敵にしてはいけない人達
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お楽しみ頂ければ幸いです。
「剣聖殿、来るようだぞ?」
「ああ、感じちょるよ。気が集って来るでな。」
「ふむ、五十程だな。割り当てはどうする?」
「そんな物は、適当で良いじゃろう。」
「「・・・。」」
「・・・不機嫌だな?」
「わしの故郷で戦がある時はのう、同じ釜の飯を食ったやつは特別でな。」
「ほう。」
「それこそ「戦友」と言う、戦場で一緒に戦った仲間ならばなおさらな。」
「そうか、ならば・・・ここは譲ろう。」
「ほう・・・良いのか?感謝するでのぉ、軍帝殿。」
「ただし、十分だ。それまでは・・・待つ。」
「かたじけない・・・それでは先陣つかまつる!・・・いざっ!」
敵の群れに向かって駆けだす。
わしは指導する立場になってから決めていた事がある。
それは弟子や慕って来る若い者達への気持ちじゃ。
今回で言えば、坊主にオーガの牙達。
それに経験の浅い小童達。
わしに師事する事によって何かを掴んでくれる。
そんな事を楽しみにしておるのじゃ。
小僧二人からディアナの嬢ちゃんの件を聞いた。
経験の浅い冒険者が先輩の戦いぶりを目の当たりにして高ぶる。
その事が原因で目の前で先輩冒険者が不覚を取ってしまった。
それだけならばこうも「もやもや」はせん。
戦の勝敗は兵家の常じゃからじゃ。
じゃが、今回の戦いにおいて蟲ごときが格下の相手を利用した。
油断さえなければ、これは皆が思う事じゃろう。
じゃが、体制不利と見るや、弱者を利用するようなやり方・・・気に食わん。
女子とはいえ戦士に向かってする事ではない。
幸いにも無事じゃったからええが。
もう少しで取り返しのつかん事になるところじゃった。
鍛えればまだまだ伸びよう戦士に向かって・・・。
たかが蟲っころごときがのう。
・・・気に食わん!
これは八つ当たりに近い物だとは思う。
戦に卑怯もへったくれもないのも分かる。
じゃがのう。
わしの中でくすぶっておるこの気持ちはいかんともしがたく。
剣聖等と呼ばれてはいるがまだまだ未熟よな。
・・・あの蟲ども、断じて許す訳にはいかん。
ここで根切りにしてくれる。
合戦じゃ!
これはもう、わしと蟲の合戦!
背中に修羅を背負い、その白銀の敵に向かって斬り込む。
「ドリャアァァッ!」
ザシュッ!
「ギシャアアアァァァー!」
その一撃で目標にしていたヤツの右腕を斬り飛ばす。
敵が一人とみると囲んで戦ってくる事を選んだのじゃろう。
ふむ、こいつらはまざーから直接指令を受けておるのか?
それともそれに対する戦術でも自分達で考えておるのかのぉ。
「・・・五月雨斬り 五連!」
ザシュ!ザグ!ザシュ!ザク!ザン!
師事する立場として!
ザッシュ!ザグ!グザッ!ドチュ!ザン!
若い者への道を!
ザン!ザシュ!ザン!ザグッ!ザン!
強大な敵にも挫けぬ心を!
ザグ!ザン!ドシュ!ザシュ!ザン!
この老いぼれが!
ザシュ!ザン!ドシュ!ザン!ドチュ!
切り開いてやるわい!
周りにいる十体程の蟲っころを切り刻む。
「「「ギャシャアアアァァァ!!!」」」
そして囲まれる前に剣撃にて道を作る。
「六の太刀・返し刃 豪閃!」
ズバッ!
「シャギャアアァァー!」
わしはこの歳まで基礎を積み上げ、重ね上げて来た!
その鍛錬にかけて言おう。
今のわしに油断は無い!
その蟲どもを睨みつける!
「ギャ、ギャシャアアアァァァ!?」
「ギャシャアアアァァァ!?」
「キシャアアアァァァ!?」
蟲でも怯えるか?
だがわしは慈悲などはかけんよ?
あの小僧どもの必死な泣き顔が心にあるでな。
『お、俺達のせいでディアナさんが!』
『うわああ!俺達のせいですんません!』
そう、あの泣き顔が心にある限り。
慈悲など微塵もないぞ?
「四の太刀・崩月!」
ザッシャアァ!
