高みへの領域
いつも読んで頂き、誠にありがとうございます。
執筆が終わりました。
お楽しみ頂ければ何よりです。
フェイとともに集合場所である会議場の隣の部屋に来た。
部屋の入り口で志願者の確認を取っているようだ。
炉を選ぶのも運であるとの事からくじ引きとなった。
「神国であるソフォスより参った。「エルミス・グレイグ」である。」
「エルミス・・・エルミス様ですね、本人確認の為、こちらの腕輪を付けて下さいませ。」
「分かり申した。」
あの腕輪に個人情報でも入っているのだろうか?
「後は炉のくじを引いて下さい。」
「・・・二番だな。」
「二番炉の前でお待ち下さい。では次の方。」
「バイジンから来ました、「ミスト」です。姓はありません。」
・・・あ!
そうだ、姓を決めてないじゃないか!
ま、まあいい。
次までに皆と相談して決めておこう。
「キゴニスから来ました。「リリア」です。姓はありません。」
「失礼、テイマーか?魔獣の首輪は付いているようだが注意してくれたまえ。」
「はい。良い子なので、怖がらないであげて下さい。」
「ワォン。」
おぉ、テイマーだ。
テイマーとは動物や魔獣、聖獣を使役して敵と戦う者達だ。
彼女の連れているのは「魔狼」みたいだな。
珍しい。
定番の「聖狼」だと思ってたよ。
さすがにフェンリルはテイム値が足りないので出来ないのだろうな。
ましてやドラゴンテイマーでもないだろう。
どうも、ゲームと違ってドラゴンが強すぎる部類になっているようだからね。
「次の方、どうぞ。」
俺の番らしい。
【ガリファリア王国より来ました。ヘファイストスです。姓はまだ決めておりません。】
「ヘファイストス殿ですね。失礼、王であるレガイア陛下より国名は「ブリタニア王国」を名乗るように言われておりまして・・・。」
【それならば、ブリタニア王国で構いませんよ。】
そう言うと受付の兵士は俺と握手して腕輪を渡して来た。
腕輪を受け取り左手に付ける。
【今後気を付けますね、ありがとう。】
「はい、次の方どうぞ。」
「同じくブリタニア王国から来ましたフェイです。姓はまだ決まっておりません。」
「フェイさんですね、こちらをどうぞ。」
フェイも左腕に腕輪を付ける。
待っていると側に寄って来てくれた。
「坊ちゃん、姓を決めんとなぁ。」
【フェイも一緒に考えてくれないかな?】
「皆で相談するのがええな。」
【そうだね、これが終わったら相談しよう。】
「はい、坊ちゃん。」
【・・・フェイは何番だったの?】
「ウチは七番やぇ?」
【ラッキー・セブンか、いいねぇ。】
「そうなんですかぁ?」
【俺の故郷では運が付いている番号だよ?】
「それは良い事を聞きましたなぁ。それで、坊ちゃんは?」
【四番だったよ・・・。】
「その番号は何かあるんかい?」
【俺の故郷では縁起の悪い番号だ・・・四と九じゃなくてよかったよ。】
「坊ちゃん、ウチのと変えないかい?」
【いや、これも運だからね。まあ、精いっぱい頑張るさ。】
するとガシッと後ろから肩を掴まれる。
ああ、懐かしいじゃないか。
【ミカ!ミカじゃないか!】
「ふん、アンタも元気なようで安心したわ!」
【元気、元気!やっぱり来たね。】
「来るに決まっているじゃないの!アンタのその腕は錆びついていないでしょうね?」
【まあ、そこいらの奴には負けないけれどね。】
「今日こそはアンタが言う百点の物を作ってやるわ!」
【楽しみにしているよ、そう言えば、ミカはくじ引き何番だった?】
「九番よ!」
【っふ、俺は四番だぜ!】
「番号に何かあるの?」
【俺の国では四と九はめでたい時や試験などの時に使うのは遠慮したい番号だ。】
「「【・・・。】」」
「【ぐぬぬぬ・・・。】」
「二人とも変な所で張り合わんでも・・・。」
「それで、フェイ。ちょっといいかしら?」
「どうぞ、ミカはん。」
「前に見た時の私と思っているなら、フェイ、アンタの負けよ!」
「ウチに油断はありまへんえ、かかっていらっしゃい!」
「いいわね、余計に楽しみになって来たわ!」
そして各人が番号の炉に着くと放送が流れる。
『それでは、始めさせて、頂きます。まずは、鍛冶師宣誓。代表をされまして、ヘファイストス殿より、御言葉を頂きます。』
始まりは自分の宣誓からであった。
宣誓が終わると、各国の要人の紹介が始まる。
「エクスィ・スディラスになれなくとも好成績を収めれば・・・。」
「何処の国でも良い条件で雇ってくれるだろう。」
やる前からこういう思考になる人は申し訳ないが高みには行けないであろう。
エクスィ・スディラスは、そんな生半可な役目ではないだろうから。
最大の役目が、現れると言う勇者に与える聖剣の一振りを作る。
であっても、他にもその勇者に応えられる人物がなるのであろうから。
それに・・・。
『それでは、始めて下さい。皆様方、良き物を、お作り下さい。』
今回の作成物はミスリスのロングソードである。
練成は選考基準にならない。
何せ使える者が俺だけだからだ。
【さて、では始めますか!】
鞴を踏み込み炉の温度を上げる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもと違い空気がピリピリとする。
サーシャを連れて来たのは良い判断だった。
このピリピリした空気の中に少しでも味方となる者を側に置いておきたかった。
周り中の皆が良い意味で競争相手であろう。
私の番号は十番だった。
運が良いのか悪いのか。
前にいるドワーフの人が黒玉のミカさん。
流石に現エクスィ・スディラスの一人だけあって作業に無駄な所は認められない。
そして左前にいる人物。
ヘファイストス。
先程見た時は大した事が無いと思っていたのだが、鍛冶が始まると別人のようではないか!
