二つの冒険者パーティー
いつも読んで下さっている方々、こんばんは!
執筆終了致しました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
「皆!事件よ!それも大事件!」
「どうしたのよ、ファム?」
斥候で弓戦士のルウが反応した。
「まずは落ち着きなさい。深呼吸を。」
リーダーをやっている重戦士のシルビィが促してくる。
「スゥ~ハァ~・・・スウゥ~ハア~・・・。」
「ジャスティン様達に何かあったの?」
魔法使いでヒーラーのアンリが質問して来る。
「すー、はーーー。ってそうよ!ジャスティンさん率いるオーガの牙が帝国へ行くらしいわ!」
「あら・・・。」
「本当に大事件じゃない。」
「情報の真実味は?」
「この耳で聞いてきたのよ、アンリ!」
「詳しく聞かせて頂戴。」
「分かったわ、シルビィ。でも、その前に喉を潤わせてもいい?」
「いいけれど情報を聞きながらね?」
「やった!お姉さん葡萄酒をお願い!」
「そうね、ジャスティン様の事が気になるわ。」
「シルビィ、どうするの?」
「アンリ、ルウ。まずはファムの話を聞きましょう。判断はそれからね。」
「ップァ~!・・・じゃあ、話すわね。皆さんが遅い朝御飯を食べ終わってからの事よ。怪しい赤いフードの男が現れたのは!」
「ファム、オーガの牙関係で赤いフードと言うと「紅蓮のアーサー」様しかいらっしゃらないのではなくって?」
「え!?あの人が英雄様ですか?怪しいフードマントの男でしたよ?」
「貴女もフードを被れば、人の事が言えないぐらい十分に怪しいわね。」
「で、テラサンとか言うのをやっつける為に帝国へ向かうらしいのよ!」
「ファム、まずは人の話を聞きなさいよね!」
「アンリ、最近の帝国の大きな情報はあったかしら?」
「えーっと、三十の日ぐらい前にテラサンの軍勢を退けたと言う情報があったわね。最近だとアーサー様と姫様の婚約かしら?それと『創造神、アリステリア様』を降臨させた鍛冶師の話ね。」
「・・・婚約・・・うふっ、婚約・・・っは!て、帝国へ向かうのはテラサンの再侵攻の可能性かしら?」
情報元のファムは給仕のお姉さんが持ってきた葡萄酒をグビグビと飲んでいる。
「それで、ファム。他に情報は?」
「進軍は本日を入れて三日後の十時になるらしいわ。後はアヴェンジャーとか言うのに注意をするように話をしていたわね。」
「アンリ、テラサンについての情報を・・・知っているだけでいいわ。」
「はい、繁殖力が高い種族ですね。『ダイアー・ウルフ』を狩れる私達なら『テラサン・ウォーリアー』は問題ないかと。」
「ウォーリアーとあえて分けて言うなら他にもいるのかしら?」
「ええ、『テラサン・ドローン』ね。これは一匹なら私達でも倒せるわ。問題なのはテラサンの習性ね。」
「習性ですの?」
「はい、必ず群れで行動するの。後は地面からいきなり出てくるらしいわ。なのでモンスターの危険度はウォーリアーでもCランクです。」
「ねえ、シルビィ。Cランクだと私達には荷が重いのではないかしら?」
「ルウ、いい事、これは好機なのよ?」
「やっとランクが八等級になったのだから無理をする事はないと思うけれど?」
「ジャスティン様が戦いに行くのよ?これは最前線でその姿を拝見できる機会なのよ!」
「うーん、最前線って危険なんじゃないかな?」
「ルウ、これも愛の為よ!おほん、それで、ファム。ジャスティン様達はフェアリー・ゲートで移動するのね?」
「・・・あ、ごめん、そこまでは言ってなかった。」
「もう、肝心な所を!」
「ご、ごめんってば。だからお小遣いを減らすのは勘弁して・・・。」
「ふう、今回だけよ?」
「っほ・・・。」
「良かったわね、ファム。」
