鍛冶師として
いつも読んで下さって、誠にありがとうございます!
執筆終わりました。
お楽しみ下さい!
鞴を踏み込む。
【サーラ、もっと踏み込んでくれ!】
「はい、ヘファ師匠!」
良し良し、温度は順調に上がっているぞ。
用意されたミスリルインゴットは五十個。
その数の中から聖剣である、ミスリル・ロングソードを作る事が条件だ。
もちろん、選ばれるのは質の良い物のほうだ。
ん?
今気づいた。
インゴットの純度がバラバラだ。
これでは良い物は作れない。
仕方が無い。
【サーラ、予定変更。インゴットの純度を上げるぞ!】
「はい、ヘファ師匠!」
ミスリルインゴットを熱した炉に入れ完全に溶かす。
凄い温度だがサーラは大丈夫だろうか?
そしてさらに熱して不純物を飛ばす。
飛ばし終えたら型に流し込み冷やす。
冷やしきると型から取り出して並べる。
五十個あったインゴットが三十八個になってしまった。
だが、問題は無い。
まだ、三十八個もあるのだから。
【サーラ、炉の温度を上げたままにしておいて下さい。】
「はい!ヘファ師匠!」
サーラは良く付いて来てくれている。
ここまで腕を上げていたのか・・・。
頑張っているんだね。
この会場の何処かで見ているルイスにもそれは伝わっている事だろう。
鋳型を確認する。
やっぱりな・・・。
何処までもセコイ真似を。
【サーラ、鋳型に問題があるので作り直します!】
「問題ですか?」
【そうです、温度を下げないように石炭を絶やさないで下さい、出来ますか?】
「お任せを、ヘファ師匠!」
無理はしていないかな?
そんな心配をしながら鋳型を作る。
この世界には砂型鋳造しか無い為、鋳物砂を固めた「砂型」を作るのが一般的だ。
砂を持って来てもらい剣の砂型を作る。
元の型は俺の相棒を使った。
【サーラ、出来上がりました!このまま行きます!】
「温度は下がっていないと思います。」
【サーラ、良くやってくれました。少し休憩を取って下さい。これを飲んでおくのを忘れないで下さいね。】
「はい、ヘファ師匠!」
渡したスポーツドリンクもどきをガブガブと飲み込んでいる。
ここで脱水症状や熱中症なんかにはさせない。
最後まで間近でみて経験にしてもらうんだ。
その為にリタイヤなんかにはさせない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ええい、何をやっているのだ、無能の第二王子めが!
弟子も無事だし、無傷で会場にやって来おった。
まあ良い、妨害はこれだけではない。
二重三重にしてあるのだよ。
そして、わての渾身の作を見るが良い!
「まだ熱はまだ上がらんのか!」
「順調に上がっております、しばらくお待ちください。」
「鋳型の準備は?」
「整っております!」
「とりべは?」
「ここに。」
「よし準備は整っているな。後は・・・。」
ちらりとその方向を見る。
ほう、気づきおったか。
そうじゃ、そのインゴットの質は低い。
ふふふ、どうするのかのう?
するとインゴットを溶かし始めた。
馬鹿な!
こちらはまだ炉の温度すら上がっていないのだぞ!?
「温度を上げよ!急ぐのじゃ!」
「「「は、はい!」」」
弟子達が懸命に鞴から風を送っている。
熱を帯びて来たな。
これならばもう大丈夫であろう。
視線を移す。
何じゃと!?
もうインゴットを作る作業じゃと!?
馬鹿な。
あの質のインゴットでは、良質の物が作れるのはせいぜい三十個程のはず・・・。
それをもう作り終えて熱が下がるのを待っているだと!?
しかもあの小僧。
鋳型の仕掛けも見ぬきおった!
