくさんした。

 当然本来は許されないことであるが、祐司はこれでも市議会議員程度の権力と金がある。公共施設である学校の物をどうにかする程度のことは簡単に許された。

 そんな祐司の日常に、思い出深く、後の人生にも大きな影響があるエピソードが二つあった。


 一つ目は、天海陽と宿直室を共にした日のことである。

 突然だが、天海陽は結構若い、そして可愛い。これは祐司の意見だが、恐らく大多数にも通じる意見だ。

 何でも大学時代の恋人だった亮太と早くに結ばれたため結婚も出産も早く、その分大人びた雰囲気はあるがみずみずしい若さを隠すことはできない。

 そんな陽と四畳半の、備え付けの小さな冷蔵庫とテレビ、布団くらいしかない宿直室で寝るとなると、一緒に寝ることになる。

「えっと、それじゃ電気を消すわよ?」

「別に先生は帰っていいんですよ、僕は慣れましたから」

 本当になれたのだ。一人で寝ることも、一人でいることも。

 けれど陽は厳粛な雰囲気で、口元に僅かに笑顔を浮かべて、祐司の頬についた絵具を拭う。

「あのね、先生帰る家がないの」

「え?」

 今まで授業してもらっていた時の姿からは想像もできない事実だった。

「チェンジャー以外に大罪っていうのがいるらしくて、それが家を燃やしちゃったの。今は親友の家に家族がお世話になっているんだけど、やっぱり迷惑はかけられないから。娘と息子は交互に避難所とその親友の家にお泊りしているの」

 学校の体育館は既に解放されたが、火野札市のコミセンがあり、そこはいまだに避難所で数十人の人がいる。フールに壊された場所が直れば、ますます人は減るだろう。

 祐司はなんて言ったらいいのか分からなくなり戸惑うが、陽は気にせずに小さく笑った。

「じゃ、電気消すわよ?」

 ぱちんと電灯の紐を引っ張ると電気は消える。夜闇には月明かりもない。

 寝そべると、陽からはふんわりと甘い匂いがした。薄れた香水の匂いだ。

 急に祐司はドキドキした。今陽が来ているのは学校から貸されたくすんだ赤色のジャージだが、この真っ暗闇では祐司は普段のタイトスカートのスーツを来た知的でクールな陽の姿が思い浮かぶ。

