(15)
なにも見てません、なにも見せてません。
風呂になんて突撃してません。
「君はなんでこんなことするのかな? 季花さんに言いつけるよ?」
「本当にごめんなさい!」
土下座が気持ちいい。
今日初めて会った女の子に二回も土下座してるよ、俺。
歴史上初なんじゃねぇの?
「風呂に一緒に入ろうとか言いだした時から疑ってたけど、君ってシスコンの上に普通に変態なんじゃないのかな?」
「申し開きがありませんが、僕は乗せられただけです!」
あ、敬語になってる。
案の定、風呂場で身体を洗っていた時に俺はどうどうと正面から風呂に侵入した。
水の滴る健康的な肌に姉ちゃんほどではないにしろ明らかに高校生レベルでは無い大きな胸、そして鼻歌混じりで安息していた時に突然の侵入者で凍りついた綺麗な顔。
まじまじと観察しちゃったね。
その後、シャワーで頭から血が流れるまで殴られ土下座させられているわけだが。
本当に、今日はいったいなんなんだ。
寝坊して姉ちゃんに怒られ、朝っぱらから暴走族の相手をして、全校集会に遅れ、裕也にからかわれて、亜織にいじめられて、突然死んで、一緒に暮らすことになった女子に二度も土下座して。
泣けてくる。
「うぅ…………」
「ちょっと、何泣いてるの!?」
「色々ありすぎまして……」
もう嫌だ、色々渦巻いてる。
「…………大丈夫? ご飯食べようよ」
「……ああ」
夏霧が俺の涙にドン引き、許してくれた。
危ない、今は一人じゃないんだ。
何時だって、一人じゃないんだ。
「じゃ、今日私はどこで寝ればいいの?」
パンを食いながら聞いてきた。
「姉ちゃんの布団しかねぇよ、やっぱり」
「季花さんの布団かぁ……」
ん?
「なんだ、俺と一緒がいいのか?」
「…………君のその変態発言ってどこから来るの?」
ドン引きされた。
「いや、ほら。 裕也と亜織とよく一緒に寝てるし」
「…………何やってんの、君たち」
やべ、説明ミスった気がする。
「いや、やましい意味じゃないしそういう意味じゃない。 ただ、一緒の部屋だって意味だ」
「今の説明で挽回出来ると思ってんの?」
本気で引いてる。
ああくっそ、亜織がいればな。
「君たち、自由部だっけ?」
「ん、ああそうだ。 何、入りたいのか? 大歓迎するぞ」
いや、結構ガチで歓迎だ。
今の俺にとっては。
姉ちゃんに届くなんかじゃなく、姉ちゃんの露払いをするために。
今の俺は、そのぐらい駄目だ。
姉ちゃんを守れない俺なんて、意味が無い。
「いや、わかんないよ」
苦笑してる。
「だってさ、ただでさえこんな意味のわからない能力を持たされているんだよ? それなのに、わけわからない、ファンタスティックなカオスの日常をこれ以上増やしてもさ……」
ああ、なるほど。
夏霧にとって、俺達はごっこ遊びに見えるのか。
「不快か?」
直接聞いてみた。
聞かないといけなかった、これだけは。
俺達の行為に、審判を下す人間から。
「そうでもないよ? 君達にとやかく言うほど私は悲しい目には会ってないもん。 一人じゃないもし」
「市役所住みでか?」
自分の口から出た言葉に驚いた。
聞いてはいけない事だった。
失言なんてレベルじゃない、明らかに人を傷つける言葉だ。
何を聞いているんだ俺は。
人を苦しめて。
人の幸せが許せないのか?
「助けてくれたからね、季花さんが」
「姉ちゃんが?」
「うん、私だけじゃないよ。 みんなを救ってる、武力的にも、心的にも」
「そうか」
そうか、しか言えなかった。
ここまで苦しんでいる人間に、俺は言える事が無かった。
いや、あった。
一つだけ。
「お礼として、俺の話をしてやる、聞け」
ただの不幸自慢だ。
「俺が小五の時だ。 寝ている所を親に襲われた。 親といっても両親な。 姉ちゃんが参戦出来ないようにバリケードを作っていた。 姉ちゃんだって、あの頃は所詮子供だったからな。 まあ、今だってあそこまで姉ちゃんを参戦させない事に特化したバリケードを敗れるとは思えないけどな。
まずお父さんだ。
お父さんが、俺の胸を薄く、しかし確実に一回斜めに斬った。
寝てて切られるまで気づかなかたぜ、悔しい。 まあ、斬られて目を覚ました俺は、その時点で世界最強だったお父さんを斬り、剣を奪い取った。 無我夢中で、どんな技を使ったのか覚えてないんだけどな。 そして、お父さんを人間から物にした後、お母さんがやってきた。 助けてもらえると思った。 なにからかはわからないけどな。 まあ、俺は精神的に少し落ち着いた。 お父さんを殺した後なのにな。 そしたらさ。
お母さんも、俺の胸に薄く、しかし確実にさっきとは逆方向に斬った。
絶望したよ、子供ながらに。 助けてくれると思った相手に絶望させられたのだから。 まあ、この後は話す必要は無いだろ。 お母さんを斬り殺し、姉ちゃんが来る頃には俺は両親を殺していたんだ。 そうして、小学五年生の俺は絶望し四刀流の修業を辞めたわけだ。 おしまい、ちゃんちゃん」
一気に話した。
罪を告白するかのように。
自分の気持ちを楽にして、相手を不幸にされた。
夏霧は、悲しそうに聞いていた。
自分の話をしている時はしなかった表情だった。
当たり前だ、こんな話を笑いながら聞くような人間なんて滅多にいない。
「質問、していい?」
「ああ、聞きたいだけ聞け」
この言葉は、別に自分の罪を認めたわけじゃない。
ただ単に、自暴自棄なんだろう。
「君の御両親は、なんで君を殺そうとしたの?」
「わかんねぇ、どうしてそんな事を聞く?」
少し、怒りが混ざっていたと思う。
ピンポイントだったんだ、聞く所が。
「だって、君のその経験。 想像武器を作る為だけの行程なんじゃないかって思うような話だったから」
「…………は?」
「いや、だから。 君のその出来事は明らかに想像武器を行う為のトラウマなんだよ、見本のように。 もしかしたら、君の御両親はなにか知ってたんじゃないのかな?」
………………
駄目だ、もう頭が回らん。
今日はもう駄目だ。
考えたくない。
「ごめん、夏霧。 今日はもう眠い。 一応姉ちゃんの部屋に客人用の布団は引いといたから好きに使ってくれ」
夏霧はなにか言いたそうな顔をしてる。
だけど、
聞きたくない。
もう、考えたくない。
本当に、痛いところを突かれた。
何が聞きたいだけ聞けだ、もっと酷いことを聞かれたらどうするつもりだったんだ。 答えず、切れるつもりだったのか。
夏霧は、やっぱりバツの悪そうな顔をしていた。
悪いのはお前じゃない、むしろ気づかせてくれたのに。
そんな気遣いもできなほど、俺は追い詰められた。
「おやすみなさい」
ごめん、明日まで待ってくれ。




