夜襲
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前線と思われる所に着くとそれは酷い物だった。
まさに戦場であった。
まず最初に臭いが酷い事に気付く。
暗視の魔法を使っていたから分かったが左手には、たくさんの死体が積み上がり放置されている。
このままでは腐り、疫病が蔓延してしまうだろう。
それに下手をすればゾンビになってしまう。
急いで火葬しなければならないだろう。
それに衛生面で言うとトイレも酷い物だった。
肥溜めかよ!?
こんな所はとっとと改善しないとね。
凍らせて地中に埋めるか?
そんな事を考えていると兵士の姿が目に映った。
何とか立ち上がっているだろう。
痩せ細った兵士に司令官がいるのかと話を聞くと天幕に案内された。
「・・・その天幕が司令官様のいる場所だ。」
【済まない、ありがとう。】
そう言って子袋にあった干し肉を渡す。
「これは!・・・食いもんだ!?」
凄い勢いでがっつき食べている。
涙を流しているぞ?
アーゼ様が奮戦していると言っていたから食糧事情は大丈夫だと思っていたのだが・・・。
補給物資もそうだが何かの思惑を感じる。
食べ終わったのだろうか兵士が礼を言って来る。
「あんちゃん、久しぶりに美味いもんを食った・・・ありがとうよ。」
しょっぱいだけの硬い干し肉なのだが美味しかったようだ。
【食事はされてないんですか?】
そう聞くと兵士が答えて来る。
「物資が無いとかで夜の一食だけになっちまったんだ。それでも食えるだけましだぜ?」
【そうなんですか?】
それで良く戦線を維持している。
地力の違いなのだろうか?
それとも司令官がよっぽど良いのか・・・。
そう思っているとその兵士さんが言って来る。
「司令官の『バドラック閣下』は碌に食事を食べていないらしいんだ。もちろん従卒もだ。バドラック閣下と嫁と娘の為になら俺は頑張るぜ。」
【そうですか・・・私も家族と離れてしまったのでその気持ちは分かります。案内ありがとうございます。】
「隊の皆にも食べさせてやりてえが腹が減ってて全部食っちまった。」
【そのうち改善できるようにして見せますよ。】
「あんちゃん、偉い人なのか?」
【偉くは無いんですけれどね。お約束しますよ。】
そう言って案内してくれた兵士と別れると天幕の入り口らしい所にいる護衛の兵士に声を掛ける。
【補給物資を持って来たアーサーと言う者です。司令官にお会い出来ますか?】
「おお、少々お待ち下さい。」
その兵士は天幕の中に入って行く。
長い。
いやいや落ちつけ俺。
十分程すると兵士が出てきて返事をしてくれた。
「閣下がお会いになるそうです。お入り下さい。」
天幕の中に入る。
【失礼します。補給物資を持ってまいりました。】
「おお、ありがたい。おっと、まずは名乗ろうか『ダイアード・フォン・バドラック』と言う。」
その人は痩せ細っていた。
肩幅から言って多分碌に食べていないのだろう。
初老のまだ十分に現役だと言う事が窺え 見て取れる片眼鏡の男性だ。
白くなりかけている茶色い髪の毛を後ろになでつけている。
忙くてひげを整える暇も無いのだろう無精髭が生えている。
歴戦の戦士なのだろうか腰には意匠の見事なロングソードを付けている。
胸に勲章が何個か付けられているので活躍している人なのだろう。
ここにいると言う事は他の貴族とは違うと言った所だろうか?
