どうやら貴族様が泊っているらしい
いつも読んでいる方おはようございます。
初めましての方初めまして。
物語は新章へと語られて行きます。
それではお楽しみください。
ベッドで目が覚める。
いつもの六時ぐらいだろう。
やり終えたという充実感が俺を襲う。
さてと、今日から盗賊退治だ。
窓に行き太陽を見ながら祈る。
【『アリステリア様』本日もよろしくお願い致します。】
いつもの日課をしてから着替えて宿屋を出る。
今日も南通りの朝市だ。
昨日使ってしまった食材の補充と何か珍しい物が無いかと思って来てみた。
鮪が安いのは良いけど他の物も安く買えると良いよね。
米も買ったし、他には・・・。
そう思って市場を見ていたのだが代わり映えがしない。
うーん、あらかた買ってしまったみたいだな。
見て回っていると香ばしい匂いがして来た。
そっちの方に引き寄せられて行く。
【おお!これは味醂干しか!】
「お?若旦那、分かりますかい?」
【酒が進むんだよね。】
「良いつまみになりますぜ?どうですか若旦那?」
【種類は何があるんだい?俺はカワハギが好きなんだけれどあるかな?】
「もちろんでさぁ、他にも秋刀魚や鯖もありやすぜ?」
【カワハギと秋刀魚を貰おうかな。】
「分かりやした!で、何匹用意しましょうか?」
【カワハギはあるだけ貰おうかな、秋刀魚は五十程で見繕ってくれるかな?】
「カワハギは結構ありやすが、大丈夫ですかい?」
【ああ、問題ない。】
「若いのに運ばせますよ、若旦那?」
【ああ、バックパックがあるから大丈夫だよ。】
「さすが若旦那。良い物をお持ちですね。おい、聞いていた物を全部お出ししろ!早くするんだぞ?」
そう言うと若い子供達が持ってくる。
奉公人なのだろうか?
肉付きが良いという事は御飯はちゃんと食べさせて貰っているんだろう。
虐待の様子も見受けられないね。
どうやら良い店主なのだろう。
贔屓にしよう。
運んで来た物をどんどんバックパックに詰める。
値引き交渉をして支払いを済ませる。
「若旦那、今度はもっと用意しておくんでまた寄って下さいよ!」
「ああ、また寄らせてもらうよ!」
「まいど!」
うん、良い物が手に入った。
ジャスティン達にも振舞おう。
マヨネーズと七味唐辛子・・・あ!?
七味無いじゃん!?
慌てて店に戻る。
「店主、すまない。七味唐辛子は無いかい?」
「ありやすがお値打ち品ですぜ?」
「見せてもらえるかな?」
「こちらになりやす。」
高級品だからなのだろうか綺麗な瓶に入っていた。
この際多少高くてもしょうがないだろう。
七味がないと美味しくないんだよね。
値引き交渉をして買うと店主が寄って来て囁いて来た。
『若旦那、此処だけの話なんですが、この街の騎士団がどえらい事に係わっているとかで物騒な話があるんですよ。』
『物騒な話?』
『ええ、何でも黒い悪魔を見たとか。』
『黒い悪魔?』
どこかのロボットにでも乗っているのだろうか?
『北の山には近寄らないで下せえよ?』
【情報ありがとう。また買いに来るよ。】
「ありがとうやしたー!」
うん、七味も手に入ったしこれで完璧な味醂干しが食えるぞー!
ホクホクになった俺は辺りをウロウロする。
他には何かないかなと思っているとまた鮪が捨てられそうだったので安値で手に入れておいた。
「ありがとうな、シビ旦那!」
「また来てくれよな!シビ旦那!」
不本意なあだ名だ。
まあ良いか。
ジャスティン達に鮪のフルコースでも堪能してもらおう。
今日の所は宿屋へと引き上げた。
宿屋に戻って来るといつもの場所にルイスとベスがいた。
【やあ、おはよう!】
そう言って近づいて行くと二人は上機嫌だった。
「おはようございます・・・。」
「おはよう、また出かけていたの?」
【ああ、今日も朝市に行って来たんだよ。良い物が手に入ったよ。】
「また生魚?」
【いや干し物だよ。】
「また、あのとろける魚を食べたいです・・・。」
ベスは鮪、特に大トロにハマった様だ。
「アタシは油の少なめの所が良いわね?なんだっけ?中ロト?」
【ああ、中トロね。あの部位も美味しいよね。】
話をしていると女将さんがやって来た。
「小僧、実は領主様からのお勧めで御貴族様が一泊、金貨一枚の特別部屋に宿泊しててね。その方々の朝飯に食べた事の無い料理をと無理な言われちまったんだ。特別部屋を二部屋使っているから御断りも難しい。それで、その中トロとやらを出せるかい?もちろん金は払う。」
貴族様と何かあったのかな?
