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チェンジャー、二つに分かれる

「いいですか? 私達は確かに人間かもしれませんが、フールやチャリオットの暴走のために危険視されてしまいます。秩序ある世界、などと今更言っても信用されないかもしれませんが、それでも戦っていいわけではありません。根強くここを拠点とし、説得を続けるのです」

 祐司なんかは秩序とか言われても理解できないが、皆が言っていることに頷いた。

「私の目的は火野札市北部、北浅木地域全てを日本政府から譲渡してもらい、そこをチェンジャーの自治区にします。十九人に半分ほどが子供ですから自治できないので、日本政府からは救援という名目で人々を自治区民として受け入れ、その人々と共存します。これで私達は人とある程度の距離を取りつつ、今までとさほど変わらない生活を手に入れることができるわけです」

 いい加減星奈が話についていけなくなったところで、日出三が注釈を入れた。

「要するに北浅木を我々の国にする、ということでござる。恐らく、北浅木から出ることはできなさそうでござるが」

『チェンジャーの危険性のために集まるのであるから、そうであろうな』

 当然それに反発する者が出た。リナである。

「えー!? それは困る! 私はトレジャーハンターだから、面白いことがあれば東へ西へと走る! だから駄目!」

「それは配慮します。外でしか手に入らないものがあるならば輸入という形で手に入りますし、外に出るなら国外旅行なり様々な制約はあるでしょうが、無事にできるでしょう」

 平和や安全というもののために規制やルールが増えるのは仕方のないことで、しかしその規制を強めることでチェンジャーと人の権利を確保する、というのが玲子の考えである。

 チェンジャーの自由についての言葉が増える度に、具体的な将来設計に、正義や啓吾は若干揺らぐ。

 反発が強いのはリナと『彼』だ。

「えー……ごめん、断る。欲しいものは自分で手に入れるし、行きたい場所は自分で行くから」

「あのハングドマン、そうは言っても他人のことを考えましょうよ。人間の発明や知恵があなたの求める物になるんですから、その人のことを思いやって……」

「関係ねえな。弱い人間が怖がっているだけなら別に好き勝手すりゃいいじゃねえか」

「フール、この世は常に秩序を求めているものです。あなたは人としてちょっと考え直した方がいいですよ?」

「生憎人じゃねえな」

 彼がくつくつと笑うと、玲子のモニターの光が一層激しく点滅した。

 話を聞いて大体のメンバーは言葉に困るが、遠慮せず堂々と言ったのは千佳だ。

「ねえ、拠点にするなら北浅木より南浅木の方が良くない? あっちの方がスーパーとかあるし、カラオケとかファミレスとかもあるし」

 街として発展しているのは南浅木であり、火野札市の南部の方である。それなのに北を選んだのは何故か、それを玲子は言う。

「もし裏切られた時、食べ物がある方がいいでしょう? 北の方が土壌が豊かで食物が良く育ちます。そこから南に攻め入ればすぐにお金などの次に大切なものが手に入りますからね。あと、どうにも動けないラバーズが北なんですよ。どうして動物園は北浅木にあるんでしょうね?」

 加えて言えば学校なども北側に近いため、娯楽を我慢すれば北浅木の方が有意義と言える。

「もう少し詳しく計画を教えてくれないか? 僕も協力したい」

 啓吾の言葉に、星奈が驚いた。

「啓吾さん、それ本当ですか?」

「ん? そうだけど、何か変かい?」

 星奈には何がどう変かの説明はできない。だがその考えに違和感を持ったのも絶対である。

「そうですね、まずフール、チャリオット、ストレングスのように人を傷つけてしまったチェンジャーに対しての罰を減らしてもらう交渉が必須になります。その点は、どのように話しても脅しのような形になってしまうと思いますが、現職の弁護士もいることですし」

