藍玉という鍛冶師
いつも読んで下さっていらっしゃる方々、こんばんは!
執筆終了致しました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
この四日間は午前は厨房で料理人達と、午後は練兵場で兵達と過ごした。
皆、順調に課題をこなしているようで安心した。
その間にセリスの特訓も忘れない。
うん、順調だ。
あっという間に時間は経つもので、ついに藍玉という鍛冶師を迎える日がやって来たのだ。
午前中から準備をしているので料理の方は大丈夫だ。
さあ、いつでも掛かってきたまえ。
おっと、別に戦いに行くわけでは無い。
いや、ある意味戦いか?
「『アリステリア様』本日も見守り下さい・・・。」
さあ!
準備は万端だ!
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「ふう、やっと着きますか。」
馬車に揺られる事、七日。
やっと着きましたね。
相変わらず空気が乾燥している。
夏も近いというのに・・・。
さてと、旅に出ると楽しみなのは美女を侍らせ美味い物を食べる。
だが、料理は期待できないであろう。
何せ穀物だ。
帝国も少しは食文化と言う物を勉強してくれれば良いのだが。
宮殿に着くと私室と寝室を案内される。
弟子達も案内されているようだ。
しかし、案内人は男か。
今日は軍服を着た顔立ちは美しいが胸の醜い姫では無いのだな。
珍しい事もある物だ。
「イェシン様、陛下の準備は整っております。」
「分かりました、すぐに向かいましょう。」
さて、皇帝に挨拶に向かうとするか。
あまり好ましくないのだが・・・
早く済ませて美女と戯れよう。
それに成功報酬も悪くはない。
そう思うと、この仕事も悪くはないのだが。
「そなたを呼んだのは他でもない、聖剣を作り上げてもらう為だ。」
「はい、満足の行く物を捧げさせて頂きましょう。」
「まあ待て。そこでだが一興あるのだ。」
「一興?」
「我の配下が見つけて来た鍛冶師と作り比べてもらう。」
「ほう、すると、第四席の黄玉でございますか?」
「いや、無名の鍛冶師だ。」
無名の鍛冶師と出来を競うだと?
わては、エクスィ・スィデラスの藍玉だぞ?
何処の馬の骨とも分からん奴と競うだと!?
わての事を馬鹿にしているのか?
何故、わての仕事を邪魔する奴がいるのか?
・・・まあ、身の程をわきまえさせるのも仕事の内か。
そう思えば三日後が楽しみだ。
この祭事として執り行う鍛冶仕事は一日かけて行われる。
無名の鍛冶師ごときが、ミスリルを扱う事が出来るだけでも有難く思え。
皇帝と面会が終わり昼食会に移る。
まあ、料理は期待はしていないがね。
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「だしまきたまご、並び終わりました!」
うん、順調だね。
そして心を込めて握る。
【この料理は新鮮な物なので作り終わったらすぐにお出しして下さい!】
「「「分かりました!」」」
うん、味噌汁も良い出汁が出ている。
美食と女が趣味だというこのイェシンというミカの同僚。
まあ、歓迎してみようじゃないか。
そう思い心を込めて握る。
「「「ホールの準備終わりました!」」」
「「「飲み物お出し致しました!」」」
【握り終わりました!お出しして下さい!】
「「「かしこまりました!」」」
女給さんがそれぞれ、運び出して行く。
【スープもお出しして下さい!】
「「「はい!」」」
サイドに出汁巻き卵。
デザートはティアのお気に入りのミルクレープを用意した。
出汁巻き卵は最初に出してある。
昼食ならこれぐらいで良いよね?
さて、お代わりが来るかな?
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「すし!?すしだと!?それにミソスープ?」
給仕から献立を聞いたわては愕然としていた。
小麦を使った料理が出て来るかと思っていた。
特別料理との事で期待していたのだが、まさかのすしとミソスープ。
悪夢がよみがえる。
徳之島諸島の美味しい物だと言うので食べに行った事がある。
結果はものすごく不味かった。
見た目、不衛生な魚料理。
そして極めつけは生臭いミソスープ。
帝国に来てまであんな物を食べないといけないのか。
来た事を早速後悔する。
だが、今更帰る訳にもいかない。
仕方が無い、覚悟を決めるか。
そう思っていたのだが。
食欲がそそられる香りの料理に手を伸ばす。
・・・美味い。
このだしまきたまごと言う物はとても美味い。
ほんのり甘く、そして柔らかい。
卵の旨味を完全に引き出している。
出て来たすしに驚く。
何だ、この美しさは!?