「ギシャアアアァァァ!」
断末魔を上げて骸になる蟲っころ。
今日のわしは一味違うぞ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ああ、素晴らしい。剣聖、これ程までなのか!?死合いたい・・・是非、死合いたい!」
このままでは十分と経たず敵がいなくなってしまう。
だがそんな事はどうでも良い!
この、今の剣聖と死合いたい!
そんな高揚感が我を包む。
『冷静になりなさい、ラヴィーネ。』
っく、シュタイア!?
邪魔をするな!
我は今の状態の剣聖と戦いたいのだ!
『愛刀の無い状態で?』
そうだ!?
ゲフォーレナ・ボーデン!
激戦を共に潜り抜けてきた愛刀が無い!
『100%の力を出せない状況では勝てないわよ?』
煩い!
我は!?
『負ける事は教えてませんよ?』
っく!
・・・そうだ。
我は軍事国家ヘルシャーの軍帝、ラヴィーネ。
負ける事は許されない。
『良い子ですね、ラヴィーネ。』
そうだ、言う事を聞く。
だから見捨てないでほしい、シュタイア!
『良い子にしている限り見捨てたりはしませんよ?』
そうだ、我にはシュタイアがいればいい。
民に、子供達に食料と笑顔を!
私が上手くやらねば・・・。
『そうです、今回はお預けです。』
・・・だが、だがっ!
自分の心に灯った炎が・・・いつもは冷たいのだが、熱い炎が今回はそれを許さなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それは白銀の蟲っころが後七体になった時じゃった。
「う・・・うあああぁぁぁっ!?」
嬢ちゃんが急に叫んで緩やかに凍気を上げ始めた。
「どうしたのじゃ、軍帝殿?」
「ハアァー・・・ハアアァァァァー!」
「時間はまだあるはずじゃぞ?」
剣気が、凍気がわしに向いておるじゃと?
「剣聖・・・我と、死合え!」
「合戦の途中じゃぞ?」
「今の、今のお主と死合いたい!」
「なれば、蟲っころを倒したら考えよう。」
「良いんだな・・・。」
「出来れば借り物の力ではないお主と戦いたかったがな。」
「なら我も参加させてもらおう!」
「構わんよ。」
「・・・Eislanze 21 Stränge!(アイス・ランス 21連!)」
二十数本の氷の槍を具現化しおった!
ほう、先程までの魔法の威力と数が違う。
今までは抑えておったと言ったところか。
「Los!(行け!)」
シュゴッ!!!
その氷の槍が白銀の蟲っころ達を襲う!
ドシュ!
「ギシャアアァァー!」
ザシュ!
「キシャアアアァァァー!」
ドズッ!
「ギシャアアアァァァー!」
ピキ・・・パキッ・・・。
槍に貫かれた蟲どもが凍って行く。
パキーン!
「Zerbricht!(砕け散れ!)」
パキャ
ビキッ!
パリーン!
蟲っころ達は声もなく砕け散った。
今ので蟲っころは全滅のようじゃ。
これでまざーまでの道は出来たかの?
さてと・・・。
「ハアッ・・・ハアッ・・・。」
「お主、魔力が足りておらんぞ・・・そのまま使い続ければ枯渇して倒れるぞ?」
「ハアァッ・・・ハアッ・・・か、構わん。死合おうぞ!」
「・・・場は作ってやるで、今回は見送りじゃ。」
「何だと!?」
「完全なお主と対等に戦ってみたくなったわい、次の機会にせよ。」
「この高ぶりは・・・いや、次だな?必ずだぞ!」
「ああ、わしは約束を破った事は・・・一度しかない。」
わしはそう言うと坊主達と合流する為に、まだ戦気の沸き立つ戦場へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
眠っているディアナを陣に落ち着かせると皆を伴って最前線に出る。
アンリさんとミハエル君にはポーションを渡して重傷者に配ってもらっている。
新人達の指揮をラフィアに一任させてもらった。
無理をさせないようにする為にアンナをサポートに付けて。
前衛を右にヘイム君と左にシルビィさん、中央をタケゾウ君に任せ遊軍としてファムさん、ルウさん、ベイト君で固めた。
師匠とラヴィーネが白銀のテラサンと戦ってくれているので脅威になるのはアヴェンジャーとマトリアークのみ。
左の最前線にジャスティンを右の最前線にダンをつけた布陣だ。
正面?
