日常と出発準備
新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
新年初の投稿です。
それではお楽しみください。
皆はもう寝静まっていた。
あれから急いで戻り体を拭いていると。
「コンコン」とノックの音がする。
【どちら様ですか?】
「ヘファイストス様、アーゼですわ。」
嫌な予感しかしない。
【このような夜更けにどのような御用でしょうか?】
ドア越しに答える。
「まずは部屋に入れてもらえませんかしら?」
それだとアリスが起きちゃうじゃないか!?
【お姫様、夜更けに男の部屋に来るものではございませんよ?】
「では命令しますわ。ヘファイストス、私共の部屋に来て下さいまし。」
【お姫様、夜更けに男を部屋に誘うのもいかがなものかと思われますが?】
「ヘファイストス、これは命令と言ったはずですわよ?」
だめだ、逃がしてくれないらしい。
諦めた俺は準備する時間をもらう為に話す。
【準備がありますので、十分程したら伺います。】
そう言っておいた。
「もう!お早くなさって下さいましね?」
そう言い残すと複数の足音が遠ざかって行く。
どうやら部屋に戻って行ったようだ。
アリスを起こさない様に静かに準備をするとアーゼ様とリーゼ様の部屋に向かう。
部屋の前に行くと護衛の人達がいた。
【こんばんは、お召しにより参りました。】
護衛の人がドアを開けいつものように中に声をかける。
「アーゼ様、リーゼ様、ヘファイストス様がいらっしゃいました!」
「お入りになってもらって。」
そう聞こえると部屋に入っていく。
あれ?
またあの匂いがするぞ?
嫌な予感がして俺は帰ろうとすると声がかかる。
「そちらは出口ですわよ?」
【来る部屋を間違えましたので・・・。】
「間違えておりませんわよ?ね、リーゼ?」
「そ、その・・・通りです!姉・・・様!」
嫌な予感的中。
またやってたのかよ。
もう頼むよ。
どっちも無理なんだよね。
諦めてアーゼ様の前に進み出ると想像した通りだった。
見ないようにして跪く。
【アーゼ様におかれましては、ご無事で何よりでございます。】
「ええ、貴方にはどんなにお礼を言っても足りませんわね。ありがとうございます、ヘファイストス様。」
「姉様!お願い・・・ですから、そろ・・・そろ!」
「ほら、聞いて。リーゼもありがとうですって。躾られていれば良い子なのですが、申し訳ございませんでしたわ。」
謝られてしまった。
はて、何の事だろう?
「あら?分からないのですか?宿の女将と伯爵様を騒がせた事にオーガの牙の名を貶めたからですわ。」
ああ、リーゼ様が言ってた事か。
【それでは、この宿の事は?】
「御安心なさって頂戴、決して悪いようには致しませんわ。そうよねリーゼ?」
「さ、左様・・・でござい・・・ます!姉様!」
「それと伯爵様の元へも使いを出してありますわ。騒がせて申し訳ありませんでした、と。そうですわよね、リーゼ?」
「その・・・通りで・・・ござい・・・ます!姉様!なので・・・どうか!」
「ふん、しばらくそのままでいなさい。そう言う訳で急ぎ報告をした次第でございますわ。」
【わざわざの御報告を、ありがとうございます。】
「それと騒動を起こしてしまいましたので期日を一日延ばして差し上げますわ。」
【アーゼ様、期日とは?】
「出発の期日ですわ。皆、良い人とゆっくり出来なかったのでしょう?」
優しい顔をして言うアーゼ様。
そうしていると綺麗ですね。
綺麗なおみ足が・・・。
いやいや、騙されないぞ?
【それは、ありがとうございます。謹んでお受けいたします。オーガの牙にもその様に伝えておきます。】
そう言って頭を下げる。
リーゼ様が凄い顔でこちらを見ていた。
目が合うと懇願するように俺を見て来る。
俺は見ていない。
何も見ていないぞ。
「ええ、そのように。それと、お願いがあるのですがよろしくて?」
【私めに出来る事ならば如何様にでも。】
するとアーゼ様が恋する乙女の様な顔になって言って来た。
「アーサー様を正式にお迎えしたいの!」
え?
