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超短編小説Ⅱ Combination

作者: 永山あゆむ

(このままではあいつらに……)

 と、岩国総合高校二年―小倉優太おぐらゆうたは思った。

 今日は、山口県岩国市で有名な錦帯橋が見渡せる運動施設―岩国運動公園で山口県全体の高校生が集まった、ソフトテニス個人戦の秋季大会の日である。

 個人戦でベスト三十二まで勝ち進んだ優太は、大会前日の昨日、「引越しをするんだ」と、いきなり衝撃的な発言をしたパートナー―同級生の一ノ瀬翔いちのせ しょうを探していた。

 そう。二人でソフトテニスをするのが、今日で最後かもしれないのだ。

 前日に言われたことにどうしても納得できなかった優太は、ここまで意地を張り続け、翔に対してずっと無言を貫いていた。

 しかし、次のベスト十六をかけた試合では、いつも負けているペアとの試合だ。

 このままだと負けてしまう、と思った優太は、翔と話がしたくてしょうがなかった。

(あ、いた!)

 他校の試合を黙って見ている翔を、優太はようやく発見した。

「翔!」

 優太は、パートナーに元気よく声をかける。

「優太……」

 彼の方へと顔を振り向く翔。

 優太は翔の隣に座る。

「試合、見ていたんだな」

「ああ……」

 もの静かな翔に、優太は若干とまどう。普段はこういうキャラではないのに、と彼は思う。

「あのさ……すまなかったな。……ずっと、意地を張ってた」

 さりげなく謝る優太。すると翔も、

「俺も、悪かった。……ずっと隠したままで」

 と謝る。

「いいさ。考えてみれば、ダチと別れると思うと……つらくて、なかなか言えねぇよな。おれも、一年前のあのときを思い出すよ……言うのが、つらかったからな」

「あのときの事、か。なつかしいな」

 優太は、ああ、と頷き、空を見上げながら答える。

「……忘れもしねぇ。おまえのおかげでおれは、立ち直ることができたんだから―」





 ―一年前。

「あれ? 小倉?」

 しぶしぶと岩国総合高校にあるテニスコートへと歩いてくる優太を、先に入部していた翔が声をかける。

 優太は顔を上げ、翔の方へと振り向く。

「おまえは、川下中の……一ノ瀬?」

「ああ! 久しぶりだな!」

 翔はコートから出て、優太の方へと歩み寄る。

「……ここに入学していたんだな」

「おまえこそ、ここで再会できるなんて思わなかったよ」

 優太は中学時代―岩国市立平田中学校在学中、岩国市立川下中学校との練習試合で、共通の友達を通じて翔と知り合った。互角の実力であった二人は、学校の枠を超えて、時には友人、時にはライバルとして、岩国運動公園の壁打ちテニスコートで高め合っていた。

 しかし、ある日を境に、優太はコートに顔を出さなくなってしまったのだった。

「コートに顔を出さなくなったから心配してたけど、元気そうで安心したよ。まっ、これからはよろしく頼むぜ!」

「……ああ、よろしくな」

 優太は静かに部室へと向かった。背を丸めたその姿は、意気消沈しているように見えた。

(あんな奴だったけ?)

 いつも明るかったのに、と不思議に思いながら、翔は彼を見続けた―。




 高校で初めての夏休みに入り、練習も日に日に厳しくなっていったが、翔はそれに耐え、先輩と楽しみながら活動していた。

 しかし、優太は先輩には明るい表情で受け応えるものの、暗い表情のままだった。

そんな彼を翔は常に心配し、時には疑問を感じていた。何に怖がっているのか、と。

 その煮え切らない気持ちが、ライバル校との練習試合で明らかになる。

 翔は優太とペアを組み、試合に挑んだのだが、優太がここぞというところでミスを連発し、全試合敗れてしまったのである。

「……ごめん」

 と、終了後に暗い表情で謝る優太。

 彼は体を震わせながら、一人、部室へと向かった。

(一体、あいつに何があったんだ……?)

