通信制の書店員さん(16歳)
通信制の書店員さん(16歳)×全日制だけど『作家』という危うい道に進みたい主人公(16歳)
夜の外、田舎だからか、まるで異世界に紛れ込んだみたいだ。
明かりは街灯と、月だけ。
KFC、ミスド、そんなチェーン店はこの市にはない。
たまに、本当にたまに車が通りすぎる。
普段はきちんと働いている信号機も、今は点滅している。
人は全くいない。
僕は不審者に遭わないかハラハラしながら、1人歩く。夜の外なんて、滅多に出ないから、余計ハラハラする。
鞄には原稿用紙、それとメモ帳とボールペンを入れ、「今日こそは」と思いながら、「あの子」のいる所へ向かう。もちろん歩いて。
閉店間際の本屋、そこに「あの子」がいるはずだから。
「らっしゃいませー。
て、お前かよ、挨拶して損したわ」
「いやいや、一応客なんだから」
書店員と客。
互いにタメ口、同じ16歳だから。
通信制の高校に通う少女と、全日制の高校に通う僕。
この本屋がなかったら出会わなかっただろう。
通信制なんて、僕には遠い存在。そして、危なさそうな存在でもある。
「今日は遅かったね、どうしたん? デート?」
会計の所に立つ少女、ユズさん。
台に肘を乗せ、だるそうに聞いてくる。
「全日制はいいよなー、デートなんてできて。週一の登校だから私らは恋なんて、とてもとても」
「デートじゃないよ」
「じゃあ何、何か買い忘れ?」
ユズさんはキョロキョロと周りを見渡す。
「こんな時間だから客なんてオマエだけだよ、いっぱい買って私を喜ばせて」
閉店は22時。
今は21時。
書店員が数名、客は僕だけ。
僕とユズさんの仲が良いことを知っているからだろう、ユズさんに注意する気配は全くない。
「そりゃ、後で買うよ。
けど、今日こそは感想をもらいに来た」
と言って、僕は鞄から原稿用紙を取り出す。
「感想? 何の?」
「とぼけないでよ、そういう約束じゃないか」
「ハア、約束で。結婚の?」
「違うよ、僕が作品を書く。本にいつも触れてるユズさんが感想をくれる。そういう約束じゃないか」
苦笑いしながら僕は言う。
『キミ、若いね。実は作家志望だったりする?』
読書の若者離れ。客は大人ばかり、高校生の客は僕くらい。
日常会話でなんとなく聞かれ、この関係ははじまった。
もしかしたら若い客には全員聞いているのかもしれないけど、今はそれはいい。
「賞が近いんだから、今日こそは感想ちょうだい」
「作家、作家ね。全日制にいるんだから、そのまま安全な道にいればいいんじゃないの? 大学とか、会社員とかさ、適当に子作りして、適当に結婚して。
通信制だったらプロゴルファー目指しながら通う奴とか、水商売している奴とか、普通にいるけどさ」
「僕は作家になりたいの、本が好きだから」
「私は作家が好きだな、知能があるから」
「とにかく、感想。
後でいいよ、今は仕事中だし」
「いや、今でいいよ。客は多分お前が最後だから。来てもそんとき働けばいいし」
ユズさんは原稿用紙を受け取り、そのまま読みはじめる。
…。
うん、やっぱり書いた作品を読まれのって、ドキドキする。
間違った所はないか、文章を読まれながら何て思われてるか。
ユズさんは真剣に読む。
いつもはだるそうな少女が真面目な顔をする、ギャップが、いやいや、何を考えているんだ僕は。
そして、
原稿用紙をトントンとしながら、
「このままお持ち帰りさせて頂きます」
「感想ちょうだい? 感想、ねえ?」
ふざけて頭を下げるユズさんに、僕はやっぱり苦笑いしながら返す。
「んー、感想?」
「うん」
「所で話変わるけどさ」
「変えないで?」
「話変えるけどさ。
この後ヒマ?」
変えないでよ…。
「この後?」
「22時からはヒマですか?」
「いや…、今日土曜だし、別に明日になるまでに帰れるなら」
「そっかー、お楽しみはなしかー」
「何させる気?」
「ウチ来ない? 一人暮らしなんだ」
ニヤニヤ、と笑いかけてくる。
「う、ウチ?」
一人暮らし?
…。
いや、それは不味くないか?
通信制だしとか、そういうのは失礼だから、考えたくないけど、さ。
16歳、通信制の高校に通いながら本屋で働く、そんな子に、いや、だから失礼だよ。
「おや? お楽しみを期待してるようだね? 全日制の安全クン」
「ち」
「いいんだよ? 怖そうな通信制に期待しても。私も別にさ」
「ちが、ちがうって」
ユズさんは息を吐き、
「真面目な話するとさ、明日日曜日で学校だから、今日ウチ来て感想もらっていって欲しいんだ。
今までの感想、全部マジメにメモしてるから」
「…!?」
「いや、ビックリすんなよ」
「メ、メモしてたんだ…」
「なんだ、ヒイてんのか?
じゃ、いっす、来なくていいっす、ずっと安全な所にいて下さい、意気地無し」
「いく、行くよっ」
ブンブン、と首を僕は縦に振る。
そして、閉店後、夜の田舎の道を2人きりで歩きながら、僕は思った。
いや…夜遅くに一人暮らししてる女の子の所に行くのって、普通にヤバくないか?
やましいことはしないけどさ。
「やらしー」
「な、何も思ってないって」
「本当にー?
それはそれで嫌だな」
「メモもらったらすぐ帰るからねっ」
「ちぇ」




