(19)
「ねえねえ亜織ちゃん、亜織ちゃんのお姉さんってどんな感じなの?」
「あら、姫美は市役所住みだったのでしょ? 会った事は無いのかしら」
「天壌市の市役所は広いから、市役所住みでも会った事が無い人はいっぱいいるんだよ」
放課後。
元応接室、現自由部部室。
灯裏さんの電話通り部室で時間を潰している。
………しかし、こいつら仲良くなりすぎだろ。
最近の女子のコミュ力ってこんなに高いのか?
「私の姉、冬町灯裏は元暴走族、現天壌市治安維持副責任者よ」
「暴走族から治安維持って……」
夏霧が呆れてる。
「ついでに、あの口調はキャラ設定よ」
「そんな人が居ていいの!?」
うん、俺も疑問に思う。
亜織はため息をつきながら説明した。
「あのアホは世界で一番になりたいのよ。 だから、今全人類の中で間違いなく最強と言われる季花さんがすぐ近くにいる治安維持に入ったのよ。 自分の仲間だった暴走族全員を説き伏せて」
「暴走族を口でどうにかしたの!?」
「これが冬町の血なのかしら。 秋山が四刀流を継いでいるように」
「それは違ぇよ」
あ、口挟んじゃった。
「あら、自由部の楯如きが私に意見していいと思っているのかしら? 脳筋は精々筋トレでもしながら私たち美少女二人のキャッキャウフフトークを聞けるという人生最大の幸せを噛み締めていればいいわ」
うざ!
反撃してみよう。
「え、この空間に美少女なんているのか?」
漢字辞書が飛んで来た。
二つも。
俺に致命的なダメージ!
「漢字辞書を投げるような美少女が居てたまるか!」
「萌えポイントよ」
「萌えポイントだね」
「そんなのが萌えならこの世の男性は全員物理的に死ぬわ!」
結託し過ぎだこいつら。
「でも、亜織が言ってることは少し違うかな」
一連の動きをPSPをやりつつニヤニヤしながら見ていた裕也が口を挟んだ。
「それもそうね」
亜織は速攻で認めた。
俺の言葉じゃなくて俺が気に食わなかっただけか。
いい加減泣くぞ。
「さて、自由部が揃った事だし、そろそろ自由部の活動を始めようか」
裕也が机を叩き高々と宣言した。
「おい裕也、活動って何をやるんだよ?」
「そうだね、この前僕と亜織がやった話をしよう」
うんうん、俺ハブられていないか?
「この学校の二年生に高山財雄って言う、本当に救いようの無い駄目人間がいるって知っているかい?」
少し記憶を探ってみる。
心当たりがねぇな、そもそもこの学校に来たのは一昨日だ。
「俺は知らないな。 夏霧は聞いたことあるか?」
「なんとなく聞いたことあるよ。 親から金を山ほど貰ってそれをばら撒いて暮らしてる人だって」
うわ、凄く駄目そう。
「夏霧さんのは婉曲表現だよ。 金で女子生徒とイチャイチャして、金で教師を買収して、金で進学しているような屑だよ」
自分の箍は外れた状態を見てるみたいでイライラする、珍しく苛立ちの感情を露わに裕也が呟いた。
裕也も、やろうとすればこれ以上が出来そうな金持ちだったりする。
天壌市市役所でバイトした結果だが。
「だから、こうなってもらった」
裕也が写真を一枚取り出した。
写っているのは、だらしなく太り、汗が滴って、見るだけで生理的嫌悪を催す男が上半身裸で倒れ、ボンテージ姿の仮面を着けた女に踏まれている物だった。
生理的嫌悪を催すこの男が高山だろう、そこまで気にならない。
俺が気になったのは、ボンテージ姿のこの女だ。
この貧乳、銀髪、そして高圧的なこの雰囲気。
どっからどう見ても、我が部活の策士だ。
「何か言いたい事あるのかしら、この屑野郎」
言ってもないのに亜織が反応してきた。
うーん、ここで「お前こんなのが趣味だったのか」なんて抜かしたらこの写真より酷い目にあうだろう、広辞苑が脳に突き刺さる感じに。
かといって、無言を貫けば俺の脳は漢字辞書によって貫かれるだろう。
仕方ない、率直な感想を言うか。
「お前の絶望的な胸の無さを活かす良い服だな、ボンテージって」
目の前に六法全書が飛んできた。
「裕也、明日から新学期考査だろ。 お前の学力はヤバイから遊んでる暇なんて無いだろ」
全て無かったことに。
頭に包帯を巻いているがなかったことに。
本当のことを言えば、凄く夏霧に治して貰いたい。 ハンマー今日来ないよな? 使ってもらってもいいよな?