「ねえ、アンリ。話を聞いてて思ったんだけどアヴェンジャーって言うのが出てきたらヤバイらしいわよ?」
「テラサンとアヴェンジャーについての性質は私が調べておきますね。」
「皆さん、よろしいですわね?これは冒険者としての名前を上げるとともにジャスティン様の活躍をその目で見る機会でもあるのよ!」
「そうねぇ・・・。」
「分かってるわよ。」
「私はこれまで通り、シルビィについていくわ。」
「あの脳味噌が筋肉で出来ているパーティーには絶対に負けないわよ!」
「「「おー!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ヘイムの兄貴!てえへんだ!」
「どうした、ベイト。騒がせるのは筋肉だけにしろ!」
一番体つきの良いリーダーで重戦士のヘイムが注意する。
「それどころじゃねえんだよ!ダンの兄貴達が帝国に行くんだってよ!」
「そいつは一大事。」
パーティーの中でも一番落ち着いている槍戦士のタケゾウが答える。
「で、何しに行くんだか聞いてきたのか?」
「もちろんだ、テラサン討伐だとよ!」
「ほう、テラサン・・・誰か知っている奴は?」
「俺が知ってるっす!」
「ミハエル、話せ!」
唯一のひょろっ子の魔法使いのミハエルが質問に答える。
「応っす!テラサンは蜘蛛人間っすね。主食は肉だから人間や動物も食うので注意っす。モンスターランクは確かCっすよ。」
「ほう、ちょうど良い試練なんだな?」
「ヘイムさん、ちょっと厳しくはないか?」
「そうだぜ、ヘイムの兄貴!」
「ヘイムさん、やつらには注意っすよ。」
「何故だ、ミハエル。」
「集団で行動するらしいっすよ。危険だと思うっす!」
「ふん、お前達、そのぐらいの危険でダンの兄貴が引いた事があったか!」
「ねえです!」
「その通りだ!分かったな、タケゾウ、ミハエル!」
「分かったよ。」
「分かったっす!」
「で、出発はいつだ?」
「進軍が三日後の十時だって言ってたぜ!」
「ふむ、ならば移動はフェアリー・ゲートだな?」
「・・・。」
「フェアリー・ゲートなんだな、ベイト?」
「ヘイムの兄貴、済まねえ。そこんところは言ってなかったんだ。」
「馬鹿者!だからあの女どもに「脳味噌まで筋肉ね!」とか言われるのだ!」
「すいやせん!」
「まあ、良い。ダンの兄貴の勇士をこの目に刻み付けるぞ!」
「「応!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「「ルイスさんの他に嫁が出来た!?しかも全部で五人!?」」」
【あ、いや、うん、その通り、です、はい。】
あまりの声に驚いてしまった。
「アーサー君、一気に作りすぎなんさ~・・・。」
「そ、そのぐらいでないないと、え、え、英雄ですものね!」
「兄貴よぉ、なんかすげえ話になってるなぁ?」
【いやあ、皆、魅力的な女性なんですよ。今度紹介しますね。】
「えっと、ルイスさんとナナリーさん、サーラちゃんに噂の皇女様と~?」
「ど、どど、どちらの方か気になりますね!」
「兄貴よぉ、アタシ達の事も考えないとなぁ・・・。」
【ディアナさん、それって・・・?】
「あー、気にするんじゃないよ!それで、他の女は誰なんだい?」
【帝国の第三皇女であるセリスに元エクスィ・スィデラス、第一席のフェイと言う女性です。】
「ありゃー、その二人は格が違うんさ~。」
「さ、さ、左様ですわね。」
「ラフィアの姉さん、さっきから動揺が酷いっすよ?」
「ディ、ディアナ。お小遣いを減らしますわね!」
「なんでそうなるんだよ!っく、これも兄貴のせいだからな!」
うーん、この三人は好意を持ってくれているのは知っているのだが・・・。
でも、皆は何か目標があるんですよね?