なんだって!?
【あの、お迎えとは?】
「貴方にしては察しが悪いですわね。アーサー様を私の旦那様としてお迎えしたいのよ!」
・・・なんかえらい事になっちゃったぞ?
絶対にお断りせねば。
【それは国の重大事なのでないかと思われますが?】
「ええ、それなのでリーゼも一緒に付けますわ。いかがかしら?交渉して下さいません事?」
・・・余計に意味が分からんぞ?
「姉・・・様、これ・・・以上・・・はっ!」
リーゼ様がガタガタと震えている様だ。
きっと、何かの限界が近いのだろう。
「リーゼ、はしたなくってよ?」
「そん・・・な!姉様!こ・・・のまま・・・では!」
「で、どうなのかしら?」
そんなリーゼ様を無視して問うて来る。
リーゼ様、何かは分からないですけれど耐えてくださいね。
うーん、しかし困った。
あれ?
そう言えば・・・。
【アーゼ様、前に私めと婚約して頂けると約束をしたのは覚えていらっしゃいますでしょうか?】
「なっ!?」
お、動揺しているな。
ふふふ、たまには良いかもね。
こんな優越感。
「そ、そんな事を言ったかしら?」
お、とぼけたぞ?
押してみるか。
【確かにおっしゃいました。私も楽しみでございます。二人の美姫を頂ける等、光栄の至り。】
「そ、その約束は!」
【まさか、今更、反故にしようとする事は無いですよね、アーゼ様?】
ニヤリと笑い挑発してみる。
「姉様!もう・・・無理・・・です!」
「五月蠅いのよ!黙りなさい!」
「ま・・・だ耐え・・・ろと!?」
アーゼ様は親指の爪を噛んでいる。
姉妹で同じ癖とはね。
アーゼ様にしては珍しく相当に動揺している様だ。
ここは押し切ってしまおう。
「ヘファイストス様?その話はそう!戯れなのです!」
【戯れとは!・・・それでは仕方ありませんね、オーガの牙にも伝えておかなければ。】
「そこでどうしてアーサー様、い、いえ、オーガの牙が出てくるのですか!?」
【いえ、私も約束を反故にされるのですから当然ではありませんか?】
「反故等と!」
【では頂けるのですね。法外の喜び。ありがたく。】
「待って下さいまし!す、少し時間を頂けないかしら?」
【私は今決めとうございます。アーゼ様!】
「そう!他の報酬にするのはどうかしら!?」
【それ以上に魅力的な報酬がありますでしょうか?】
残念そうに言ってみる。
よし、うまく行っているな。
「鉱石!貴方様が欲しがっていた、そう!ミスリルの鉱石等はどうかしら?」
【公国の美姫の御二人とはとてもとても・・・つり合いが取れないと思われますが?】
「っく、では他の物で!」
【はぁ、アーゼ様、私は悲しゅうございます。まさか、今更お嫌になった等とおっしゃるとは!】
「決して嫌等では!」
ああ、何かに目覚めそうだ。
【ですが先程からのお話に、私の心は張り裂けんばかりでございます。】
「っく。ではどうしても私達に婚約しろと言うのね!」
【それがお約束でございますれば。】
「ううう、どうしてもですの?」
可愛く行っても譲れないんですよ?
「お願いだから・・・お願いだから・・・どうか・・・。」
頬を涙が伝う。
ほう、今度は泣き落としですか?
