転移という始まり
次話です。
まだ序章ですが、よろしくお願いします。
うーん・・・?
【うぉ!?・・・車が!?跳ねられて・・・あれ?おや、生きてる?】
気が付くと、そこは真っ白な空間だった。
寝ていたようなので上半身を起す。
【で、ここは?・・・何処だ?】
なんだかボーっとする。
思考がぼやーっとしているようだ。
あれ?
ちょっと待て!
今の声はなんだ!?
【あーあーあーあーあぁー?これは俺の声か!?】
しかも声が若いだと!?
俺の声が誰の声だ?
少なからず混乱している。
両手を見る。
皴が無いし手も若々しい・・・?
頬を触る。
張りがあってプニプニだ。
何が起こったんだろうか?
気を取り直して辺りを見回す。
【真っ白だ・・・何処だろう?】
体をまさぐると腕や足はちゃんと動く、どうやら体は無事のようだ。
後は脳味噌の出来・・・いや違う。
脳が覚醒した時の情報次第だろう。
そうだ!
荷物は!?
【スマフォ、カバン、ああっ!折角の寿司も・・・無いかぁ。】
もちろんプレミアムな奴も無かった。
どうやら、持ち物は何も持っていないようである。
誠に残念だ。
しばらく、その空間をぐるっと見渡していたのだが・・・。
うん、何もないね。
真っ白だ。
自分も白いローブのような物を着ているだけだった。
まさかと思いローブを捲り上げる。
一応確認してみたが『マイサン』があった。
良かった。
しかも毛が生えていた。
元気でもないのに、いつもよりでっかいような気がしたのは気のせいだろう。
どうやら俺の性別は男で間違いは無さそうだ。
さて、どうにもならないので現在の事を考えよう。
立ち上がる。
【・・・ん?ありゃ?何かあるな?】
良く見ると目の前に『白い玉』がある事に気付く。
白い空間に同化していたようにたたずんでいた。
いや、もしかしたら最初からあったのか?
【なんじゃこりゃ?】
触ろうとしたのだが、その時!
〖----------〗
突然、脳に直接聞こえるような『音』が聞こえた。
ラジオのチャンネル調節があっていない時の『ガガーピー』っていう音みたいな不快な音だ。
いきなりの大音響に頭を抱えて驚いている。
【何事だあー!?】
頭の中から聞こえるその音が聞こえなくなった。
っほ、良かった。
すると、その白い塊が話しかけて来たようだった。
〖人の子よ、驚く必要はありません。〗
今度は頭に直接響く「声」が聞こえた。
チャンネルが合ったのか鮮明に聞こえる。
心地の良い声だ。
辺りを見渡す。
どうやら目の前の「白い玉」?
が、俺に語りかけているようだ。
〖落ち着きなさい、人の子よ。〗
【えっと、この白い球は?ここは何処なんだ・・・?】
不安だが白い玉に向かって言ってみる。
やはり自分の声が若いような気がする。
違和感バリバリで、まるで自分の声では無いかの様だった。
不思議に思っていると白い玉に変化が起きた。
ぐにゃぐにゃしていたと思ったら、だんだんと人らしき形になって来た。
いや、だって普通の人間には翼なんか生えてないじゃない?
そう、それは物語にある天使のような形になって来たのだ。
〖人の子よ、落ちつきましたか?〗
ん?
そう言えばこの不思議現象にあまり驚いていない自分がいる。
先程の声の違和感といい、この現象といい・・・あれ?
・・・落ち着いたのだろうか?
不思議だ。
こんな状況なのに、頭はクリアになり冷静でいられている。
【はい、何とか・・・?】
返事をしてみたがやっぱり声が若い。
他人の声のような違和感がある。
何だ、やっぱり気になっているじゃないか。
その間にも、ぐにゃぐにゃしていた天使なような物の形が整ってきた。
色が現れ次第に女性の形へと整って行く。
するとまた声が聞こえて来た。
〖汝、『山田 政仁』に相違はありませんか?〗
簡潔だが質問が飛んで来た。
【・・・はい。】
と、返事をする。
親からもらった自分の名前だ。
間違いはない。
同姓同名の人がいたら済まない。
【その名前は自分の物で間違いはありませんね。】
そう答えると自分の頭の中に今までの事が蘇ってきた。
光。
真っ白。
ものすごい衝撃!?