 蓮が眼鏡をスチャっと知的にかけ直す仕草を見せる。が誰も反応はしない。

 その言葉には祐司が安心した。彼は既に罪を犯してしまっている。そして彼は罪悪感以上に正しいことをしたという想いがある。罪を償おうという気はさらさらないのだ。

「そういえばチャリオットを忘れていましたね。ホイールオブフォーチュン、今のうちに連れてきてはもらえませんか?」

「私は面識がないんだけど……まあいいわ。話してくる」

 チャリオットは人間にすれば植物人間とも言えるが、チェンジャーの高い治癒能力によって順調に回復していた。しかし意識はまだ戻っていない。

 みえるは席を外した時、少し安心したような気配をにおわせた。この場にいる緊張は彼女でも途方もないらしい。

 皆の意見がある程度玲子の方に偏る中、星奈がやっと違和感を言葉にした。

「あの、それってやっぱり私達が危険で、人と一緒の生活ができない、っていうことですよね?」

「……まあ、そうですね。でもそうでしょう? 核兵器を自由に爆発させられる人と今まで通りの生活ができるでしょうか?」

 確かに星奈もそれを感じていた。自分の力を親や晶乃が知ったらどう思うだろうか、と。大人である分啓吾はそれで一層強く悩んだ。

 だが星奈は知っている、自分の能力に気付いても、それでも守ってくれた親友のことを。

「私はそうは思いません。話せばきっとみんな分かってくれます。今まで通りの生活を送れると思います」

 きっぱりと言い切る星奈に、皆が驚く。切などは呆れて笑いが出るほどだ。

「馬鹿馬鹿しいぞスター、それはお前だけだ」

「そんなことないっ! 晶乃は私を認めてくれた。お兄ちゃんは……その、怒ってたけど、でもお兄ちゃんは私のことを大事だって……!」

「いい加減にしろ! そんな言葉を信用するな。仮にお前と兄が今まで通り暮らそうとして、兄は今までのような軽口が叩けるか? お前に怯え、お前に悪口なんか言えず、怯えて暮らすことになるんじゃないのか?」

 切の強い言葉に、星奈は再び言葉を失った。はっきりと拒絶されることまで考えたが、耐えて不自由な想いをさせるなんてことは彼女に想像できなかった。

「人と、我々の、二つの平穏を守るために、ワールドの計画は正しいんだ」

 切の言葉は正しいように思えるが、彼の目は(せつ)に悲哀を讃えていた。まるでそれが諦めの選択であるように。

「エンペラーの言う通りです。いいですか、スター?」

 それでも星奈は頷けなかった。

 どちらが正しいか星奈には分からない。どちらが正しいなんて決められる問題ではないのに、必ず正しい答えがあると思ってしまうのは、彼女がまだ小さいからなのかもしれない。

『……星奈、私が選べることじゃないから言うが、君は君が信じるべき道を進むんだ。今までそれが正しかった、だから今度もそうするべきだ』

(そんなこと言ったって……分からないよ! ただの私のワガママかもしれないじゃんかっ!)

 八つ当たりのように星奈はスターに強く当たった。それでもスターは朗らかに笑う。

『今までも我侭だったじゃないか。私の言うことなんてことごとく無視して』

(それとこれとは話が別だよ……、だってお父さんもお母さんも)

