晩餐会とフェイの意地
いつも読んで下さって、誠にありがとうございます。
執筆終わりました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
新しく配置された部屋。
羊皮紙にコチョコチョっと書かれた地図。
これだけを見て、この方向音痴の俺が部屋までたどり着ける訳がない。
早くルイス達に会いたいんだけれどね。
「あれ?旦那様。晩餐会はもうすぐですよ?」
「どうかなされたんですか?」
「この階から上は、我ら薔薇騎士団百人長以上の居住区ですぞ?」
「・・・あれー、もしかしてぇ、お手付きですか?」
【えーっと、君達は?】
「「「ああー・・・。」」」
「これは失礼を、普段は完全装備でフルヘルムを被っておりますからな。」
「それではぁ~、わ・た・し・からぁ~。んんっ、御姉様の親衛隊の赤薔薇騎士団隊長アミィ・シルベスターであります!」
「黄薔薇隊、百人長総括、レイチェル・フォン・マーゴットと申します。」
「青薔薇隊にて騎士団の副団長を務めます。セシル・フォン・ゴールドバーグであります!」
巨乳ではなく美乳だ。
おしいな。
その美しいドレス姿の美人三人はビシッと敬礼して来る。
あれ、副団長?
【ああ!セリスと一緒にいたあの三人か!】
「あの、をどう受け取ればいいのかはおいておいて、旦那様。お手付きならば私がぁ~。」
「こら、アミィ。団長の旦那様を口説くな。」
「だってレイチェルも気になるでしょう?お姉様に「旦那様のモノは凄く気持ち良いぞ!」と言わせるモノが!」
「そ、それは気になるが・・・いや、今はどうして旦那様がここにいらっしゃるのかと言う事だ!」
「そうだ、アミィ。団長を泣かせてくれるなよ?」
「ぶー、硬いんだからぁ。それで旦那様はどうしてこちらに?」
【ああ、実は道に迷ってしまってね。新しく割り当てられた自分の部屋が分からないんだ。】
「何か部屋が分かる物はお持ちですか?」
【これが地図なんだけれど・・・分かるかな?】
これだと分からないよね?
「ああ、入り組んでて分かりづらいですよねー。」
「これは北の棟ですね。よろしければご案内致しますよ?」
分かるのか!?
【案内を是非お願いしたい。】
「それでは、我らに付いて来て下さいね。」
【分かりました、よろしくお願い致します。】
そう答えるとアミィと呼ばれた娘が腕を組んでくる。
「ねえねえ、旦那様?夜の方は激しいのですか?」
「こら、アミィ。失礼だろう!」
「でもー、セシルだって気になっているでしょう?」
「そ、それはだな・・・気になる。」
「で、どうなんですかぁ~?だ・ん・な・さ・ま。」
【セリスはとても魅力的な女性です。なので済まない、君達の思いは嬉しいが裏切る訳にはいかないんだ・・・ああ、とても残念だ。】
「アッハッハ!アミィ。振られたようだぞ!」
「賭けは私達の勝ちだな!」
二人がハイタッチしている。
「ぶー、旦那様のいけずー。」
この子達、俺で賭けをしていたのか?
機会があれば懲らしめてあげないとな。
そんな事を考えていたら到着したらしい。
「こちらですね。初見の方は迷いやすいので、中央棟からの北通路を通り抜ける事を忘れないで下さい。」
【ありがとう、助かったよ。】
「お姉様によろしくお伝え下さいねー。」
「団長によろしく。」
「では、会場でお会い出来る事を。」
【ああ、会場で!】
そう言うと三人が何か楽しげに話しながら去って行った。
仲は良いんだな。
俺で賭け事をするのはけしからんが。
ふう、やっと目的地に・・・あれ?
隣の部屋のドアまでが遠い。
何か間違っていないだろうか?
でも、案内してくれた所らしいからなあ。
・・・ん?
部屋の中から話声がするぞ?
やっぱり間違えて・・・いやいや、案内してもらった部屋だ。
とりあえずインター・フォンを・・・ある訳ねえだろう!
ここはノックだ。
コンコン
あれ?
聞こえないかな?