ああ・・・そうか。
俺は・・・【死んだ】・・・のだな。
・・・そう言う事は、今、話をしている相手は『神』か『それに類する者』なのだろうか?
少なくとも【悪魔】っぽくはない・・・と思う。
グニャグニャだった物が翼の生えた女性になったからだ。
ギリシャ神話に出てきそうな白い衣装に、白い翼が生えた・・・美女だ。
うん、この単純な思考は俺だな。
〖わらわは、『創造神アリステリア』。〗
手に豪華そうな杖を持っていて額にはサークレットだろうか?
を、身に着けている。
金髪のロング髪で緑色の瞳をした美人さんだ。
体形にピッタリと合った白い華美なドレスを着ている。
うへへへ、俺への御褒美だろうか?
その白い服は体のラインがハッキリと見える程に体にフィットしている。
そして、その女性の体は出ている所は出ているし引っ込んでいる所は引っ込んでいる。
モデルの様な体型の美女である。
物凄く、俺好み!
所謂『ド・ストライク!』なのだ。
リアルで出会っていたら無理でも『秒』で告白していただろう。
そんな女性が目の前にいる。
うはー、創造神だってさー。
女神様だってさー。
すごいなぁ、最近のドッキリは仕掛けるにしても手が込んでるなぁ。
こんな美人を呼んでいるのだ。
ギャランティの方も大変な物だろう。
白い空間をキョロキョロと見回すがカメラが見当たらない。
・・・そりゃそうだ。
素人にするドッキリなんかでは、視聴率は取れないだろうしな。
とか、馬鹿な事を考えてみる。
〖ドッキリ?というものではないですよ。〗
うお!
心の声が聞こえてましたか!?
・・・もしかして、聞こえるのがデフォなのかな?
さっきの心の叫びも聞こえていらっしゃいましたでしょうか?
〖もちろん、聞こえていましたよ?〗
その女神様は微笑んでいた。
・・・怒ってはいないようだ。
寛容な女神様だな。
さて、今の状況をまとめてみようか。
何処だかは分からない。
そして自分は何故か生き返って、しかも若返っている。
死んだと思ったのだがね。
それに、素人ドッキリではない。
まぁ、自分を騙そうとしても良い事なんかないしね。
所詮、しがないサラリーマンだし、天涯孤独だし、おっさんだしね・・・。
思っていて逃げ去りたくなって来た。
メンタルがやられる前に話に戻ろう。
ん?
ちょっと待て?
創造神?
神様なの!?
待て待て、それならば最初に聞かなければならない事があるだろう。
【あの、聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?】
〖それは、現状の説明より優先したい事ですか?〗
【もちろんです!】
〖よろしいでしょう、貴方の質問にお答え致しましょう。それで、何が聞きたいのですか?〗
【えっと、流石の俺でも自分が死んだのは分かるのですが、俺が突き飛ばした親子は無事なのでしょうか?】
あれで死んでたら俺が報われない・・・。
〖大丈夫です。あの事故でもかすり傷一つありません。母子共に健康です。〗
ほっとする。
【良かった、無事なんですね。】
〖親子ともども無事です。〗
【なら良かったです。】
〖貴方は自分の現状より他人の心配をするのですね?〗
【ん?いや自分が死んだより自分の五分の一も生きてない子がーっていうのが嫌だったんですよ。】
〖自分に関わりがなくともですか?〗
【あの状況だと訳が分からなかったので突き飛ばしたんですけれど、俺が死んだのにあの親子までーとかそんな事になるのはきっついですしね。】
〖貴方は、優しい心をお持ちなのですね。・・・どうやら好ましい魂をお持ちの様です。〗
【いえ、普通のおっさんですよ。まぁ、人間生きてりゃいつか死ぬんですし?良い事が出来て死ぬんだったら、天国の両親も許してくれるでしょう。】
はっはっはと笑っていると女神様が微笑んでくれる。
その笑顔を見ているとなんか照れ臭くなってしまった。
年甲斐もなく顔が赤くなる。
〖ふふふ、見た所、意外と落ち着いているのですね。〗
【で、女神様。結局、俺は何で死んだんでしょうか?】
聞いた途端女神様が困惑顔になる。
やがて意を決したように口を開く。
〖『政仁』、落ち着いて聞いて下さいね。貴方のいたスーパーの入り口に暴走車が突っ込んで来たのです。〗
【・・・え?それって最近ニュースでよく見るアクセルとブレーキを踏み間違えた!みたいなですか?】
〖はい、その通りです。〗
女神様は申し訳なさそうに言って来る。
でも、女神様のせいではないですからね?