「夏霧、ちょっと能力使って助けてもらえない?」
「自業自得を助ける能力なんて私は持ってないよ」
凄く冷たい。 女の敵を見る目だ。 人類の敵のゴキブリを見る目だ。
まあ、本題だ。
明日の新学期考査。
亜織は今までの試験で間違った問題は無し、俺も間違いなく頭いい部類、夏霧も馬鹿だという事は無いだろ。
問題はこの策士だ。
中学の最初の中間テストで数学・国語・理科0点という救いようの無い点数を叩き出した伝説が備わっているような奴だ。
簡単に言うなら、超馬鹿。
本来なら高校にすらこれない。
「裕也、自由部の行動が遊びだなんて言ってないよ?」
え。
「まさか、真面目に勉強するのが活動なのか?」
信じられない。
そして、ありえない。
亜織も信じられないって顔をしている。
「惜しいけど少し違うかな」
なんだ、その言い方は。
うざい、あっさりと言えよ。
「全教科五十点以上取れるカンニング方法を考えるのが今日の活動だよ!」
結構本気で蹴った。
裕也がギャグ漫画のように吹っ飛び、壁にめり込んだ。
「何やらせるつもりだよ!」
「僕が点数を取る方法だよ、それ以外取れるわけ無いじゃないか」
「勉強しやがれ!」
「あ、ついでに言うと入試試験の時は一人でカンニングしてたよ」
「退学になっちまえ!」
「具体的にどのような方法を考えているのかしら?」
乗った、亜織が乗った。 すごく嫌な組み合わせ。
こいつら学校をなんだと思っていやがる。
「でも、カンニングやよくないと思うよ……」
よし、夏霧にはやっぱり常識があった。
非常識な俺でもヤバいとは思うけどな。
ブレーキ役が二人になったのは凄く嬉しい。
「姫美、テストとは個人の力量を計るものよ? カンニングだったばれなければ立派な個人の力じゃない。 あなたは、努力の方向を決める権利があるのかしら?」
流石亜織、最悪だ。 死んでしまえ。
「そ、そうかも……」
お願いだから押されないで。
まともなの俺だけかよ。
「今回は、服の裏に要所要所を仕込もうと思うんだ。 どこを押さえれば点を取れるか考えてくれないかい?」
一番嫌なところは、真面目に言っているって所だ。
「え、でもワンポイントは数学とかでしか出来ないんじゃないの? 英語とかじゃ点は取れないんじゃないの?」
夏霧が当然の疑問を抱いている。
まずカンニング会議をおかしいと思ってはくれないだろうか。
「夏霧、裕也の英語の点数は100点よ」
「何でカンニングする必要があるの!?」
驚いてる。
夏霧の気持ちはよくわかる。
でも、仕方ない。
「英語ってかっこいいじゃん。 だから英語だけは出来るんだよ」
「普通、それだけで百点は取れないんじゃ………」
夏霧がなぜか落ち込んでる。
まあ、真面目に勉強している人間に対してこいつの勉強方法で高得点を取るって言うのは悪夢でしか無いのだろう。
さて、頃合か。
「裕也、カンニングなんかより自由部としての活動があるだろ」
「なにそれ?」
「天壌の話だよ」
「ああ、すっかり忘れてたよ、それね。 聞きたかったの?」
「カンニング会議よりは有意義だからな」
女子たちが頭に?を浮かべてる。
「この前亜織が寝てるときに僕が裕也に話したんだよ、自由部に姫美さんを入れたかった理由を」
「聞きたいわ」
「聞きたいね」
裕也は苦笑した。
「なら仕方ない、カンニング会議はひとまず置いといて、僕の天壌市の定義でも説明するよ」
カンニングはするな。