 手を伸ばせば届く距離、届いたところでどうしようもないが、それでも届くということが祐司には特別なことだった。

 そんなことを考えて祐司が手をうろうろさせていると、温かい何かに触れた。

「ひっ」

 その小さな声は、悲鳴だった。

 祐司の動きは止まって、心臓が鷲掴みにされるような悲愴を感じた。

 何故かは祐司にだって分かる、狭い空間で陽が縮こまったのを感じながら彼は尋ねた。

「……僕が、怖いんですね、先生」

「こ、怖くなんかないわ」

 祐司はつい、陽の手を強引に取った。怒ったとか怖がっていると証明したいとか考えない、本能的な行動だった。

 陽の手が大きく震えたのが分かる。それを弁解するように陽はまくしたてる。

「わ、びっくりした。急に触るから驚いたのよ」

 そんな声すら震えている。

 確かに表情は分からない、なんなら今触ったのが手か足かも区別できないような暗さだ。けれど祐司には分かった。

「天海先生、嘘はやめてください」

「嘘なんて……生徒よ、あなたは、私の生徒なのに……」

 しばらく祐司が手を掴んだままにしていると、ついに陽は呟いた。

「……ごめんなさい」

 謝られることを祐司は求めていない。怖がって当然だと思うし、それを隠される必要もないと思った。

 だからこそ祐司は不思議だった。なんでそれを隠すのか、つい聞いてみたくなった。

「先生、僕を怖がることは悪いことなんですか? 怖い人は怖いと思うんですけど」

「……そうかもしれないわね。でも、私は教師として、みんなを愛さなくちゃいけないのよ」

「絶対?」

「ええ、絶対。だからあなたが怖いなんて、祐司くんが怖いなんて言ってたら駄目」

 陽の言葉にはそれが絶対だという重みがあった。

 祐司が手を放し、寝返りを打って陽から体を背けた。

 怖がりたくないものを、何故怖がってしまうのか、それが祐司の話題になった。

 力があるから、自分を殺せるから、そんなのは人間だって同じだ。

 だから思いつくのは、信頼されていないから、実際に経験があるから、そんなネガティブなものばかり。

 でも、陽なら分かるはずだ。祐司が今更そんなどうしようもない罪を犯すわけがない。

 ……それでも怖い、分かっていても怖い、そんなことがあるのか。

 祐司は深く考えた、闇の中で恐怖の深遠を覗いた気持ちになった。


 そして二つ目は、星奈に会いに行った時である。

 こちらは短いが、感情の振れ幅は遥かに大きかった。

 百の誘い文句、千の告白法、万ものデート方法、祐司が芸術と同時に進めていた完璧なプラン。

 既に誘うことはできた、ついに告白という段階。

 弾む胸の鼓動、流れる汗、震える目線、それでも言葉はすらすらと出た。

「星奈さん、僕はあなたに助けられた時から……好きでした」

 その星奈は祐司以上に慌てた様子だったが、結局の答えはこうだった。

「えええええ!? えーと、あの、あのその、私、その嬉しんだけど、実は私、好きな人が他に居て……」

 耳をつんざく絶叫は半径一キロメートルにまで届き、衝撃に近くの鳥類は一斉に飛び立った。

 その地獄の底から唸るような泣き声は、動物ならゴリラかカバが近い。

 ごめんと言って立ち去る星奈を見送ることも祐司にはできず、土下座するように祐司は哭いた。

 彼が住処としていた公園で見栄えの良い高台の柵にもたれるように、祐司はその恋を終えた。

 夜風が吹き荒ぶ。

 百の遺書内容、千の自殺法、万もの是正すべきだった人生のポイントを思い浮かべるうちに、それらは全て消えていき、最後には虚無が残った。

 空白、ぽかんと公園の地面で倒れている祐司はしばらくして寝転がり、空を見上げた。

 星の輝きはあまりに尊い、手を伸ばせば届くとすら思えないほど遠く、仄暗い輝き。

 とりあえず祐司は体を起こし、その場で吐いた。

 すっきりした後、また空を見上げて寝転がった。

 どうして星があんなに綺麗なのか。手が届かないからだと祐司は悟った。

 星を見れば星奈を思い出す。星奈の暖かくあどけない笑顔を思い出すたび、目から熱いものがこみ上げてくる。

 祐司には逆恨みなどできなかった。自分が死んでも星奈を守りたいほどなのだ、何故自分が死ぬ前に星奈を殺せようか?

