インジール村
いつも読んで下さり、誠にありがとうございます。
執筆終了致しました。
よろしければ、御読みになって下さい。
楽しんで頂ければ幸いです。
今日は「アステリの町」で、宿を取ると少し遅れてしまった行程を二人と相談する。
明日からの行程を決めるのだ。
馬には少し無理をさせているのでこれからの行程はスローペースで行く必要がある。
地図を広げる。
「旦那様、このアステリの後はどちらになるのですか?」
俺は地図を指さし、予定の道をなぞる。
【ユピテスの町だね。その次がインジール村でその次が目的の・・・あれ?】
「何かあるのですか、旦那様?」
「主君、いかがされた?」
【インジール村?何か引っかかるんだけどな・・・何だっけかな?インジール、インジール・・・?】
『インジール村のサーラです。』
【ああ!!!思い出した!サーラの故郷じゃないか!】
「そうなのか、旦那様!?」
「サーラ殿の故郷なのですか!?」
【そうだ、商業ギルドで、初めて会った時にそう言っていた。】
「それならば少し時間を頂き、挨拶をされた方がよろしいのでは?」
「左様です、主君。御家族も喜んで下さるでしょう。」
【そうだよね、折角だからちょっと時間をもらって挨拶したいよね。】
「付き合おう、旦那様。」
「当然だが私もだ、主君。」
【そうと決まったら台所を借りてくるよ。手土産は必要でしょう?】
「左様ですね、準備をしておくと喜ばれると思うぞ。」
「ああ、主君の料理ならば喜んで下さる事だろう。」
【なんか緊張するな、ちょっと厨房に行って来るよ。】
「旦那様、我らは裏庭へ行っているぞ。クレア、太刀筋を見てもらえるか?」
「構わないよ、セリス。行こうか。」
「済まんな、クレア。」
宿の一階まで降りると二人は裏庭に、俺は厨房を貸してもらう。
サーラがインジール村の出身と言うのは知っているのだが家の事は知らない。
つまり、何処がサーラの家か分らないと言う事だ。
王国の地図を見た所では町や村の名前の被っている所は無かったはずだ。
家族構成なんかもサーラからは聞いた事が無い。
困った時の村長様かなぁ。
親御さんが分かれば、サーラとの仲を認めてもらい、結婚式にも出席して頂けるようにお話をしなければ。
七輪でサーラの家族への鰻を焼いていると、宿屋に親子が寄って来た。
こちらを見て二人共、目をキラキラとさせている。
早い話がそれを食べさせて下さいと、その子供の目が言っていた。
いっぱい良い匂いさせちゃったしね。
食べたくなるのは当然だな。
【僕、食べたいよね?ちょっと待っててね。】
もうちょっと考えてメニューを、いや、もうやってしまったのだ。
と、最初は親子二人だったのが十人、二十人と集まって来てしまった。
最終的には五十人程の村人で、親子達が集まってしまった。
どうやら子供が一緒にいると、無料で食べられると思われてしまった様だ。
やべえな、鰻・・・この香りは食欲を直撃するからね。
それを見て、気合が入り一生懸命に焼いている。
ただし一人一食にしてもらった。
鰻はあるのだがお代わりをするようになると、これ以上の騒ぎになりそうだったからだ。
米はまだある。
だけどきりが無いからね。
そして炊き上がった米を持って来ると作り出す。
村の皆には鰻丼を配っている。
【ゆっくりと、良く噛んで食べるんだよ?】
そう言って皆に渡して行く。
鰻丼を食べる人達の、何と言う幸せな笑顔。
こう言う笑顔を見る為ならちょっとの手間なんてなんだい!
ってなるよね?
「旦那様、手伝いはいるか?」
「水臭いぞ、主君。」
それに気付いた、セリスとクレアが配膳を手伝いに来てくれた。
ウチの嫁は細かい所まで気付いてくれるな。
ありがたい。
さてと、御土産も用意した。
今日の所はこれでお終いにしよう。
部屋に戻ると宿の人が気を使ってくれたのか、ベッドが三つ並んでおかれていた。
その日の夜は久しぶりに二人とイチャイチャした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カッポ・・・カッポ・・・
馬は歩く。
三頭の馬が街道を北に進む。
この辺りの道はまだ整備が進んでい無い様だ。
師匠達がこの道を進んでいたと言う形跡も見つけた。
実際の距離は、まだまだ遠いのだろうが。
無事に進んでくれているようだ。
「旦那様、この速度で追いつけるのか?」
【うーん、でもね、馬が動かなくなるのも問題だからね。】
「時間的にはどのぐらい離れているのだろうな。」
「セリス、焦っても良い結果は着いて来るまい?」
「そうだな、焦る必要はないか。」
「気持ちは解るがな・・・だが、良い天気に恵まれたのは好都合。」
【そうですね、今回の旅は天候に恵まれているようですね。】
「それだけが救いなのか・・・な?」
「まあ、のんびりと行こうではないか、セリス。」
「たまにはいいだろう・・・これも悪くは無いな。」
「そうだ、良い物だぞ?」
こうしてゆっくりと馬を歩かせる。
ユピテスの町は先程通って来たばかりだ。
もちろんだが、マーカーもしておいた。
ここから先はもう町のない開拓村の地域だ。
そう言えば、何でサーラは鍛冶仕事をしに、オーカムまで来たのだろうか?
