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童話集

まほろば

 るうとるきは虚ろな人形。


 からっぽの心を埋めるため、今日も誰かがやって来る。


 真っ白なふたりの部屋に、長い髪のお姉さんがちょこんと座る。


 お姉さんはにこりと笑って立ち上がり、白いワンピースの裾をひるがえして踊り出す。


 片脚を軸にして、もう片方の脚を横に添え、くるりくるりと回っていた。


 何もない空間で、お姉さんの周りだけ、音がある。


 軽快にはねる脚、きれいに伸びた指先、うっとりとした微笑。


 ああ、そうか。


 楽しいとは、こういうこと。




 るうとるきは子供な人形。


 楽しいことしか知らない、幼い心。


 笑っていれば、それでいい。


 男の子がやって来た。


 るうとるきよりも小さな男の子。


 白い手足と細いからだ。めくった服の下に、たくさんの傷がある。


 痛いのだと、泣き出した。苦しいのだとうめいている。


 小さなからだに大きな傷跡。


 怖い、逃げ出したいと泣いている男の子。


 るうとるきは笑顔を消した。


 苦しくて、悲しいとは、こういうこと。




 るうとるきは馬鹿な人形。


 悲しい心にふたをした。


 大きな男の人が来て、るうとるきに失敗作だと怒鳴り出す。


 頭の中にわんわんと響く、乱暴な声。


 叩きつけるような痛い感情。


 これは、怒るということ。


 それは恐ろしくて、つらい、嫌なもの。




 るうとるきは醜い人形。


 すさんだ心に触れてしまった。


 知れば知るほど壊れて行く。


 やって来たのは、不思議な人。


 大きなおなかの女の人。


 おなかの中には赤ちゃんが入っている。


 どうしてそんなことろに入っているのか不思議だけれど、女の人は笑顔でおなかを優しくさする。


 早く会いたい。大事な大事な私の赤ちゃん。


 女の人はお母さん。


 家族を愛する、優しい優しい、幸せな人。


 きらきら輝くきれいな心。


 これが、愛情。これが幸せ。


 るうとるきは救われた。




 るうとるきは駄目な人形。


 あれからたくさんの心に触れた。


 けれども、理解できない心がある。


 るうとるきはできそこない。


 どうしてと博士は言う。


「寂しい心がわかりません」


「寂しい心がわかりません」


 それはね、と博士は笑った。


 るうにはるきが。


 るきにはるうがいるからだよ。


 るうとるきはいつも一緒。


 つないだその手を離してごらん。


「寂しい」


「寂しい」


 寂しいとは、こういうこと。


 とても悲しくて、つらいこと。




 るうとるきはたくさんの心を知った。


「これですばらしい楽園へ行けますか」


「これですばらしい楽園へ行けますか」


 真っ白な部屋を出て、光り輝くその場所へ。


 けれども、博士はうんと言わずに笑っていた。


 すばらしい場所とはどこだろう。


「みんながすばらしいと言うところです」


「みんながすばらしいと言うところです」


 そうかな、と博士は言った。


 るうとるきのすばらしい場所は、ずっとそこにあったんだよ。


 るうとるきはできそこない。


 博士の言葉がわからない。


 手が届く、握り返してくれる手があるところ。


 それがすばらしい場所だ。




 るうとるきは一対の人形。


 手を握り、確かめ合う。


 君のとなり。


 それがまほろば。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] リズム感というんでしょうか、がとても良く、テンポよく読めました。ただ、時折テンポの悪い部分があるので、こういう構成でいくなら、もっと突き詰めてやったらさらにいいものになったのではないかな、と…
[良い点] 同じような韻。同じような文体。同じような抑揚。 そんな段落の積み重ねが、作品にポエミィな柔らかさと透明感を作っていると思いました! [気になる点] 悪い点というか、これは僕自身もいつも…
[良い点] 同じ事しか言わない、るうとるきの台詞が凄く可愛かったです。 [一言] 泣きました。 童話初めてだとか……とてもお上手です! 人間の感情を知っていくお人形がとても純粋で可愛いです、救われ…
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