【アーゼ様、泣き落としなら効きませんよ?】
「っく、じゃあ正直に言うわ!」
変わり身はええわ。
【はい。正直におっしゃって下さい。】
「んんっ、初めては、いえ、私はアーサー様と添い遂げたいのです!・・・駄目かしら?」
顔を赤くして両手の人差し指をツンツンしている。
まあ、アーサーは架空の人物だから及第点としておこうかな。
それにこれ以上、藪を突っつきたくはない。
不利になる何かを出したくは無いからね。
【仕方がありません。それでは別の物で、今回だけはお願いして手を引きましょう。】
「え!本当によろしいのですか!?」
【ええ、書面に致しますか?】
「い、いいえ!そ、それなら良いんですの!」
【御用件はそれだけでよろしいですか?】
「え、ええ!それだけよ。ありがとう!」
【それでは今宵は失礼致します。】
「ええ、下がってもよろしくてよ。」
【それでは、代わりの褒美を楽しみにしております。】
ニヤリと笑って見せる。
「っく!わ、分かりましたわ!」
よし!
勝った!
ドアを開け、部屋から出て行く。
廊下を歩いていると声が聞こえて来た。
「リーゼ!貴方さえ余計な事をしなければ!こんな屈辱は初めてですわ!」
「姉様!もう・・・無理で・・・ございます!もう・・・こんな事は致し、し・・・ません!お情けをっ!」
何だか分かりませんが、リーゼ様頑張って下さいね!
部屋を出ると俺はスキップをしながら自分の部屋に戻る。
こうしてウキウキな気分で一日が終わるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の朝
・・・ルイスの温もりがない。
寂しい。
今日は二の月の八の日。
一日延びたので今日はルイスとイチャイチャしよう。
もちろんやる事が終わってからだが・・・。
予定では明後日は出発の日だ。
今日は小雨が降っていた。
ルイスとイチャイチャしていたかったな。
くそう、これもあの二人のせいだ。
まあ、怒っても仕方が無い。
窓を開け祈りを捧げる。
【『アリステリア様』本日も良い事があります様に。】
ザーーーーーーーッ!!!
・・・外を見ると土砂降りになった。
御加護はどうされましたか!?
調子に乗った罰だろうか?
くう、これでは朝市にも行けない。
ルイスとのデートが・・・。
仕方ない、料理の仕込みをするかな。
良い匂いのする厨房に向かう。
「小僧。おはよう。」
【おはようございます、あれ、女将さん!?】
今日はどうしたんだろうか?
いつもより早い。
コンソメスープの仕込みだろうか?
昨日から、なんか元気が無いような気がする。
まあ、あの事なのだろうけれど。
【女将さん。昨日、何かありましたか?】
「小僧が気にする事じゃない。今日も頼むよ?」
【ええ、やりますよー!】
「えらく機嫌が良いじゃないか、小僧。」
【ええ、良い事がありましたからね。】
「そうかい、その調子で頼むよ。」
やっぱり元気が無いな。
いつもなら背中をバシバシと・・・。
そう思っていると二人の女給さんが出勤して来た。
「すっごい雨よー。ヘファ君は宿だから大丈夫よね?」
「ビショビショよー、干してから着替えて来るわね。」
うふふ、服が透けてますよ二人共。
この御姉さん達もスタイルが良い。
朝から目の保養が出来た。
いやいや、俺にはルイスと言う人がいるんだ。
【二人共いってらっしゃい!】
ニコニコしながら二人を見送ると仕込みにかかる。
朝だけど寒いからクラムチャウダーを作るかな。
・・・暖まるがスープ系が二品になってしまう。
まあ、具沢山にすれば良いか。
おっと、ホワイトソースが無くなりそうだ。
ついでに作っておこう。
後は女将さんが仕込んでいるコンソメスープと何か一品出そうかな。
やはりパンかな?
そうしてパン種を作り始める。
うん、多かったらバックパック様頼りだ。
【あれ?そう言えば土砂降りじゃん。これじゃあ、お客さん来ないよね?】
多めに作っちゃったぞ?
まあ、何とかなるだろう。
そうしてソース類の足りない物を作って行く。
すると時間になったのだろうか?