ギルドでジャスティン達の武具を調整する。
そうだよ、その為に来たんじゃないか。
ジャスティンは身長が180cmを超えたよ・・・羨ましい。
俺の身長は165cmで止まっているのにね。
本当に羨ましい。
チェー。
そしてディアナの鎧。
胸だけではなく腕回りや太腿回りが大きくなっている。
これは相当に鍛錬したな。
次に一緒に鍛錬か模擬試合をする時にはアレを教えよう。
楽しみだ。
武具はダンが使い込んでいたので修理してアンナの弦も新しく張り替える。
ラフィアだけは修理が必要なかった。
大事に使ってくれているし後衛だからね。
装備の消耗から皆でラフィアを守っているのが分かる。
相変わらず良いパーティーだね。
さて、装備の調整など終了。
夕方になってしまった。
しょうがない、戻るのは明日にして今日は久しぶりに皆と過ごそう。
そしてジャスティン達に三日後の朝八時に迎えに行くと言ってからいつもの宿屋へと向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもの宿屋に戻ると、そろそろ夕飯時と言う事もあり良い匂いが立ち込めていた。
入り口に立つ。
うん、一人で立つのは久しぶりだね。
開け放たれた入り口を潜る。
夏場だから暑さが厳しい。
女将さんを見つけると挨拶をする。
【ただいま、女将さん!】
「小僧じゃないか!・・・ん?今日は一人かい?」
【ええ、ルイス達には内緒なんです。】
「ルイスちゃんに内緒なのかい?悪い事はしてないだろうね。それで、今日は泊まるのかい?」
【ええ、いつもの部屋で寝ます。】
「そうかい、久しぶりに自由なんだ。皆を気遣っておやり。」
【アイ・マム!】
いつもの席に行くと早速みんなから声がかかる。
「お兄さん!?」
「ヘファさんですね・・・。」
「ヘファさんです!」
「ヘファさんなのです!」
ドーンと三つの衝撃が久しぶりに俺を襲う。
【皆、いい子にしてたかな?アセディアは?】
「「「はーい!」」」
「アセディアさんは部屋にいるのよ、お兄さん!」
御飯は皆と一緒に食べてほしいなぁ。
あれ、この暑いのに長袖をまくって・・・あっ!?
そうだ!
夏服を作ってあげていなかったよ!
大変だ!
と、言う事はナナリーさんのも・・・!
うわあ、これは明日にでも作ってあげないとね!
「ヘファ君、お帰りなさいー。」
【ただいま、ナナリーさん。変わりはないですか?】
「ええ、毎日が平和ですよー。」
【それならよかったです。】
「今日はどうしたのですかー?」
【今日は泊まりに来ました。明日はみんなの夏服を作るつもりです。】
「お兄さん、夏服ってなあに?」
【夏用の服って事だよ、リズ。】
「夏にも・・・服があるのですか・・・?」
【あるんだよ、ベス。】
「夏の服・・・興味がありますね!」
【動きやすくて涼しい服だからね。楽しみにしておいで、マオ。】
「嬉しいのです!」
【・・・アリス・・・いつもありがとうね。】
「ふにゅ?」
アリスの頭をなでる。
いつもの日向の香りがしたような気がした。
この間の事を聞いても本人は知らないだろうなぁ。
見つめてみる。
また、あの美しい姿にならないだろうか?
「ヘファさん?」
見つめすぎてしまった。
アリスが赤くなってモジモジしている。
【いや、何でもない。さあ、御飯を食べよう!】
「「「はーい!」」」
御飯を食べ終わると皿洗いに勤しむ。
・・・俺の立ち位置は変わらないぜ!
自分で言ってて少し寂しい。
そして風呂に入り部屋でゆっくりしようとしたのだが・・・。
アセディアはいるがこの際無視しよう。
そうなのだ。
二人の時間だ。
もちろんナナリーさんが遠慮がちに誘惑してくる。
応えない訳にはいかないでしょう?
