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ep 7

彼は深く紫煙を吐き出し、その鋭い瞳で結の瞳を射抜くように見つめた。その視線は、いかなる嘘も見逃さぬという強い意志を宿している。

「フーッ……結。正直に話せ。何故、俺をそこまでして見に来た。お前は、一体何がしたいんだ?」

静かだが、有無を言わせぬ声だった。誤魔化しは一切通用しない、という空気が場を支配する。

結は、世一のその真剣な問いかけに、まるで罪を告白するかのように、震える声で語り始めた。彼女の白い肩が、小刻みに揺れている。

「……わ、私は……神として、下々の者たちの願いを叶える……それが、私のお役目……。で、でも……だ、誰も……」

言葉が途切れ、嗚咽が漏れる。

「誰も、誰も! 私の力ばかりを求めて! 誰も、私自身の事など見てはくれないのです! 私がどんなに心を痛めても、どんなに疲弊しても、彼らは次から次へと願いを寄越すばかり……! あの力は、私自身ではないというのにっ!」

堰を切ったように、結の瞳からは大粒の涙が溢れ出し、美しい頬を次々と伝い落ちた。それは、神という仮面の下に隠された、一人の少女の悲痛な叫びだった。

「私は……ただの『力』として見られるのは、もう嫌なのでございます! 私は、私自身を見てくれる人に……! 私が本当に好きになった、ただ一人の人の為に、この力を使いたいのです!!」

結は、必死に言葉を紡ぐ。それは、長年胸の奥に秘めてきた、切実な願いだった。

「私は……世一様の、何ものにも縛られず、自由闊達に、己の意志のみで生きるそのお姿が……羨ましくて、眩しくて……。世一様ならば、こんな……こんな息の詰まるような、偽りの世界を、きっと壊してくださると……そう、信じてしまったのでございます……」

結の言葉に、世一は再び深く煙を吐き出した。その紫煙が、二人の間に揺らめく。彼は何も言わない。だが、その沈黙が、結をさらに追い詰めていく。

結は、まるで何かに憑かれたように世一に一歩近づき、その着物の袖を掴まんばかりに懇願するように言った。

「私のこの力、その全てを世一様に差し上げます! 世一様がお使いになれば、貴方様は絶大な、神々すらもひれ伏すほどの力をその身に宿されるでしょう! そして、あの大神おおみかみが持つという『宝玉ほうぎょく』さえ手に入れれば、世一様は……この世のことわりを超えた、絶対神にさえなられるのでございます!」

彼女の声は熱を帯び、その瞳は狂信的なまでの光を宿していた。

世一は、結のその激しい言葉を遮るように、静かに、しかしはっきりと彼女の名を呼んだ。

「結」

その声に、結ははっと息を呑み、期待に満ちた瞳で世一を見つめた。彼女の願いが、ようやく聞き届けられるかもしれない、と。

「此度の世一様の地獄行きは、断じて納得できるものではございません! 私が、この身命を掛け、必ずや世一様をお助けし、そして貴方様を至高の座へと導いてご覧にいれます!」

再び、世一は、どこか感情を抑えたような声で、結の名を呼んだ。

「結」

結は、まるでそれが最後の切り札であるかのように、震える両手を世一へと差し出し、懇願する。その目には、切羽詰まったような、それでいてどこか夢見るような光が揺らめいていた。

「さぁ、私の手をお繋ぎ下さいませ、世一様! 貴方様が絶対神へと至る道、この私が、必ずや叶えてご覧にいれます!」

しかし、世一は、結の差し出したその手を、まるで存在しないかのように無視した。そして、凍てつくような冷たい声で、短く、しかし決定的に言い放った。

「……だまれ」

その一言は、熱に浮かされていた結の心を、一瞬にして氷点下へと叩き落とした。

「ひっ……」

結の喉から、引き攣ったような短い悲鳴が漏れた。彼女の身体は、まるで冷水を浴びせられたかのように、わなわなと震え始めた。

期待に輝いていた瞳から、光が急速に失われていく。代わりに、絶望の色が滲み出し、再び大粒の涙となって溢れ出した。

「私は……私は……ただ、世一様の……お側に……」

言葉にならない想いが、嗚咽となって彼女の口から漏れ続ける。

結は、ついにその場に泣き崩れるしかなかった。彼女の華奢な身体は、絶望と悲しみに打ちひしがれ、小さく震えている。まるで、世界の終わりを迎えたかのように。

世一は、そんな結の姿を、どこまでも冷たい、感情の読めない瞳で見つめながら、静かに紫煙を吐き出した。

「フーッ……」

彼が吐き出した煙が、薄暗く、希望のない牢獄の中に、ゆっくりと、そして重く立ち込めていった。

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