ココカラデラレナイ・・・
オンナ ガ クル・・・
8月5日 ①
21:00 現在、僕は通っている高校の外れにある旧校舎のトイレの中に居る
古びた個室トイレの中で携帯のメール機能を使って日記を書いている途中
何故こんな事になったかというと、恥ずかしい話”彼女”から
今夜の映画の約束をすっぽかされてしまって、時間を持て余していたのが発端
よく居眠りをして約束を破る奴で、今回も携帯すら通じないまま映画の時間が終了した
「ったく電源位入れとけよ」
ムシャクシャを吐き捨てるために悪ふざけがしたくなった
だから空いた時間を埋める暇つぶしにいわく付旧校舎にやってきた
夜でも蒸し暑いし、背筋を寒くするには丁度良い
ちなみに僕は昔から若干霊感を持っていたのでピントが合うと見えてしまう
だからと言って万が一遭遇しても怖い霊を見ることもあまり無いし、
それで霊障に遭った事も無い この学校の怪談話も大方予習はしているつもりだ
なので、実際に検証して本当に幽霊が出るのか?又、出るとしたらどんな幽霊なのか?
を説明できるようになれば”友達や”彼女”に対する話題づくりにもなると思った
でも、その軽薄さが間違いだったんだって今更ながらに思う
誰も居ない夜の旧校舎は静まり返って不気味だったけど、他人が居れば集中できないし
更に何かあった時に周りの人達が幽霊を見えないようじゃ、単なる足手まといになると思って
一人でバリケードをくぐることにした
大正の戦争時代から昭和中期まで使われて居たこの旧校舎は木造の
古い三階建てで構成されている
取り壊すにもお金がないらしく、新校舎を建てた今でも外れにそっと残してある様だ
戸は施錠されているので古い窓からこっそりと侵入して廊下に着く
『ギシィ、ギシィ』と歩く度に木のきしむ音が暗闇の奥までこだまする
こういう時、本来なら電気をつけて先の道順を確認出来れば嫌な音がしても何とも無いが
懐中電灯を使うと外を巡回している警備員に見つかってしまう可能性があるので
不気味だが一切の灯かり無しで探索をした
ー今トイレの外で物音がした気がするので念のため携帯での作業を一旦中止しよう
この先の異常事態は思い返すだけでもおっくうだが、一人で胸にしまっていても
辛いだけなので自分の気持ちを整理するためにも落ち着いたら日記は
この後も書き続けようと思うー
8月5日 ②
あれから何分歩いたんだろう
かれこれ三十分は旧校舎の中に居たかもしれない お陰で目も暗闇に慣れてくる
つい、気を抜いて帰りの道順を確認したときのことだった
『ギシィ、ギシィ・・』
僕は立ち止まっているのに、はるか奥の闇の中から誰かが歩くことで生じる木の
きしむ音がしたのだ
最初は幽霊よりも先に警備員を連想したんだっけ・・
もし、見つかったら不法侵入で退学にもなりかねない
だから、さり気なく少し開いていた戸の隙間から教室らしき部屋に入って
机の陰に隠れながら様子を見ていた
『ギシ、ギシ、ギシ・・・』
きしむ音は段々早く、大きくなってきたので、見つからないように息を殺す
すると足音が突然僕の居る部屋の前で止まった
”やばい!”と思って息を呑むが誰も入って来なかった
数十秒経っても入ってこないのでやり過ごせたと思い胸を下ろした時だった
『ギシギシギシギシギシギシギシギシ・・』
また、きしむ音 しかも今度の音は廊下からじゃない
僕の真後ろからする・・
本能的に危険察知をするために振り返ると白い着物にドス黒い液体
恐らく血を付けた髪の長い女が 窓の外にピッタリと張り付いている
肌の白さから見ても血は通っていないだろう
痩せ型の顔でこっちを見ながらその細い手でゆっくりと窓を開ける
僕は腰を抜かしてしまい声も出ない ただ、ただ、そいつが教室内に侵入してくる様を
見届けていた
女はヒキガエルの様な唸り声をあげながら這うように窓枠から
室内になだれ込み、こちらを見上げる
『ギシギシギシギシギシギシギシギシ・・』
このきしみ音は決して老朽化した木の音なんかじゃない
立とうとしても起き上がれずに張ってくる、目の前の女の関節の音である
「あああああああああああああああああっ!!」
僕は大声を上げて自分の正気を保ち、渾身の力で立ち上がると、
全速力で教室を出て廊下に逃げた
一目散に先の見えない廊下を走り続けると、後ろから自分以外の足音も聞こえてくる
後ろを振り返ると、さっきの女が犬の様な四速歩行で追いかけてきている
今は未だ距離を保っているがここは二階の端、一階の出口までは
だいぶ距離もあるのでいつかは追いつかれるだろう
途中に現れた階段を飛ぶ様にして降り、一階の窓を手当たり次第に割ろうと
殴ってみるがびくともしない
勿論、奴も物凄い速度で階段を降りてくると物理的にあり得ないスピードで
再び追いかけてくる
”このままじゃ、間に合わない”
そう思って、苦肉の策で目の前の女子トイレの戸を開けると一番奥の個室に入って
内側から鍵をかけた
全身から汗が噴出し、心臓も痛い だが、走った疲れよりも”見つかってしまうのか?”