「ええい!あちらには弟子が一人しかおらんのだぞ!どうしたお前達!」
「はい!三人で温度を上げてはいるのですが・・・。」
「くう、この無能共がっ!それだから三流なのだ!」
「「「・・・申し訳ございません。」」」
くう、ま、まあ良い。
この祭事が終われば分かる事じゃろう。
どちらが優れているのかがな!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【サーラ、厳しいようなら言って下さい、温度を上げますよ?】
「大丈夫です、お任せ下さい!」
強がっているようだ。
だが、そう言うのならば付いて来てもらおう。
最も、見捨てるなんて選択肢は無いけどね。
【さあ!行きますよ!】
「はい、ヘファ師匠!」
二人で鞴を踏み込む。
まだか・・・まだか・・・?
【今です!インゴットを炉に入れて下さい!】
「はい!」
みるみるミスリルインゴットが溶けて行く。
何個か入れるとちょうど良い容量になった。
【サーラ、とりべを!】
「はい、ヘファ師匠!」
溶けだしたミスリルインゴットを熱したとりべですくい上げる。
そのまま鋳型に流し込む。
【順調ですね、それでは冷やします。炉の温度は下げても大丈夫です。】
「はい!」
本当に良く付いてくる。
いつもの三倍、いや、五倍は疲れているだろうに・・・。
【サーラ、スタミナポーションです。飲んでおいて下さい。】
「え!そんな高級な物頂けませんよ!?」
【良いから、飲んでおきなさい。気絶なんてしたらこの先の光景が見られなくなりますよ?】
「はい!では、遠慮なく頂きます!」
【冷えたらバリ取りをして打ち鍛えます。その後焼き入れてから鑢掛け、仕上げに砥石ですよ?】
「はい、工程は頭に入っています!」
【よろしい、では休憩です。】
「はい・・・。」
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馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なっ!
もう鋳型に流し込んでいるじゃと!?
こちらはまだインゴットが溶けていないのに!
一体何が違うのだ?
弟子の差か!?
そうだ、そうに違いない!
「お前達、急ぐのじゃ!」
「し、しかしこちらの三人も限界が近いです。交代させます。」
「だったら何故にもっと早く交代させんのじゃ!この無能共がっ!」
バシィ!
「も、申し訳ありません、イェシン様・・・。」
「はよう、温度を上げよ!」
「ははっ。」
「くう、小僧めが・・・。」
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「ヘファ師匠、なんかあちらさん揉めているみたいですよ?」
【サーラ、気にしないように。その見た事は迷いとなって作業に出ますよ?】
「はい!」
しかし、何をやっているんだろうね。
あのイェシンとかいう奴。
とてもじゃないが、ミカより上とは思えないぞ?
【さあ、そろそろ冷えた頃です。作業を再開しますよ!】
「はい、ヘファ師匠!」
【まずはバリ取りからです。ここからの工程は俺がやります、良く見ておくように。】
「はい!」
鋳型を木槌で打って外す。
うん、上出来だ。
バリを取り除く。
そして神匠のハンマーを取り出す。
しっかりと剣を熱してからハンマーを打ち込む!
カーン!カーン!
カーン!
打ち込むたびに火花が散る。
「綺麗・・・。」
サーラの呟きが聞こえる。
例えどんな仕事でも手を抜く訳にはいかない!
再び熱するとハンマーを打ち込む!
カーン!カーン!
カーン!
・・・
その美しい調べは空へと響き渡った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「イェシン様、インゴットが溶けました。御指示を。」
「うむ、とりべを!」
「熱してあります、お気を付け下さい。」
「五月蠅い!分かっておるわ!」
「申し訳ありません!」
「は、はようせねば・・・。」
「イェシン様!手が震えております!そのままでは!」
「五月蠅い!」
流し込むが上手く行かない。
わきから熱して液体になったインゴットが零れ落ちて行く。
「お前達!しっかり押さえないか!」
「「「申し訳ありません!」」」
「負ける訳にはいかんのじゃ・・・負ける訳には・・・。」
「イェシン様・・・。」
何とか既定の容量を流し込む事が出来た。
「ふう、少し休む。スタフティ、貴様はそこで見ておれ!温度が下がったら教えろ!」
「かしこまりました、イェシン様。」
くう、余裕をかましおって・・・
そうじゃ、負ける訳にはいかんのじゃ!