その行為は激しくナナリーさんは朝まで放してくれなかった。
そう、前にも言ったが好きな女の子の為なら男って単純なんだよ。
本当だぜ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌朝。
「「『アリステリア様』本日も御加護を。」」
そう二人で日課をしてから皆で朝御飯を食べる。
時間になるとアセディアを背負い皆でギルドへと向かった。
「お兄さんと出かけるのは久しぶりね!」
「そうですね・・・いつ以来でしょうか・・・?」
「ヘファさん、秘薬取りはもういいのですか?」
「いつでもやるのです!」
「お兄ちゃんー・・・眠いよー・・・。」
「ふふっ、皆さんが楽しそうで何よりですー。」
ああ、こんなにも放置していたのか・・・それを悔いる。
この件が落ち着いたら家族の時間を取ろう。
そう改めて思った。
ギルドに着くとアリシアさんに言って裁縫部屋を借りる。
皆で移動し採寸から始める。
ちょっと蕾になってきた子達だけれど家族以外の感情はわかなかった。
リズとマオが積極的だったがナナリーさんの前では子供だった。
二人とも膝をついてがっくりしていたのは可愛かった。
ベスもアリスも順調に育っている。
この年齢の子供にはしっかりと食べさせてあげたいよね。
そして採寸を済ませ夏服を作っていく。
定番のワンピースからボトム、半袖のTシャツなど十種類の服を作る。
合わせた服もあれば単品で着れる物も作る。
作っている間にはリズとマオの定番のアタックがあったが華麗にスルーした。
何せ、ナナリーさんの目があるのだ。
下手な真似はしない。
本当だよ?
ロリコンではないからね!
夏服に着替えた皆に麦わら帽子をプレゼントして終了。
戻る途中の噴水広場で作っておいた氷菓子を食べる。
「美味しいわね・・・マオのは?」
「西瓜の味がします!」
「苺・・・好きです・・・。」
「緑なのです!甘くて美味しいのです!」
「冷たいー・・・甘くてー・・・美味しいー・・・。」
「ふふっ、皆も寂しがっていたのですよ。笑顔が輝いて良かったですー。」
【ナナリーさん、後で少し話をしてもいいかな?】
「大丈夫ですよー?」
【じゃあ、夜に部屋で待ってます。】
「分かりましたー。」
例の事を相談してみるつもりだ。
ルイスがいないけれどしばらくは話すチャンスがないからね。
喜んでくれるといいのだけれど・・・。
後はまた戦いに行く事も伝えないとね。
そしてしばらくの休みを満喫していつもの宿屋に帰る。
「いつも思うけれど、新しい服はもったいなくって着られないわよね・・・。」
【そんな事を言わないで着てね?その方が服も喜んでくれるよ。】
「大丈夫・・・リズ姉は着てくれる・・・。」
「私も着ますよ!」
「アリスもなのです!」
「涼しいのー・・・着るー・・・。」
「私も着ますよー!」
【次は秋服ですからね!】
「お兄さん、秋にも服を作るの!?」
【もちろんだよ!皆の分も作るからね。】
「ありがとう・・・ヘファさん・・・。」
「ありがとうございます、ヘファさん!」
「ヘファさん、ありがとうなのですー!」
「お兄ちゃんー・・・期待してるー・・・。」
「ふふっ、ありがとうございます、ヘファ君ー。」
【さあ、昼御飯を食べたら自由時間だからね!】
「「「はーい!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少し前のお話・・・。
私は調べ物をしに魔法ギルドへ来ていた。
「受付の人にも聞いたけれど・・・危なそうね。」
ウォーリアーとドローン。
この二種類の敵は私達でも何とかできそうだ。
問題は二つ。
マトリアークと言う魔法使い型のテラサンとアヴェンジャーと言う個である。
この二体は群れを成さないと書かれている。
ただその戦闘能力が桁違いなのだ。
そしてマトリアークの能力。
眷属であるテラサンを呼ぶ事が出来ると言う能力。
詳しく文献を読むと、どうやらある程度の個体を操る事が出来るという研究論が載っている。
これが本当なら群れを統率できると言う事。
数がいる群れならば私達程度ではどうにもならないであろう。
そしてアヴェンジャー。
外皮の甲殻は鋼以上の強度を誇る。
八等級になった事で武具を鉄にしたと喜んでいるような私達では、とてもではないが歯が立たないであろう。
いや、挑むのは無謀であろう。
と、言う事は出会ってしまったら全滅するのではないのだろうか?