という恐怖心に全身が脈打っている
『ガチャ・・・』
女子トイレの戸が開けられると少しずつ気配が近づいてくる・・・
「・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
『ドンドンドンドンドンドンドン・・』
自分の入っている個室の外側から物凄いノック音がするが
開けたら恐らく命は無いので黙って後ろの壁に寄りかかって身構える
数十秒の間、音は続いたがいきなりピタッと止んだ
・・・・・・・・
油断は出来ないが最悪の事態は免れたのかもしれない・・
幸いここは一階だし、トイレの窓からなら脱出可能なはず
女の足音が一切しなくなったのを確認してそっと戸の外側を見ようと
個室トイレのドアノブにそっと手をかざした時の事だった
「うう・・うう・・」
戸の外から先程の女よりはるかに小さい、幼女の鳴き声が聞こえた
”まだ、戸の外は危険か・・”
僕は冷静にこの学校の怪談話を思い出しながら個室戸の内側に立てこもった
ーさっきの物音が結局何だったのか不明だが
もしかしたらまた”カサカサ”の仕業かもしれない
もう、早くこの場所から出たい・・・
でも、最悪の場合を想定して書き残さなくては
その時のためにもう一回携帯のディスプレイに目を通す事にするー
8月5日 ③
この学校には怪談話がある ちなみにさっきの女は怪談話の通りだと”カサカサ”と
呼ばれる悪霊だ 何やら旧校舎時代にいじめに遭って自殺した女性の霊だとか
先生達から暴行を受けて埋められた女性の霊だとか内容は二転三転しているが
四つん這いになって動く姿はゴキブリやムカデなどを彷彿とさせる動きなので
その擬音から”カサカサ”と呼ばれている
まさか本当に出くわすとは思っても見なかった
だが、霊は一階の隅にある女子トイレの一番奥の個室部屋には入って来れない
という話がある 又 この旧校舎の霊は0:00になると消えてしまうらしい
次に現れるのは午前2:00時 つまり最悪の場合でも23:59分までこの場に留まり
0:00と共に校舎から脱出すれば安全に逃げ切れるという事
その理論や最初に言ったのは誰か?という事は一切の不明で、僕が入学する前から
有名な話だった だからその事を思い出してこの個室に逃げ込んだわけだ
現状況から察するに言い伝えは本当である この事は脱出できたら皆に言おうと思う
まずは、その前に助けが呼べるのであれば誰かを呼び出したい
戸の外ではまだ幼女のすすり泣く声が聞こえるがここは音が止むのを待っていても
拉致があかないので、取りあえず片っ端から電話を入れてやろうとディスプレイを開く
「あ、あれ?」
圏外なのである 別に電波の悪い場所でもないのに・・
推測だが今、ここは霊のせいで磁場が狂って電波もおかしく捩れてしまっている
焦っても仕方が無いのでこの結界の様な個室トイレの中で0:00まで待つことにした
真っ暗で狭苦しい空間、カビとアンモニアを混ぜた臭いに、生ぬるい夏の暑さと
トイレ独特の湿っぽさ 底なしの闇に見えるボットン式便器に木造式の戸
いかにも古風ないわく付きトイレに入ってしまったが、あれから何時間も経ち
この悪環境にも慣れてきた さすがに幼女の泣き声や時折聞こえるノック音には神経が磨り減るが
決して奴らはこの中に入ってこない
携帯の時計を見ればもう既に23:58分 何だかんだ言ってもゴールが見えれば少し希望も見えてくる
23:58分・・23:59・・秒数でいうとあと数十秒の所まで来ている
もうすぐ逃げ切れる・・もうすぐ・・これで・・・・!・・・・・・?
時計の様子がおかしい
23:59・・24:00・・と時を刻み続け、0:00の表記にならない
0時の表現が携帯会社によって違うのか?少なくても1:00時は全社共通の表現になるはずである
2:00までに出れば良いのだから、保険でもう一時間この場に留まってから出ようと思った
・・・・・・
「24:59・・もうすぐ脱出・・・・できっ・・・・・・・・・・ない?」
携帯のディスプレイは25:00時と見た事の無い時間に入ってしまっている
ここの連中はあくまでも0:00時はよこさない気なのか?