珍しいな。
女将さんが相談して来るなんて。
ここは勿論。
【じゃあ、その人達の朝御飯は俺が作りますよ!いつもお世話になってますからね。そのお返しです。】
「そうかい、悪いね小僧。時間が無いから早速良いかい?」
【任せて下さい。ルイス、ベスちょっと行って来るよ。アリスの事は頼んだね。】
「頑張ってね。」
「頑張って下さい・・・。」
【朝御飯は頼まないようにね!】
「「え!?」」
二人に見送られて女将さんと厨房へ行く。
まずは女将さんに食べてもらおう。
いつもお世話になっているしね。
そのお返しも含めて味見をしてもらおう。
【女将さん、何人分作ればいいんですか?】
「御貴族様が二人と、その取り巻きが六人で、もやしが四人の十二人分さね。」
【もやしって・・・まあいいや。お任せ下さいな!】
エプロンを取り出した俺は手を洗い早速作り始める。
御飯を炊き、その間に鮪と鯛等の下ごしらえをする。
「ほほー、小僧、包丁の使い方が様になっているね。」
【女将さんにも食べてもらいますからね。後は給仕のお姉さん二人にも。それとルイス達にも食べてもらうので今日の朝食は大丈夫です。】
「分かった。ん?アタシらの朝食まで作っちまうつもりかい?」
「「男性の手料理なんて!気になるわ!」」
そんなに感激するものなのだろうか?
【ええ、貴族様の分も、もちろん作りますよ。】
女将さんは少し考えていたが・・・。
「分かった、アタシも女だ!小僧に任せる。」
【了解です。女将さん。】
ついでに出汁の重要性を認知してもらおう。
そうすればもっと御飯が美味しくなるだろう。
昆布を取り出し、鍋に水をいれつけておく。
「小僧、これは何をやっているんだい?」
【「出汁」と言う物を取っているんですよ。まあ、楽しみにしてて下さい。】
そう言うと女将さん達は一般客の料理を作り始めた。
御飯が炊きあがったので酢飯にしていく。
朝だからたっぷりと食べてもらおうかね。
そうして『寿司』を握り始める。
大トロ、中トロ、赤身、鯛、鰤、イカ、海老、卵焼きを作る。
サイドに出し巻き卵を作り、わかめと豆腐の味噌汁を添える。
【女将さん、まずは食べてもらって良いですか?】
「うん?小僧、生魚なんて大丈夫かい?一応貴族様なんだよ?」
【食べてもらえれば分かりますよ。好みで山葵を少し付けて下さい。】
「ふむ、どれどれ。ナイフとフォークは使わないのかい?」
【ええ、倭国の「箸」を使って頂きます。ただ、寿司は基本素手で食べるのが「通」のする事なんですよ?】
「ほう。」
そう言って女将さんが素手で食べ始める。
まずは大トロをいったか!
女将さんの表情が変わる。
「こ、こりゃ美味い!とろける!小僧!こいつは何て言う料理なんだい!?」
【倭国の料理で寿司と言います。味は醤油を塗ってありますのでそのまま食べて頂いて大丈夫ですよ。】
「大したもんだねぇ。だが・・・コレは一般の客には出せないね。美味すぎる。」
そうなのだ。
美味すぎるのだ。
二人の女給のお姉さんにも食べてもらったのだが反応が凄かった。
「「美味しすぎる!ヘファ君、本当に婿に来ない?」」
と、言ってあっという間に食べてしまった。
婿ってそんな大げさな。
「さっきの出汁とやらが入ってる卵の焼き物とこの汁も美味しいね!」
【ええ、出汁を取ると劇的に美味しくなるんですよ。】
「うちでも出来ると思うかい?」
【スープにするなら今度コツを教えますよ?】
美味しくなるなら、お願いしてでも教えるつもりだったので、申し出は快く引き受けた。
「最初は抵抗があると思ったが、食べてみれば美味いもんだ。小僧、お代わりを作っておいておくれ。」
「了解です。女将さん。」
十七人分の寿司を握った。
そして三階なのだろうか女給のお姉さん達と料理を運んで行く。
ルイス達の分は俺が運んで行く。
いつものテーブルに行くと皆が揃っていた。
「ヘファさんなのですー!おはようなのですー!」
「あれ?お兄さん?おはようー!」
「ヘファさんだ!おはようございます!」
三人ともエプロンをしている俺を見て不思議がっている。
ルイスとベスは事情を知っているのでニコニコと俺を見ている。
チラッと時計を見ると七時二十五分だ。
【はい、今日は特別な朝御飯だよ!】
「「「わーい!」」」
皆から声が上がる。
【良く噛んで食べるんだよ?】
そう言って皆の前に寿司、出汁巻き卵、味噌汁を並べ始める。
「美味しそうなのですー!」
「美味しそうー!」
「こ、これは生魚のヤツですね・・・!」
ゴクリッ!