この二体に会わない事を祈りつつ調べ物を続ける。
ふと思う。
何もオーガの牙と別行動をする事はないのではないか?
私達がウォーリアーやドローンを倒して道を切り開けばオーガの牙が戦ってくれるのではないか?
そうだ、その方が彼らの役に立ち更に身近で戦いを見れるのではないだろうか?
シルビィにはああ言ったが皆の安全が第一だ。
「そうよ!そうするのが良いわ!」
そう思うと行動は早かった。
私はオーガの牙がいる南通りの宿屋へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
心配で調べ物をしに魔法ギルドへと向かった。
するとあの女パーティーのうちの一人、確かアンリとか言ったと思う。
その女が調べ物をしていた。
様子をうかがいに後ろの席に座る。
何かをブツブツと言っている。
この女、調べ物に集中していて周りが見えていないな?
そう思うと真後ろの席に陣取った。
独り言を聞いていると、どうやらテラサンの事を調べているようだ。
これは好都合だ。
メモを取り出す。
ふむふむ、ウォーリアーにドローン。
何々、マトリアークだと!?
更なる強敵、アヴェンジャーだって!?
ちょっと待て、俺達はこんな無謀な事をしようとしていたのか?
しばらくするとアンリは立ち上がり
「そうよ!そうするのが良いわ!」
と、言って立ち去って行った。
本ぐらい片付けろよな。
本を片付ける。
っと、気になったので後をつけていった。
するとそこはオーガの牙のいるという南通りの宿屋だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
意を決して入り口を潜る。
どうやら一階は酒場になっているようだった。
フードを取りキョロキョロと目的の人物を探す。
すると隅に叡智様と爆砕姫様を見つけた。
近づいていく。
「ん?お嬢さん何か用かな~?」
爆砕姫であるアンナさんが話しかけてきた。
ここで上手く話が出来ればシルビィ達にも良い報告が出来るであろう。
「こ、こんにちは。私はアンリと申します。」
「こんにちは、アンリさん。何か御用ですか?」
叡智のラフィアと呼ばれるだけはある。
落ち着いていて・・・そしてその双眸は私の考えなど見透かしているようだった。
「実は相談事がありまして声をかけさせて頂きました。」
「ん?あれ?この子、この間の魔獣討伐の時の子だね~。」
「ええ、そのアンリさんがどうかなされましたか?」
うーん、あまり歓迎されていないようだ。
前回が前回なだけにしょうがない事かもしれない。
だけれど諦める訳にはいかない。
この提案を飲んで頂けなければ私達は王国へ戻って来る事も難しくなるであろう。
「実はオーガの牙の皆さんが帝国へテラサンを討伐に行くと伺いまして、その際に我々のパーティーも同行をお願い致したく話に参りました。」
「「・・・。」」
「御邪魔になる事は承知しておりますが、このままでは私達のパーティーは無謀な事を致しかねません。」
「アンリさんとおっしゃったかしら?」
「は、はい!」
「貴女達の無謀な挑戦をどうして私達が助けなければならないのかしら?」
「そ、それは・・・。」
この反応は当然だろう。
だが、諦める訳にはいかなかった。
「私達のリーダーである人物がオーガの牙のリーダー、ジャスティン様に憧れておりまして。」
「それで?」
「その、このままでは無謀な事をしなければならなくなりました。」
「身の丈に合った仕事をする事ですわ。以上かしら?」
「ま、まだです!」
「・・・続けて下さいな。」
「は、はい!オーガの牙と行動を共にしクヴァール帝国へ向かう事になりました。」
「・・・それで?」
「そこで提案があります!ウォーリアーやドローン等は私達に任せて頂きたい・・・です。」
「ふう、ある程度は調べましたのね?それでも貴女方の認識では無謀ですわ。」
「御教えを頂きたく・・・。」
「良いですか?ウォーリアー、ドローンは群体です。貴女方は確か四人パーティーだったわよね?」
「はい。」
「断言しましょう。ウォーリアーやドローンが十体いたら貴女方は全滅するでしょう。」
「そこです、そこを助けて頂きたいのです。」
「何故助ける義理が私達にあるのですか?」
「このままでは、英雄と名高いオーガの牙の後を追っていった新人パーティーが全滅した。と、言う事になりかねません。」
「・・・脅しても無駄ですわよ?しかもそれは脅しにはなりません。」
「何故ですか!?」