だが、期待している皆の事を思うと挫ける訳には・・・。
「炉の温度は十分、ミスリルインゴット・・・お願いね。」
お爺様!
お父様!
私に力を!
『ラウ=シェン殿!お力を!』
心の中で師として尊敬していた方を思い出す。
お爺様の友人、エクスィ・スディラスであった人の、その形見である首から下げた「タグ」を握りしめる。
鋳型に溶けたミスリルインゴットを流し込む。
正直な所、私はミスリルインゴットを扱った事がない。
当然この中にも扱った事の無い人がいるはずだ。
これだけでも十分にハンデになるだろう。
だが構わない。
ハンデが問題なのではない。
自分の心が、自分自身が諦める訳にはいかない。
その為に苦労をして予選を何度か勝ち上がって来たのだ。
故郷に降り立つかもしれない勇者様に恥ずかしくない武器を!
その為に研鑽を積んで来た。
金属を溶かす事はかなりの高温が必要になる。
「よし、後は冷えるのを待つだけね。」
溶けたインゴットを鋳型に流し終わると後は冷えるのを待つ。
冷えたら鋳型を外して余計なバリを取り除く。
その後加熱しつつハンマーで形を整える。
ここでしっかりと仕事をしないと良い物は出来ない。
この段階が鍛冶師の腕に違いの出る所なのだ。
ちらっと視線を泳がす。
気になった人物の方へ視線を向ける。
この出会いは運命なのだろうか?
ミカ殿。
今は無き、ラウ=シェン殿の愛弟子と聞いている。
知りえたのは、二年前にそのラウ=シェン殿を街で我が家で看取ったからだ。
それまでの期間で教えて頂いた鍛冶の技を試す機会がついにやって来た。
その際に一番弟子であるミカ殿の事は聞いた。
だが・・・。
恩人の愛弟子とは言え情をかける訳にはいかない。
全力で挑むのが恩返しであろう。
と、ミカ殿の作業を見ていると声がかけられる。
「ねえ、さっきから私を見ているようだけれども、何かあるのかしら?」
「ミカ様、あの・・・後程、お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「・・・構わないわよ?」
「ありがとうございます。」
カーン!
カーン!カーン!
するとハンマーが金属を打つ音が聞こえて来た。
「こ、こんな早くにハンマーを使う者が!?」
「アイツ、本気でやっているわね。」
「アイツ・・・もしかして、ヘファイストス殿ですか!?」
慌てて左前を見る。
清らかな、そして綺麗な響きだった。
「そう、上には上がいるのよ。覚えておくと良いわ。」
「・・・このような、早くに。」
「負けていられないわね!私達もやれる事をやるわよ!」
「はい!」
そうして私達は鋳型の確認へ向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よし!」
金床から剣を火箸と呼ばれるペンチのような道具でつまみ上げると焼き入れを行う。
ジュワアアアアァァァァ・・・
ゴボゴボゴボ・・・
焼き入れが終わると確認して鑢掛けをし、砥石でミスリル・ロングソードを磨き上げる。
【うん、いいね。サンクトゥスを作った時と同じような手応えだ。】
だが、今回は女神様は降臨されない。
そう簡単に、ポンポン降臨されるはずがない。
見守っていて下さい、『アリステリア様』。
鍔を付け柄を作る。
そして鞘を作り、細工スキルで意匠を施す。
更に刀身に銀でルーン文字を刻む。
「よし、出来上がった・・・鑑定。」
シュン
「・・・うん、聖属性が付いたね。良い剣が出来上がった。サンクトゥスと同じで素直な子だ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カーン!