ベスが唾を飲み込む。
「すごく美味しそうです!」
五人の目がキラキラしている。
「お代わりもあるからゆっくり食べるんだよ?」
「「「はーい!」」」
「貴方は食べないの?」
ルイスが聞いて来るがその心配は無い。
【厨房で食べてるから大丈夫だよ。気にしないで食べてね。もちろん汁が冷めないうちにだ。】
そう言って厨房に下がって行く。
「「「いただきまーす!」」」
嬉しそうな声が聞こえて来た。
これは米が足りなくならないかな?
うちの子達も食べるからなー。
そう思い、米を炊いておく。
米の心配をしつつ握った寿司を食べる。
うん、美味いね。
俺はマグロの赤身派。
等と思っていたら二人の女給さんが慌てて戻って来て言ってくる。
「「御寿司のお代わりを十二人分お願いします。」」
あら、好評じゃないか。
【すぐに握りますね。】
早速、握りにかかる。
どうやら貴族様にも好評の様だ。
十二人分が出来上がると早速持って行ってもらう。
すると遠慮がちにルイスがカウンターにやって来た。
「あの、私達にもお代わりをお願いできるかしら?」
そう言って来たのでいつものテーブルを見る。
皆がキラキラした目で俺の方を見ている。
やっぱり足りなさそうだ。
米を炊いておいて良かった。
「出来たらで良いのだけれど私の分は中トロを多めにしてくれると嬉しいわ。あとダシマキ卵も。」
頬が染まっている。
注文をつけたのが恥ずかしいのだろうか?
だがルイスの頼みだ。
【もちろん大丈夫だよ。気に入ってくれたのなら嬉しいな。】
「美味しくって・・・。」
【すぐに握るね。】
「待っているわね。」
そう言って手を振って席に戻って行く。
【さてと御期待には沿わないとね!】
さてと、握りますか!
注文の無くなるまで寿司を握った。
女将さんが帰って来て一般のお客さんの御飯を出し始める。
それを手伝っていると女給さん達が慌てて戻って来て・・・。
「「お代わりをお願いしますー!」」
そう言って来た。
【分かりました!】
そう言っているとルイス達もお代わりの様だ。
朝から良く食べますね皆さん!
炊いているお米が無くなった所でお代わりが止まった。
一段落着いたかな?
と、思っていると女将さんがやって来てお礼を言ってくれた。
「助かったよ小僧。しかし料理も作れるんだね。」
【ええ、まだまだですけれどね。】
「それでまだまだなんて言われちまうとアタシらが困っちまうさね!」
バシバシ背中を叩いて来る。
【女将さん達のお代わりの分もありますからね!】
「今度、料理のコツを教えておくれよ!」
【分かりました。しばらくは外出するので時間が出来た時でも良いですか?】
「それで構わないさね。」
【それじゃあ戻りますね。】
「ああ、助かったよ小僧。」
うん、多少は恩返し出来たみたいだ。
良かった良かった。
いつものテーブルに行くと、皆がお腹を擦っていた。
ルイスまでかよ!
【皆、美味しかったかい?】
「「「ヘファさん、ありがとう!」」」
皆がそう言ってくれた。
【今度また作ってあげるからね。楽しみにしておいで。】
「「「ごちそうさまでしたー!」」」
皆が抱き着いて来る。
「すごく美味しかったのですー!」
「もうお兄さんがいないと生きて行けないわ。」
「大トロ最強でした・・・。」
「美味しかったです!ありがとうヘファさん!」
皆が言って来た所で食事が終わったのだった。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
新章なりました。
これからも物語は続いて行きます。
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今朝から増えているじゃないですかー!
本当にありがとうございます。
とても励みになります。
では 次話 紅の目と金色の目の双子(仮 でお会いしましょう。
お疲れさまでした!