この世界で十七歳と言えば、旦那をもらって家庭に入るのが一般的な、ならわしのはずだ。
サーラ程の器量良しならば引く手あまただったろうに。
巨乳だからと言う理由だけで追い出された、なんて事は無いよね?
俺好みの巨乳だしなあ・・・。
まあ、考えていても仕方があるまい。
その辺りは村で聞けばいいんだよ。
ついでにサーラの生家を訪ねればいいんだ。
突然だから驚かれるかもしれない。
でも、せっかく来たのだから、挨拶はしておきたい。
三時間程かけてゆっくりと舗装されていない道を馬が歩いて行く。
セリスやクレアとの話も面白かった。
セリスの御転婆ぶりや、クレアのセリスの家庭教師をする前に何をやっていたのかを聞く事も出来た。
こう言うのんびりとしたものも、旅の楽しみだよね?
そんなこんなで、インジール村の入り口が見えて来た。
まあ、そうそうイベントには遭遇しないだろうがね。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「で、村に何の用だよ。そんな醜い物を持っている奴を二人も連れてよ。」
「っく・・・。」
「・・・。」
何処かで聞いたようなセリフだ。
田舎の村と言う閉鎖空間では差別は酷いのだろうか?
【数日前にこの村を通って行った人達がいますよね?】
「ああ、隣村の魔物の討伐だろう?」
「あんな少数で討伐できるのかねえ?」
【俺達も行くのですよ。】
「ほー、まあいい。身分証を出してくれるか?」
【こちらでよろしいですか?】
「・・・へ?こ、これは、紅玉様が何で!」
「紅玉様だと?」
二人共、土下座しだした。
こんな事を望んでいる訳じゃないんだけどなぁ。
【御二人とも、御立ち下さい。少々お伺いしたい事があるのですが?】
「はい、何でございましょうか?」
「何でも聞いて下さい。」
【この村の出身でサーラという女性の、御両親の住んでいる所はございますか?】
「サーラ・・・?」
「なあ、あの鍛冶師になるって出てった奴じゃねえか?」
「あー!酒飲みのロイんところのか!」
「そうそう、巨乳だって親から見捨てられたって言う・・・。」
【親から見捨てられた!?】
「失礼、その女子の事を出来る限り詳しく聞かせて頂こうか?」
「そうだな、主君も気になるであろう?」
【ええ、彼女の事は知っているようで知りませんからね。】
「あのー・・・アイツは紅玉様に何かやりやがったんですか?」
「っけ、だから巨乳女なんてよう。」
【勘違いなされてますね、彼女は俺の嫁ですよ。婚約もしております。】
「「何だって!?」」
「・・・こ、紅玉様は変わり者か?」
「巨乳が好きなら街で探した方が良いぜ?この村にはいねえよ。」
【変わり者とは失礼ですね・・・まあ、巨乳好きには変わりありませんが?】
「それを変わり者と言うんだ!・・・で、ですよ。」
「アンタの連れも、醜い巨乳じゃねえか!」
【醜いとは酷いですね、これは美しいと言うんですよ。貴方達もまだまだですね。】
「はいはい、そんで、サーラの実家だろう?この道を真っ直ぐに進んで行けば広場に出る。その広場を右だ、赤い屋根のレンガの家が見えて来たら、左の路地を進め。そこからしばらく歩けば石造りの家が見えてくるだろう、その家だ。」
「しかし、アイツは紅玉様に何やりやがったんだ?」
【結婚したと言っているでしょう?】
「ははっ!ありえねえよ、なあ?」
「巨乳のサーラだろうってよ・・・紅玉様は本当に物好きだな。」
【あの娘の魅力に気付かない方が不幸ですよ?】
「魅力ねえ・・・。」
「だってよ、どうせその結婚も逃げ出すんじゃねえのか?」
「お、おい!」
「・・・言い過ぎた、済まねえ。」
【どう言う事なんですか?】
「サーラ殿に何かあったのか?」
「その話、聞かせてもらえるかな?」
「「・・・。」」
「お、俺達が言ったって言わないでくれよ?」
【もちろんです。】
「アイツ、男爵様の妾になるはずだったんだよ。」
「そうだ、その男爵から逃げ出しているんだ。」
【・・・初耳ですね。】
「主君、ここは話を聞こうではないか。」
クレアが言うなんて珍しい。
言われた通り聞いてみる事にする。
「男爵は男爵で噂のある奴だったんだよ。」
「そいつの嫁に行っていた女がいたぶられるって有名でな。」
【そんな事が・・・許される事ではありませんね。】
「まあ、御貴族様の事だしな。一介の村人なんかに拒否できる分けねえだろう?」