まるで別料理ではないか!
食べてみるとほんのりと甘く酸っぱい米に生魚が合う!
そしてミソスープ。
奥深い風味にはちゃんと味がある。
何だこの料理は!
帝国はいつから食文化に目覚めたのだ!?
わてが食べた今までの食事の中で一番美味い!
夢中になって食べる。
何を食べたのかも覚えていない。
・・・食べ終わってしまった。
腹はまだこのすしを求めている。
こんな物があの、すしとミソスープである訳がない!?
「給仕よ、本日の品書きはないか?」
「はい、こちらが御品書きとなっております。」
一品目「出汁巻き卵。」
二品目「新鮮な魚を使った海鮮寿司。」
三品目「海の幸の味噌汁。」
四品目 本日のデザート「ミルクレープ。」
海鮮寿司?
味噌汁?
なんだこれは!?
どれも聞いた事が無い料理だ。
・・・お代わりをしても問題はないだろうか?
「給仕殿、済まないがお代わりをしても問題はないだろうか?」
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「お客様方から御寿司のお代わりが多数です!」
【数は?】
「ざっと五十名様です!」
【分かりました、すぐに握ります!】
予想以上のお代わりだった。
米は炊いてあるので酢飯にする。
そして魚を切り握って行く。
完成した物からどんどん持って行ってもらう。
予定していた数のお代わりを超えて来た。
少し、追加をしておこう。
そう判断した俺は米を炊き追加の切り身を作る。
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「待っていたぞ!このすしを!」
今度は味わって食べる。
うん?
先程とは甘みと酸っぱさが違う。
これは酢の種類を変えてあるのか?
・・・料理人の仕事が細かい。
ふふ、そしてこの鮪と言う魚。
聞いた事がある。
足の速く調理の難しいとされている魚のはずだ。
ここにも心遣いを感じる。
いいぞ!
次はどれを行こうか!
この鯛も美味い。
先程から感じるこのピリっとした爽やかな辛味が味を引き立てている。
そして食べ終ると追加を頼む。
これは良い。
だしまきたまご。
すし。
ミソスープ。
本場と言われる徳之島諸島の物などとは比べ物にならない。
乾期の帝国に来るなどと、気が進まなかったがこれを食べる為に来たといっても良いだろう。
ミソスープを飲み終わるとすぐに追加が来た。
この料理人は仕事も早い。
素晴らしい料理人だ。
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「陛下、この料理とても素晴らしいですね!」
「うむ、生魚なので心配であったが美味い。このピリッとする物も良い。」
「はい、それにこの「だしまきたまご」と言う物も素晴らしいです!」
「うむ、アーサー殿が来てから食が進むぞ。」
「そういえば、陛下。最近は良くお食べになっておりますよね?」
「ふふ、この料理の腕前だけでも帝国に欲しいぞ。」
「・・・手料理なのですね。」
「セリスよ、この料理だけではないな。その引き出しを空けてまいれ!」
「必ずや・・・近いうちに叶えて見せます!」
「その意気だ、娘よ。」
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「皆様方、御満足のようです!」
「「【お疲れさまでした!】」」
「いやあ、生魚なんかどうするのかと思いましたけどね。」
「そうですよ、こんな料理があるんですね。」
【ええ、御寿司と言う料理なのですが、美味しいですよ?】
「シェフ、俺達にも御馳走して下さいよ!」
「私達にもお願い致します!」
【では、御作りしますよ!】
そう言うと握り始めた。
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あの人の料理は相変わらず美味しかった。
「ルイスさん、さすがヘファ師匠ですね!皆を、会場を唸らせてましたよ!」
「そうね。」
「相変わらずだしまきたまごも素晴らしいですね!」
「そうね。」
「生魚で心配でしたが受け入れられて良かったですね!」
「そうね。」
「ミソスープも美味しかったですね。」
「そうね。」
「・・・。」
「そうね。」
「ヘファイストス様の嫁になっても良いでしょうか?」
「それはまだ駄目ね。」
「っく、な、何か考え事ですか?」
「先日見た、鍛冶をしているあの人の笑顔を思い出していたのよ。」
「ヘファ師匠は楽しそうにハンマーを振るいますからね。」
「そう、料理でも先に行ってしまうのよ・・・。」
「ルイスさんは、まずはハムサンドを極めて下さい。」
「っぐ、そ、そうね。」
「まずは、三日後の祭事のミスリルの剣からですね。」
「そう、それが終わったらどうするのかしら?」
「そうなんですよね、期間は一の月って聞いてますよね?」
「そうなのよね・・・。」
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昼食会が終わると陛下に呼び出される。
何か急用かな?
