特別なマーチングバンド 〜たった三人で出場した大会で、特別な想いを見つける〜
ここは奏空高等学校。
緑豊かな丘の上に立つ、歴史ある県立高校である。
春から三年生となった川上は、ふとしたきっかけでマーチング部に参加していた。
放課後、空き教室のドアを開けると、二人の女子生徒が楽器の準備をしていた。
「そろったわね。今日の練習を始めましょうか!」
川上を元気ハツラツとした様子で迎え入れるのは、同じく三年生の山本である。
それまで帰宅部であった川上をマーチング部に誘った人物であり、この部活のムードメーカーだ。
また、将来の夢は学校の先生になることらしく、普段から皆をまとめるしっかり者でもある。
「予定していた合奏に入る前に、まずは二人にビッグニュースがあります!」
山本の発言に二人は頷く。
と言うのも、部員は川上を含めてたった三人しかいないのだ。
かつては全国大会の常連校で、何度も優勝をした伝統ある学校らしい。
職員室前のショーケースにはトロフィーが数十個も飾ってある。
しかし当時から二十年が経ち、今は部員0人の幽霊部活となってしまった。
それを勿体無いと思った山本が、この四月に復活させたというわけだ。
「今年も9月に県大会が開催されるのですが、なんと私たちもその大会に参加することが決まりました!」
何処かから手に入れてきた一冊のリーフレットを机の上に広げ、高らかに宣言する山本。
それを見た川上は、山本がいつも通り、思いつきで話を進めているのだなと気がついた。
「わーっ! ウチもそれに賛成!」
隣で少女が一人、山本に拍手を送っている。
「たーちゃん、わかってるねぇ!」
たーちゃんと呼ばれる女子生徒は谷口。
山本とは幼馴染で、川上のクラスメイトだ。
少しエセ関西弁のような口調であるが、それ以外はお淑やかなお嬢様といった雰囲気だ。
幼少の頃からトランペットを続けていて、卒業後は音楽大学への進学を希望しているらしい。
「ちょっと待った。流石に三人じゃ大会には出られないんじゃないか?」
このまま勢いで進みそうな雰囲気だったので、山本の提案に待ったをかける。
川上の知るマーチングバンドは、数十人が楽器を演奏しながらステージ上を移動する、大規模な演目だ。
自分たちは形式上はマーチング部だが、三人だけで大会に出られるなど考えてすらいなかった。
「そんな事ないよ。小編成なら参加できるかも」
「小編成?」
川上は、谷口から手渡されたリーフレットを読む。
「えっと……『近年の少子化に伴う諸事情により、県大会の参加に必要な人数を演奏者二名以上+指揮者一名以上といたします』だって」
なるほど、これなら部員が三人しかいない自分たちでも、一応参加できるというわけだ。
「でも、これって最早マーチングと言わないんじゃ……?」
「三人もいるんだから、立派なマーチングだよ!」
机から身を乗り出すようにして、山本が答える。
川上は、少し頭をかきながら再びパンフレットに目を通した。
「確かに俺も大会に出てみたい気持ちはあるけども。そもそも、指揮は誰がするのさ?」
再び山本に問う。
「うーん。誰も指揮できない時は、顧問の先生がやってくれたりするけど……」
山本も谷口も困った様子だ。
“一応”がつく顧問ならいる。部を再開する際に、新任の先生に名前を貸してもらっていたのだ。
しかし、音楽にあまり馴染みがないそうで、練習には一度も顔を出していない。
ましては、指揮者を頼むことなど難しいだろう。
「私がやろうか? ほら、リズム感には多少自信があるからドラムやってるわけだし」
山本は得意げにスティックで机を叩く。
「確かに、山本なら指揮者もできそう。……だけど、そうなるとドラムがいなくなるじゃん。残るのはトランペットの谷口とチューバの俺。“歩く吹奏楽”として参加するのは何か違う気がするんだよな〜」
横で聞いていた谷口が(ふふっ……)と口を両手で覆った。
