消耗という罠
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朝になってしまった。
山の稜線から光が見えて来た。
太陽の姿はまだ見えないが。
【『アリステリア様』本日も御加護を!】
俺の予想通りだった。
朝日と共に悪魔族が侵攻を始めた。
数は目視で約5000!
最悪な事態にはならなかったようだ。
急いで指示を出す。
【敵襲の銅鑼を鳴らして下さい!伝令を各所に回して、赤い悪魔が来たと伝えて下さい!】
「「「了解であります!」」」
ガーン!ガーン!ガーン!
黄色い服を着た伝令達が各所へ馬に乗って行く。
後は増援で中級悪魔が出て来ないのを祈るばかりだ。
いや、この思考パターンでの狙いなら今夜辺りに来るのだろう。
俺の頭でも読めるのならばだが。
ジャスティン達は十時出発だと言っていたから、到着にはまだ時間が掛かるだろう。
彼らが来れば俺は安心して悪魔の討滅にいけるのだが。
俺は呪文を唱え力ある言葉を発する。
「・・・7th メテオ・スウォーム!」
空からバスケットボール程の石が炎を纏い落ちてくる。
そしてそれらは敵を打ち砕いて行く。
各地で爆発音が響く。
それが開戦の狼煙となった。
各所で防衛戦が始まっている。
やはり中級悪魔の姿が見えない。
嫌な予感がするのでバドラック様の所へ行く。
護衛の騎士に声を掛ける。
「至急です。バドラック閣下はいらっしゃいますか?」
「貴殿か、しばし待たれよ。」
そう言って天幕の中に消える。
緊急なのにまた十分も待つのか?
この時間が長すぎる!
さすがにイライラしていると中から声がかかる。
「遠慮せずに入って来てくれ。」
「失礼します。」
急いでに天幕に入る。
「これからは確認などせずに入ってくれ。で、急ぎの用なのだな?」
有難い申し入れだった。
早速見解を述べる。
「はい。話を聞いている限りでは俺が来る前から。そして昨日の夜も今日の朝も中級悪魔が出てきていません。これは不自然です。」
「ふむ・・・どう不自然なんだね?」
「まず赤い悪魔より強力な魔法を使えるので昨日の初めての夜襲や今回の殲滅の戦力に入れていないのはおかしいです。基本的な戦術が組まれておりません。」
「基本的な戦術?」
【はい、魔法が効きにくく、そして普通の武器ではダメージを与えられない、バルロンデーモンを温存するやり方です。俺なら逆をします。今回までの戦闘は消耗を強いているはずです。】
「アーサー殿、我が軍を疲弊、消耗させるのがも目的だと?」
【左様です。今夜辺りが怖いですね。俺が指揮官だった場合ですが投入して来るでしょう。】
「今の我が軍で抑え込めると思うかね?」
【難しいでしょう、先程も言いましたが通常の武器は効きません。そんな相手に立ち向かえるはずがありません。】
天幕の中のシュトライゼさんとバートさん以外の人達がざわついている。
さすが、二人はバドラック様の信を得ているだけあって冷静に話を聞いている。
「続きを。」
【はい。悪魔族は元々夜行性です。私でも簡単に読めるような明け方の戦闘、これは昼までは続くでしょう。先程も言いましたが、今夜が怖いですね。私ならそろそろ本命を投入します。】
「つまり、これまでの戦は消耗狙いか!?」
【左様です。こちらは寡兵、しかも腹が減って力が出ない。更に言うと寝不足です。なので、早ければ今日にでも決定打を打ちに来ます。】
「不味いな・・・。」
【ただし、援軍が見込める可能性があります。】
「それは!?」
【私共、オーガの牙です。】
「今日来てくれるのか?晩餐会があるではないか!すっぽかせば王の不興をこうむるぞ?」
【閣下、すでに私が来ていますのでその心配はありませんよ。】
「・・・貴殿・・・済まぬな。」
【いえ、所詮冒険者ですしね。それに死ぬつもりはありません。大切な人達がいますのでね。】
「それは家族か?」
【左様ですよ閣下。閣下にもいらっしゃるでしょう?】
【うむ、長男はこの戦いで戦死したが、まだ七歳になる次男がいる。あの子を戦場に向かわせたくはない物だな。】
そう言うと守り袋のような物を握りしめている。
多分だが遺髪でも入っているのだろう。
【左様ですね。と言う訳で提案がございます。昼間は4000の兵を休ませましょう。代わりに夜の兵を4000と致します。】
「交代制にするのだな?だが抜けた戦力は大丈夫か?」
