爺さん再び
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部屋の中に入ると大きなダイニングテーブルがあり、左右に八席ずつと正面奥に領主席の合計十七の席が並んでいた。
ただ、今日使用するのは領主席を含め六席らしかった。
席を見るともう座っている人が二人いる。
レガイア様が右の奥の席に進むとステファンさんが代わりに案内してくれる。
「ヘファイストス様、パートナー様はこちらへどうぞ。」
そう言われて席に案内される。
なんと左の一番奥『上席』の次に当たる席へ案内された。
ルイスはその隣だ。
んん?
良く見ると右側の三番目に冒険者A君が座っているじゃないか!?
なお、冒険者A君は俺に気付いていないようだ。
おや?
赤い顔をして惚けた顔でルイスの事をジーっと見ているぞ?
嫌な予感しかしないね。
レガイア様が立っているので俺達も席の隣で立っていた。
これで揃ったのだろうか?
座っているのはレガイア様の奥方らしき女性と冒険者A君だけだ。
領主席の準備がしてあったので誰か来ると思ったのだがね。
気にしているとレガイア様が立ったまま家族の紹介をしてきた。
「ヘファイストス殿、ルイス嬢、隣が妻のマリーナだ。よろしく頼む。」
奥様が椅子から立ち上がり挨拶が始まる。
「御紹介頂きました、妻のマリーナと申します。今宵は夫の招きに応じて下さりありがとうございます。」
金髪で青い目の奥様は美しい人だ。
身長は165cmぐらいだろうか。
俺にとってはこの時代の『普通のドレス』としか形容の出来ない物を着こなしている。
やはり三十台半ばだろうか?
落ち着いたその雰囲気はレガイア様と同じで無視出来ない。
少々自己主張が強そうな印象を受ける。
こういう人が社交界で力を持つんだろうな。
俺は立ったまま返答する。
【こちらこそ、よろしくお願い致します。次期名君と、呼び名の高いレガイア様に御呼び頂けるとは、光栄の至り。奥様も美しく羨ましい限りですね。】
「ふふ、お上手ね。それで、少しよろしいかしら?パートナーの方のドレスはどちらのお店でお買い上げたドレスなのかしら?煽情的な意匠ですが美しいドレス、是非私も着てみたいですわ。」
俺はルイスに手を差し伸べる。
手を取ってルイスがマリーナ様に微笑む。
【こちらのドレスは私が手掛けたドレスでありまして、残念ながら売り物ではございません。パートナー専用に作った一品物になります。御容赦頂ければありがたく存じます。】
「まあ、鍛冶師としての素質だけでなく意匠や裁縫の素質までお持ちなのですか?羨ましいですわ。その才能を生かし、是非私にも仕立てて頂きたいものですわ。」
【機会が在れば是非と言いたい所ですが、本業の鍛冶師の仕事が忙しく申し訳ございませんが・・・。】
「それは仕方ないわね。本業が疎かになってはいけませんわね。ですが機会が在れば是非お願いしたいですわ。」
結構食いついてくるな。
仕方が無い。
【私には否とは申せません。機会があればマリーナ様専用の物をお作り致します。しかし今宵はパートナーを愛でて頂ければと思います。】
ルイスが素知らぬ顔で手をぎゅっと握ってくる。
愛でて下さいが不味かったか?
きっと後で怖いぞ。
「分かりました。今宵はパートナーさんに色々お聞き出来ればと思います。後程、お話し致しましょうね。」
と、ルイスにウインクする。
【ありがとうございます。ルイスも喜んでいると思います。後程よろしくお願い致します。】
「奥方様、よろしくお願い致します。」
ルイスと二人で頭を下げる。
「では、後程ね。ルイスちゃん。」
そう言って、マリーナ様は椅子に腰を掛ける。
もちろん、ステファンさんが手伝っている。
さて次が問題の・・・ヤツだ。
レガイア様が続ける。
「次は長男のマグヌスだ。」
例の書類のサインから名前は知っていたけど偽名かと思っていたよ。
元気に立ち上がって挨拶をして来る。
「マグヌス・フォン・オーカムです。父上から聞いております。先日購入された名剣を鍛えた鍛冶師様であるとか!無名であれ程の物をと、父上が大変感心されておりました。」
お友達と仲直りしたのかな?