「これはクヴァール帝国からオーガの牙への正式な依頼なのです。それに、帝国から見れば王国の冒険者の新人パーティーが何組全滅しようが関係ない事ですわ。依頼をしていない冒険者がどうなろうと関係ありませんわよね・・・?」
「ですが・・・あのお二人の方の心には残りますよね?」
「・・・ふぅ、いい性格をしてらっしゃいますわね。確かにジャスティンやアーサー様の心には残る事でしょう。後悔と言う爪痕が・・・。」
「私達もそれだけ必死なんです!それに覚悟の上です!」
「無謀を無謀と諭す事も先輩としての仕事なのですわ。貴女方のリーダーを呼んでくださるかしら?」
「ラフィア~、そのぐらいでいいと思うんさ~。」
「アンナ?」
「覚悟があるならついてくるといいんさ。ただし、報酬は出ないと思うよ~?それでもいいのかな?」
「構いません!」
「いい覚悟じゃないのさ~、ラフィア、連れてってやろうよ~。」
「アンナったら・・・。はぁ、アーサー様に何て言おうかしら。」
「済みません、そういう事ならば我々も連れて行ってほしいっす。」
「え!?ミハエル君!?」
「やっぱり来たのかな~?」
「アンナ・・・もしかして貴女、知っていたのね?」
「あの時、出て行ったのは二人だったんさ~。アーサー君も気づいていたのさ~。」
「はぁ、で、そちらの子はあの時の男性パーティーの一人ね?」
「はい、ミハエルと申します。うちのリーダーも同じ事を言っておりやして・・・。」
「・・・アーサー様、申し訳ございません。情には勝てませんでしたわ。」
ラフィアさんは何かに祈っているようだった。
多分信仰している創造神様だろう。
「「そ、それでは!?」」
「アンリさん、ミハエルさん。貴方がたのパーティーの最低限の面倒は見ましょう。ただし、ギルドにてテラサンの討伐を以来として受けて来なさい。後はそれぞれのパーティーをまとめていらっしゃい。貴方達、独断なのでしょう?」
「あ、ありがとうございます、ラフィア様。」
「ありがとうございます!」
「それでは行きなさい。集合はこの宿、時間は八時です。遅れないようになさい。」
「「はい!」」
やった!
シルビィもこれなら許してくれるよね?
憧れの人の側にいられるし、私達だけで行くより安全よ!
そう思うとシルビィを説得をしに宿屋に戻るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「え!?オーガの牙と行動を共に出来るですって!?」
「そうよ、シルビィ。調べ物をしていたのだけれど危険すぎる内容だったので、独断ではあるけれど約束を取り付けてきたの。」
「と、言う事は少しは安心してもいいって事だね?」
「そうよ、ルウ。」
「良かったね、アタシ達だけだと不安だったからねー。」
「そうね、ファム。」
「オーガの牙の戦闘も見れてジャスティンさん達と行動を共に出来る!貴重な経験が出来るわっ!これはアンリに感謝ね!」
シルビィは喜んでくれているようだ。
賭けだったが話を進めてよかった。
だが、これも言っておかなくては・・・。
「後、問題があるのだけれど。」
「「「問題?」」」
「あの人達も一緒に来るの。」
「あの人達って・・・まさか!?」
「その、まさか、なの。」
「その条件は飲まなければいけないのね?」
「うん、ラフィアさんにもパーティーをまとめて来いって言われたわ。」
「あいつら・・・余計な事をしないでくれるといいわね。」
「でも、これで前進した訳じゃない?」
「そ、そうよ!良かったじゃない!」
「そうね、邪魔者はいるけれど楽しみになってきたわ!」
そう言ったシルビィはとても嬉しそうだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何だって!?オーガの牙と行動を共にする事が出来るだと!?」
「はい、ヘイムさん。」
「でかした!これでダンの兄貴達の活躍を間近で見れるんだな!」
「はい、ですが条件が一つありやして・・・。」
「何だ、その条件と言うのは?」
「実は、あの女達のパーティーも参加いたしやす。」
「「「・・・。」」」
「あー、何だ。それは必ずなのか?」
「必ずです。その件も含め、ラフィアさんからパーティーをまとめて来いと言われたっす!」
「むう、あの女達もいるのか・・・。」
「だけどさ、ヘイムさん。これは好機だよ?」
「そうだぜ、ヘイムの兄貴。」
「独断で決めてきたけれど、これが一番安全な方法だと思うっす。」
「まあいい、あの女達め。余計な事はしてくれるなよ?」
なんとか説得出来たかな?