今は外の声も消えているし、我慢していた密室の息苦しさにも嫌気を感る
「いい加減出てぇな・・・あれ、開かない?」
ドアを押すが力を入れて押しても微動だにしない
体当たりしたり蹴り上げても駄目である
色々と試したが結局開かないまま時間は26:80分と意味不明な状態になっている
理解のできない環境に苛立ちは増すばかりだが、それでは奴らの思うツボかもしれないので
今一度冷静に考えたいと思う
此処の個室の内側は時間の流れがおかしい・・という事はもしかしたら物理的に説明の
つかない場所即ち”異次元空間”という可能性が出て来た
勿論僕はSFマニアでも無いし、出来れば時計の故障というオチであって欲しいとは
思っているが、奴らがこの中に入って来れないのはやはり”外と中”で次元が違うから
触れられないという線が妥当で・・それは逆に僕が戸を開けて外の世界に出られない
意味付けにもなる 困った・・一刻も早く新鮮な空気を吸いたい・・”彼女”に会いたい
- この 頃は気付いて いなかった ま だ この時の 方が幸せ
だったって事に もし ここか ら先の内容を見る方が
現れる事があ ったら、目 を
素向けないで ください
そこに書 かかれ ているこ とが
僕に 起きた 事実ですー
8月5日 ③
実際は8月6日でも、この空間では日付を越える事は無く8月5日のままである
だが、外は明るくなってきたので夜は明けたのだろう
恐らく一晩留守にしたことで家族から警察に捜索願が出されて居るはずである
見つかればめちゃくちゃ怒られるのだろうが
ここから出られるのなら安いもんである
・・・・・・・・
・・・・・・・・
何時間たっても変わらない空間 その中で新たな発見がある
お腹も空かないし、排泄も無い
この空間の中では現実の世界での時と刻み方が違うので極端な話
体の老化現象も異なるようだ
時計が51:70分を指している 多分昼過ぎあたりだと思う
そう言えば眠気も来ない・・ただひたすらこの場所に座り続ける状態に
精神がやられ始めた時の事
「!!っ」
彼女の声がする 僕の名前を大声で呼んでいる
「ここだぁっ!!ここに居る!助けてくれ」
だが僕の叫び声も虚しく、彼女は探し続けている様だ
「私、認めないんだから・・」
どうやら焦って泣きだしたのか、声がか細く震えている
「認めないよ・・貴方が死んだなんて認めないから」
「!?っ」
何を言っているんだ?僕はここに居る こうしてここから助けを求めているというのに・・
「姿が見えなくなって何年も経つからみんな諦めてるけどまだ、私は・・・」
おい、僕は昨日居なくなったのにもうそんなに経ったというのか?
「お願い出て来てよぉお、置いてかないで」
断末魔にも近い叫び声で”彼女”は泣き崩れるがもう、どうしようもない
あの日、自分は校舎の亡霊に呪い殺されてここのトイレの地縛霊なってしまったという事か?
「は、はは・・嘘だろ?」
そんなのやだ・・出たい・・ここから出たい・・
「おいっ俺はここに居る!!早く見つけて出してくれ」
こんな話は認められない また”彼女”に会いたい
だが”彼女”はその場に泣き崩れたまま動かない
「くそぉうっ、何故だ、何故旧校舎なんかに入ってしまったんだ!!」
悔やんでも、悔やみきれない 僕もその場にうずくまってしまった
それからしばらくしてから”彼女”は僕を見つけてくれないまま帰ってしまった
また、夜が来る・・・ヒグラシの鳴き声が夕日の朱色と共に聞こえる
この日が暮れたらまた幼女の泣き声へと変わるのだろう
ーもう・・日記を・・痛い・・・書く集中力も・・・痛い・・・無くなって・・・・きたので
これが
最後かもしれない・・ぅぅぅ・・・・・
ここま・・・で来たら・・痛い・・・・・包み隠さずこの場・・・所の秘密を
書こ・・うと思・・う
どうか・・この日記・・・ぁああ・・・・ぎぃぃいいい・・・を読んで下さっ
・・・・・た方が無事に読み終わりますように・・・
・・・また、なにかくる・・ー
8月5日 ④
結局66:00時になり、また室内は暗くなった
あの後誰も通らないまま一人で体育座りを何時間もしている
でもたった今、携帯の様子が変わった 微かに電波が・・入っている
そして急に着信音が鳴りだした
「はいっ」
「・・・ダレか・・ダレカ・・」
ノイズに混じって気味の悪い声が聞こえる
だが、今はそんな流暢な事は言ってられない
「もしもし?もしもし!?」
「おおう・・・き・・こえる・・か?」
電波が悪いだけで、ちゃんと人の声がする これは最後のチャンスかもしれない
「助けてください。閉じ込められているんです!」
「きみは・・生きているの・・だね・・?」
相手側の声にも希望が入り混じっている
「此処から出られればそれもわかると思うのですが・・」
「待て、場所の逆探知をしてすぐ向かう」
逆探知?一体誰だ?探偵?