まだ冒険者ごっこはしているんだろうか?
不安しかない。
「名剣を鍛えしその腕のお話を是非伺いたいです!今宵はよろしくお願い致します。」
【マグヌス殿、こちらこそよろしくお願い致します。】
「つきましては美しきパートナーの方とも、後程、お話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
ルイスが笑顔だ。
ただし怖い方の。
冒険者A君、もといマグヌス君は気づいていないので話を続ける。
「一目惚れを致しました!是非、お付き合いをお願い致します!」
それは告白と言うのだよ。
人のパートナーに向かって言う事ではないな。
ルイスは笑顔で聞いている。
ダメだ後が怖すぎる。
何とかしてレガイアパパ。
するとレガイア様がぼうけ、マグヌス君を叱る。
「マグヌス!貴様!控えんか!またそんな事を言って父を困らせるな!」
「ですが父上!私もこれだけは譲れませんぞ!」
「控えろと言っている!」
レガイア様が強く言うとつまらなそうな顔で答える。
「ルイス様、私は諦めませんからね!」
ふん!
そう言って席に座る。
ステファンさんが絶妙なタイミングで椅子を押していた。
あのタイミングで間に合わせるのか!
執事、凄えな!
しかし、嫌な予感が当たっちゃったよ。
人のパートナーを口説こうとするなんて何を考えているんだろうね?
レガイアパパ、頑張って収めてくれよな。
そう思っているとレガイア様から謝辞の言葉が掛かる。
「ヘファイストス殿すまぬ。息子には後できつく言い聞かせるので、この場は収めてくれ。」
「分かっております、レガイア様。」
と、言ってレガイア様に笑顔を向ける。
するとドアが開いて誰かが入ってくる。
気づいたレガイア様が笑顔で迎える。
「父上、よくぞ来て下さいました。」
そう言ってその人物に近づいて行く。
「ふぉっふぉっふぉ、ちょっと遅かったかの?」
あれ・・・どこかで見た記憶がある?
あ!
思い出した。
アリスと初めて会った時にお金の価値を教えてくれた爺さんだ。
「『あんちゃん』久しいの。息災かの?」
「ええ、おかげさまで。俺の金で飲んだお酒は美味しかったですか?『爺さん。』」
「うむ、他人の金で飲む酒は美味じゃったぞ。あんちゃん。」
「それは良かったです、爺さん。」
お互いにニヤリと笑う。
レガイア様が驚いている。
「父上は、ヘファイストス殿と知己を得ているのですか?」
「勉強を教えた仲じゃ。」
銅貨一枚持っていかれたけどな!
「教わった仲にございます。」
「ふうっ・・・父上、また視察と言う名の遊びに出ていたのですね?」
レガイアさんが怖い笑顔になっているぞ?
「気分転換というヤツじゃの。」
ふぉっふぉっふぉと笑っていやがる。
「あんちゃんとの仲じゃ、名乗るとするかの。わしは『ドリュカス・フォン・オーカム』と言う。以後よろしくのお。」
そう言ってウインクをして来る。
ああ、ステファンさんの言っていた名前だ。
爺さんの事だったのか。
「私は、ヘファイストスと申します。流れの鍛冶師をしております。こちらこそよろしくお願いします。こちらはパートナーの。」
「ルイスと申します。よろしくお願い致します。」
お互いに名乗りあう。
ドリュカス様が気遣って声をかけてくれる。
「ここは正式な場ではないので、気軽に呼ばせてもらうかの。なあ、あんちゃん。」
「ええ、構いませんよ、爺さん。」
「父上、よろしいのですか?」
「構わん、その方がわしがこの者と気兼ねなく話せるのでな。」
「かしこまりました。」
場の空気が穏やかになったような気がした。
「それでは、父上も来られましたので、後程詳しく話すとして夕食に致しましょう。」
「そうじゃの。そこの麗しい女性をこれ以上待たせる訳にはいかんからな。」
爺さんがそう言うと、皆がルイスの方を見る。
視線が集まるとルイスが恥ずかしそうに俯く。
真っ赤な顔のルイスを座らせて俺も座る。
いつの間にかステファンさんが後ろにいて俺の方だけ椅子を押してくれた。
・・・執事って凄えな。
そう言う訳で晩餐会が始まった。
副料理長と言う料理人が本日のコースは・・・と説明してくれている。
スープから始まり前菜、サラダ、魚料理、パン、肉料理、デザートのコースとなっていた。
ルイスが囁いてくる。
『ねえ、私、テーブルマナーなんて知らないわよ?』
【テーブルに料理が乗せられたらナイフやフォークは外側から使うと良いよ。心配なら俺のを見ていて。】
そう囁くと落ち着いたようだ。
さて、貴族料理ですね、大変興味があります。
まずスープ・・・塩味の野菜スープだった。
これは宿屋の物と同じ味だった。
貴族様でもこんな物なのか、残念だ。
それともこの世界では出汁を取らないのが普通なのか?