これで一番の不安は解消された。
後は気を付けて皆の行動を見守ろうかな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アーサー様に話をしにアンナとともに宿へやってきた。
ちょうど良かったので湯船につかる。
心の整理をしておきたかったのだ。
湯上りに牛乳を飲むと気合を入れる。
余計な事をしたと御叱りを受けないと良いのだけれど・・・。
かくして目的の人物は・・・厨房にいた。
カウンターの椅子に座る。
「あれ?ラフィアさんじゃないですか。御注文はありますか?」
「リズさん、果実水を頂けるかしら?」
「今日はオレンジですが良いですか?」
「構いません。」
「あーっしには冷えたエール」
「アンナ!」
「ううっ、同じ物でお願いするんさ~。」
「はーい!果実水二つお願いしますー!」
【はいよ!ってラフィアさんにアンナさんじゃないですか。何かあったんですか?】
「アーサー様、先に謝っておきます。申し訳ございません。」
【えっと、何があったの?】
「それが・・・。」
アーサー様に事の顛末を話す。
【ありゃまぁ、アンナさん。狙ってましたね?】
「そ、そんな事はないんさ~!」
「アンナの御小遣いは減らしますわ!」
「そ、そんなぁ~!」
【で、二つのパーティーの面倒を見なければならないと?】
「はい・・・申し訳ございません。」
【いや、その言い方をされたら断れないね。次はこんな事をしないようにきつめに言っておいてね。】
「承りましたわ。」
【はいよ、果実水。冷やしてあるから美味しいよ!】
「ありがとうございますわ、アーサー様。」
「ありがとうなんさ~。」
【それでどんなパーティーなの?】
「互いに同じスキル構成なので余計に張り合っているのです。」
「重戦士、軽戦士、弓術士で斥候、魔法使いでヒーラーの四人なんさ~。」
【ふむ、戦闘の前にパーティーの戦力を確認したいですね。】
「それはこちらからもお願いしたいですわ。」
「場合によっては戦場をパーティーで受け持ってもらわないといけないんさ~。」
【そう言えばランクは?】
「確か八等級ですわね。」
【・・・武具は鉄になったばかりかな・・・今回はちょっと戦力不足だね。】
「アーサー様、何とかなりませんか?」
【ふぅ、ラフィアさんも俺の性格を見抜いていますよね、その目には応えないといけませんね。】
「ありがとうございます、アーサー様!アンナ、二つのパーティーを冒険者ギルドに呼んで来て下さいな。」
「呼んで来たらさっきのお小遣いの事は無しにしてくれないかなぁ~?」
「分かったからさっさと呼んで来て頂戴!」
「りょ~!」
そう言うとアンナは急いで彼らを呼びに行った。
彼らがそろうのはそれからしばらくしてからだった。
アーサー様は準備を整えると私と冒険者ギルドへ向かう。
少し活を入れて頂くのがいいでしょう。
そう思いアーサー様の後をついていくのだった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
まずは、いつものから!
評価、イイネ、ブックマーク等々。
大変に励みになります。
皆様に感謝を!
それでは 次話 実力(仮 で、お会い致しましょう!
お休みなさいませー!