しっかしなぁ・・・。
【あちゃー、笑えないですねぇ。】
マジで笑えないよ!
〖でも、そこで亡くなるのは、あの親子の子供の予定でした。〗
ん?
聞き間違いか?
【え?】
〖運命が変わってしまったのです。〗
【・・・え?い、今、何と?】
〖運命が変わってしまったのです。〗
【う、運命が変わった?】
〖はい、実は亡くなる運命だったその子供が、『勇者』として私の世界へ招かれる予定だったのです。〗
マジか!
俺のやった事は余計な事だったのか?
ガックリと膝をつくと女神様は続ける。
〖運命は変わりましたが、代わりに『政仁』、貴方の魂を救済する事に致しました。〗
え?
救済?
生き返れるのかな?
〖元いた世界に蘇らせる事は出来ませんが、私が創造した・・・うん、この言い方で間違いはないでしょう。異世界である〖ソーサリア〗へと、転移させる事に致しました。〗
【異世界に転移ですか?】
うわー、良くある異世界物の『テンプレ』だな。
あれ?
ソーサリア?
何処かで聞いたような・・・?
〖はい、転移先は貴方が良く知っているソーサリアの大地です。〗
【よ、良く知っている?】
そうだ思い出した。
確かに俺は知っている。
あの世界か!?
身震いする。
〖はい、私の創造した大地です。そこは貴方が良く知っている世界で、色々なモンスターもおり、もちろん魔法もあります。〗
【あぁっ!?】
〖貴方の前世で言う・・・そうですね。〖ウルトラ・オンライン〗の世界です。〗
【やはり!うおお!!マジですか!!!】
それを聞いた俺は、ずずいっと女神様に迫ると『ガシッ』と両手を掴む。
素晴らしい!
あの世界へ行けるのか!
あ、近かったかな?
手も掴んじゃったしね。
〖マ・・・マジです。〗
女神様が赤くなっている。
めちゃくちゃ可愛い。
が、今はそれよりも考える事があった。
【チョー嬉しいんですけど!テンション爆上がりみたいな!?あ、基本という事は何か違う事があるのですか?】
女神様の手を取っていたので一緒に飛び回って喜んでいた。
ノリの良い女神様だ。
女神様は話を続ける。
〖私が創造した世界には『人間族』『エルフ族』『ガーゴイル族」の他に『ドワーフ族』や『獣人族』、『魔人族』等という種族もいます。後は神々の『加護』があります。〗
ゲームでは、エルフがアメリカンな残念エルフなんだよね。
まあいいや、と思い質問を続ける。
【加護でございますか?】
ウルトラ・オンラインには『加護』なんて無かったからね。
〖はい、各神の加護があります。私、『創造の神』、『戦の神』、『豊穣の神』、『魔法の神』、『商業の神』、『芸術の神』、『愛の神』の七柱神がいます。〗
ふむふむ、ゲームでは神らしき存在は無かったな。
頭の片隅に入れておく。
〖それと、『政仁』・・・貴方のゲーム・キャラクターを媒体として体を作り転移させます。〗
ゲームのキャラと言うと、鍛冶師の、俺のか!
【マジですか!】
おお!