ルイスとベスが階段から降りて来た。
【おはよう、二人共!】
「おはよう、貴方。」
「おはようございます、ヘファさん・・・。」
【すごい雨が降ってるから今日は中止だね。】
「そうね、貴方はどうするの?」
【商業ギルドへ行ってくるよ。剣も作らないとね。】
「貴方には悪いのだけれど、私達はお休みを頂くわね?」
【そうしてくれるかな?俺は時間も無いし頑張って来るよ。今日はミカも復活しているだろうしね。】
「ミカさんは来れるの・・・?」
ベスが窓の外を見て心配そうに聞いて来る。
【うーん、多分来ると思うんだけどね。】
「この雨で大丈夫なのかしら?ミカさん。」
ルイスも心配そうだ。
この土砂降りだからなあ。
体調が整っても今度は風邪を引いてしまう。
『アリステリア』様の御加護は効かなかったようだしね。
心配していると扉が開く。
「おはよう!アンタ元気みたいね!ルイスさんも!そっちの子もね!」
見るとビショビショになったミカがいた。
おいおい、無い胸が透けてるじゃないか。
それに寒くは無いのだろうか?
まあ、元気印の彼女なら大丈夫なのだろう。
いつも通り声を掛ける。
【ミカ!ミカじゃないか!久しぶりだね調子はどうかな?】
「二日も休んだから大丈夫、絶好調よ!」
「ミカさん、大丈夫ですか?それに、こんなに早く来て何かありましたか?」
ルイスがタオルを渡して話しかけている。
「ありがとう、ルイスさん!」
そう言いながら体を拭き落ち着いた所でミカが言って来る。
「うちの宿屋、御飯が不味いのよね。舌が肥えちゃった責任を取ってもらう為に朝御飯を食べに来たわ!」
【おう、丁度良いね。今、仕込む所だから楽しみにしておけよ!】
「ええ、楽しみにしてるわ!」
【じゃあ準備するから座っててくれよ。ルイス、案内してあげて。】
「ええ、貴方。ミカさん、此方へどうぞ。」
ルイスがミカをストーブの方へ案内して行く。
さてと俺は料理を作るかな。
厨房に戻ると具沢山のクラムチャウダーを作り始める。
と、同時に白パンを焼き始める。
クラムチャウダーとは言うが俺の作る物はクリームシチューの応用だ。
きのこはみじん切り、じゃがいもとにんじん、玉葱を適宜に切った物を入れる。
ベーコンが無いのでハムを切った物を入れて煮込む。
砂抜きをしっかりしたアサリを白ワイン蒸しにして鍋に多目に入れる。
ブロッコリーも入れてひと煮立させる。
スキル様のおかげでクラムチャウダーが十五分程で出来上がる。
リズとマオも起きて来たようだ。
ミカと挨拶を交わしている。
ルイスはアリスを起こしに行ったようだ。
六人席なので丁度良い。
アリスが揃ったら作りたてを持って行こう。
そして女将さん達が三階へ朝御飯を持って上がって行く。
うーん、女将さんの元気がない。
アーゼ様が女将さんに上手く言ってくれれば良いんだけどな。
俺はそう思っていた。
ルイスがアリスを起こして来たようだ。
こちらも皆が揃ったようなので朝御飯を運んで行く。
【クラムチャウダーは熱いから気を付けて食べるんだよ?】
「「「はーい!」」」
「分かったわ、久しぶりの御飯でお腹が減ってるのよね。遠慮なく頂くわ!」
ミカは服を乾かしているので肌着に外套を掛けているだけだった。
寒くないのだろうか?