カーン!カーン!
「ふう、さすがミスリル、手ごわいね!」
前方から聞こえる音は多分フェイだろう。
後ろにも良い感じでハンマーを振り上げて音を出している人がいる。
先程のテイマーの女の子であろう。
左隣からはまだアイツのハンマーの音しか響いていない。
二人のエクスィ・スディラスのは右の列だ。
その二人のハンマーの音だろう。
残念ながら、あまり良い声は聞こえない。
アンタ達、気合を入れなさいよね。
相手は聖剣を作る事が出来るのよ。
元第一席の人間が極めてないと戻って来るほどのヤツがいるんだからね!
左からのハンマーの音が聞こえなくなった。
悔しいけれど出来上がるようね。
でもアタシはまだだ。
アイツが何か呪文を唱えている。
待ちなさい、ミカ。
余計な事に意識を向けるものではない。
貴女の精いっぱいを打ち込み、完成した物をアイツに見せるのよ!
カーン!
カーン!カーン!
加熱し、ハンマーを打ち込みながら無心になる。
『うーん、打っている金属から「ここ」を叩くんだよと言う声が聞こえてくるんだ。』
そうだったわよね。
それでアンタはフェイも、その領域に進ませたのかしら?
一月ほどだけれど、会っていない間に何をしたら極めたと言って出て行った人間に、もう一度鍛冶をやらせる事が出来るのか。
カーン!
ん?
今、光ったように見えたけれど?
カーン!
光っているわね。
カーン!
まさか!?
これの事なの?
カーン!
声は聞こえないけれど、これがそうなの!?
追いついた!
まだ完全ではないけれど、アイツの足元が見えた!
これがアタシの第一歩だ!
カーン!
光るそこへハンマーを打ち込む!
夢中になって打ち込む!
これが、アイツの見ている世界の一部なのね!
もっと!
もっとだ!
カーン!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
坊ちゃんが言う鉱物の声とやらはまだ聞こえない。
だけれど、鍛え始めてから見えて来た物がある。
そう、今回はミスリルだけれどハンマーを打ち込んでいると見える光のような物だ。
先日からそれを追ってノール工房で確かめるように打っていた。
これが坊ちゃんの言っている物かなのだろうか?
その時は登る山がやっと見えた気持だった。
カーン!
これが高み!
ウチの見えなかった、探し始めた高み!
坊ちゃんの示してくれたもの!
カーン!
わずかでも、坊ちゃんの足元に追いついただろうか?
振るうハンマーの軽い事!
もっとおくれ!
ウチをその高みに連れてっておくれ!
カーン!
心の音と一緒に跳ね上がる!
その音とともに!
カーン!
この音が!
カーン!
これがウチの進む道なのだろう。
坊ちゃんはやはりすごいお人だったんやなぁ。
運が良かった。
今ではあの人に拾われた事が運命のように感じる。
ああ、この為に!
この人に!
カーン!
その一音がウチを高みへと導く!
一歩ずつだが、確かに!
もっとだ!
もっとウチに示して見せろ!
カーン!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
前列から聞こえるその二音に魅了される。
「この音は・・・。」
そう、音で分かる。
これはある程度の高みへ達した者がハンマーを打つ音だ。
しかもそれが二音も!?
っく、この選考中に二人も高みに上がった者がいる!
「っく・・・。」
悔しいが私ではまだ届かないであろう、その音色。
こ、これでは。
このままでは届かない!
挫けそうになった私の心を支えるように声がかかる。
【うーん、君、確かリリアさんだったっけ?・・・もうちょっとだね。】
「ヘファイストス殿!?」
【君の中にある何かが邪魔をしてあの音にならないんだよ。】
「そうなのですか?」
【もっと深く集中してご覧、君には行ける所だよ。】
「・・・分かりました。」
カーン!
カーン!カーン!
【うん。きっと君にもたどり着けるよ。】
カーン!
彼女は深く潜り込もうとしている。
リリアさん、彼女達が到着したこの領域に・・・君はたどり着けるかな?
【さあ、フェイ、ミカ。油断は出来ないぞ?】
この領域にたどり着ける者はここには何人いるかな?
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
まずは、いつものから!
評価、イイネ、ブックマーク等々。
大変に励みになります!
皆様に感謝を!
続きは執筆中であります!
お楽しみに!
それでは、お疲れ様でした!




