(10)
「お前には今、二つ道がある。 一つは全てを放り出して逃げる事。 二つ目は見ず知らずの少女を庇って潰れる事だ」
突然喋り出したのは身長180超え(こいつ殺す)、汚らしい長髪、無精髭を生やした四十代ぐらいのオッサンだった。
そこら辺にいる、駄目なオッサンに見えないこともなかったが、俺にはどうしてもそんな風には思えなかった。
目。
その目は自分の精神的外傷に打ち克ったよう力強い目であり、何人殺そうと一つのことを成し遂げる冷徹な決意が見えた。
なんだこいつ。
後ろの女の子に聞いてみよう。
「おい、こいつなんな---」
言葉が止まった。
怯えていた。
さっきまでの勢いが嘘のように、震えていた。
まあ、やる事は決まったな。
「生憎と、怯えた女の子ほっといて逃げても姉ちゃんに殺されるんだよ」
戦う、戦おう。
俺ならできる、オッサン一人ごときに負ける四刀流じゃない。
なにより、怯えてる女子を見捨てるような俺じゃない。
「はっ、死ぬぜガキ」
「黙ってろよジジイ」
まあ、こんな態度の奴なら間違いなく悪いのは向こうだろう。
いや、女の子をここまで怯えさせてる時点でわかってる話か。
…………とりあえず、さっきの行為は忘れよう、うん。
アホらしいことから頭を切り換え、木刀を二本取り出した。
見た感じ、素手だ。
武器を仕込ませているようにも見えない。
負けるわけが無い。
勝てる、と思える。 勝てなくても、逃げる程度は間違いなく出来る。
敵に向かって駆け出す。
一気に距離を詰める。
実戦はこれが初じゃない、暴走族との戦いが初めての実戦でもない。 もっと昔に命のやり取りはしている。
緊張で身体が動かないなんてことは無い。 冷静な判断が出来ないなんて事はない。
速攻で、斬る。
「<想像>」
オッサンはなにか呟いた。
だが、知った事じゃない。
先手必勝。 一撃必殺。
「死ねよオッサン。 四刀流[雨]」
木刀を一本突いた。
現象はそれだけだが、勿論ただ突き刺すだけの適当な行為ではない。 左足から右足に踏み返る瞬間、体の向きを一気に変え、その勢いを木刀に伝え一点に凄い力を与える。
別に珍しい技術でも無いが、浸透している技術が凄い威力になるというのは珍しい話ではない。
躱せる筈はない、このまま決める。
と、思っていた。
「なっ!?」
かわされてない。
白刃取りなんてされてない。
もっと単純に。
「ハンマーで防がれた!?」
どこまで力を入れてもビクともしない。
スレッジハンマーだっけな?
だけど。
「持ってなかっただろ!?」
問題は、こいつがスレッジハンマーを今両手にしているという事にある。
俺のように身体に仕込んでられる大きさでもない。
どこから取りだした。
どこから創りだした。
「………ダメ、あのハンマーは想像で創ってる」
想像?
創る?
いいや、後で聞こう。
頭を切り換えるんだ、落ち着け。
一撃防がれただけだ。
スレッジハンマーなんて重い物持って俺と戦えるわけが無い。
むしろ、武器が出てきただけ行動が読める。
そう思って、俺が後ろへ下がった時だった。
初撃の俺と同じくらいの速さで、ハンマー馬鹿(敵の名前)は俺に接近してきた。
「四刀流[風]!」
焦った俺は身体を捻って、俺は木刀をハンマー馬鹿に投げ、そしてハンマー馬鹿にトドメを刺す為に全力でもう一度前に走った。
かわせるはずが無い、ハンマーを持ちながら。
「学べよ、ガキ」
しかし、ハンマー馬鹿は完全に俺の行動についてきた。
片方のハンマーを投げ俺の木刀を撃ち落とし、もう片方のハンマーを野球の要領で俺に振って来た。
「はぁ!?」
なんでだ、なんでスレッジハンマーでそんな動作が出来る!?
いや、そもそもなんであんな速度で走れる!?
とりあえず、咄嗟に木刀で防いだが完全に木刀は折れ、確実に肋骨が何本か折れた。
何か大事な物が身体の中で弾けた。
無理だ、戦えない。
痛い。 痛い。 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!
意識が飛ぶ。 死んでいく、身体が。
意識が最期に聞いたのは、少し煩い、バイクの音だった。