俺の料理で少しでも暖まってくれれば良いんだけれどね。
【おう、ガッツリと食べて暖まってくれよ!】
「アンタこそ、お代わり用意しておきなさいよね!」
【かしこまりました。ミカ様。】
「張り倒すわよ!」
【調子良さそうだね。安心したよ。】
そう言って厨房へ戻って行く。
落ち着いた所で女将さん達と朝ご飯を食べる。
「今日のも美味しいわね。ヘファ君、お姉さんの所に婿に来ない?」
「あら?抜け駆けは駄目よ!私の所に婿に来てよ!」
【二人のお誘いは有難いのですが、ルイスと言う恋人がいるので遠慮しておきますよ。】
「くっそー、先を越されたわー!」
「こんな良い物件を諦めろと言うのかー!」
「「「あははは。」」」
と、皆で笑っている。
すると女将さんが言って来た。
「小僧、貴族様への取り計らい、ありがとうよ。おかげで宿をたたまなくて済む。」
【いえいえ、出来る事をしただけですよ。女将さんには皆も世話になっていますからね。】
「そうかい・・今後も頼むよ?」
【ええ、任せて下さい。】
そう言うと女将さんが「ニカっ」と笑って背中をバシバシ叩いて来た。
良かったいつもの女将さんだ。
アーゼ様がうまく言ってくれたようだ。
・・・一応感謝しておこう。
「さあ、片づけちまうかい!」
「「「了解です、女将さん。」」」
そう言って俺は皿洗いをするのだった。
洗い終わると支度をしてミカの所に行く。
【ミカ準備は良いかい?】
「服も乾いたし、いつでも大丈夫よ!」
ミカが俺をジーっと見つめて来た。
【どうした早く服を着ろよ?行くぞ?】
「アンタまた変わったわね?」
【そうかな?背は高くなってないよ?】
「そういうのじゃないわよ。何て言ったらいいのかしら?難しいわね。」
時計を見ると九時だったので二人でギルドへ向かう。
「今日も勉強させてもらうわ!」
【おう、俺も簡単には抜かせないぜ?】
「ふん、覚悟なさい!ヘファイストス!」
【掛かってきたまへ。】
そんな事を話しながら土砂降りの中ギルドへと向かう。
防水コートを掛けているが前が見えない程の雨だ。
ギルドの扉を潜るとカウンターにアリシアさんを見つける。
体の水滴を落としながら声を掛ける。
【おはようございます、アリシアさん。】
「おはようございますヘファイストス様。後一日ですね、頑張って下さい。」
おお、アリシアさんからエールを頂けるとは!
ナナリーさんにも、アリシアさんにも事情は言っていない。
姉の様な、いやそれ以上に大切なナナリーさんにも心配をかけてしまうのだろうか・・・。
ナナリーさんも悲しませたくはないものだ。
【頑張ってきますね、アリシアさん。】
「行ってらっしゃいませ、ヘファイストス様。」
挨拶を交わすとミカと鍛冶場に向かう。
【今日は露店で売るロングソードを作ろうと思っているんだよ。ミカはジャスティン達のロングソードとツヴァイハンダーを作ってくれるかな?】
「分かったわ!今度は100点を目指すわよ!」
【うん、頑張ってね。あと楽しむんだよ?】
「分かってるわよ!今日も勉強させてもらうわ!」
【その意気だ!頑張ろうミカ!】
そう言ってロングソードを打ち始める。
午前中に八本のロングソードが出来上がった。
「やっぱり、アンタ変わったわよ。」
【そうかな?でも、だんだん調子が良くなってくるんだよね。何でだろう?】
そう、まだ最適化の本質が分かっていないので俺にも分からない。
「・・・真似したくても真似できないわね。」
【そう言うミカだって、ツヴァイハンダー二本目じゃないか。】
「アンタに追いつく為には、アタシも頑張らないとね!」
【そうだね、そろそろ昼御飯を作って来るよ。】
「今日は何かしら?」
【出来てからのお楽しみに!】
「楽しみにしているわ!」