負ける訳には・・・
ん?
何じゃ、この美しい調べは・・・
その調べの方向を見る。
その姿に・・・見とれてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カーン!カーン!
カーン!
・・・
「美しい音だ、流石だな、アーサー。」
「あの人が・・・あの人達が作り上げているのね・・・。」
自然と立ち上がりその音を聞いている。
どうしてだろう。
この音を聞いていると、とめどなく涙があふれて来る。
貴方。
サーラさん。
なんて事なのかしら。
こんな仕事をしているだなんて思わなかった。
工房見学に行った時には、こんな事が起こるだなんって思ってもみなかった。
「ルイス嬢、これがアーサーの、貴女の旦那の力だ。誇らしいだろう?」
「そうですね・・・あの人の妻である事を誇りに思います。」
「いい音だ、下手な音楽よりよっぽど良い・・・。」
「グレイもそう思うか?」
「ああ、いつまででも聞いて居たいぜ・・・。」
あの人の仕事の邪魔にならないように会場中が静まり返っている。
中には、私と同じように涙を流す人もいる。
そう、聴いて頂戴。
あの人が作り出している音色を!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アーサー様・・・貴方様は何と言う・・・。」
それは心地良い音だった。
そう、まるで全てを忘れさせてくれるような音であった。
「鍛冶師としての格の違いが出たな。」
「ち、父上・・・何故でしょう。涙が止まりません。」
「セリス、そなたにも分かるか。これが一流の鍛冶師のする仕事よ。」
「これが・・・そうですね音が心地良い・・・。」
カーン!カーン!
カーン!
・・・
「・・・陛下、いえ、父上。決めました、必ずやあの方の伴侶となって見せましょう。」
「そうか、だがそれは苦難の道だぞ・・・娘よ。」
「迷いはありません。必ずやあの方の隣に並んで見せましょう。」
「期待しておるぞ・・・セリスよ。」
そう、鍛冶師としても、武人としても、そして良き人としても・・・。
「アーサー様、絶対に逃がしませんよ・・・。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ヘファ師匠が凄いのは分かっていた。
あの日、ミカ様に言われた事を思い返す。
『習うならアタシより腕が上のコイツに習った方が良いわよ?』
『鍛冶に関して言えばコイツは藍玉より上よ。』
とんでもない。
上どころではない。
この人の弟子になった事を良かったと思う。
あの日の出会いこそ、この日の為の物だったと言っても良いだろう。
ハンマーと剣になろうとしている物が放つ火花に目を奪われる。
そしてその音色にも。
真剣で真摯に鍛冶と言う作業に向き合っている顔に目を奪われる。
ああ、この人の弟子で良かった。
・・・心からそう思う。
言葉を掛けるのは無粋だろう。
今は剣が完成するまで、この人の作業を目に焼き付ける。
それが私の仕事だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
鍛え終わった剣を焼き入れする。
ジュワーボゴボゴボゴ・・・
焼き入れをして硬度を上げる。
これを鑢掛けしていく。
ガリガリガリ・・・
ガリガリガリ・・・
・・・
鑢掛けが終わると砥石で剣身を研いで行く。
シャッ・・・シャッ・・・
シャッ・・・シャッ・・・
・・・
研ぎ終わる。
ミスリルで作った鍔を接着しグリップになる所にドラゴンの皮を巻いていく。
同じようにミスリルで鞘を作る。
剣身にルーン文字で装飾を施す。
ᚺᛟᛈᛖ、ᛈᚱᛟᛋᛈᛖᚱᛁᛏᚤ、ᛈᛖᚪᚳᛖ、ᚠᚢᛏᚢᚱᛖを文字を刻む。
出来上がった。
これまでにない渾身の作品だった。
「出来上がりましたか、ヘファ師匠?」
【ああ、出来上がったよ。手伝ってくれてありがとう、サーラ。】
「出来る事だけをやりました。でもこれで終わりじゃありませんよ?また近くで勉強させて下さいね、ヘファ師匠!」
あれ?
周りの景色が眩しくなっていった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
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