「すいませんが貴方は?」
「こちら・・大・・日本・・帝・・・ぐ・・八・・小隊・・」
ノイズが酷くて聞き取れなかった
「国内・・が・・突如・・謎の進撃・・によ・・火の海・・核へい・・
の・・おそれ・・・至急・・・」
電話が途絶えた 内容から察するに今の人は自衛隊系統の人で
国内が謎の奇襲を受けていることになる
それが本当だとすれば皆今頃、血眼になってシェルターなどに逃げているはず
では、何故あそこに”彼女”が?
最後に探しに来てくれたのか?
「ぜんめつ・・区・・生存者・・なし・・・・一人・・電話が・・つながって・・」
電話からまた微かに聞こえる
「あそこは・・・熱が酷く・・もう・・誰も・・いられな・・・」
・・・生存者ゼロ・・熱が酷く誰も居られない状況・・・
じゃあ、さっき僕を探していた”彼女は”?一体、誰・・・?
そうだ、良く考えればこの中は異空間だから外の爆撃や熱も無効化出来るはずだ・・
だとすると・・・死んだのは、俺じゃなくて・・・
『ドンドンドン!』
久しぶりに戸をノックする音が聞こえる
「おにいちゃん・・・」
さっきの泣いていた幼女の声だ 返事をしたら襲われるかもしれない
「・・・・・」
「・・・・ムダだよ・・」
この子は全てを見透かしている ただの女の子じゃない
「ココハネ”賽の果て”ってイウノ ワタシはこのバショにずっとイル
お兄ちゃんは ハイッテキちゃったんだね」
「入って来たって?」
自然と答えてしまった、どうせ助かる道は閉ざされているのだ 聞くだけ聞こう
「そこはね・・トイレなんかじゃないよ 時間のおへや ベツノセカイ」
読みは当たっている、やはり異次元空間だ でも当てた所で仕方がない
「どうすれば出られる?」
「・・もうエイエンにデラレナイ・・ミライと過去が行ったり来たり」
未来?過去?・・・あの古めかしいノイズの言葉を繋ぎ合わせれば大日本帝国小隊・・・
・・まさか?あれはB-29が飛んでいた頃の戦争時代の空軍か?
じゃあさっきの”彼女”は?
「貴方ノ彼女はイナイ アレ 映画のもっとマエ死んでる」
・・?
あっちが死に気づいてない? 今まで霊感で死人と交際していた?
本当だとすれば、この中は起こる時代や順番がバラバラで
時間軸がめちゃくちゃになっている
「だから代わりに泣いてあげるの フフフ・・フフ・・」
女の子のすすり泣く声はやがて高らかな笑い声へと変貌した
「待てよ 旧校舎の”カサカサ”は何なんだ? お前達の仲間か?」
「あの女性はまだ イキテイマス この場所がまだ村だったコロ
最初に時間にノマレタの 途中で放り出されたけど
死ネナイめちゃくちゃなカラダにナッチャッた」
きっと時間軸のズレに飲まれて人間という存在から外れてしまったんだ
ああなる位なら、まだ呪い殺された方がマシだ・・・
・・いや、待て・・・・まさか俺も?
「おい、早くここから出してくれっ!」
笑う女の子の笑い声が、モザイク音声の様に重く捻じれていく
「・・・・サヨナラ」
それから戸の外側から一切の音が消えた
8月5日 ⑥
何度体当たりをしても開かないので、ドアの上を登ろうとするが腕力が足りずズレ落ちる
8月5日 ⑮
登ろうとしては失敗、何度も手が壁にこすれ、だんだん手が痛くなってきた
8月 5日 ③⑥
爪が取れてドアの内側が血だらけだ・・・痛い
8月 5・・日 ・・④⑨
痛い・・・指も痛い・・・関節もきしんできた
8が つ5 日 ⑥②
体がぎしぎし鳴る・・・痛い・・・
8が 5 に ち
イタイ・・・イタイ・・・・・い た・・・
は 月 5 に ち
い・・・・た・・・・・・・・・・い で・・・たい
8 が つ 05 にち 2 3 00 :7200ふ ん
で・・・・ん わ・・・・ で ん ち
きれ・・・・ る いたい いたい
コ コ から で ら れ・・・ な
あ ぁぁ っぁ ぁ あ ああ
ん j b kj ・・・・・
び
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・
・
『この電話は間もなくバッテリーが切れます、直ちに充電を行ってください』
アナタ ノ ウシロ・・・