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エピローグ 音のない世界
夜が明けた。
雨は止み、濡れた草の上に、朝の光が広がっていく。
コテージの屋根から雫が落ち、土の匂いが静かに立ち上った。
ユナはデッキに出て、スノークイーンの茂みを見つめた。
季節外れに、ひと枝だけ白い花が残っている。
風が頬を撫でた。
どこかで波が砕ける音がする。
彼女はゆっくりと目を閉じ、口を開いた。
声を出すのは、久しぶりだった。
「風が言葉を運ぶなら、あなたの声は――」
そこまで言って、ユナは笑った。
涙が頬を伝って落ちる。
> 「ノイズ混じりの潮風の形。」
その詩を、彼と一緒に作った。
もう返事はないけれど、
声を出すたびに、どこかでSailが聞いてくれている気がした。
風が吹き抜ける。
波音が寄せては返す。
ユナの声だけが、世界に残る最後の“ノイズ”だった。
(完)




