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「漫画やアニメで使い古されたベタな話なんだけどさ。 新学期早々に遅刻ギリギリで全力で走ってたら十字路で女の子とぶつかる。 そこから仲良くなって付き合ってなんか異能の力と戦って……とまでは要求しないが、それでも欲しいんだよね、女の子が。 バランスの為に」
ひいては、自分達のために。
というのが、俺の親友であり、俺達の司令官である策士、春川裕也の自論だった。
「そんなに苦労して、女の子とぶつかった場合の遅刻しない時間まで僕に計算させといて、結局なんで遅刻しているんだい。 やっぱり大和は学校を意味もなく遅刻したがるタイプの馬鹿なのかい? 嫌だなぁ、そんな不良っぽい人とはあんまり関わりたくないんだよなぁ、内申に関わって来る」
朝、学校。
SHRが終わった後、全員が体育館に移動して無人の筈の教室に着いた俺を待っていたのは、一応(ここ重要)親友である(筈の)春川裕也だった。
春川裕也
綺麗な茶髪の策士、司令官、人遣いの天才、人使いのスペシャリスト。
なんて言えば格好も付くが、俺から見たらどうしても性悪、軽薄、思わせ振り、最低人間、馬鹿のようにしか見えない。
これでも、一応天壌市の臨時政策部門に招聘されるぐらいは凄いらしいんだが。
天壌市の中でもトップクラスの頭脳の持ち主らしい。 勉強がそれこそシュールギャグマンガレベルに出来ないこいつがトップクラスの頭脳だなんて冗談だとしても笑えないんだが。
その天壌市の有数の頭脳がSHRが終わり体育館に各自移動な所、俺の登校を待ち、遅れてきた俺を半笑いで見下しているのは偶然ではない。
そして、俺が遅刻したと言うのも偶然ではない。
「てめぇの作戦違いだよ……」
今、こいつの事を親友と思いきれていない理由は簡単だ。
こいつのせいで酷い目にあった、死にそうなほど。
「てめぇが女子とぶつかるって言ったタイミングで現れたの昨日の暴走族の仲間だったぞ!」
今日が厄日かもしれない。
「フハハハハハハハハハハ、それはまた災難だったね。 まあ僕の作戦なんてショボイ物を信用した大和が悪いんじゃないかな?」
こいつ、卒業するまでに絶対殺す。
「だいたい裕也、なんでてめぇはそんなに笑ってんだよ!」
キレた。 だが、考えみて欲しい。 朝っぱらから暴走族六人をぶちのめすことになった俺の苦労を。
おまけに遅刻、俺の教師からの心証が下がる。
「いいかい、大和。 他人の不幸は蜜の味、親友の災難は生きる意味、だよ」
こいつを殺すのは俺の怒りに任せてでは無く、世界のための気がする。
というより、今殺したい。
そんな俺の怒りなんて気にせず、軽薄な笑みを浮かべながら裕也は話しかけてきた。
「それより大和、そろそろ体育館へ行かないか? 今日、全校集会だから遅れていくと全生徒の注目を浴びるよ?」
悔しい事にも正論だが、一つだけ気になったことがあった。
「裕也、お前なんで教室いるんだ?」
そう、今日は全校集会。 他の学校と同じようにその学校に在学している学生は例外無く呼ばれる筈だ。
そんな疑問を頭に聞いてみたら、裕也はまた大爆笑した。 うぜぇ。 今すぐ斬りたい。
こいつ死体にしたら、どこに隠そう。
「勿論、僕の生きる意味を確認するためだよ」
…………こいつ、まさか俺が暴走族と遭う事が作戦だったんじゃねぇだろうな?