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【百合短編】来年の七夕祭りも、貴女と ◇◇◇ 三年間の『彼氏役』は、今年で終わり。来年からは――

作者:
掲載日:2026/07/07

すみません、連載の設定で出しちゃってたので短編で出し直しました(汗)




「来年からは、どうしようか?」


 七海(ななみ)の言葉は、風に揺れる短冊のさらさらという音に溶けていった。


「えっ?」


 ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。

 それが彼女に聞こえてしまわないように祈りながら、私は平静を装って振り返った。

 からん、と下駄が軽やかに鳴る。


「来年の今ごろは大学生じゃん。そろそろ天音(あまね)の彼氏役も、卒業かなって」


 地元から三駅先の七夕祭り。「カップル割引とかあって、色々お得だから」と、そんな言い訳で親友に男装をさせて誘ったのは、私だ。

 七海——好きな人と、七夕祭りデートをしたいがために。


「そう、だよね……。三年も彼氏役に付き合ってくれて、ありがとう」

「役……ね。いいよ、私も楽しかったし」


 ショートヘアをかきあげ、七海がにかっと笑う。彼氏役が板につくほど格好いい笑顔。

 けれど、夏祭りの灯りに照らされた横顔は、息を呑むほど美人で。

 そんなギャップに、私は何度だって恋に落ちてしまう。

 この三年間、心臓は少しも慣れてくれなかった。


 「カップルに見えないといけないから」なんて言いながら、腕を組んだり、ジュースをシェアしたり。

 全部、私がそうしたいだけだった。

 七海は疑う様子もなく、「恋人らしくていいね」なんて照れ笑いしていた。


 七海とは違う大学に行くことになっている。潮時かな、とは思っていた。


 視界の隅で、さっき私が隠すように吊るした短冊が揺れる。

 『来年も好きな人と七夕祭りに来れますように』という願い。

 ただの、私の願望だ。


「来年からは、来れないかもね」

「それはどうして?」

「だって、七海に……彼氏、とかできるかもしれないし」


 口に出すと、喉の奥からヒュッと変な音が出てきそうだった。

 知らない誰かと笑い合う七海。想像すると、胃の奥でさっき食べた綿飴(わたあめ)が暴れている気がした。


「天音は、恋人……欲しいの?」

「えっ!? わ、私は、別に……」

「そっか。私は、欲しいよ」


 初夏の湿った空気が肌を撫でた。

 やめて、その先を言わないで。

 私の願いは届かず、残酷にも言葉は続けられる。


「……恋人」

「そう、なの」


 彼氏、欲しいんだ。

 ——私は、隣にいられないんだ。


 思わず俯く私の頬に、七海のすらりとした指がそっと触れる。

 促されるように顔を上げれば、雲の切れ間に天の川が覗いていて。

 けれど私の目を奪ったのは、すぐ目の前で揺れる彼女の瞳だった。


「ね、そろそろ『本物』にならない?」

「へ?」

「本物の、恋人」


 七海はそう言って、私の戸惑いを溶かすように、優しい視線をすうっと細めた。


「恋人になってよ、天音。それで、来年の七夕祭りは……本当のカップルとして、デートしよう」

「……うそ」

「本気、だよ」


 まだ混乱している私に、七海はそっと顔を寄せた。

 長い睫毛がゆっくり伏せられる。


「ねぇ。嫌なら、拒否して」

「……っ」


 さっき一緒に食べたかき氷の、甘い香りがふわりと広がる。

 きつく締められた帯の下で、早鐘が鳴り響いている。

 吐息が混ざり合うほどの距離になったとき、私は意を決して、きゅっと瞳を閉じた。


 真っ暗な視界の中で、熱くて柔らかい唇が、そっと重なる。

 その瞬間、ドンッと夜空に大きな花火が弾ける音が響き、閉じた瞼の裏を鮮やかな光が染め上げた。


 来年の七夕祭りは、彼氏役なんて要らない。

 ——短冊に書いた願いは、もう叶ってしまったのだから。






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