【そこは昼間なので有利なうちに俺が対処致しましょう。二日間だけですが見た感じ敵は多くても5000です。俺は三日程なら眠らずに動けますので。】
「分かった・・・益々貴殿が欲しくなったぞ、アーサー殿。」
【閣下、一つだけ正直に話しておきますね。】
「何かね?」
【実は、私の本業は鍛冶師でございます。余生は良い人と田舎でのんびりと鍛冶をして過ごすつもりです。】
「何だと!?あれ程の魔法を唱える者が鍛冶師だと!?」
【はい、閣下。その証明としてこちらのロングソードを閣下へ進呈させて頂きますね。その代わり援軍の事は内密に。】
バックパックから鞘無しの鋼のハイクオリティーのロングソードを取り出す。
「これは、鋼か!?美しい・・・。」
【左様でございます。これと同じ物をアーゼ様とリーゼ様達が五十本運んで来ますので騎士達にお渡し下さい。それで赤い悪魔は何とかなるでしょう。】
「これ程の剣を・・・だが援軍が来たと吹聴すれば士気が上がるのではないか?」
【閣下、援軍とはいえ私一人でございます。逆に少人数だと知れば士気が落ちる可能性があります。】
「そうか・・・残念な物だな。」
【では閣下、そろそろ行ってまいります。】
「貴殿に戦の神の加護があらんことを!」
「「「あらんことを!!!」」」
【ありがとうございます。】
頭を下げると天幕から出る。
バドラック様は近習の兵を呼び交代制にする指示を出していた。
さてと戦場を回りますか。
俺は戦場に出ると敵を葬り去って行く。
だがその間にも味方の犠牲者は出ていた。
陣を見ると動きがある。
兵士達が少しずつ少なくなっている。
敵に気づかれないように半数を撤収させるのは指揮官が良い仕事をしているからだろう。
指揮官が有能だと本当に楽だね。
俺は赤い悪魔を中心に討滅して行く。
昼過ぎにはその数を減らした悪魔族が撤退して行く。
俺は近くにいる騎士に声を掛ける。
【敵が撤退している今は休む好機ですので、手の空いた者から休ませるように伝令をお願いします。】
その騎士がバドラック様に今の事を伝えに行ったのだろう。
俺は追撃のメテオ・スウォームを放つのであった。
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陣に戻りバドラック様の天幕に俺の作った料理を持って行く。
もちろん顔パスだ。
「美味そうな匂いの正体はアーサー殿か。」
【はい、こちらを食べて下さい。指揮官や将校ならば食べるのも仕事ですよ。】
そう言ってお盆に乗せた寿司と出汁巻き卵と味噌汁をバドラック様とシュトライゼさん、バートさんに差し出す。
「アーサー殿。これは生魚では無いか?」
【左様です閣下。新鮮な物を使っておりますが無理にとは言いません。ですが食べてみて下さい。】
「ふむ、アーサー殿の勧めだ。折角なので頂こう。」
【ゆっくり噛んで召し上がって下さい。】
「・・・これは、美味いな。」
「美味い・・・。」
「この汁は・・・暖まるな。」
バドラック様は涙を流している。
二人も泣いている。
恐らくだが兵士の食事事情を思っての事だろう。
「わしらばかりがこんな美味い物を食べてはいかんな。」
【閣下、指揮官に倒れられるのが一番最悪な事なのですよ?しっかり食べて下さいね。】
「アーサー殿の好意に甘えるとしよう。」
パクパクと食べて行く。
「うむ、何の魚かは知らんが美味い。これは何と言う料理なのだ?」
【寿司という倭国の料理ですよ。】
「そうか・・・息子にも食べさせたかった。」
【・・・閣下。食べ終わったら少しでも休んで下さいね。眠れなくとも横になっているだけで違いますよ?】
「そうか、その言葉にも甘えよう。」
しばらくすると皆食べ終わった様だった。
天幕から二人が出て行くと、バドラック様が簡易なベッドに横になる。
【では、香を焚きますね。】
眠ったのを確認してから、空になった食器を持ち天幕を出ると太陽が西に傾いている所だった。
恐らく十六時ぐらいだろう。
このままだと夜が心配だ。
だがどうする事も出来ない。
そう、頼みのジャスティン達はまだ来ていない。
此処まで読んで下さって、ありがとうございます!
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この調子で今日中にもう一話!
と言う事で 次話 アーゼ対ラフィア(仮 でお会いしましょう!
それでは、お疲れ様です!