俺は厨房へ向かう。
多めにロールキャベツとコーンスープと白パンを作る。
食堂のおばちゃん達にもロールキャベツと白パンをおすそ分けする。
すんごく喜んでくれた。
ミカを呼んで来ると食べ始める。
「やっぱりアンタ、料理人になった方が良いわよ?」
【そんなに美味しいかい?】
「ええ、悔しいけれど・・・お金を払うレベルね。」
【払っていただけますか?ミカ様?】
「張っ倒すわよ!」
【ヘイヘイ。】
「この、ロールキャベツって言うのとスープをお代わり、パンもね!」
【分かった、持って来るね。】
そう言うと俺は席を立つ。
「こんな状況なのに、アンタは気楽でいいわね。」
そう聞こえて来たミカの声はまた壁にぶつかっている様だった。
大丈夫、ミカならまた超えられるさ。
食事が終わり作業に戻る。
ミカのおかげで集中して作っていたら、二十本のロングソードが作れた。
鞘は無いが最高記録だ。
ミカが出来上がった剣を見て行く。
「工程は見させてもらったんだけれど、あのハンマーを無駄なく打ち込むのはどうやってるの?」
【え、えっとね、鋼の流れが見えるんだよ。次は此処を打ってとか、声が聞こえる様になるのでにそこを打ち込むんだ。】
もちろん嘘だ。
スキル様頼りなのでそれらしく言ってみた。
「私には聞こえないわよ?」
【鋼を打ってれば聞こえるようになるよ。】
「まだまだ足りないって事ね。」
【聞こえる様になればこのぐらいは打てるよ。】
「難しいわね、でも勉強になるわ!」
ぐぬぬ、心苦しいね。
話題を変えてみた。
【明日はどうする?】
「もちろん迎えに行くわよ、朝御飯も食べに行くわ!」
【用意して待ってるよ。】
「覚悟なさい、ヘファイストス!」
【遠慮なくかかってきたまへ!さあ、片付けをしようか。】
「分かったわ!」
十七時の鐘が鳴る。
アリシアさんに言ってジャスティン達に一日延びたと言う羊皮紙を届けてもらうように手続きをしておく。
「アリシアさん、また明日!」
【はい、また明日、お待ちしております。】
挨拶をして雨の止んだ道をミカと話ながらギルドを後にする。
【そう言えばさ、ミカ。】
「何よ?」
【この際さ、宿を俺達の所に変えたらどうなのよ?】
「あー、えーっとね・・・そう!知り合いの宿なのよ!」
【そうなんだ、じゃあしょうがないね。】
中央広場に着くとミカが言って来た。
「今日の夜御飯も期待して良いのかしら?」
【応、存分に味わいたまえ!】
二人でそんな事を言いながら宿屋へと戻る。
宿に着くと女将さんに挨拶する。
【ただいま帰りました。】
「お帰りよ。稼いできたかい?小僧。おや、元気っ子も一緒かい?」
「お世話になりますね!女将さん。」
【今日は絶好調だったんですよ!】
「それなら良い。さあ皆の所へ行ってあげな。」
そうして皆のテーブルに向かう。
【ただいま、皆。】
「「「お帰りなさい!」」」
「お帰りなさい、貴方。」
「こんばんは、お邪魔するわね。」
「「「こんばんは!ミカさん。」」」
「はい、皆元気ね!」
「お帰りなさいミカさん。今日はどうだったんですか?」
【鞘は無いけれど二十本作れたよ。】
「ふふん!アタシも絶好調だったわ!」
「貴方は新記録ね、おめでとう。」
「「「おめでとうございますー!」」
【皆、ありがとうね。】
皆と騒いでいると、女将さんが近づいて来た。
そろそろ時間かな?
「小僧、そろそろ良いかい?」
女将さんから声が掛かる。
【ええ、大丈夫ですよ?じゃあちょっと行ってくるね。ルイス、ミカを俺の席へ。】
「分かったわ。貴方。」
ルイスが案内する。
ミカが席に座ると皆が元気良く送り出してくれた。
「「「いってらっしゃーい!」」」
ルイスとミカが手を振っている。
うん、皆の期待には応えねば!
