(3)
結局、全校集会には行かなかった。
理由は簡単、今から行ったら目立つ。
裕也は何を今更って感じで笑ってるが、俺から言わせてもらったら今だからこそだ。
校長を脅した後でいかにも不良のような行動を取ったら生徒の一部を何人か敵に回す。 校長を敵に回した時点で職員室は既に敵だらけだが。 いかにも自分は不良ですよって生徒を相手に回したくない。 面倒くさいんだ、無双ゲームは好きな種類じゃないんだ。
まあ、裕也にはそこはなんの問題も無い。
指示を出すだけ。 決して、前線に姿を現さない。
だが、仕事を増やされて喜ばない武力と交渉は困る。 戦闘に置いて、最も恐ろしいのは最強では無く無名、強さよりも謎である。 って俺は思うし、交渉で最も面倒臭いのは嘘を吐かないといけない時。 ってあの女も言っていた。
武力と交渉は、無駄な情報漏洩を避けたいのだ。
そこをイマイチ理解していないのが策士だから困っているんだ。 策士なら完璧な策を考える前に策の難易度を下げるようにふるまってくれ。
そんなこんなで、教室にいることにした。
全校集会の時に男子高校生二人が教室で雑談。
普通に考えたらこれでも充分に悪目立ちしているような気がするがそれはもう後の祭りだ。
周りに見られてない分マシだ。 実話かどうかわからない噂話、風評なら使い道はいくらでもある。
だから、俺たちは誰も見ていない教室で雑談を始めた。
「裕也、部活名はどうするんだ、もう決まったのか?」
「部活名かい? もう決まってるよ」
凄くにやにやしてる。 自作の落とし穴に引っかかった大人を見るような子供のように。
「部活名は……」
予想通り、なんにも考えてない。
裕也が喋る時に間を空けたら、ロクな事を言わない。
『言葉は空気より軽い、大切な事こそすぐに吹き飛ぶようにしておくべきなんだよ』なんて言っていた。
言いたい事がわからないわけでも無いんだが、どうでも良いことを言うときに間を溜める理由になっていない。
どうせ、趣味だろうが。
「昆布!」
「喧嘩売ってんだろ表出ろ!」
「廃部」
「終わってんじゃねぇか!」
「ジャブ」
「殴ってやろうか、顔面を?」
「支部」
「なんのだよ!」
「剣道部」
「先にあるし剣道なんててめぇらやんねぇだろうが!」
「もちろん、天壌市の特別治安維持室の?」
「名乗ってみろ、姉ちゃんにぶっ殺されるぞ! 俺が!」
「S○S団!」
「伏せ字にする所を間違ってる!」
なんか変な事口走った気がする、俺が言えるはずの無い事を。 気のせいだろうが。
こっちが息切れしてると裕也が笑ってる。
計算通りって感じで。
まさか、今日俺が暴走族と戦い、遅刻して、この掛け合いをすることまで計算通りなんじゃねぇだろうな……? 流石に考え過ぎか?
こいつと話してると、どこまで計算されてるかわかんなくてイライラする。 信用させて欲しい。
「自由部でいいでしょ、それっぽいし名前通りだし」
俺が胡散臭げな目で見ていると、本命のようなものをあっさりと言った。
自由部、自分の心の中で呟いてみた。
意外と響きがいいな、自由部。
「おう、それでいいぜ。 シンプルだしアホらしいほど格好いい。 裕也はほんと、無駄にネーミングセンスあるよな」
「褒めていただき光栄だよ」
半笑いで裕也は会釈した。
最初っから言ってくれればいいのにな。
「最初っから言ったら大和がツッコまないでしょ?」
「ツッコまれたいのかお前!? まさか、そんな理由で俺をおちょくってんのか!?」
本気で、こいつの死体を隠す方法を考える時が来ているのかも知れない。
山で燃やせばバレないんじゃねぇのかな。
口に布を詰めて、ガムテープで口周りをガッチガチにして手足縛って川に流せばいいのかな。 目撃者を作らない方法を本格的に思案する時かもしれない。
「とにかく、亜織の許可を取ってんならそれでいいと思うぜ」
「亜織の許可ならもう取ったよ、時間かかったけど」
間違いない、時間がかかったのはお前のせいだ。
もしかして、亜織もこの件を体験しているのか? してたら不機嫌そうで嫌だな、俺が酷い目に遭いそうだ。
……なんでこの馬鹿策士の言動で不機嫌になった奴のとばっちりを俺が受けないといけないんだ、アホらし。
本当に疲れる、しかも気が重い。
なんで部活名聞くだけでこんなに疲れるんだろう。
「さて、部活名も決まったことだしゲームでもしようよ」
裕也がポケットから携帯ゲーム機を取りだした。
ここでやる気かよ、悪目立ちの極みじゃねぇか。 と、いつもの俺なら言っただろう。
だが、俺は疲イライラしていた。 家には泥棒猫が、登校中には暴走族に絡まれ、学校についたらこいつだ。
ボコしたい、出来るだけ圧倒的に。
「ああ、やるか」
こんな風に、了承してしまったのも仕方無い話だろう。