もちろん俺だよ。
ネーア団長に言って騎士団を順次下げてもらっている。
後退が済めば俺達以外に戦場にいる友軍はいない。
それにこの魔法は強力すぎて味方をも巻き込んでしまうからね。
「ヘファイストス殿、全員下がったが戦線を維持できんぞ?」
【済むまでは防御陣形でお願い致します。】
「分かった、任せたぞ!」
そう言うとネーア団長は指揮を取りに自陣に戻って行った。
準備は整った。
・・・さあ、鬱憤を晴らそうか!
よくもやってくれたな、虫ども!
喧嘩を売った相手を、間違いだったと地獄の底で思い知るがいい!
カギュィーン!
味方を巻き込む事の無い様に魔法障壁を張るとその魔法の呪文を唱える。
【天に荘厳たる大いなる龍王、その地に精霊王の加護、古き契約を持って虚空の彼方より来たれ・・・】
ザシュ!
「シャギャアアァァッ!」
「アーサーが呪文を!?」
ズバッ!
「シャガアアァァッ!」
「アーサー・・・本気って訳か!?」
ッシュ!
ズドッ!
「ギャシャアアァァッ!」
「アーサー君、やってやるんさー!」
「シルビィさん左から来ますわよ、ヘイム君は前に出すぎないように!・・・アーサー様。」
【そしてかの力は我らに真なる絶望の終止符を与えん・・・】
巨大な魔法陣が俺の正面に展開し、何百と言うテラサンを押し返す。
テラサンごときではその魔法障壁を破れない。
その様子を呆然とタケゾウ君が見上げている。
「何だ・・・これは!?」
「アーサーさん!?」
「ヘイム君、ダンもすべてをカバー出来る訳ではないのよ!」
「は、はい!」
「アーサー様!?」
「シルビィさん、ジャスティンの脇を抜けて来ますわよ!」
「わ、分かりました!」
「何だこれは!?ただの人間がなぜここまで強大な力を操れる!?」
「タケゾウ君、見ておくと良いですわ!・・・英雄の本気のほんの一部を!」
「御屋形様・・・一人前って・・・こいつは、こいつらは化け物の中の化け物じゃないですかー。」
「ファム!棒立ちで何やってるの!」
「ルウさん、とにかく援護っすよ!」
【その全てを糧として血の盟約のもと我が呼びかけに応じ・・・!!!顕現せよ!!!】
「おいおい、こりゃあ・・・。」
「ネーア団長!魔力震が発生しております、このままでは!」
「周りを見てみろ。」
「こ、これは・・・結界ですか!?」
「そうだ、おそらくだが・・・婿殿だ。」
「馬鹿な!この規模の結界など!?」
「それぐらいの事が出来るんだよ、あの英雄殿には。」
その呪文が完成した。
【古の龍王 バハムル!!!】
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
正面に展開されていた巨大な魔法陣からそれを扉として巨大な龍が現れる。
【グルオオオオオォォォォッ!】
その低い唸り声に戦場にいる者達は戦慄する。
【グルオオオォォォァアー!】
「な、何だあれは!」
「竜じゃない・・・あれは龍だ!」
「龍神様が!?」
「龍神様!?」
「「「おお・・・我らを救いたまえ!」」」
その現れた神々しい龍王に兵士達が祈りを捧げる。
【敵を薙ぎ払え!】
【ゴルアアアァァァーーー!】
ギン!
ガギュン!
バハムルの口の前に魔法陣が現れる。
シュオオオォォォー・・・
そこに力が、光が収束して行く。
その光は最初は黄色。
段々と黄金色になり、最後には白になった。
【我らが敵を殲滅せよ!10th !!!メギド・フレア!!!】
【ゴアアアアアアアアアァァァァァァーーーー!】
バシューーーーー!
咆哮とともに目の前が真っ白になる。
その閃光は周りにいたテラサンの大軍を飲み込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
北の空が輝く。
閃光が夜空を割り星空へと吸い込まれて行った。
「坊主も派手にやりおるではないか・・・。」
「っく、我よりも高みにいる強者が二人もいるのに・・・肝心な所で魔力切れとは!」
「お主、戦う以外の事も考えよ。」
じゃがこの一撃は強烈すぎるな。
地形が変わりよるぞ?
・・・後は丸裸になったまざーだけじゃな。
さて、どうするかの?
坊主も鬱憤が晴れたじゃろう。
問題は坊主にあの黒いヤツが出なかったかどうかじゃな。
鍛錬を積んでおったので大丈夫じゃとは思うが。
さて、戻ってどうするかを考えようかのぅ。
光が治まって来た。
その方向に向かって歩き出す。
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