ガチャッ
「はーい?」
【サーラじゃないか!】
「ヘファ師匠、遅かったじゃないですかー、待ちくたびれましたよ!」
そう言って唇にキスをして来る。
【ああ、迷っちゃってね。それでこの部屋は?】
「皇帝陛下が『妻と離れているとは何事か!』と、おっしゃりましてこのような部屋になりました!」
【おぉ・・・広い。それに夜景が綺麗だ。】
「お帰りなさい、貴方。」
その声が聞こえると同時にキスをする。
【ただいま、ルイス。遅くなっちゃってごめんね。】
「良いのよ、でも、時間が無いからフェイさんと挨拶をしたら着替えてね?」
【分かった。】
「おかえりよ、坊ちゃん。」
【ただいま、フェイ。】
キスをする。
「それで、なんで遅くなったんさぁ?」
【部屋の地図が分からなくてさ、迷った所を案内してもらったんだよ。】
「どんなもんもろーたのぉ?」
【これだけどね・・・。】
そう言ってもらった部屋までの地図を渡す。
「ありゃー、これじゃあ分からんよ。」
さすが、フェイさん。
何でも出来るお方!
俺の感覚はおかしくない、あの子達の感覚がおかしいんだよね?
【あ、そうだ!皆に言っておく事があるんだよ。】
「「「何かしら?」」」
【オーガの牙のディアナさんを預かる事にしたんだ。】
「・・・何かあったのね?」
【そうなんだよ、ルイス。ちょっと新人君がミスをしちゃってね・・・敵に不覚を取ってしまったんだよ、それでね自信を付けさせてあげようと思ってさ。】
「分かったわ。」
「分かりましたー!」
「分かったんよ~。」
【ありがとうね、皆。それで、早速明日から・・・。】
「貴方、そろそろ着替えてね?」
【時間が無いかな?うん、分かった。】
そう言われて部屋を見る。
部屋にはベッドが六つある左に二個、右に三個。
そして六つ目の中央のベッド。
でかい。
全員で寝ても余るのではないだろうか?
あれ?
ベッドが六つ?
一つ余るじゃない・・・か。
余っていない、ナナリーさんの分だ。
ここにはいない、ナナリーさんを思う。
苦労をかけっぱなしだな。
何とかしてあげないと。
さてと、それで着替えられる場所は・・・。
【ルイス、左にある、あのドアは?】
「そう、この部屋には蒸し風呂があるのよ!」
【じゃあ、そこで着替えようかな。】
「ねえ・・・私達がいると着替えられないの?」
ルイスさん、意地悪な顔をしていますよ?
【そんな事は・・・ないけれど。】
「なら、良いじゃない。」
【でもさ、一日中外にいて汗で汚いよ?】
「なら、拭ってあげるわ。」
「そうですよ、ヘファイストス様。」
「拭うのなら、任せておくれよ、坊ちゃん。」
三人が布を持ってじりじりと近寄って来る。
【あの、皆さん。時間が無いのでは?】
「「「時間ならあるわよ?」」」
ニコッ
【さっき無いって・・・アーッ!】
こうして三人に綺麗に全身を拭われた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
せっかく綺麗になったんだ。
用意された白いスーツに着替える。
・・・なにか大切な物を亡くしたような気がする。
俺がするのならば良い。
やられるのは嫌だ。
そう、俺は我が儘なのだ。
赤いドレスに着替えた三人と皆がいるであろう大ホールへと向かう。
こう言う場合の式典では公国でも紅白だったな。
何か謂れがあるのだろうか?
そんな事を考えていると大きなホールへとたどり着いた。
ホールの真ん中はダンスの会場になっており、二階の北側には皇帝陛下がいらっしゃる。
そこにナーブもいて和やかに話をしているようだ。
・・・今は我慢だ。
「アーサー、やっと来たか。」
【やあ、ノモス。お待たせ!】
『例の件、今夜だ。』
耳元で囁いて来た。
「分かった。」
簡潔に答える。
「ねえ、何かあったの、貴方?」
【何でもないよ、さあ、御飯を食べようか。ちょうどお腹が減っているんだ。】
「・・・ええ、行きましょう。」
ルイスに手を取られる。
おや、珍しい。
御飯を食べている時にセリスと合流する事が出来た。
何故か白いタキシードだった。
【セリス、その恰好は・・・?】
「旦那様、こ、これは違うんだ。決して旦那様と踊りたくない訳では無くてだな。」
「団長、早く踊りましょうよ~。」
「アミィ、少し待て!」
「ふふ、旦那様。お姉様は頂いて行きますわ!」
「だ、旦那様ぁっ!」
・・・何のこっちゃ。
あれ?
