振り返らない夜
掲載日:2026/06/07
少し遅い夜。
帰り道に見慣れない淡いネオンの店。
疲れていたはずなのに、つい足が向かう。
一杯だけ。
バーテンダーが振る、カシャカシャとした音以外は何もない。
こじんまりとした席に、客は二人。
静かすぎて、声を掛けにくい。
コースターを置いたバーテンダーと、目があう。
ほっとして、小声で注文する。
カクテルが届き、一口味わう。
ふと、コースターに目が留まる。
文字をぼんやりと読む。
気になって裏面を見るが、何も書かれていない。
首を傾げつつ、会計を済ませる。
「すみません」
帰り道、不意に後ろから声をかけられる。
知らない声。
振り向こうとした時に、コースターの文字が思い浮かんだ。
『後ろを見ないでください』
振り返らず、早足で帰る。
帰ったら少し安心して、そのまま眠った。
翌朝。
昨夜駅前で起きた事件について、ニュースが流れていた。
淡い紫のネオンの店は、見つけられなかった。