川上は、真面目な話をしていたつもりだったので少し驚いた。
何か笑われるような事を言っただろうかと思っていると、「たーちゃんの笑いのツボはここなんだ〜」と山本も新しい発見をしたような表情をしていた。
「……とにかく、指揮をしてくれる先生を探そうか」
「「賛成!」」
三人の意見はまとまり、指揮者をしてくれる先生を新しく探すということで決定となった。
練習を終えた後、三人が校内を歩いていると、職員室前で歴代のトロフィーを眺めている人物がいた。
国語科の海先生だ。
白髪混じりの長髪を後ろで結んでおり、丸ぶちのメガネをかけている。
いつも落ち着いた様子で優しいと、生徒からの評判が高い。
しかし、今年六十五歳を迎えるのを区切りに、退職するという噂もある。
「あの〜ぅ。どうしたんですか?」
山本が恐る恐る声を掛ける。
「懐かしいわねえ……。わたし、昔もこの高校で教員をしていたのよ」
微笑み返す先生に、三人は「こんにちは」と挨拶をする。
海先生は「あらあら……」と優しげに返事をしてくれた。
「もう三十年も前になるかしらね。あの頃のマーチングバンドは、本当に活気があったのよ」
海先生は、トロフィーが飾られた当時のことを鮮明に思い出すかのように語り始める。
その話に三人は感心して、いつの間にか聞き入っていた。
「マーチングに詳しいということは、もしかして先生はマーチング部の顧問だったんですか」
谷口が問いかける。
「ええ、もちろんよ」
海先生は誇らしげな様子で答えた。
「もしかして、そこで指揮をしていたり……?」
谷口の顔を見て頷くと、先生は話を続けた。
「それはそれは、長年顧問をしていましたもの。特にこの年なんかは、複雑な曲の入り方を合わせるのが大変でね……」
海先生の話を聞きながら、山本は「早速、見つけたよ」と川上に肘で合図を送る。
なるほど、願った以上に凄い先生がいたものだ。
「あの、もしよろしければ、僕たちの顧問をしていただけませんか? 今度の県大会に出場するので、指揮者を探しているんです」
川上の言葉に続いて、「お願いします」と二人が頭を下げる。
突然の依頼に対して海先生は戸惑った様子を見せたが、暫く考えた後に「いいわよ」と優しく答えてくれた。
「ただし、部員が三人しかいないとはいえ、あなた達は伝統ある奏空高校のマーチングバンドです。指導に手は抜きませんからね」
その語気の強さに三人は少し驚いたが、すぐに「はい!」と返事をしたのだった。
◆
それから、本格的な練習が始まった。
海先生の提案により、曲はムソルグスキー作曲の『展覧会の絵』に決まった。
トランペットのソロから始まるプロムナードなど、各楽器の表現がはっきりしており、三人でも存在感のある演奏をすることができるからだ。
編曲は、先生の旧友である他校の音楽教師が担当してくれることになった。
平日は、これまで通りに空き教室で演奏の練習をしている。
海先生は合奏にも詳しく、それぞれの楽器に具体的なアドバイスをしてくれている。
休日の練習では中庭の広場を借りられるので、そこにラインを引き、ドリル演奏の練習をするのだ。
「何かさ、思ってたよりもハードじゃない?」
持ち場を移動している合間に、山本が呟く。
今は夏真っ盛り。土曜の午前練習中である。
何度も中庭の端から端まで歩き回るので、山本は少し息切れしている様子だった。
「俺もそう思う。一時間毎に小休憩しているはずなのに、朝からぶっ続けで動き回っているみたいだ」
川上も額に汗をかきながら同調する。
再び一つ前の立ち位置に戻ると、海先生はすぐにリズムを取り始めた。
普段の国語の授業では見られない、なかなかに厳しい指導である。
なるほど、これはかつての奏空高校が全国大会の常連校と言われていた訳だ。
部員たちと顧問の熱意と努力によって、素晴らしい音楽が作られていたのだろう。