もしかしてセリスさん、そちらも行けるの?
うへへへ、おじさんちょっと張り切っちゃうよ?
「悪い事を考えてる時の顔ね。」
「そうですね、ルイスさん。」
「坊ちゃん・・・ウチの男はしまらんなぁ。」
呆れられてしまった。
気を付けよう。
食事をとりながらホールを見物している。
腹八分目ぐらいでやめておく。
ルイスがホールの中央を見ていたからだ。
ジャスティンとラフィアの見事な踊りがホールを沸かせる。
「素敵・・・。」
【んんっ、それでは、踊って頂けますかな。マイ・レディ?】
「え、お、踊れないわよ?」
【俺の嫁さんなんだって皆に示してくれないと、声をかけられちゃうじゃないか。】
「で、でも!?」
【足を踏むのがなんだよ、ルイスが踏んだぐらいで俺の足がどうにかなる訳ないでしょう?】
「でも、あの、は、初めてなのよ?」
【誰でも最初は初めてだよ、それが今日だったってだけでしょう?】
「良いの?」
【初めてはルイスとって決めてるんでね。】
「ふふ、その気になっちゃったわよ?知らないから!」
右手でルイスの左手を取るとホールへ向かう。
「ヘファイストス様、次は私ですからねー!」
「旦那様と踊る機会!逃す訳にはいかない!」
セリス、いつの間に戻ったの?
「坊ちゃん、最後はウチなぁ。」
皆に送り出される。
ルイスの腰に手をかける。
音楽に合わせて・・・。
ドグォッ!
いきなり足を踏まれた。
ルイスさん、ステップ逆です。
「ご、ごめんなさい!」
【構わないから踊って、ルイス。】
ゴスッ!
【大丈夫だからね、踊りに集中して!】
「う、うん。」
ガンッ!
【っぐ!】
「ああ、ヘファイストス様、ルイスさん!」
「ルイス殿は踊った事はあるのか?」
「無いはずやなぁ・・・。」
これで踏まれたり削られたのは九回目。
だが、耐えて見せる!
持ってくれよ、俺の足っ!
「ねえ、もう止めないと!」
【ルイスと踊る事に意味があるんだよ?】
「ごめんなさい・・・。」
そして十四度目の蹴りを脛に食らった所で音楽が終わる。
【ありがとうございました。】
「・・・ありがとう・・・ございました。」
【ルイス、たのし・・・ルイス、今度の機会も踊ろうね?】
「・・・うん。」
元気付けるように両肩に手を乗せる。
「ルイスの嬢ちゃん、冷たい飲み物を用意してあるんよ。こっちおいでぇ。」
「はい、フェイさん。」
フェイがウインクして行った。
ナイスだ、フェイ!
素早くバルコニーに出ると足を確認する。
っく、思ったより酷いな。
急いで回復ポーションを飲む。
よし、治った!
ホールに戻り、ルイスの様子を窺うと、俯いていた。
うーん、練習してから誘えばよかったかなぁ。
後悔する。
「ヘファイストス様、次は私ですよ?」
【それでは、レディ、お願い致します。】
「はい、ヘファイストス様!」
音楽が始まる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【っく、十一回か。ポーションを・・・。】
バルコニーで回復ポーションを飲む。
よし、回復!