願ってもない。
ゲームのキャラなら良く知っている。
すべてのスキルもカンストしていたからね。
〖その様子ですと、転移する事に問題は無いのですね?〗
【はい!是非に!あ、その場合は魔王を倒せとか勇者になれとか、何かノルマ的な事はないんですよね?】
一応聞いてみる。
だって、闘いなんか出来ないだろうし・・・。
確認は大事だよね?
〖ええ、ありません。自由に過ごして下さい。それだけで良いのです。〗
【うおおお!マジかー!すげー!】
〖『政仁』、そろそろ手を・・・。〗
そう言えば握りっぱなしだった!
慌てて手を放す。
女神様を見ると顔が真っ赤だった。
可愛すぎる。
襲い掛かっても許してくれないだろうか?
あ、そうだそうだ。
【なんか若返ってるような気がするのですが、これは?】
〖ぼ、冒険者登録等の出来る成人年齢である、十五歳まで若返らせました。〗
『特別ですよ』、と女神様が言う。
さっきまで無感情っぽかったのに、今では微笑んでポーズも決めていた。
ほっぺたが赤いし。
恥ずかしいのか?
〖おっほん!決して恥ずかしくはありませんよ?〗
心を読まれたか。
固いイメージがあったが、お茶目で感じの良い女神様だな。
マジでタイプだ。
この人と、ここで過ごす訳にはいかないのだろうか?
【あー、だから若いんだ。待てよ、良く考えればリアルであの世界を堪能出来るんだ文句は無い。】
おっさんスタートよりは若いのは喜ばしい限りだ。
綺麗なお姉さんとの出会いもあるかもだしね。
とか、邪な事を考えていると。
〖おっほん、私、創造神の加護には『健康な体』と『言語理解』と『無限倉庫』が付与されております。〗
【へ?なんか、すごく便利そうなんですが・・・?】
〖私が加護を与えるのは『政仁』が初めてですね。サービスしておきました。〗
〖内容は『健康な体』=病気等にかからない。
『言語理解』=様々な言語を理解し読み書きが出来る。
『無限倉庫』=アイテム・ストレージが使える。
ですね。詳しくは使用して調べて下さい。〗
【はい!分かりました!】
言語理解は嬉しいね。
せっかく異世界に行っても言葉の壁があった日にはがっかりだよね。
〖では、転移の心構えは整いましたか?〗
【あ、もうですか?】
〖そろそろ時間のようです。〗
【そうですか。】
残念そうに女神様を見る。
【これで、女神様に会えなくなるんですね。】
なんか寂しい。
しかも真っ白な空間に一人だけとは・・・何か娯楽があるのだろうか?
〖安心して下さい、仕事はありますよ?世界のバランスを見守る事です。それと、わらわの事は〖アリステリア〗と呼ぶように。〗
【『アリステリア様』。】
早速呼んでみる。
名前を呼んだら頬が赤くなってるぞ?
ふふふ、嬉しいじゃないか。
〖き、気のせいです。〗
おっと、また心を読まれたのか?
〖それでは転移致します。見守っていますよ『政仁』、もし相談したい事が出来たら神都にある創造神の神殿を訪れなさい。〗
【はい、分かりました!】
〖それでは汝の行く道に『冒険』と『試練』を、人々との『縁』を大切にして頑張って下さい。〗
【『アリステリア様』、色々と、ありがとうございました。向こうに行っても地道に頑張ります!】
『アリステリア様』はニッコリと微笑んでいる。
その笑顔を見ていると周りが段々と暗くなって来た。
前世にはもう思い残す事はない。
これからの事を思うと嬉しくて胸が高鳴る!
ん?
転移の影響かな?
【よし・・・がんば・・・る・・・。】
あれ、考えられなくなって来た。
目の前が更に暗くなる。
そして意識が無くなり、目の前が完全に真っ暗になった。
ただ、最後の『アリステリア様』の『試練』の言葉が気になったのだが・・・。
こうして、俺は〖ソーサリアの大地〗に降り立つ事になった。
本日、二話目の投稿です。
今後とも、応援をよろしくお願いします。
皆様の応援が拙者のパゥワー!
おほん、失礼致しました。
次話もお楽しみ下さいませ。