先程の兵士が言っていた通りまともそうな司令官で良かった。
天幕にはバドラック様と二名の兵士がいた。
その二人も頬がコケている。
【俺はオーガの牙のアーサーと申します。オーカムの地より参りました。】
「おお、オーカムと言うとドリュカス老の統治している所か?」
【ドリュカス様を御存じで?】
「お会いした事がある。良くあの地を治めておいでだ。息子のレガイア殿も次期名君と名高いからな。」
【左様ですね。バドラック閣下。ですが先に御忠告を。このままではこの陣から疫病が出る可能性があります。ゾンビにもなりかねませんのでまずは早急に遺体を火葬する事を提言致します。】
「散って行った我が兵士達を火葬にせよと申すのか?」
【彼らも戦友に疫病を蔓延させたり、ゾンビになって仲間を襲う事は望んではおりますまい。早急に手配を。】
「ぐう、仕方が無いか・・・分かった。『シュトライゼ』!」
「はっ!閣下。」
そう言って天幕内にいた兵士が跪く。
「遺体を早急に火葬せよ。遺体は丁重に扱え。残念だが骨は纏めて埋めよ。そして埋めた所には碑を建てよ。」
「かしこまりました。」
そう言って天幕を出て行く。
【閣下、生き残っている兵士は何名ですか?】
「8000程度だろう。良く持ちこたえてくれている。」
【と言う事はまだ中級悪魔族は出てきておりませんね?】
「そうだ、出てきていないのにこの有様。公王様に申し訳がない。」
【閣下、それは本心でございますか?】
「ん?そうだが、何かあったのか?」
【・・・余所者ですが、遠慮なく言わせて頂いてもよろしいですか?】
「この場ではわしと信用出来る部下の『バート』と貴殿だけだ、遠慮はいらん。」
【それでは私の見解を遠慮なく。まずは公王様です。本気で国を守ろうとしていない様に思えます。本気で国を守ろうとしているのはアーゼ様とリーゼ様だけですね?それと貴族です。晩餐会には出席するのに戦場には出て来ない。】
「・・・。」
【それに補給物資です。芽の出ているジャガイモが約3000個です。ジャガイモの芽は毒物ですよ?それにこれだけでは兵士の腹を満足にする事が出来ない。どう考えても末期ですよ?この国は。】
「ふはは、外から来た者にもそう思われるか・・・。」
【はい、それに悪魔族の中には人族に変化する者もおりますので付け込まれている可能性があります。】
そう言うとバドラック様は微笑んで言って来る。
「貴殿、冒険者など辞めて我が元に来ないか?士官待遇で迎えるぞ?」
【生憎と沈む船に乗り込む事は致しませんので。】
「ハッキリ言ってくれるな。だが久しぶりに気が晴れたぞ。礼を言う。」
【いえ、思った事を言っただけなので気になさらないで下さい。それでは補給物資はどちらに保管しますか?】
「バート!案内せよ!」
「かしこまりました閣下。」
そう言うと天幕の中にいた兵士が言って来る。
この人も痩せコケている。
指揮官を見習っての事だろうか?
でも、その指揮官には食べてもらわないとね。
「それでは案内致します。こちらにどうぞ。」
補給物資の集積場だろう所に連れていかれる。
・・・物資なんかほとんど無いじゃないか。
これなら一日一食になるはずだ。
これに今の物を入れても五日も持たないのではないのではないだろうか?
「こちらに置いて頂けますか?」
【分かりました。】
そう言ってバックパックからジャガイモの入った箱どんどんを取り出す。
直ぐにジャガイモの箱の山が出来た。
「感謝致します。これでしばらくは戦えます。」
この量でしばらくか、どれだけ食べさせてないんだろうね。
だが8000人を腹一杯にする事は俺にも出来ない。
悔しいが此処は我慢だ。
最前線の確認をさせてもらう。
平原なので城壁の様な物は無く穴を掘り土嚢を積み上げて柵を建てているだけだ。
【これで良く持ちこたえていますね?】
「敵が低級の魔法を使うインプだけなので持ち堪えている様な物ですよ。」
【赤いデーモンが出た事は?】
「何回かあります。そのたびに同胞が散って行ったのです。」
バートさんが悔しそうに言う。
【中級の悪魔、黒い悪魔はまだ出てきていないんですよね?】
「はい、まだ出てきていません。それを考えると恐ろしいですがね・・・。」
【そうですか『アリステリア様』亡くなった者達に慈悲を。】
亡くなった方達へ祈りを捧げる。
「貴殿は創造神様を信仰しておられるのか?」
【ええ、お世話になっております。】
「そうですか。」
【ん?・・・偵察は出しておられるのですよね?】
暗視の掛かった俺の眼には地平線に何か蠢いているのが見える。
「夜は悪魔族の独壇場なので夜間は出していない。今までは夜襲も無かったので見張りだけですね。」
どうやら発見が遅れてしまったようだ。
【バートさん、それでは皆さんに戦闘準備をさせて下さい。夜襲です。】
「何だと!?」
そう言うと数百のファイヤーボールが土嚢や策に炸裂する。
「夜襲だ皆起きよ!」
ガーン!ガーン!ガーン!