 中学で一緒に練習をしたときのあいつとは違う。翔は、そんな彼の気持ちを知りたくてしょうがなかった。友人として……。




 練習試合が終わり、真っ赤な夕日が沈む中、優太は落ち込んだ表情で、駐輪場へと向かった。するとそこには、

「よう!」

 翔が待っていた。一番見たくない人物が。

「……」

 彼に受け答えせず、優太は自転車の鍵をあける。

「なあ、一緒に帰らないか?」

 今日のことは気にしていない、と態度で示すような明るい表情で、翔は優太を誘う。

 しかし、

「……一人にしてくれ」

 と、優太は翔の誘いを拒絶する。

 一人で、『何か』をいかにも抱え込んでいるその姿に、翔は歯をキリキリさせながら、優太の右肩を強く掴む。

「なんだよ! 離せよ!」

 と、抵抗する優太。しかし、翔は離さず、

「……お前、一体、何があったんだよ!?」

 と、必死に問い詰める。

 優太は、翔を見つめ、固まってしまう。

 翔は、自分の心のままに、

「明らかに一緒に練習した頃のお前ではないじゃないか! そんな小倉を、俺は黙って見てらんねえんだよ!」

 と、友達に素直な気持ちを吐きだす。

 優太も体を震わせ、やけくそになって、

「もう、放っておいてくれよ!! 一人でいたいんだよ!!」

 と、右肩にのせている翔の手を払い、正面から今の自分の気持ちを露わにする。

「……どうせ、おれのミスした箇所を責めるんだろう!?」

 優太の冷たい言葉にムッとなった翔は、優太の胸倉をギュッ、と強く掴み、声を張って、

「ふざけるな! 俺たちは友達だろ! 友達が友達を傷つけるような真似、俺は絶対にしない!」

「い、一ノ瀬……」

 真っ直ぐな瞳で見つめる彼に―彼の強さに圧倒したのか、ストン、と優太はその場で座ってしまった。

「……話してみろよ。何も言わないからよ」

 翔は、座っている優太を優しく見つめる。その瞳に嘘という文字はなかった。

 それを信じ、優太は翔に語った。

 あのときの事―中学時代、春の大会で自分のミスで中国大会出場を逃したときのことを。

 メンバーにひどく責められ、それが恐怖心となり、今日まで至ったことを―。




 ―ハァ、ハァ、と自分のトラウマを吐き出した優太。

 つらいことを語った優太の気持ちを、翔は真摯に受けとめる。そして、

「だったら……」

「え?」と、翔を見上げる優太。

「だったら……俺が克服させてやる! 俺は無責任に片づける奴らとは違う! 共に支え、思いやるのが本当の友達だ! 親友(おまえ)のために……俺が行動で示してやる!!」

 翔の決意表明に、優太は衝撃が走った―。





「―その言葉がきっかけで、おれはおまえを信じ、立ち直ることができた」

 と、一年前の出来事を隣で振り返る優太。そして、

「なのにずるいよなぁ~。引っ越すことを自分は言わないなんて」

 と、翔を茶化す。

「悪かったって! 何度も言わせるなよ~」

 笑いながら翔は、優太の右肩を軽く押す。

「……ったく、お前って奴は……なあ、優太。お前、信じるか? 離れていても、つながりは、消えないことを」

 翔は不安を抱きながら、優太に訊ねる。

 それを払拭するかのように、優太は立ちあがり、自信を持って彼に、

「信じるに決まっているだろ! 消えないさ。共に頑張ってきた俺たちの―固い『絆』はよ!」

 と、ニッと微笑む。

 そんな彼を見て、

「そうだよな。信じないと……嘘になるよな」

 と、翔も優太に笑みを浮かべる。

「ああ! おれたちの……悔いのない最後のソフトテニスを、試合で見せてやろうぜ!」

 二人はお互いの拳をコツン、と叩いた。




 アナウンスでベスト十六をかけた試合の始まりが告げられる。

 二人はこの高き壁を乗り越えて、証明することを誓う。




 真のコンビネーションは技術ではなく、『絆』から生まれるものだということを―。


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