『私には分からないが、君の家族は君が力を持っていて怯えて暮らすのか? 私が知った君の情報では、力があるからといって離れて暮らす方が悲しんでくれると思うが』

 そんなスターの言葉に、星奈は力づけられた。

 そうだ、そうではないか、今までずっと星奈は愛されて生きてきたのだ。どうして今度のことで、そんなに怖がられてしまうのか。

 きっと信じてくれるはず、そんな根拠のない想いで、星奈は改めて言った。

「やっぱり、玲子さん、私もあなたに反対します。私がいじめられることになっても、きっとお兄ちゃん達は私を想ってくれるから!」

 玲子のモニターにしばらく何も表示されない。その間に周りから非難の声が上がる。

 まずは正義からだ。

「……星奈ちゃん、そうしてバラバラに暮らしたらまたフールのように暴れる人が出るかもしれない。そうならないためにも我々はまとまるべきだ」

 次に啓吾。

「家族だって四六時中一緒にいるより、たまにあった方が本音も話せると思うよ。晶乃は強い子だけれど……僕は自信がないんだ。今まで通りにしてくれる自信が……」

 晶乃は女の子で心が弱い、自分に今まで通り強気な態度を保ってくれるかどうか、そんなことを彼は心配する。変わってしまった兄弟を見るのは互いに辛い、心からそう思っているのだ。当の晶乃は平気で殴る気満々でいるのに。

 祐司もその罪のために玲子側に賛同だが、その卑しさと星奈への想いのために言葉は出さなかった。

 もちろん星奈を応援する声もある。リナである。

「いいぞよくいった少女! それでこそ少女だ! うーん少女、可愛いねー」

『お前適当過ぎるんだよ……気にするなよスター、こいつ変な奴なだけだから』

『元より気にしていない』

 そしてようやく玲子が反応した。

「……他にスターとハングドマンと同じ意見の方はいますか?」

「あの、それって殺されたりしませんかね……?」

 日出三がそっと手を挙げる。それに玲子は笑顔で答えた。

「しませんよ、なんであれ仲間ですから」

 そして、日出三と千佳が手を挙げた。

「千佳ちゃん!」

 喜ぶ子犬のような星奈に千佳が思わず言う。

「勘違いしないでちょうだい! あなたが目立つのが気に入らないだけよ! それに……今まで通りの生活の方が私も目立てるし」

『ぷーっ! 千佳マジ素直じゃねえの! 受ける! 受っけっるんだっけっど!』

 しばらく千佳とエンプレスが言い争う中、リナが日出三に言う。

「よく決断したなオタク! よっオタク! オタク輝いてるねー!」

「ぐー! なんて遠慮のない物言い! 正直ショックでござる!」

『しかし我もハングドマンの女性と同意見である。驚いたであるよ、日出三』

(俺は元々迫害されて生きてきたからな。正直今まで通りの方が楽だ。変身とかもしないし)

 むしろ不良とかに狩られなくなったと考えれば少し得、というほどである。

 玲子は目ざとく彼を見つめて言う。

「フールはどうなんですか? 今まで通りにしたいならスター側ですよ?」

「俺はテメェの意見が気に食わねえだけだ。このガキの言うことに賛成なわけじゃねえ」

 そしてまたリナは言う。

「よっ! よく言った腕なし! 凄いぞ腕なし! 腕ないねー!」

「……殺すぞ」

 本気で彼は殺気をおくるが、リナはかんらかんらと笑うだけであった。

「これで私含めて五人! そっちは六人? どっこいどっこいくらいだ!」

「ハングドマン……何を考えているんです?」

 スター、ハングドマン、マジシャン、エンプレス、そしてフール。

 一方玲子側にはワールド、ハイエロファント、ジャスティス、タワー、ジャッジメント、エンペラーの六人がこの場では纏まっている。

 玲子がモニターに電光を走らせるのを、リナは面白そうに見つめた。

「いやー、何を考えるってほど考えてはないよー。でも色々話し合ったりした方が面白いじゃん?」

 そんな風に火花を散らせる中、彼がリナに聞く。

「……五人ってことは、俺を含めているのか?」

「だってそうじゃん」

「殺す」

『やめときましょうよ、こういう輩は無視です、無視』

 一方、蓮も正義に尋ねる。

「あの、生島検事はいつもみたいにスターにつかないんですか?」

「……お前、俺を倒したいだけだろ?」

 蓮は無表情のまま、そっと顔を反らした。

 そんなタイミングで、カメラを構えたテレビ局のリポーター達がそこを訪れた。

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