皆は早速ミカと話をしている様だ。
厨房に立つと女将さんから声が掛かる。
「小僧、今日は肉が食いたいそうだ。あとは食後に呼ばれているから行っておいで!」
【了解です、女将さん。今日はシンプルにしましょう。ステーキとライスとスープで行きましょう。】
「ライスって言うと粒々のヤツかい?」
【そうですね、ステーキと合うんですよ?】
さっそく米を炊き始める。
「『こんそますーぷ』は仕込みが終わっているよ!」
「じゃあ、肉を焼きましょうか。」
女将さんの用意した肉の筋を包丁の切っ先と顎で切って行く。
「小僧、それは何をしているんだい?」
【筋切と言って肉を柔らかく食べてもらう為の仕込みです。】
「ほう、そっちの汁は何だい?」
【ステーキ用の汁です。焼きあがる直前にかけて臭いと香ばしさを出します。】
「そいつのレシピはあるのかい?」
【食後で良ければ教えますよ。】
「そうかい。頼んだよ、小僧。」
そうだ、うちの子達とミカとアーゼ様、リーゼ様達には霜降りを出してみようかな?
一般客との受け方を知りたいしね。
この国の貴族様がダメだと言うのも気になる。
あんなに美味い物を駄目だと言うのは、焼きすぎて黒焦げにでもしたんじゃないだろうか?
そう思ってバックパックから霜降り肉のブロックを出す。
適度な大きさに切ると焼いて行く。
俺はミディアムレアが好きなんだよね。
その間に付け合わせの人参とジャガイモといんげんを作っておく。
アツアツの鉄板を木皿に置く。
盛り付けてステーキソースをかけて完成だ。
ジュワーっとステーキの良い匂いが広がる。
早速女将さん達が運んで行く。
俺はルイス達の所へ運んで行く。
【ルイス達には特別なお肉だよ。柔らかいけれどよく噛むんだよ?】
「「「いただきまーす」」」
「いただきます。」
「いただくわね!」
皆、ナイフとフォークを使って食べている。
早速ミカが言って来る。
「ハンバーグも良かったけどこれも美味しいわね!」
続いてリズ達が感想を述べて来る。
「柔らかいわ~。これはアタシとの結婚式で出してね、お兄さん!」
「柔らかいです・・・しかも美味しい・・・。」
「私はもうちょっと噛み応えがあるのがいいですね!もちろん美味しいですけど!」
「とっても美味しいのですー!」
うん、好評のようだ。
厨房に戻る。
一般客のステーキも焼いて行く。
女給さん達が運んで行く。
するとお客さんの方からお代わりの声が・・・。
「女将さん、セットのお代わりだ!」
「こりゃあ良い肉だな、すぐにかみ切れるぞ!」
「この掛かっている汁が良いな。お代わりはあるかい?」
「うめえな、貴族様はこんなものを毎日食っているのかね?羨ましいね。」
一般の人には筋切した普通の肉なのだがね。
だが、ステーキソースは好評のようだ。
そして、このお代わりと言う波を捌いて行く。
アーゼ様とリーゼ様達からもお代わりが来たので女将さん達に持って行ってもらう。
ルイス達の方を見ると目をキラキラさせてこちらを見ていた。
「ふふ、うちの子達もお代わりだね。」
皆にステーキを焼いて行った。
うーん、米は足りるかな?
皆の食事が終わったようだ。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「ごちそうになったわ・・・。」
米は足りた。
皆は各々の部屋に戻る。
ミカも苦しそうに帰って行った。
どうやら食べ過ぎたらしい。
この、いやしん坊めっ!
そうだ!