「そうだ、相手は男爵だぞ?断れば家族だってどうなるか・・・。」
「今までだって、村長とグルになってやってやがったしな。」
「ただ、フォマルハウトの状況は王国中に広がっているから、今更だが国王に尻尾を振っているらしいがな。」
「だな、流石だぜ、名君ドリュカス様。」
「そうだ、噂通りの人だったら、この村も統治してくれねえかな?」
「全くだ、やっと目障りな男爵がいなくなったんだ、国王の直轄地になったとはいえ・・・なあ?」
「その国王だって視察に来やしねえ。村がどんだけ困窮しているのかさえ分からねえだろうよ!」
【その事は俺からレガイア王に伝えましょう。だが、これだけは覚えておいてほしい。レガイア国王は根気強く王都の復興をしている。王都の事が終わりさえすれば外にも目を向けて下さるでしょう。】
「そんなもんかねえ・・・。」
「まあ、紅玉様が言うんだ、信じてみようじゃねえか。」
「・・・っと、それでその件は男爵が処罰されたんで新しい統治者が来るって噂だがな。」
「それに、サーラは今回の事を直訴したって言うからなあ・・・残念だが、もう会う事はあるまい?」
【税の事しか聞いておりませんが?】
「税だってよ、払えねえ家に娘がいるとその娘を「労働力」として持っていかれちまうしな。」
「そうだ、だがドリュカス様がやって下さったんだ。」
「その男爵だって、今頃、地獄で後悔しているだろうさ。」
そう言えば、爺さんがそんな事を言っていたな。
爺さんの昔馴染みの男爵に統治を任せたが、あまりの酷さにサーラが直訴したんだよな。
【それで、村でのサーラの扱いはどうなっているのですか?】
「男爵はもういないからな、ありがてえって皆が喜んでいたのさ。でも直訴したらコレもんだぜ?」
そう言ってその門番は首を斬るジェスチャーをする。
「おい、紅玉様が嫁って言ってるんだぞ!」
「そうか・・・じゃあ尊爵様が助けてくれたのか?」
【先程からそう言っておりますが?】
「それなら良いさ、尊爵様は変わり者だが、サーラを幸せにしてやれるんだろう?」
「そうだ、口ではこんな事を言ってはいるが・・・村人は感謝しているんだよ。」
「ただ、サーラが巨乳だから、素直に礼を言わないがな。」
直訴の事で、サーラに向いていた悪意は柔らかくなっているようだ。
【今では鍛冶師として俺の弟子をしていますよ。】
「そうなのか?」
「紅玉様ってアレだろ?『アリステリア様』を降臨させたとか言う。その神様だって見てるんだろう?」
「そうだ、『アリステリア様』の降臨を見れるなんてな・・・。」
【その件も俺とサーラが関わっているのですよ?】
「マジかよ・・・アイツ、スゲエ事をやったんだな。」
「なあ、紅玉様よ。俺達だって後悔しているんだ。」
「その分・・・幸せにしてやってくれよな。」
【それは任せて下さい。必ず幸せにして見せますよ。】
「確認ようっし!」
「通ってくれ。」
もう言う事は無いと受け取った二人が木でつくられた門を開ける。
ゴゴッゴッゴゴゴ・・・
【では、遠慮なく通りますよ?】
「ああ、後ろの二人も通ってくれ!」
「醜いなんて言って済まなかったな。」
【色々とありがとうね。】
そう言って門を後にする。
「サーラ殿も苦労しているではないか。」
「村の為に直訴など・・・出来る物ではないぞ?」
【その現場に、俺もいたんだよ。】
「では、旦那様が助けてあげたのですね、流石です。」
「それなら直訴の件も納得がいく、本来は死罪だからな・・・。」
【爺さんが話の分かる人で良かったってだけだよ、俺は何もしていない。】
「ふふっ、今更謙遜などしても私には分かっておるぞ、旦那様。」
「そんなところにひかれたのだぞ、主君。」
本当に何もやっていないんだがね。
二人のキラキラした視線が心に刺さる。
将来の俺よ、頑張ってくれ。
などと思いつつ、村の中を馬に乗って行く。
まずはサーラの御家族に挨拶だ。
家族構成も知らないしね。
お前なんかに大切な娘をやれるか!
とか、父親に言われたらどうしようか・・・。
そこは俺が頑張るしかないかな。
そして言われた通りの道を進み・・・サーラの実家らしき家に到着した。
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それでは、次話 サーラの実家(仮 で、お会い致しましょう。
御疲れ様でした!




