(16)
自分が自分が考えているより遥かに単純で馬鹿だった。
まさか、あんな思わせぶりな会話の後普通に爆睡するとは……。
悩み事もシカトして寝たのか俺は。
死にかけたんだし仕方ない、という見方だって無理がある。 まったく、アホたしいほど恥ずかしい
そんな思考もほどほどに、とりあえず俺は家に備わっている蔵へと向かった。
俺と姉ちゃんの愛しの愛の巣こと秋山家は、そうとう本格的な武者屋敷だ。 蔵だってある。
蔵の中にある、バットケースに立て掛けられている日本刀を二本収納した。 勿論、ハンマー対策だ。
何時でも、姉ちゃんが助けに来てくれるとは限らない。
日本刀二本でハンマーに勝てるか。
何度シュミレートしても答えは俺の死である。
が、それがどうした。
俺の勝利条件は夏霧を逃がすことであり、俺の敗北条件は夏霧が死ぬ事である。
などと考えている内に、自分の思考に呆れた。
昨日負けたハンマーと再戦を前提に考えていること、ではなく、昨日初めて話した女子を命懸けで守るということ、でもない。
自分は想像武器を使える、これはわかりきっている。
それなのに、使わず日本刀なんて用意している事である。
自分の決意なんてものの軽さにはもう失笑しかできない。
結局、守るだの戦うだの口で格好つけても、心配なのは自分が精神的外傷を思い出さないって事なのだから。
まったく、本当に駄目だよ、俺は。 睡眠なんて関係ない。
なんて考えつつ、バットケースへの日本刀の収納を終えた。
警察に見つかったら捕まるかな。
まあ、いざとなったら姉ちゃんに揉み消してもらうか。
とか色々考えながら家に帰りキッチンを覗いたら、エプロンを着た夏霧が居た。
手には、禍々しい何かを持って。
その物質は、この世で比べる事がまったく出来ない禍々しさを持ち、中世の魔女狩りでのこれを食わされるほど酷い拷問はなかったと断言出来、これを食わされるぐらいならどんな野望を持った魔王でも喜んで命を絶ち、これを畑に落とそうなんてしたら、その畑には二度と生命が宿らないと思ってしまうようなレベルの物体だった。 食い物じゃねぇ。
死刑宣告をした。
「元気が出るように、朝ごはん作ったよ♪」
笑顔が眩しいよ、眩しくて涙が出てきたよ。
朝の通学路。
腹が狂うような物を食わされた。
口の中で悪魔と魔王の舞踏会を繰り広げた挙句、人を狂わす電波だけの爆弾を受けた末、全身をレーザー兵器で数百回焼かれたような味だった。
すげぇ拷問だ、死ねる。 というか、味じゃねぇ。
「あ、あの………ごめんね?」
夏霧が言うには、昨日の元気を失った俺に心を痛め、元気を出すために通常では味わえないような味を食べさせてあげようと頑張ってくれたらしい。
行動だけは聖人だろう。
その結果、なぜダンゴ虫を使ったか知りたいが。 なんでぼろ布が和えられていたのか聞きたいが。 使われた皿の汚れが何故か取れない事に怒りを感じているが。
本当に殺人兵器だった、謝らなかったら殺したかもしれない。
常識を持ってる人間がパンと紙を一緒に焼くとは思えないが、行動だけを考えたらこれは常識的なのだろう。
常識。
俺や裕也や亜織が持っていない物。
「まあいいよ、その代わり飯はこれから絶対に俺が作る」
絶対にだ。
話を聞いてみると、市役所住みでは家事は後退当番だったらしいが、食事当番だけは一回周って来た後、二度と周って来なかったと言う。 当然だ、と食した俺は思う。
女子が作ってくれた飯を残せるか。
……しかし、会って二日目の女子との登校って、すげぇ気まずいな。
亜織となら話せるのに。 話したくはないが。
俺ってもしかって話すの苦手な人なのか?
仕方ないので、差し障りの無い鉄板な話題から行こう。
「今日って、天気がいいな」
「大和君、もしかして今話題無くて困ってる?」
「せめて心の中だけで思ってろ!」
このご時世で天気の話って、こうなるんだな。
「じゃあ、なんて話題振ればいいんだよ」
一応聞いてみよう、案外面白い事が聞けるかもしれない。
「明日の天気って鯰らしいよ」
「鯰!? どこの異次元での会話だよ! というか天気の話続行かよ!?」
災害レベルが計り知れねぇ。
鯰って。
壊滅するわ、女子の心が。
「鯰の後、宇宙大戦争」
「鯰がスケール小さく感じるような事件だと!?」
「その後、空から女の子が降ってくるでしょう」
「お前で間に合ってる」
「そしてよくわからない生物との邂逅!」
「天気関係無くなってるよな」
「最後に、全家庭に襲来するゴキブ」
「言わせねぇよ! それは言うな、想像させんな!」
女子高校生って、あの人類の敵を会話の内容になんの躊躇いもなく使えるのか?
「最近の女子なんて、みんなこんな感じだよ?」
「そんな女子は女子じゃない」
なんで俺が突っ込んでんだ。
俺が常識に期待したいたことなんて突っ込みポジションからの脱却でしかないのに。
こいつ自由部にいれないといけないのだろうか。
って、待てよ。
昨夜自由部微妙とか言ってたよな?
やりたい部活があるのか?
「夏霧、お前は入りたい部活とかあるのか?」
「自由部」
…………は?
「自由部?」
「うん、自由部」
「なんでだよ!」
なんでだよ!
昨日微妙とか言ってただろうが!
ふざけんな。
「昨日から携帯に、なんかメールがいっぱい来てるんだ。 読んでみたら、自由部に入りたいなぁと」
「………あの野郎共」
亜織、てめぇの洗脳か。
行動が早いわ。
どんな連絡網だよ。
そして夏霧、知らない奴からのメールを読むな。
常識ある人間の対応をしろ。
そんなんだから洗脳されるんだ。
とか考えていたら。
突然、バイクの騒音が聞こえた!
なにこの世紀末のようなナレーター。
ワラワラと四人も出てきた。 うぜぇ。
「てめぇ、よくも一昨日に続き昨日も俺の仲間を二回もいたぶってくれたな!! 生きて帰れると思うなよ!」
「ボスのご登場だ! 今すぐ謝ったらどうだぁ?」
「謝っても許さねぇけどな! ヒヒヒ」
「早くやっちまいましょうよ、こんなガキ!」
うわぁ、頭悪そう。 そして、近所に迷惑。
「帰らねぇよ、登校中だっての。 アホらし」
ボスとか呼ばれてるモヒカン(なぜか金色)を挑発してみた。
「…………ねぇ、大和君。 これ、やばくない……?」
そしたら後ろの夏霧が怯えてる。
想像武器の方が怖くないか?
まあいい。
四人、木刀無し、日本の法律を破ってまでこいつらに日本刀を使う理由も無い。
つまり。
世紀末のような奴らには世紀末の救世主のように。
「ほら、素手で相手してやるからかかって来い」
適当に右手を前に出してみた。