次にサラダ、ドレッシング等は無いのでバックパックから『マヨネーズ』を出してみた。
毒味の為に俺とルイスに盛り付けた後、ドリュカスさんに勧めると「これは美味い!」と皆に回って行く。
大好評のようだった。
マヨネーズは無くなるまで皆に使われたようだ。
結構大瓶だったんだけどな?
アイツが遠慮なく使いやがったんだな。
口の周りにマヨネーズが付いている冒険者A、もとい、マグヌス君の方をちらりと見た。
まあ良い、また作っておこう。
次は魚料理、焼き魚だった。
海もあるので久しぶりに新鮮な刺身が食えると思ったんだが残念だ。
続いてパン、ただの少し柔らかい白パンだった。
ルイスが柔らかさに感動しているようだが前に作った天然酵母を使った巻きパンの方が美味しかったね。
そしてメインの肉料理。
筋切とかはしないのだろうか、筋が固くてナイフが通らなく、しかも噛み切れない。
だが塩味がしっかりしていたのでそれなりに美味しかった。
やはり、ステーキソースとかは無い様だった。
残念だ。
最後のデザートは果物だった。
うん、オレンジとか林檎は酸っぱいね。
貴族様が食べる食事だからと気になっていたのだが、前世での食事事情を知っている俺は満足出来なかった。
歓迎されていない訳ではないよね?
うーん、食には興味が無いのかな?
でも、マヨネーズは大好評だったからなあ。
興味が無い訳ではないのかな?
そう思って隣を見ると、ルイスは満足したようだった。
「あんちゃん、すまんが先程のまよねえず?と言う物のレシピを料理人に教えてはくれまいかの?」
テーブルの正面の領主席、俺から言うと左側に陣取ったドリュカス様が申し訳なさそうにそう言ってくる。
マヨネーズが『商品』になると思っての聞き方だったのだろう。
遠慮しているような聞き方だった。
【ええ、結構ですよ。マヨネーズ以外にも色々とありますので、今度はよろしければ、私がお作りした料理も召し上がって頂ければと。』
「ほう、料理も作れるのか?」
【左様でございます。まだ未熟ではありますが。】
「ほう・・・それなら今度、頼むとするかの。」
【ドリュカス様とレガイア様の口に合えばよろしいのですが。】
それを聞いたマリーナ様が少し不満顔で言って来る。
「あら?私は混ぜて頂けないのかしら?」
【これは、失礼を。マリーナ様も是非に味わって下さいませ。】
そう言っておいた。
「ヘファイストス様!その時は私も御一緒させて頂きますね!」
マグヌス君がそう言って来たので仕方がないが平静を保って答える。
「機会があれば是非。」
短くそう答えておいた。
っち、君は呼びたくないんだけどな!
君だけをハブる訳にはいかないじゃないか。
マヨネーズのおかげで食事や調味料にも興味を持ってもらえたようだ。
これで食事事情が変わるといいね。
まあ、レシピは料理スキル頼みだけれど。
そうして厳かに晩餐会は終わるのであった。
此処までお読み頂きありがとうございます。
早い物でもう師走です。
皆様も風邪など引かない様にお体をご自愛ください。
それでは次話 爺さんからの依頼(仮 でお会いしましょう。
それではおやすみなさい。




