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『忘却の都市』はじまり

「本日から都市警備隊に配属されました、進藤夏希です! よ、よろしくお願いします!」


私は黒い制服に身を包み、並ぶ大人たちの前で挨拶した。

声が少し震えていた気がする。

でも、その場にいた隊員たちから拍手が起こった瞬間—— 少しだけ、胸の奥が温かくなった。


城戸隊長は皆に向かって話し始める。

「本日ここに集まってもらったのは、私のわがままだ。みな忙しいところ、すまない。中には見たことがある隊員もいると思うが—— 本日から、こちらの進藤夏希君が、都市警備隊の一員となる。皆、よろしく頼む。」

隊員たちはそれぞれ頷きながら、私を見てくれる。

表情は人それぞれだけど、優しくて、あたたかい。

だけど——

……ただ、一人を除いて。


「城戸……本気なのか?」

鋭い声が響く。

声の主は、無表情でこちらを見ていたひとりの隊員。

その目は冷たくて、まるで私を試しているみたいだった。

「都市の適性検査のシステムに文句を言うつもりはない。これまでの状況から見ても、間違ってはいない。だが、さすがに今回は無謀ではないか?」


城戸隊長は、その男に静かに問いかける。

「それはどういう意味かな、小林君?」

小林、と呼ばれたその人は、少しだけ声を低くして続けた。

「確かにこの都市では、仕事を始めるのに年齢の制限はない。本人の意思があれば、何歳からでも働くことは可能だ。 ……だが、この仕事は普通とは違う。例のデバイスがあれば、たいがいは問題ないだろう。それでも、危険がゼロというわけじゃない。」

そう言って、小林さんはこちらを見た。

たぶん話の流れから、心配してくれてるんだろうけど、どう見ても睨まれてるようにしか見えない。


城戸隊長も、少し黙って考えていた。

それから、間を置いて答える。

「ふむ……正直なところ、私もその点は気になっていた。そこで、提案なんだが——指導員をつけるのはどうだろうか。」

隊員たちがざわつく。

「指導員?」という顔で、みんなが城戸隊長を見ている。


皆の疑問を代表するように小林さんが、代表して尋ねる。

「……指導員とは、なんだ?」

城戸隊長は軽く頷いて説明する。

「これまで都市警備隊では、警備隊条項とデバイスの使い方だけ教えた後、基本は単独でエリア対応をしてきた。ただ、進藤君が入ってくれたことで管轄エリアに少し余裕が出きそうなんだ。だから、今後入る隊員については、指導員とペアで行動してもらい、より実践的な形で仕事を覚えてもらう方針にしたいと思っている。」

そして、私に視線を向けた。

「先ほど、小林君からも指摘があった通り—— 夏希君はまだ若い。 誰かがそばで教えてあげてほしい。その役目を……小林副隊長。君にお願いしたい。」


その瞬間、空気がピタリと止まった。

全員が、小林さんを見ている。

「……俺が、指導員だと?」

私は、見てしまった。

小林さんの顔が、あきらかに嫌そうだったことを。

目に光がない。眉間はさらに深くなってる。

あれ、もしかして私ってめちゃくちゃ嫌われてる……?


城戸隊長は、その様子を笑いながら受け止めた。

「そう、嫌そうな顔をするな。小林副隊長にお願いしたい。君が最も適任だ。」

小林さんは食い下がる。

「林の方が適任では? これまでも新人の育成は、ほぼ全て林がやっていたはずだ。」

林さんは肩をすくめて、あっさり返す。

「だからですよ。 今の隊員たちには、まだまだ教えないといけないことがたくさんあります。 小林副隊長が代わりにやってくれるなら、喜んで交代しますけど。」

そう言って、にやりと笑う。その笑顔が、なんかすごく楽しそうだった。


小林さんは、城戸隊長と林さん、それから私を順番に見て、最後には静かにため息をついた。


「……どうなっても知らんぞ……」


その日から、私は小林副隊長と行動をともにすることになった。


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