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通信制の書店員さん(16歳)

作者: 柳ミル
掲載日:2026/05/25

通信制の書店員さん(16歳)×全日制だけど『作家』という危うい道に進みたい主人公(16歳)

夜の外、田舎だからか、まるで異世界に紛れ込んだみたいだ。


明かりは街灯と、月だけ。

KFC、ミスド、そんなチェーン店はこの市にはない。


たまに、本当にたまに車が通りすぎる。


普段はきちんと働いている信号機も、今は点滅している。


人は全くいない。


僕は不審者に遭わないかハラハラしながら、1人歩く。夜の外なんて、滅多に出ないから、余計ハラハラする。


鞄には原稿用紙、それとメモ帳とボールペンを入れ、「今日こそは」と思いながら、「あの子」のいる所へ向かう。もちろん歩いて。


閉店間際の本屋、そこに「あの子」がいるはずだから。




「らっしゃいませー。

て、お前かよ、挨拶して損したわ」

「いやいや、一応客なんだから」


書店員と客。

互いにタメ口、同じ16歳だから。


通信制の高校に通う少女と、全日制の高校に通う僕。

この本屋がなかったら出会わなかっただろう。

通信制なんて、僕には遠い存在。そして、危なさそうな存在でもある。


「今日は遅かったね、どうしたん? デート?」

会計の所に立つ少女、ユズさん。

台に肘を乗せ、だるそうに聞いてくる。

「全日制はいいよなー、デートなんてできて。週一の登校だから私らは恋なんて、とてもとても」

「デートじゃないよ」

「じゃあ何、何か買い忘れ?」

ユズさんはキョロキョロと周りを見渡す。

「こんな時間だから客なんてオマエだけだよ、いっぱい買って私を喜ばせて」


閉店は22時。

今は21時。

書店員が数名、客は僕だけ。

僕とユズさんの仲が良いことを知っているからだろう、ユズさんに注意する気配は全くない。


「そりゃ、後で買うよ。

けど、今日こそは感想をもらいに来た」

と言って、僕は鞄から原稿用紙を取り出す。


「感想? 何の?」

「とぼけないでよ、そういう約束じゃないか」

「ハア、約束で。結婚の?」

「違うよ、僕が作品を書く。本にいつも触れてるユズさんが感想をくれる。そういう約束じゃないか」

苦笑いしながら僕は言う。


『キミ、若いね。実は作家志望だったりする?』

読書の若者離れ。客は大人ばかり、高校生の客は僕くらい。


日常会話でなんとなく聞かれ、この関係ははじまった。


もしかしたら若い客には全員聞いているのかもしれないけど、今はそれはいい。


「賞が近いんだから、今日こそは感想ちょうだい」

「作家、作家ね。全日制にいるんだから、そのまま安全な道にいればいいんじゃないの? 大学とか、会社員とかさ、適当に子作りして、適当に結婚して。

通信制だったらプロゴルファー目指しながら通う奴とか、水商売している奴とか、普通にいるけどさ」

「僕は作家になりたいの、本が好きだから」

「私は作家が好きだな、知能があるから」

「とにかく、感想。

後でいいよ、今は仕事中だし」

「いや、今でいいよ。客は多分お前が最後だから。来てもそんとき働けばいいし」


ユズさんは原稿用紙を受け取り、そのまま読みはじめる。


…。


うん、やっぱり書いた作品を読まれのって、ドキドキする。

間違った所はないか、文章を読まれながら何て思われてるか。


ユズさんは真剣に読む。

いつもはだるそうな少女が真面目な顔をする、ギャップが、いやいや、何を考えているんだ僕は。




そして、


原稿用紙をトントンとしながら、


「このままお持ち帰りさせて頂きます」

「感想ちょうだい? 感想、ねえ?」

ふざけて頭を下げるユズさんに、僕はやっぱり苦笑いしながら返す。


「んー、感想?」

「うん」

「所で話変わるけどさ」

「変えないで?」

「話変えるけどさ。

この後ヒマ?」

変えないでよ…。

「この後?」

「22時からはヒマですか?」

「いや…、今日土曜だし、別に明日になるまでに帰れるなら」

「そっかー、お楽しみはなしかー」

「何させる気?」


「ウチ来ない? 一人暮らしなんだ」

ニヤニヤ、と笑いかけてくる。

「う、ウチ?」

一人暮らし?


…。


いや、それは不味くないか?

通信制だしとか、そういうのは失礼だから、考えたくないけど、さ。


16歳、通信制の高校に通いながら本屋で働く、そんな子に、いや、だから失礼だよ。


「おや? お楽しみを期待してるようだね? 全日制の安全クン」

「ち」

「いいんだよ? 怖そうな通信制に期待しても。私も別にさ」

「ちが、ちがうって」


ユズさんは息を吐き、


「真面目な話するとさ、明日日曜日で学校だから、今日ウチ来て感想もらっていって欲しいんだ。

今までの感想、全部マジメにメモしてるから」

「…!?」

「いや、ビックリすんなよ」

「メ、メモしてたんだ…」

「なんだ、ヒイてんのか?

じゃ、いっす、来なくていいっす、ずっと安全な所にいて下さい、意気地無し」

「いく、行くよっ」

ブンブン、と首を僕は縦に振る。


そして、閉店後、夜の田舎の道を2人きりで歩きながら、僕は思った。


いや…夜遅くに一人暮らししてる女の子の所に行くのって、普通にヤバくないか?

やましいことはしないけどさ。


「やらしー」

「な、何も思ってないって」

「本当にー?

それはそれで嫌だな」

「メモもらったらすぐ帰るからねっ」

「ちぇ」


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