「でも……ウチ、何だか楽しくなってきた」
炎天下の中、どこか嬉しそうな谷口は颯爽と持ち場に戻る。
それを見た山本と川上もまた、堂々と後に続くのだった。
それから暫くして、やっと昼食の時間がやってきた。
海先生は「しっかり休んで午後の練習に備えるように」と言い残して職員室へ向かっていった。
川上たちは、昼食を取りながら動き方を確認する。
とは言っても、部員は三人しかいないので、フォーメーションは縦横に並んで移動するのが基本だ。
途中で前後に奥行きを作ったり、斜めに並んだりするくらいである。
だが、その中でも大技がある。
三人が横に並んだ位置からトランペットの谷口を中心として、チューバとドラムが周囲に円を描くように入れ替わる表現だ。
更には、これを前進しながら行うのだから、余計に距離感が掴みにくい。
「ダメだぁ〜。ドラムは重いし、こんなに難しい動きできないよ……」
弁当の箸を止め、げんなりした表情で山本はため息を漏らした。
「仕方ないさ。ここはクライマックスの直前なんだから、他とは違う見せ場を作っておかないと」
川上は山本を宥める。
クライマックスでは、再び横一列で正面に前進することになっている。
メロディーの主役はトランペットなので、谷口には中心の目立つ位置に立っていてもらいたいのだ。
「あの……ごめんね、ヤモちゃん。もし大変だったら、先生に相談して立ち位置変えてもらってもいいよ」
おにぎりをゆっくりと食べていた谷口が、心配そうに山本に声を掛ける。
「大丈夫。ありがとう、たーちゃん、川上くん! 私、夏の暑さにやられて、少し弱気になってたみたい。たーちゃんは、堂々と真ん中に立ってて。私たちにできない一番大事な役なんだから!」
山本は自分の頬を両手で強く叩くと、弁当の白米を頬張った。
その様子を見て、川上も頷く。
それぞれが、意地を張ってでも頑張らなければいけない場面があるのだ。
あっという間に休憩時間の四十五分が過ぎ、海先生が職員室から戻ってきた。
そして練習は再開され、日が沈んだ後の最終下校時刻直前まで続いたのだった。
◆
県大会当日。
もうすっかりと季節は秋になり、紅葉した木々とともに、涼しい風が吹いている。
会場は、県内で最も有名なアリーナだ。
大会は二日間に分かれ、ここで小学生から社会人までの多くの部門の予選が行われるのである。
川上たちは、決められた時間に使用が許可された出演者用の大部屋にて、ウォームアップと最後のリハーサルを行った。
そして今は、歴代の先輩たちが着ていたユニフォームへと着替え、アリーナの入場口に待機している。
「うわ〜。前の学校、凄い迫力だね」
「これは想像以上だ……」
「うんうん……。ウチが聞いた話だと、小編成の部のほとんどは二十人以上らしいよ」
前の団体の演奏が聞こえ、そのあまりの迫力に三人は驚いていた。
「やっぱり私らって、場違いだったのかな。二人ともごめん」
山本は緊張のためか、弱気な表情をしている。
「場違いなんかじゃないさ。俺たちは奏空高校の代表として来ているんだ。……まあ、俺も指が少し震えてるけど」
川上の指はガタガタと震えている。
それを見た谷口が(ふふっ……)と笑った。
「それ、少しどころの震えじゃないよ。寧ろ川上くんが大丈夫か心配になるレベルだよ」
山本もまた、川上を見てクスッと笑う。
川上が必死に誤魔化そうと言葉を考えていると、横にいた谷口が一歩前に出た。
「大丈夫。ヤモちゃんは頑張れる」
谷口は右手で山本の肩をポンと叩くと、今までに見たことのない真剣な表情で見つめた。
「ここまで一生懸命に頑張ってきたもん。その努力は、絶対に負けてない。後はウチらの演奏を皆んなに届けるだけだよ!」
谷口は、山本と川上と交互に目を合わせ、ニッコリと微笑んだ。
「たーちゃん……ありがとう」
谷口に励まされた山本は、いまだ緊張しながらも、再びいつも通り元気ハツラツとした様子を見せる。