鐘が鳴り響いている。
見張りも油断、いや空腹や寝不足等で正常な判断が出来なかったのだろう。
合図が遅すぎてしまった。
俺は呪文を唱え始める。
そんな中バートさんが皆を起こしに回る。
「夜襲だ!悪魔族が来たぞ!」
陣内のあちこちから声が上がる。
「「「夜襲だ!皆!起きろ!」」」
と、声が広がって行くと兵士がゾロゾロと起きだした。
多くの兵が睡眠不足と空腹で体が動かないのだろう。
それに爆炎や爆音が加わり陣の中は大混乱だ。
そんな中、俺は力のある言葉を唱える。
【・・・7th、メテオ・スウォーム!】
空が光ると数十のバスケットボール程の隕石が戦場に次々と落下して来る。
隕石が悪魔達を粉砕していく。
これで少しでも時間が稼げれば建て直せないか?
そう思っていたらそれを見たバートさんが兵士を鼓舞する。
「今のうちに陣形を立て直せ!敵は崩れたぞ!攻撃を掛けよ!夜なので深追いはするなよ!」
次第に陣形が整うと兵士達が突っ込んで行く。
だが動きが遅すぎる。
このままでは悪魔族の再攻撃で不味い状況に陥るだろう。
俺も戦場に躍り出る。
夜襲とはね。
此方を追い詰めようとしたのだろうが無駄だったね。
【範囲薙払攻撃!】
一振りで十匹程の悪魔族達が黒い靄に代わる。
呪文を唱えながら剣を振るい続ける。
陣形の再編まで踏ん張ろう。
【・・・9th ガイア・スパイク!】
地揺れが起き地面から数十の石の槍が広範囲に突き刺さり悪魔族達が消滅して行く。
陣形の再編成が終わると兵士達が突撃して行く。
魔法を見ていた兵士の士気が高い。
援軍が来たとでも思っているのだろう。
数十分の戦闘で戦場は落ち着いたようだ。
「撤収!撤収!」
伝令だろうか?
黄色い服を着た兵士たちが次々と命令を伝えて行く。
さすがバドラック様。
判断が早い。
指揮官が良いと楽で良いよね。
俺は急いで戻り三階建ての見張り台に駆け上がると上にいる兵士に「撤退だ!」と声を掛ける。
慌てて撤退の銅鑼を鳴らしている。
ゴーン!ゴーン!ゴーン!
今夜はこれ以上の襲撃は無いだろう。
ただ、狙うとすれば・・・。
そう思って土嚢の補強に掛かっている兵士を見て任せようと思った。
兵士の士気が思ったより高くなっていたからだ。
それに俺一人が動いていても出来るのは微力な事だけだろう。
バドラック様の天幕へ戻る。
「無事であったか!あの天からの星降りは貴殿が?」
【ええ、魔法を使いました。】
「そうか、良くやってくれた。礼を言う。」
頭を下げて来た。
【頭を上げてください。それよりも明け方が心配です。】
「何故だ?少なくとも敵に痛撃を与えたではないか?いつもの通りならばしばらくはやつらも大人しくしているだろう?」
【今回は逆の可能性があります。さらに追い詰めると言う考えが否定できません。必ず休ませる暇のない様に襲って来るでしょう。】
「成程な、では今のうちに休んでおくのが良いのだな?」
【左様ですね。夜の警戒は俺も加わりますので閣下もお休みください。そのクマのある顔では兵士が付いてきませんよ?】
そう言って中級のスタミナポーションを渡す。
【これを飲んで下さい。少しは楽になれます。それと御飯は食べて下さいね。】
「・・・貴殿の言葉に甘えよう。では、また明け方に会おう。」
【かしこまりました、閣下。疲れに良く効く香を焚いておきますね。】
ポーションを飲んだのを確認してから、香を焚く。
月を見る。
今が十一時過ぎだろうから、せめて四時間程は眠って疲れを取ってもらいたいね。
疲れていたのだろう。
バドラック閣下が眠っているのを確認してから天幕を出る。
さてと見張りに戻りますか。
【閣下、少しでも睡眠を。】
そう言うと俺は見張り台に急ぐのだった。
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それでは 次話 消耗という罠(仮 でお会いしましょう!
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