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 一応心配はあった。

 クローズ・エリア(だっけ?)で一階より上に行けないんじゃないかって心配が。

 あくまで、これは杞憂だったが。

 しかし、まぁ。

「なんでここにハンマーがいるんだよ……」

 アホらし。

 普通に疲れた。

 命懸けとか洒落じゃない。

「大和君、携帯鳴ってるよ?」

 夏霧が的外れな事を言い始めた。

 いや、よくよく考えると案外良いかもしれない。

 気分転換ぐらいは。

 しかし、この空間はなんたらかんたらと(ほとんど聞き流してたけど)語ってた凄いエリアでも電話って繋がるんだな。 文明の勝利か、異能VS文明は文明の勝利なのか。

 などと適当な事を考えながら携帯画面を確認したら灯裏さんだった。

 何この人、ナイスタイミング過ぎ。

「もしもし」

『いふいふ~、よかった、生きてるんだね~』

「こっちの状況、わかっているんですか?」

『監視カメラがね~ 君たちが入って来る瞬間までは映してるのに入った直後から映って無くてね~ 噂に聞くエリアかな~って~』

 考えてみると凄く不自然だよな、この能力。 現実を歪めるならもう少し周りにも配慮しろよ。

「ハンマーのわかってる情報を出来るだけ教えて貰えますか? 今襲われているんです」

『いいよ~、季花ちゃんの机の上にあった書類には季花ちゃんが行方不明になったら教える事って書いてあったから~』

「…………」

 もしそうなら、明らかに言うの遅いだろ。

 対決の可能性考えて言ってくれてたんだろうが……

 なんだ、この人は。 まさかハンマーとの対決はこの人の思惑じゃねぇだろうな。

 いや、流石にそれは無いが。

『まず~、面倒くさがりらしいから、見えない所まで逃げたら出口で待ってるようなタイプらしいよ~』

 出口が無い、囚われている。

 でも、一階で待ってるのかな。

『次に~、怯まないらしいよ~、面倒くさがりだけど戦う時は戦闘狂らしいよ~、嫌いなタイプだな~、私は勝てないかも~』

 ふざけんな。

 姉ちゃんとやりあえる人が負けるわけないだろ。

「実際、なんで昨日姉ちゃんはハンマーを逃がしているんですか?」

『単に、ハンマーが強かったから、エリアが時間稼ぎを始めるまでの時間を稼いだってだけだよ~ 少なくても、ハンマーは季花ちゃんと数秒はやりあえるってレベルにあるのは覚えておくように~』

 厄介な。

 運動神経はいいと思っていたがそこまでか。

 完全に実力派じゃねぇか。

 確かに、これじゃ勝てないな。

「姉ちゃんが、ギロチンとか言う奴と戦ったらしいんですけど、その後どうなったかわかりますか?」

『殺した、っていうより消滅させた~ これは私もカメラ越しで見てたから間違いないよ~』

 消滅?

「行方不明って事ですか?」

『違うよ~ 一週間後に同じ場所から確認されてるよ~ 辻褄合わせの都合の良い記憶を持って~ 本当の事を知らない周りの人も同じような記憶を持っていたね~ あ、想像武器は失ってたよ~』

 都合良いな。

 殺し合いをやる分には。 そして、それ以上に逃げるために。

「俺の全盛期なら勝てますか?」

『六割、負けるかな~』

 四割……、思ったより厳しいな。

『違うよ~、残りの四割は相討ちだよ~』

「そんな絶望的ですか」

 俺は思わず苦笑してしまう。

『でも案外、今の君なら勝てるかもよ~ 全盛期でも何でもなく、逃げ続けてる君が立ち向かうとしたなら勝てるかもって感じかな~』

「なんですか、逃げてるって。 昨日だって俺は正々堂々とハンマーに立ち向かいましたよ」

 言われたくない事を言われた、言葉が荒くなるのが自分で自覚出来る。

『逃げるって、それはハンマーからじゃないよ~ 言われなくてもわかってんでしょ~ 親殺し、その時の親の最期の言葉じゃないかな~』

「…………姉ちゃんにすらそこまでは気付かれていないと思うんですが」

『気付いてないと思うよ~ 君の心の奥底過ぎるんだもん~』

「人の心の奥底を勝手に公開なんてタチ悪いですよ」

 嫌味を言ってしまった。

『君の心の底は見え透いているんだよ、簡単過ぎる間違い探しぐらいにわかりやすいんだよね~』

「流石に言い過ぎじゃないっすかね」

『親殺しなんて他の人を殺す事となんにもかわらないよ~ 君は人を殺した事に罪悪感を持っているんじゃなくて肉親を殺した事に罪悪感を持っているのかな? そこらへんをよく考える事なんじゃないかな~』