日にちが伸びたのでおねだりしてみよう。
【ルイス、ちょっと良いかな?】
「なあに?貴方。どうしたの?」
耳元で囁くように言う。
『今日は癒されたいので一緒に寝ても良い?』
『もちろん良いわよ。アリスに言っておくわね。』
『うん、よろしくね。』
ルイスは手を振って二階に上がって行く。
あれから凄く優しくなった。
良い傾向なのだろうか・・・。
まあ、今日も元気を分けてもらおう。
皿洗いを終えると皆に湯桶を持って行く。
俺も体を拭いてからアーゼ様とリーゼ様の部屋に向かう。
「お嬢様方、ヘファイストス様です。」
「「お通しして頂戴。」」
部屋に入る。
今日はリーゼ様も椅子に座っている。
アーゼ様の前に行き跪く。
リーゼ様がアーゼ様の椅子の背もたれに肘を掛けるとアーゼ様が言って来た。
「今日の御飯も美味でしたわ、ヘファイストス様。」
「ええ、牛肉とは美味しい物なのね!」
【左様でございます、部位にもよりますが、今回の物は食べる為に育てられた牛肉でございます。】
そう言うとアーゼ様がニッコリと笑っている。
いつもの嫌な感じもしているがそれ以上に嫌な感じの笑い方だ。
昨日の事をまだ気にしているのだろうか?
女性は怖いね。
そう思っているとアーゼ様が言って来た。
「待てる期限まで、後二日。準備は大丈夫なのかしら?」
【明日、オーガの牙に最終確認を取ってまいります。】
「全員来てくれるのかしら?」
【リーゼ様、きっと来てく下さいますよ。】
「では、大丈夫なのですね?」
アーゼ様が念を押して来た。
【はい。】
俺はきっぱりと答えた。
ダン、探し物は見つかっていると良いね。
そして明後日の時間を決めた。
朝の十時にフェアリー・ゲート前に集合との事で最終的な事を決めて本日の打ち合わせは終了した。
さあ、明日もロングソードを作ろう。
公国に行っている間に露店を出して売ってもらわないとね。
ミカにも手伝ってもらえるので明日も二十本は行けるだろうか?
ああ、ジャスティン達にも確認を取らないとね。
明日は結構忙しくなりそうだ。
「退出を・・・許可致しますわ。」
アーゼ様が心配そうにそう言って来たが、大丈夫だろう。
何か思惑があるのかと勘ぐってしまうのは俺の悪い癖だろうね。
でも、ダンならきっと来てくれる。
そう思いながら礼すると部屋を出て自分の部屋に戻る。
今日はルイス先生の算術の授業らしい。
俺は日課になっているポーションを作る。
今のうちにやれる事はやっておく。
皆の為になるのだから・・・。
寝間着に着替え、ルイスを待っているとドアがノックされた。
寝間着姿のルイスが入って来る。
ベッドに誘うと恥ずかしがりながらも入ってくれる。
ルイスから優しく抱きしめられる。
今日は積極的だった。
俺は抱きしめ返し双丘に顔を埋める。
「ふふっ、本当に甘えん坊なのね。」
何と言ったら良いのだろうか。
幸福感?
安心感?
女性は皆、このような物をくれるのだろうか?
とても安らぐ。
その優しいルイスの温もりを感じながら眠りにつくのであった。
此処までお読み頂きましてありがとうございます。
まずは新年一発目のいつもの!
評価、イイネ、ブックマーク等々。
誠に、ありがとうございます!
大変、励みになっております!
これからも御贔屓の程、よろしくお願いします。
骨付けしていたらいつの間にか1万字を超えていて早々にやってしまいました。
何故かと言うと総合評価が700ポイントを超えておりまして。
この歳でお年玉をもらった子供の頃を思い出してしまったからであります。
体調は悪くならなかったので今年も頑張ります。
明日から仕事ではございますが引き続き皆様方に面白い物をお届けできればと思っております。
それでは 次話 前日(仮 でお会いいたしましょう!
今年も皆様にも良い事があります様に!
この場をお借りして震災でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに一日も早く政府の支援や復興等が始まります様に。
後、未だ行方不明の方々の無事をお祈りいたしております。
それでは、お休みなさい!




