(26)
「気がついたか、大和」
起きたら、そこには天使…………じゃなくて姉ちゃんが居た。
気遣ってくれる姉ちゃん、すげぇ可愛い、天使だ天使。
まあ、そんなことより気にすることがある。
まず左手。
完全に元通りに治っていた。
これが夏霧の力か、確かにファンタジーだな。
次に、ハンマーの言ってたこと。
「姉ちゃん、確かハンマーは姉ちゃんが封じられていた結界に大量に戦闘員が居たとか言っていたんだけど?」
「19人だ」
嘘だろ、この数字。
「時間をかけすぎたな、まったく笑えん。 大和は大丈夫だったのか?」
「まあね」
俺は苦笑した。
あれを大丈夫だと言えるのか、難しいところだ。
実際、勝てたのはハンマーがこちらの提案に乗ってきたからだ。
あのまま、肉を切らせて骨を断つ戦法(戦法? 苦肉の策?)を続けたら遠からず俺は潰され、夏霧もその後やられていただろう。
つまり、ハンマーの懐が広かった、という事だろう。
それで負けては世話がないが。
それでも、凄いやつだった。 心の底からそう思う。
俺が考え事をしているとき、姉ちゃんが口を開いた。
「さて、起きてすぐで悪いのだが、これからの話をしよう」
さて、本当の勝負はここからだ。
俺はベッドから身体を起こし、姉ちゃんに向き合った。
さあ言おう、今がその時だ。
「姉ちゃん、俺は戦うよ」
「その必要はない」
冷たい声できっぱりと言われた。
まるで、心の奥の怖さを隠すような声で。
「今回、この戦いは明らかに私たち天壌市市役所治安維持室のミスだ。 我々は真剣に謝罪し、この後このような事が無いように、お前達に護衛を付ける。 決して、お前が戦う必要はない」
わかっているんだ、全部。
姉ちゃんが、なぜここまで俺から戦闘を遠ざけるのか。
「姉ちゃん、今までありがとう。 俺を守ってくれて。 だけど、もういいんだ」
「良い訳があるか!」
姉ちゃんは泣きながら叫んだ。
また、泣かせた。 今回で最後だ。
「大和! お前の周りを取り巻く環境は異質過ぎる! まるで、神に嫌われているのかと疑いたくなるように! お前が戦わないといけない必要はない。 私は、お前を守るとあの日に決めたんだ!」
姉ちゃんのこの決意を、俺は知っていた。
知らない振りをしていた。
知らない事にして、甘えていた。
小五の時のあの夜、俺と両親の殺し合い。
その時、その戦いを止める事が出来ず、無力を噛み締め、俺に引け目を覚え、俺を守り続けてくれた。
だけど、立ち向かうんだ。
精神的外傷に、守ってくれた人に。
「姉ちゃん、俺は想像武器を発現させた直後に思い出した。 お父さんとお母さんの最後の言葉を」
姉ちゃんは、明らかに反応した。
「教えてくれ、大和」
一呼吸置いて、俺は答えた。
「お父さんは鞘から刀を抜いた時に言った。
ごめん
って。
お母さんが鞘から刀を抜いた時に言った。
愛してる
って」
人類最強と呼ばれた女性は今にも倒れそうだった。
事実の衝撃に。
だけど、俺はもう逃げないんだ。 姉ちゃんの苦しみからも。
「姉ちゃんが俺を守ってくれるように、俺も守りたいんだよ。 姉ちゃんも、自由部も。
だから、自由部の敵は俺の敵だ、姉ちゃんの敵じゃない。
そう、俺が主人公だ。
俺の勝手な我が儘、勝手な自己満足だけどどうにか、納得して欲しい」
言い切った。
恥ずかしいよ、まったく。
姉ちゃんもまだ泣いてる。
それでも。
「わかった、何時でも相談しろ」
わかってくれた、許容してくれた。
流石姉ちゃん、大好きだ。
「後のことは、他の連中に任せる」
そう言って姉ちゃんは部屋から出て行った。
ん?
他の連中?
「いやいや、納得して欲しいだってさ。 流石大和、格好いいね」
「ええ、流石自由部の盾、中二病の拗らせ方がおかしいわ」
「……あはは」
…………カーテンの後ろに、盗み聞きをしていた馬鹿が三人。
はぁ、アホらし。
「創造」
殺そう、こいつら。
「あ、大和。 まだ動かない方が良いんじゃない?」
「うっせぇ! お前らを殺してついでに俺も死んでやる!」
「チャンスよ、今から季花さんの所に向かって飛びつきなさい。 あなたみたいな一生幸せの無い残念な少年の最後の瞬間を楽しみなさい」
「死なねぇよ! 死にかけたし死んだかもしれないが、死んでねぇよ! 生きているんだ!」
「あの、大和君。 治療費請求していい?」
「有料かよ! 命懸けで守った奴に対してお前は金を取るのか!? って、なんだこの請求書!? 一万五千円とかリアルな額はやめろ! おい裕也、満足そうに笑ってんじゃねぇ! やっぱりてめぇの策か!?」
あぁ、まったくもってアホらしい。
これを命懸けで守ったなんて。
まったく、なんだかんだで割にあってんじゃねぇか。
楽しいよ、人生。
あーくっそ、恥ずかしい。
「裕也、亜織、夏霧、今週の土曜日京都に行こうぜ、木刀が欲しいんだ」
「いいね、八ッ橋食べたいな」
「いいわ、トランプは私が持って行くわ」
「いいけど………」
夏霧が言い淀んでる。
「どうした、予定かなんかあるのか?」
なんかもじもじしてる。
「あのね……なんでも……」
ないって言おうとした瞬間、夏霧は亜織に頭を殴られた。
「あなた、やるって言ったわよね? まさか、嘘をついたのかしら? 命を請求するわよ?」
「ご、ごめん! やるから、やるから待ってよぉ……」
「……まったく、仕方ないわね」
夏霧は「えぇっと、入るって文字を三回飲み込んで……」とか呟いている。
多分、人だ。
「や、大和君!」
「はい!」
すごく大きい声だったので、はいなんて返事をしてしまった。
なんだ、なにがしたいんだこいつは。
「裕也君の事は裕也って呼んで、あおりんの事は亜織って呼んでいるのは卑怯だと思うの!」
「あおりん!? 誰!?」
イメージにミスマッチなニックネームコンクールで一位取れるわ、あおりん。
あー鬼が凛としてるー、の略かなんかか?
「だから、私の事も!」
「事も?」
「下の名前で呼んでよ!」
さっきより声が大きかった。
裕也は「面白いなぁ、まったく」なんて笑いながら呟き、亜織は「言うって言ってた事と違うじゃない、せっかくこの脳筋なら百パーセント口説ける言葉を用意したのに……」なんてよくわからない事を呟いている。
しかし、下の名前か。
確かに、差別的だったかもな。
えーっと、こいつの下の名前は。
下の名前は…………?
あれ、なんだっけ。
やべぇ、思い出せない。
確か、姉ちゃんは姫って呼んでたよな?
姫子、姫路、姫葉……駄目だ思い出せない。
仕方ない。
「わかったよ、姫」
あってる部分だけでいいか。
呼んでみると、意外と呼びやすい。
呼ばれた本人は、何故か顔を真っ赤にしているが。
略し方が悪かったかな?
「この名前で呼んでいいか?」
夏霧……じゃなくて、姫はハッと我に返ったように言った。
「うん!」
凄い笑顔だった。
もし俺がこれからも戦うなら、案外戦う理由はこの笑顔を守りたいから、なんて理由になるかもしれないほど可愛い笑顔だった。