素知らぬ顔でホールに戻る。
次は・・・セリスか。
彼女なら踊れるだろう。
ちょっと一息。
「旦那様、申し訳ないのですが、私は女性パートが踊れないのです。」
【どう言う事?】
「士官学校の授業では男性として女生徒と踊っていたので私は男性パート以外は踊れません。」
試しに組んでみた。
・・・同じ格好だ。
組めない。
仕方がないので踊る事を断念。
さあ、最後の相手だ。
【さあ、最後の嫁さん。準備は良いかい?】
「タン、ツー、タタン、ツート、タン・・・。」
【フェイ?】
「坊ちゃん、何でもないわぁ。ほら、行くよ?」
【おう!】
「セリスさん、皆様が見ている中でこれは不味いのではありませんか?」
「うむ、物凄く不味いぞ?」
「な、何故ですか、サーラさん、セリスさん?」
「ルイス殿、サーラ殿、耳を貸してくれ。」
「「ええ。」」
『良いか、旦那様程の方の相手ならばダンスなど踊れて当然と周りは思っているはずだ。』
『そんな物なのですか?』
『そうだ、だが、その相手が、伴侶が踊れなかった等と言われてみよ?旦那様の名に傷がついてしまう!』
『そんなに大変な事になるのですか!?』
『ルイス殿、社交の場ではそれは当然のように見られるのだ。』
『では、フェイさんが踊れないとなると・・・。』
『そうだ、旦那様のパートナーはダンスを踊れる教養も無いのか!と、言うように見られてしまう!』
『そ、そんな!?』
『フェイ殿は徳之島の出身と聞いておるから、この大陸のダンスなどは踊れぬだろう。』
『許して頂戴、貴方。』
『申し訳ありません、ヘファイストス様。』
『済まない、旦那様。こんな事なら女性パートを踊れるように・・・ん?』
「お、踊っています!フェイさんが!?」
「踊って・・・いますね。」
「息もピッタリだ、フェイ殿は何故踊れるのだ!?」
そう、俺達は踊っていた。
フェイが完璧に女性パートを踊っているのだ。
「トン、ツー、トントン、ツー・・・。」
【フェイ、踊れたのですね。】
「慣れない踊りはきついけれどなぁ。何とかなってるようで良かったわぁ。」
【フェイ、無理をしていませんよね?】
「ちょっと厳しいなぁ。」
【まさか!?】
その額から脂汗を流し、懸命に踊っている。
フェイの事だから先程から見ていた他の人の踊りをコピーでもしたのだろう。
こんな事にその才能を使わなくても!
【フェイ、終わったらすぐに医務室ですよ?】
「大丈夫やで、坊ちゃん。」
【駄目です、抱きかかえても連れて行きますよ!】
音楽が終わるとフェイと挨拶をかわす。
彼女を抱き上げて医務室へ運んでいく。
「さすが、英雄の嫁ではないか。」
「素晴らしいわね、踊れる嫁もいたのね?」
っく、今は我慢だ。
急げ!
医務室に着くとまずは足を診る。
爪は剥がれ、靴にまで血の滲んだ靴下。
靴擦れも酷い。
昔のルイスを思い出してしまった。
もう二度とやらないと誓ったのに!
【フェイ、どうしてこんなになるまで・・・。】
「良いかい、坊ちゃん。ウチの事はいくら言われても良い。だけどな?ウチの旦那が言われるのは我慢ならん。」
【そんな事でこんなになるまでダンスを踊ったのかい?】
「そうや、それが女の意地や。旦那に恥かかせるわけにはいかんで?」
【でも、もうこんな事はやめてくれよ。俺はフェイにこんな事をさせる為に嫁にしたんじゃない。】
「坊ちゃん、顔をあげぇ。ウチの男は本当にいい男なんや。だから、もっと良い男におなりぃ。」
【うん、フェイが、嫁が自慢出来るような旦那になって見せる。】
抱き寄せる。
それがとても尊い物のように。
「・・・。」
「ルイスさん、私、感動しました。」
「え、ええ、そうね・・・。」
「旦那様の事を考え行動する。その尊き事・・・私も真似をせねば。」
「そうね・・・。」
ポーションを飲ませると安心した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
晩餐会が終わり皆で部屋に戻る。
隣にはフェイがいた。
そう、何故か離れたくなかったのだ。
部屋に戻るとフェイとキスをする。
もう離さないと言ったように。
それを見ていた皆がフェイを立ててくれる。
とても激しく、とても情熱的に交わった。
他の子もいるというのに・・・。
ルイスがいたのに・・・。
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
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それでは 次話 嫉妬(仮 で、お会い致しましょう!
お休みなさいー!