それと同時に前の団体が演奏を終え、三人は係員に案内を受けた。
「待たせたね。さあ、行こう!!」
「うん!」
「おう!」
山本の掛け声に続いて、谷口と川上もステージへと突き進んだ。
場内に流れる奏空高校の紹介アナウンスを聞きながら、三人は定位置に着く。
生徒たちより少し遅れて入場してきた海先生は、指揮台を上ると客席に向かって一礼した。
場内に拍手が起こり、すぐに静寂に包まれる。
先生は三人を見て微笑みかけると、指揮棒を構えた。
谷口のトランペットによるファンファーレが鳴り響く。
プロムナードの始まりだ。
そのメロディーを力強く支えるように、川上もチューバを吹く。
そして山本のドラムが音楽にリズムを与え、三人はマーチングとして動き出す。
正面で真剣に指揮をする先生を見て、演奏をし、練習により無意識に反応できるようになった足を動かす。
頭の中は真っ白で、ただ全力を尽くしたい。
そう思うだけで精一杯であった。
あっという間に曲も半分が過ぎ、いよいよ難所がやってくる。
何度も練習を繰り返したクライマックス前の回転だ。
そして、その回転も……無事に成功。
川上は心の中で、一瞬ガッツポーズをした。
——クライマックス。
谷口の奏でるトランペットの見事な音色が、アリーナ全体に木霊している。
山本も完全に自信を取り戻したようで、生き生きとしたリズムが聞こえてくる。
三人の演奏は、まるで楽団が奏でているような盛大な演奏であった。
最後の三重奏が響き、先生が指揮を終える。
三人は揃って楽器を下ろすと、観客席へお辞儀をした。
会場からは大きな拍手が聞こえてくる。
それを全身で浴びるようにしながら、三人は堂々とステージを去った。
五分半に及ぶ演奏は大成功を収めたのだ——。
◆
県大会から一週間後、職員室近くのショーケース前に三人は並んでいた。
「大会、終わっちゃったね」
「あっという間だったな」
山本と川上が放心した表情で会話する。
先日の県大会で、三人は審査員特別賞を受賞した。
残念ながら成績優秀チームに送られる金賞ではないので、次の関東大会へは進めない。
三人で過ごしたマーチング部も、ここで引退ということになる。
「でも、すごく充実してた」
谷口の言葉に、二人も頷く。
暫くの間、三人の間に何も言葉は出てこなかった。
「……そっか。私たちが初めてなんだ」
山本が突然呟いたので、川上は不思議に思い「何が?」と聞き返した。
「特別賞のこと。こんなに沢山のトロフィーが飾ってあるのに、特別賞を貰ったのは、私たちだけなんだよ。これって、とても凄いことじゃない!?」
山本は目を輝かせている。
「そりゃ、大昔の先輩たちからしたら優勝して当たり前の大会だからな。……でも、まあ、言われてみたら凄いかも」
川上は何故だか、誇らしい気持ちになった。
塔のように聳え立つトロフィーの端にある小さな盾。
決して目立つわけではないのだが、同じショーケースの中に並べられていると、とても価値のあるもののように思えたのだ。
「たーちゃん、どうしたの?」
山本は、谷口のそわそわとした様子が気になったようで、声を掛けた。
「ううん、何でもない。ウチも今更だけど、特別賞を貰えて感動してるみたい」
谷口は、柔らかい笑顔で山本に微笑むと、両手を胸元にそっと当てて小盾を眺めていた。
◆
それから半年が過ぎた。今日は卒業の日である。
三人全員、第一希望の大学に合格した。
これからは、それぞれが新しい道を進んで行くことになる。
晴天の中、卒業式も無事に終わり、それぞれのクラスで最後のホームルームが行われた。
マーチング部の三人は、河津桜の咲く中庭に集合していた。
海先生も噂の通り、今月限りで退職するらしい。
それを聞いた時は皆驚いたが、今日は今までの感謝の気持ちを伝えるのだ。
「卒業、おめでとう。皆んな素敵よ」