 けれど今はいっそ爆散したい気分だった。何もかもぶち壊したいし、ぶち壊れたい。

 そんな風にしていると、一人の薄汚れた男が近づいてきた。

 服も体も数週間は洗っていないだろうと、一目見て分かるそいつは、祐司に言った。

「な、なんか知らんけど、頑張れよ少年」

「あ、あたたかいですね……」

 泣きながら祐司は言って、思った。

 できること、やりたいことをやろう、思い残すことはない、と。


 数日後、卓の元に面会に来た祐司は、卓の目から見て大人になっていた。

 身長が伸びていたわけでもないし筋肉がついたという感じでもない。

 強いて言うなら、顔が引き締まっていた。

「なんか雰囲気変わったな。最近どうだ?」

 祐司はどこか冷めた目で卓を見る。卓を哀れんでいるとかそういうのじゃなくて、祐司の目が普段から覚めてしまったのだ。

「……最近。最近か。ほどほど、って感じかな。でも夢には近づいているよ?」

「夢? なんだそれ?」

「秘密。でももし叶ったら、一緒に働きましょう。三十年後、期待してください。凄いビッグなプレゼントを贈りますよ」

「へえ、そりゃいいや。……ここには来るよな?」

 卓がこっそり、静かな声で尋ねる。

「……分かりません。今は、創作に集中したいんです」

 それに卓は、気が抜けたように笑った。

「そうかそうか。それでいいんだよ。お前みたいな若いガキは、俺なんかに縛られてちゃ駄目だ。自由に生きな、んじゃ」

 祐司は一瞬、瞳に熱がこもったようだった。けれどそこから去った。

 そして、祐司がここに、卓に会いに来ることはなくなった。


 一人、卓は足りない頭で考えた。

 自分が愚かだということに気付くには、その時間は長すぎた。

 彼の言葉と祐司のことを思う日々が増えた。

 昔の自分を思い出せば後悔しかしないからだ。

 彼のように能力を誰かのために役立てることもなければ、祐司のように何かしたいことを見つけたわけでもない。

 ただ反省、反省に反省を重ね、言われるがままに過ごす日々。

 二十五年目にして、告げられる。

「三島卓さん、早期出所が認められました」

「早期出所? なんで?」

 生島正義がそこを訪れて言った。

「あなたの力が必要になった。特例中の特例だな」

「この年でかよ……」

「ああ、その年でだ」

 卓はぐちぐち言いながら、言われるがままに出所した。

 二十年の時間は町を変えていた。

 南部地域、フールに破壊された場所は様変わりしていたし、何より自分の体の疲労が著しい。

 あそこからあそこまでならすぐに移動できたはずなのに、こうして歩いてみると想像以上に体が動かない。

「ここだ」

 正義が言う、そこは博物館のようであった。

 馬を(あつら)えた荘厳な像が二つ、その中心には入口と一人の青年が立っていた。

「……卓さん、これはこれは変わらぬ様子で」

「お前……祐司か?」

 正義はその場を去った。


 チェンジャー博物館と銘打たれたそこは、中にある展示品の殆どを館長である祐司一人で作ったという。

 見る者の恐怖を煽る巨大な銅像、(おぞ)ましき絵画、背筋も凍るような作品の数々はチェンジャーの暴力的な面を表に出し、その恐怖と罪を誰もが忘れられないように。

 また別に、あどけない星奈の笑顔、おどけて芸をする日出三、人々を助ける正義の雄姿、チェンジャー達が人間であり、危険ではないと象徴するように示されるものもある。

「お前ってさ……すげぇな」

「僕もそう思います。ま、卓さんにも分かるんですから凄い芸術家ですよね」

 はっきりした物言いは、以前の祐司とまるで違うものだった。

 浦島太郎になった気分、それくらいは卓にも分かる表現だ。

「で、なんだ? 俺は特別に出てこれたって聞いたが」

「僕が一声かけました。手伝いをしてほしくて」

「手伝い?」

「ストレングスの見た目、ジャスティスやスターの印象のインタビュー、などなどチェンジャーに関すること全てです」

「なんで?」

「伝えるためです」

 祐司は言った。それだけで卓にも大体何のことかはわかった。

「……面倒そうだな、おい」

「いいじゃないですか、報酬は弾みますよ? それに……嬉しいじゃないですか」

 ふっ、と微笑んだ祐司を見て、卓は少し驚き、すぐに笑顔に戻った。

 人間は変わらないものだ、たとえ二十年ほど会わなくたって。



灰野祐司 物語開始時点で身長135㎝ 7歳 9月13日生まれ 20年後で身長182㎝

 ごく平凡な家庭で育った少年ながらいじめに遭ってしまい、それを助けてもらった星奈に一目惚れ、後に振られる。

 結構思い込みの激しい性格で狂気的、振られた時の異常なアクションなどがそれ。20年後ではだいぶ自制が利いている様子だが、大人になった分、いざという時の狂気は恐ろしいことになっている。

 自分勝手な思い込みをする我侭な少年だったが、チェンジャーとして『彼』に出会い、語り合ううちに成長し、様々な経験を経て自分のすべきこと、したいことを考えるようになる。

 星奈に振られた後は、星奈のことを考えると破滅的で悲観的な世界観を示す恐怖の作品を、彼や卓のことを考えると明朗快活な人を喜ばせる作品を作り出すことができる。

 様々な分野の芸術に手を出しており、現代のレオナルドダヴィンチと称されるほどに芸術家として成長し、チェンジャーの評価を変えた存在の一人に。

 チェンジャー博物館はその祐司の名前を更に有名にし、またチェンジャー研究の人々にとっても大きな参考になるため、様々な点で彼の名は世界に轟いた。

 その後は卓とともに博物館を経営、主に卓に案内をさせ、祐司はいまだに作品を作り続けた。

 そのお金は玲子にも負けないほどになり、教育機関に援助することでいじめの解決を、社会福祉に援助しホームレスへの救済を行った。

 

 タワー

 国は小さいながら様々な国に戦争を仕掛け、魔法と剣を合わせた魔法剣士。灰色の髪が鈍く光る青年。

 論議ではデビルのように饒舌にジャッジメントをかどわかし、戦争では遊撃隊やゲリラを使うことで軍ではなく後方の衛生兵や野営テントを狙う非人道的な戦法を得意とした。

 はっきり言ってその異世界にとっての黒幕で、マジシャンやスターには一際強い敵意を持たれているが、本人にとってライバルはおらず、地位や名誉があればそれでいい。

 その身の狂気こそ祐司と波長があった。ちなみにその後は祐司が地位も名誉も金も手に入れたため、この世の勝者だと自信を持って楽しそうに過ごした。


 三島卓 物語開始時点 27歳 身長179㎝ 3月24日生まれ

 ちっちゃなころから悪ガキで、悪そうな奴は大体友達のヤンキー。スキンヘッドと鼻ピアスが特徴的な男。大学に行けず、だらだらとバイト(怪しい)しながら自堕落な日々を過ごしていた。

 そんな折にチェンジャーになるも、千力に打ちのめされてノックダウン。その後は禁固刑。

 その後、圧倒的な権力を持った祐司の力で出所し、しどろもどろながら祐司の下で働く。

 家も用意され、潤沢な祐司のお金を慎ましく頂きながら、人のためになる仕事をがむしゃらにこなす。人のためになるから、ではなく祐司に求められたから、というのが大きな理由であるが。

 更に二十五年後の77歳で病院に入り、その三年後に命を落とす。刑務所での面会に来なかった祐司もこの時は頻繁に訪れた。「死にゃしねーって」の軽口を続けつつ用意した遺書には祐司と彼への感謝が延々と記されていた。


 チャリオット

 詳しくはストレングス、暴れる辺りを参照。軍人でありながら政権を取った人の典型的な例と言える。実はワールドの国の将軍で、その魔法科学も強さの秘密。独裁、極右、戦争、当初はかなりの強国ながら、王権の簒奪を恐れた彼は優秀な将軍を片っ端から粛清したために徐々に力を失くしていった。

 これでも思い入れとか優しさのある将軍で、卓にはだいぶ入れ込んでいた。後先考えないところが波長合ったとか。

 刑務所で一人苦しむ卓の相談相手は彼で、病院に入院している時もずっと声をかけていた。

 最後遺書を書いている時には、卓とともに涙ながらに祐司と『彼』への感謝を語るほどに打ち解けていた模様。

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