「……的確なアドバイスありがとうございました、的確すぎて来事が痛いです」

『じゃあ頑張ってね~ いくら面倒くさがりでも、あまりに長かったら攻めて来るかもだからね~』

 電話が切れた。 こちらから質問する事は無かったし話してても疲れるだけだから切ってくれたのは非常にありがたかった。

 とても為になった。

 後で亜織を差し向けてもいい具合には。

 さて。

 後は、俺が決心するかどうかだ。

「夏霧、お前は想像武器に関しての記憶を失っても問題無いか?」

「嫌だよ、絶対。 記憶を失いたくは無いよ」

 即答した。

 だが、これで俺は満足出来なかった。

「悪い、しっかりと聞かせてくれ。 もしここでハンマーに殺されたとしよう。 一週間後、辻褄合わせの都合のいい記憶を持って蘇られる。 当然、精神的外傷トラウマについてだって忘れているだろう。 もう、背負わなくてもいいんだぞ?」

「これは私のだよ、失わない」

「誰のものでも無くす事が出来るんだ、背負う必要が無い」

「必要じゃないよ、こんなもの。 無駄に重くて潰れそうになる。 でも。私が背負いたいの」

「自分が苦しんでもか」

「うん」

「無駄なんだぞ?」

 パチン。

 この言葉の直後、夏霧は俺の頬を叩いた。 ビンタって言うのだろう。

「ここで適当に失っていい記憶じゃなければ無駄なものでもない! 私は絶対に忘れない、私の両親が私に何をしたのかを! 何を考えて何をしたのかを! 私は戦い続ける、この記憶と一緒に!


 何があっても、背負い続ける!


 たとえ、どんな甘い誘惑があっても私はこれを絶対に手放さない!」

 夏霧は、堂々と叫んだ。 俺の質問、いや


 逃げ続けてる俺への苛立ちを全てぶつけるように。


 自分の昔を、受け入れ、進むように。

「夏霧、ありがとう」

 俺は、夏霧を抱きしめた。

 存在を、感じるように。 戦う理由を、手にするように。

 身体は震えていて、目には涙を浮かべていた。

 鼓動を、感じられるようだった。

 なにより、とても温かい。

 生きている。 すべてを受け入れ、背負いながら夏霧は生きている。

 その邪魔をすると言うのなら。

 やってやるよ、どんな事を思い出してでも。


 ハンマーを倒してやるよ、俺が。


 少し恥ずかしくなり、夏霧を解放してから俺は聞いた。

「夏霧、お前の回復能力について詳しく教えてくれるか?」

「…………」

 無言で脛を蹴られた。 蹴られ続けた。

「え、あの、ちょっと夏霧さん? 脛は割とダメージになるんだけど?」

「……抱きついといて他に言う事は無いの?」

「えっと、良い抱き心地でした?」

「死んじゃえ」

 顔面を正面からグーで殴られた。

「いってぇ! 何するんだ!」

「突然抱きついてきた人が言う事じゃない! 初めて親以外に抱きつかれたのに!」

「うっせぇよ! 抱きつく抱きつかれるなんて別に気にする事じゃねぇだろうが!」

「そんな気分で抱きつかないでよ! もっと私に優しくしてよ!」

「知るか! アホらしいわ! 俺はお前の為に戦おうって覚悟した所だっての!」

「え、わたしのため!?」

「そうだよ、今からてめぇを守っててめぇに害成す者を倒すって決めたんだ! てめぇに何言われようとな!」

「さ、さいっしょからそう言ってよ、まったく」

 顔を赤らめて横を向いた。 大きな声を出し疲れたのか?

「えっと、能力の説明だっけ? 回復の頻度は一日一回まで、その代わり簡単な死者蘇生ぐらいなら出来るよ」

 ちょっと待て。

「死者蘇生って、死んだ人を蘇らせるって事だよな…………?」

 メルヘンにも程があるわ。

「だって、大和君今生きてるでしょ?」

「俺死んでたのか!? 昨日!?」

 確かに、肋骨どころじゃすまないような攻撃喰らったって自覚はあったけど!?

 自分のこと、死んだって思ってもいたけど!?

 でも死んでいたのか!?

「これ聞き続けると見たくも無い現実を見そうだし他のことを聞くぞ。 回復ラグとか方法とか詳しく教えてくれ」

 夏霧は少し首を傾げながら言った。

「回復方法は、私が人に触る事。 回復速度は一瞬、完全に完璧に五体満足疲れ無し痛み無しで復活って感じかな」

「なにその完璧能力」

 普通に強すぎる。

 そして、使える。

「わかった、じゃあ今からハンマー倒しに行くから、一回のロビーに隠れててくれ」

「本当に勝てるの?」

「お前が居ればな」

 俺は勝てる。

 今の勝利条件は、ハンマーを倒し俺達は生き残る、だ。

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