(4)
ミスった、凄くミスった、ミスり過ぎた。 死ぬほどおかしい、そのまま死ぬようなテンションだ。
片方は朝のSHRからいたのに集会に来なかったアホ。
もう片方は高校生活二日目から堂々と学校に遅刻したアホ。
その二人が知り合いで、しかも集会から帰ってきたら教室の真ん中で通信対戦やってたら驚くだろう。
俺だったら引くし、裕也だったら笑う。
間違いない。
問題は。
「…………あなた達、何をやっているのかしら?」
もう一人が許さず、殺しに来そうなほどキレるという事にある。
死ぬほど、殺されそうなほど冷めた目線が浴びせられた。
Mだったら悶え死にしそうなほど人を射抜く、女王のような冷たい眼力。
冬町亜織
生まれながらの女王気質、心理掌握のスペシャリスト、天才、口先三寸、嘘付き、(恐らく)学校一位の成績、陶磁器のような綺麗な白い肌を持った女子。
白髪(と言ったら「白髪と同じ漢字とか喧嘩を売っているのかしら? 銀髪と言いなさい」とか言われた)の長髪。
簡単に言うと、口喧嘩無敗の性悪女だけどな。
間違いなく俺が苦手なタイプの人間だ。
そいつに今詰られてる。
畜生、なんでこんな事になってるんだ。 裕也なら気付くだろ、ゲームやってたらこいつにキレられる事ぐらい……あ、そうか。 これも裕也の作戦の内だったのか。
いよいよ何がやりたいんだよ、この策士。 仲間割れかなんかが目的か? やっぱり敵なのか、とうとう本性現して俺に襲いかかって来たのか?
「遅刻した挙げ句教室で通信対戦って、あなたの頭には合わせ味噌すら入ってないのかしら?」
「合わせ味噌を馬鹿にするな、一生懸命作られてんだぞ」
多分。 製造過程とか知らない。
「そうね、虫けらの思考よりも下回る味噌なんてあなたの脳味噌以外他にはないわ」
謝れ、今すぐ目の前の俺に謝れ。
「だいたい、なら裕也はどうなんだよ」
責任転嫁。
いつの間にかガチな睡眠に入ってる裕也に責任転嫁。
いや、なんでこいつガチで寝てんの?
今、熱戦してたよな?
まあ、遅刻した俺を待ってた裕也を責めるのもどうかと思うが。
「遅刻した大和を待ってた裕也を責めるなんて最低ね。 これだから脳筋は。 なんで生きているのかしら? もう死んだらどうかしら。 そう言えば、丁度この学校の屋上は開放されてるわ、空へ羽ばたいたらどうかしら。」
「合わせ味噌か脳筋かはっきりしろよ! それに俺が空へ羽ばたいたら屋上は立ち入り禁止になるぞ! そして、やっぱりその口を今すぐ閉じろ!」
いや、俺の脳味噌は合わせ味噌でも脳筋でも無く普通の脳味噌だけどな。
「死ぬつもりがないなら、あなたは二日目でここまで問題を起こしてどう詫びる気なのかしら?」
「いや、お前に迷惑はかかってないだろ」
「はぁ?」
本気で睨まれた。
竜に睨まれたヒキガエルの気分だ。
「何を言っているのかしら? 同じ部活に脳内合わせ味噌の虫けらがいるってばれたら私の学園生活に支障が出るじゃない、死ぬの、やっぱり死で詫びるつもりなのかしら?」
人をナチュラルで虫けら扱いしやがった。 現実でそんな事する奴なんて精々こいつぐらいだろ。
アニメですらラスボスぐらいしかやんねぇよ。
とはいいつつも、確かに同じ部活に所属する仲間が問題児だったら風評被害もあるだろう。 確かに悪かったのは俺達かもしれない。
「わかったわかった、何したらいいんだ?」
「ハーゲンダッツ奢りなさい、三種類」
こいつの学園生活安いな。
「はいはい、わかったよ」
まあ、それでも俺の財布には充分の威力なんだけどな。
「さて、そろそろ先生が来るわ、席に戻りましょう」
「ここが俺の席だよ」
「裕也に言ったのよ。 というより、脳内合わせ味噌の虫けらに席を用意するなんて画期的な学校ね」
「お前の脳味噌は悪口の百科辞典だよ!」
「最高の褒め言葉ね、でも声のボリュームを考えて貰えないかしら? 虫けらの絶叫を普通のクラスメイトに聞かせていると考えると罪悪感でいっぱいになるわ」
周囲を見渡すと、他のクラスメイトの注目を集めていた。
所々から「あの人、例の噂の校長先生を脅したっていう……?」「その噂、都市伝説だと思ってたんだけどマジなの?」「学校二日目から遅刻よ? 不良っぽいしありえるんじゃないのかな」「うわ、俺達の女王様である亜織様に雑音を聞かせていやがる、後で処刑するぞ」「「「おう」」」なんて会話が聞こえてくる。
「おい! 待ってくれ! 校長を脅したのも今日遅刻して暴走族をボコボコにしてのも全部ここで寝てる馬鹿のせいなんだ!」
俺への風評があまりにも酷く、周りに叫んでしまった。
だが、俺のこの主張はこれ以上無く逆効果だった。 俺の言葉の一部しか聞いておらず「校長先生を脅したの、本当だったんだ……」「遅刻して暴走族をボコボコ? 本当にヤバいレベルの不良じゃない?」「暴走族をボコボコって、暴力事件よね? 私の親警察なんだけど連絡入れた方がいいかな」「ひゃ! 怒鳴りこまれた、殴られる!」「俺の女をビビらせてんじゃねぇぞ! ぶちのめすぞてめぇ!」などと俺の風評は悪化した。
俺の高校生活、灰色確定。
「勘弁してくれよ……」
「中々楽しめたわ、ありがとう」
隣に居た女王様は満足したような表情をし、俺を見下した。
心理掌握のスペシャリスト、人の心を足し算引き算する女。
そんな奴と同じ部活と考えると、想像以上に精神的にもきついかもしれない。