結ばれない二人
その人はいつも一人でした。
過去に深い傷を負ったのだと聞きます。
彼は決して語らなかったのでその傷が何であるのかは誰も知りません。
ただ、傷ついただけ強く優しくなれるなんて馬鹿げた話を体現するように、彼は誰よりも強く優しい人でした。
そんな彼だからこそ、男女問わずに好かれていました。
女性はもちろん、時には男性にも告白をされたとも聞きます。
しかし、彼はいつもこう言って断ってしまいます。
「ごめん。誰とも付き合う気はない」
何故と問えば彼はいつも一言返します。
「俺と同じくらい傷ついた人じゃなきゃ、付き合う気にはなれない」
こんな言葉を言われたらほとんどの人が何も言えなくなります。
何があったかを聞きたくとも聞けなくなります。
だって、告白をするくらいに彼のことを愛しているのですから、彼がそのことを話したくないのなんて分かりきっているのだから。
そして。
私も彼に告白をした一人です。
「ごめん。誰とも付き合う気はない」
予想通りの言葉。
私は少しだけ考えた後、自分の身体を晒しました。
数え切れないほどの傷跡は私の過去を語らずとも想起させてくれます。
しかし、彼は無言で私に服を着せました。
きっと、こんな事は今まで数え切れないほどあったのだろな、と私は思いました。
だけど、私は怯みません。
「私の傷は浅いですか」
思えば酷い問いです。
彼はため息をつきました。
「傷が少なすぎる」
きっと、私を追い払うための一言だったのでしょう。
しかし、私はその場を離れずに言いました。
「今、傷が一つ増えました」
彼は虚を突かれた表情でこちらを見ます。
「あなたと一緒にいれば傷がまだまだ増えそうですね」
怒られるかな? と思いました。
ですが、見せてくれたのは。
「なんだそれ」
子供のような笑顔でした。
――結局。
私は生涯をかけてあなたと結ばれることはありませんでした。
ですが、今わの際、すっかりと年老いた私の下にあなたはやってきて言いました。
「ありがとう。私もすぐに逝く――だから、待っていてほしい」
どうやら大切な人になれたようです。
果たして死後の世界はあるのか、それは分かりません。
もしあるならばまだまだ傷は増えそうですね。
きっと、いずれあなたが認めてくれるくらいに。