「天壌市。 僕たちの素晴らしき…………かどうかは別として、まあ僕たちの故郷だね。 まず、天壌って漢字の意味から説明しよう。 天壌、天と地。 天地が永遠に続くことってこれは天壌無窮の意味か。 まあ間違ってはいないや。 永遠に続く。 天と地。 意味はこれ。 僕はこれを全ての始まりの地だと思う。 地が始まり、天が始まり、永遠に続いてく。 天地開闢や人類発生のように。 さて、始まるとはどういうことだろう? 答えは、混沌だ。 昨日大和が戦ったおじさん、姫美さんが持ってる力。 想像武器だったっけ? あれも一つの始まりだ。 やがては世界に広まる力かもしれない。 新たな文明。 聞いただけでわくわくするね。 でも、天壌市はそれだけじゃない。 全てが始まる地。 だけど全てが永遠に続くわけではない。 むしろ、全てを永遠に続けさせないのが大和や亜織のお姉様の仕事なんだよ。 基準を設け、それを破るものを駆逐する、これが天壌市市役所治安維持室の真の活動目的だよ。 だから、君の力だってほっといたら駆逐されるかもしれない。 いや、駆逐された能力なんて僕が数えただけでも三桁はある。 あ、安心してくれ。 何も迷惑じゃないものまで駆逐されるわけじゃない、現に見逃されている能力だっていくらでもある。 とにかく、ここはそういう地だ。 なんでも出来る、出来てしまう。 理由と運さえあれば始まり、世界という常識によって駆逐される。 もっとも、想像武器に関してはそこまで簡単じゃないかもしれないけどね。 ところで、天壌市の一番おかしいところは何だと思う? 武器の携帯所持? 異能の原水? そんな簡単な事じゃない。 事故誘発だ。 実際問題、裕也はどう思っているの? 食パンを咥えて帰り道を走っていたら女の子と出会い、異能の力と対面し、お姉ちゃんに助けられ、家に連れ込むことになり、お風呂場に突撃して、同じ部活に入ることになったことを? 偶然だと思うかい? いや、確かに僕のせいでもある。 しかし、僕のやった今回の作戦は全て天壌市の必然力に任せただけだ。 もうわかったかい? 天壌市は有り得ない偶然が重なる。 両親が無くなり、子供たちが路上生活を始め、組織化し、革命を起こす一歩手前になるほど有り得ない偶然が多い。 そんな地だから、僕はここで君たちと会えたと思うと嬉しいけどね。 つまり、偶然が起こり続け、奇跡が重なり、誰も想定しない事件が起きる。 ……あぁ、姫美さんを誘った理由だっけ? 春夏秋冬を揃える、本当は偶然、たまたま、必然で揃えたかったんだけど、中学時代では三人しか揃わなかったし行動しろって事なのだろうね。
僕は世界を変えたい、それ以上にこの天壌市を変えたい。
そのためには普通の力じゃ間に合わない、自分で奇跡を起こす必要がある。 そのために、奇跡は自分から起こす。 生憎と、こんな性格で親友を利用することに躊躇いが無くてね。 まあ、それは君もだけどね。僕は世界を変える為に奇跡を起こしやすい環境にしたんだ。
さて、これで僕の話は終わりだよ」
裕也は、満足げに語り終えた。
「わかった、が話長すぎねぇか?」
「僕は物を語る時は話が長いよ、元々喋るのが好きだからね」
要するに、異能を姉ちゃん達が倒してるって事だろ。 流石姉ちゃん、主人公。
だが、それでいいのだろうかって疑問を抱いてしまった。 姉ちゃんに対して、疑問を。
異能を欲しがるような人の願いを、駆逐していいのか。 世界程度の基準で人の思いを否定していいのか。
……否定的過ぎるか? まあ、俺が悩む事でもないが。
「なら、異能って思ったより簡単に手に出来るのかしら?」
亜織がとても興味津津な目をしている。
欲しいのか? 駆逐されるなどと聞いた後で?
「発現出来るんじゃない? いや、この街に住んでる人なら誰でも出来るよ、心から願うか状況的な流れさえあれば」
「そう、私は心から祈ってのね」
…………え?
「あの……亜織さん……? ……えっと、それはどういう意味でしょうか?」
「時期が来ればわかるわ、多分そう遠く無いわ」
意味深に亜織が笑った。 くっそ、どいつもこいつも奥が深すぎる。
裕也だって、考えているんだ。 自分の宿命について。
亜織だって、考えているんだ。 自分の能力について。
夏霧だって、考えているんだ。 自分の異能について。
俺は、何時まで自分の精神的外傷から逃げる?




