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 俺は、自分の事を「生きる価値が無い」だの「死んだ方がマシ」だの言う馬鹿野郎は本当に死ねばいいと常々考えている。

 だって、普通に考えて価値が無い人間なんていないだろ、アホらし。

 いや、これは別に重いシリアスじゃない、そんなものは格好つけたい時にでもすればいい。

 簡単に、そして適当に言うが人間の出来る事は無限大にある。

 可能性、とか格好つけたいわけではない。

 ただ単に、家族の為に朝飯を作る。 家族より早く起きて家族を起こしてあげる。 家族の朝練が終わった後にタオルを用意してあげる。

 この程度の事でも価値ってあるんじゃないか?

 ついでに、例えが朝に出来る事だと言う事にはとても大きい理由がある。

 …………寝坊して、姉ちゃんの朝の準備が何も出来なくてとても怖い目に現在進行で遭ってるという、とても大変な理由だ。 大変だ、死にかねない。 走馬灯すら見た、本当に死ぬ間際かもしれない。

「で、お前は寝坊した理由を私に説明しないのか?」

 姉ちゃん、秋山あきやま季花きか

 頭脳優秀・才色兼備・羨ましい程の身長・巨乳・天壌てんじょう市役所しやくしょ治安ちあん維持いじしつ最高さいこう責任せきにんしゃ・現、四刀流よんとうりゅう後継者こうけいしゃ代理だいり・俺の姉ちゃん。

 大好きです、結婚してください。

 心からそう思う。

 まあ、このタイミングでプロポーズしたら絶対殺されるだろう。 どのタイミングでも「姉ちゃん、結婚しよう」なんて弟からの求婚を受けてOKをくれる姉では無いが。

 なんて、妄想で現実から逃げている暇はない。 こっちは死にかけなんだ。

 今すぐ、全力で謝ろう。

「姉ちゃん、ごめん! これからは気をつけるから許して!」

「寝坊した理由を説明ろと私は言ったのだ、その耳は飾りか?」

 怖っ! 逃げれなっ!

 仕方ない、適当に言い訳しよう。

「ちょっと、昨日夜遅くまで姉ちゃんの事を考えてたら寝れなくなって」

「嘘だったら許すが、本当だったら絶縁ぜつえんも視野にいれよう」

「じゃなくて、突然宇宙人が宇宙そらから降ってきて」

「そうか、この市なら信憑性がある。 今すぐ連れてこい、解剖して見せしめにして二度とこの市に来ようと思えないようにしてやる」

「と思ったんだけど、本当は昨日俺の部屋にだけ震度7の地震が来て、寝るに寝れなくて」

「そうか、この家がオンボロだと言いたいのか。 残念だが、別々に暮らすしか方法は無いのかもしれないな」

「正直に言うね! 昨日空から女の子が降ってきてその子が風邪を引いていたから看病を」

「していたのか、大変だったな。 丁度、私もお前を病院に送ろうと思っているのだが」

「本当に許して! さっきから姉ちゃんと別々に暮らすって選択肢が多すぎる!」

「正直に言わないからだ、馬鹿者」

 凄く呆れていた、この表情も可愛い。

「まったく……」

 恐怖で引きつっているであろう俺の非常に変な顔を見て姉ちゃんは折れた、珍しい。 雪が降るんじゃないか?

「お前、昨日学校であいつらと何やってた?」

 ギクギクギク

 こんな擬音ぎおんが出たかもしれないほど的確に言われたくない事言われてしまった。

 やりすぎたかなぁ…………

「お前は、私の可愛い弟は、高校入学初日に、校長の弱みを握ってなにをやったのかな?」

 …………バレ過ぎてる、完全に筒抜けだ。

 隠れてる要素無いじゃん……

 お姉ちゃんに可愛いって言われて喜んでいるのは内緒だが。

 まったく、情報操作じょうほうそうさ策士あのばか仕事りょうぶんだろうが。 武力おれに迷惑が来ない形にぐらいは取り繕ってくれないんだろうか。

「新しい部活作ったんだよ、あいつらと」

 まあ、言っておいた。

 これだけなら問題無いよな…………

 弱み握ったのがばれてるのは正直予想外だけど。

 まあ、これ以上の事実なんてないし。 どんな部活か聞かれたら困るけれども。

「ふぅん、そうか。 やりすぎるなよ」

 とても怖い感じに釘を刺された。

 部活内容、ばれてるのかな。

「さて」

 お、話題を切り替えてくれた、助かる。

「大和、今日私は遅くなるから夜ごはんは用意しなくていいぞ」

 またか、最近多いな。

「わかったよ」

 姉ちゃんは頷いた。

「では、私はもうシャワーを浴びてスーツに着替えて行かなくてはならない。 おにぎりの一つでも作ってくれれば今朝の失態は目を瞑ろう」

 なんていうラッキーチャンス。

「わかったよ、おにぎりの具は何にする?」

「任せる」

 こう言うと思った。 まあいい、おにぎりを作るか。

 具を何にするかと考えている時、思い出したように姉ちゃんは俺に振り返って呟いた。

「そうだ、言い忘れていた。 大和、もしかすると今日からこの家に住む人間が一人増えるかもしれん」

 部屋から出る振り向き様、姉ちゃんがとんでもないことを言い出した。

 え?

 新しく住む人間?

 俺と姉ちゃんの愛の巣に割り込んでくる人間?

「おい大和、突然ワイヤーを玄関に仕掛ける準備とはどういうことだ」

「気にしないで、姉ちゃん。 俺の愛への障害を取り除くだけだから」

「三秒以内に辞めろ。 三、二……………………死にたくなかったら一、零」

 俺の頸動脈に、鋭い手刀が飛んでくる。

 衝撃で脳は揺さぶられ、後頭部は床に強打。 首への一撃はもちろん呼吸を困難へとさせる。

「いってぇぇぇぇゴホッゴホ!!」

 叫びながら咳込んでしまった。

「把握したな、したならおにぎり作ってくれ」

 廊下で狼狽うろたえる俺を見下して、姉ちゃんは風呂場へと向かった。 畜生、姉ちゃんと二人暮らしじゃないとか本当に泣きたい。 なんでこんな事になるんだ、本当にアホらしい。



 おにぎりを出来るだけ豪華(鮭、すじこ)にして機嫌良く姉ちゃんが家を出た。

「七時、四十五分か」

 独り言を呟く。

 俺は学校への登校には時間の余裕を持つタイプであるので、片道歩いて十五分、八時三十分までに教室にいなければ遅刻扱いになるという状況を省みるに、そろそろ家を出るべきだろう。

 遅刻ギリギリで学校に来いなんて策士に言われない限り。

「……アニメやラノベのような街ねぇ、本当にそんな事があるとは到底思えないけどな」

 俺は独り言の多いタイプなのかもしれない、呟きが止まらない。

 策士の命令、遅刻ギリギリにパンを咥えて学校へと走り、十字路で同じく走ってる人とぶつかりコミュニケーションを取れ。

 本当に現実と空想の違いが理解出来ていないとしか思えない。

 と言うより、そうであって欲しい。


 あいつの言う事が正しいとしたら、この街天壌市は現実と空想の違いがない街だという事なのだから。


 わかってはいる、この街がおかしいって事ぐらい。

 それでも、運命なんてものがアホらしく転がっているのはお断り申し上げたい。

 俺の精神的外傷トラウマすらこの街が仕組んだ運命だなんて考えたら吐き気がする。

「八時十分、独り言で時間が潰れるなんてラッキーと言えるのかね」

 そろそろ、準備しよう。

 走らないといけなさそうな時間になってきた。

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