海先生は、川上たちよりも先に桜の木の下で待っていた。
あれだけ厳しい指導をしていた先生に褒められると、何だか照れ臭い。
他の二人も同じようであった。
山本が花束を、谷口が手紙を渡す。
そして川上は、そんな三人の様子を写真に収めようとしたのだが……
「それじゃ貴方が映らないじゃない」
と、先生にもっともな事を言われ、少し恥ずかしくなったのだった。
海先生は、少し離れたところで卒業生を見送っていた学年主任に声を掛ける。
話を聞いた主任は、快くカメラマンを引き受けてくれた。
この四人で、並んで写真を撮る。
最後の一枚だと思うが、とても大切な一枚になるだろう。
「「「ありがとうございました!!」」」
三人は大きな声で先生にお礼を伝えた。
山本は恥じらう様子もなく大粒の涙を流し、谷口は目を潤ませながらも何とか堪えようとしていた。
川上もまた、自然と腕で目を擦っていた。
運動部のような熱血さには川上自身も驚いたが、これがマーチングバンドというものなんだなと、初めて実感したのだ。
「俺、大学に入ってもマーチング続けるよ。今度は県で有名な社会人バンドに入って、全国大会優勝を目指すんだ」
それまで感傷に浸っていた二人がこちらを見た。
それを確認した川上は、言葉を続ける。
「何よりも……この一年間の努力を、特別で終わらせたくないんだ。四人で最後まで頑張れたからこそ、いつか本当の優勝を手に入れて、夢を実らせたいんだ」
その心は、決意に満ち溢れていた。
「川上くん、手を出して」
山本が正面に立ち、そう言った。
「何だよ、急に」
川上は訳も分からず右腕を出す。
「そのままジャンケンのグーみたいに握ってくれる?」
言われた通りに握り拳をつくる。すると、山本も同じように拳を握り、川上に強く突き合わせた。
「私の想いを託した。絶対に優勝して、本物の特別を手に入れて来なよ」
さっきまで大粒の涙を流していたので、山本の目は真っ赤に腫れていた。
その突き合わされた握り拳から、山本の熱い気持ちがしっかりと伝わってくるようだった。
そしてお互いにコクリと頷いた後、川上は横にいる谷口と目が合った。
「川上君。マーチング続けるって言ってくれて、安心したよ。もう音楽をやめちゃうのかと思っていたから」
谷口が穏やかに笑いかける。
「正直なところ、ウチも特別賞にはモヤモヤしてた。たった四人のチームが表彰されて、記念の盾まで貰えたのに何でだろうって。……でも今、その答えをハッキリ言ってくれて嬉しい。だから、ウチからも想いを預ける。頑張れ、川上君!」
谷口も、力強く拳を突き合わせた。
「二人とも、ありがとう」
川上は、心の底から感謝の気持ちが湧き上がってくるようであった。
「マーチングって本当に良いものね」
先生は三人の姿を見て、静かに微笑んでいる。
「あなた達は、歴代の先輩方に勝るとも劣らない立派な奏空高校マーチングバンドです。これから先の人生でも、この一生懸命に過ごした日々を胸に、更なる飛躍をしていってくださいね」
先生の言葉を聞き、川上の左右に山本と谷口がそっと近寄る。
そして横一列に並んだ三人は、先生に深々とお辞儀をした。
夕暮れ、暖かく柔らかい光が照らしている。
橙色に染まった中庭の河津桜は、新たに旅立つ三人の背中をそっと押すようであった。
〜fin〜
ご愛読ありがとうございました。
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補足
①山本が演奏するドラムは、スネアドラムです。
叩き方を変えることで、周囲に響き渡るような力強い音を出せたり、演奏を彩る細かいリズムを刻むことができます。
②ドリル演奏とは、楽器による演奏をしながら隊形を変化させて音楽表現をするマーチング用語です。
反復して訓練を行う『ドリル』という言葉に由来があるそうです。
(引用)広島県警察音楽隊のHP「よくある質問」より