エプロンを外しいつものマントを被ると陛下の元へ向かう。
途中でルイスとサーラを見つけた。
多分顔合わせだろう。
ルイスに訳を話しサーラと向かう事にする。
「おお、アーサー殿。よく来てくれた。」
【陛下、お呼びと伺いましたが?】
「ああ、紹介しよう。こちらがエクスィ・スィデラスの第二席、藍玉であるイェシン殿だ。」
ああ、この人がミカの同僚さんか。
見た感じは狐目の陽気な兄ちゃんだけど・・・。
言いたくはないが蛇のような印象を受ける。
あまり良い感じではない。
顔合わせなどさっさと済ませてルイスの所へ戻ろう。
【アーサーと申します。よろしくお願い致します。】
「そなたの料理、とても美味じゃった。素晴らしい時間を・・・感謝する。」
【喜んで頂けて何よりでございます。陛下、挨拶をさせる為に呼んだのではありませんよね?】
「そうじゃ。イェシン殿、こちらの御仁がそなたと競い合う人物じゃ。」
「ほう、それでは鍛冶師と言う事か?」
【はい、鍛冶師としてはヘファイストスと申します。以後よろしくお願い致します。こちらは弟子のサーラです。】
「サ、サーラと申します。よろしくお願い致します!」
「ヘファイストス?最近何処かで聞いたような気がするのじゃが・・・はて?」
ミカから聞いたのかね?
【無名の私めの事を、エクスィ・スィデラスであらせられるイェシン様がお聞きになるはずなど。】
「そうじゃのう、気のせいじゃな。」
【左様でございますよ。】
「もし行く所が無くなれば、わての専属の料理人として雇ってやるぞ?」
【私にも鍛冶師としての矜持がございますれば。】
「それは良い心がけじゃ、じゃが、そちの料理の腕はもったいないぞ?」
【御容赦下さい、先程も言いましたが私は鍛冶師なのですよ。】
「ふむ、もったいないのう。まあ、夢を見るのは自由じゃがな。」
【と、申しますと?】
「わては、ミスリルの扱いにはなれておるのでのぅ。」
【では、私めは不利でございますな。】
「先の見えた勝負などつまらぬ。ミスリルインゴットを100進呈しよう。それで少しでもわてに並べるよう精進致せ。」
おお、ただでミスリルインゴットがもらえるようだ。
素直に受け取っておこう。
「後程届けよう、それではなヘフェイハスト殿。それと弟子の・・・。」
【ヘファイストスと申します。弟子はサーラと申します。】
「そうじゃったな、ヘファイスト殿。」
わざと間違えて挑発してる訳じゃないよね?
「挨拶は済んだようじゃのう、では三日後。楽しみにしておるぞ?」
「お任せ下され、皇帝陛下。」
【全力を尽くします。】
「うむ、楽しみにしておる。」
「それではのぅ、ヘファトイス殿。」
【では、当日。】
「よ、よろしくお願い致します!」
イェシンと名乗ったあまり印象の良くない男は下がって行った。
「アーサー殿、ヘファイストスとは偽名か?」
【本当の名はヘファイストスでございます、アーサーとは冒険者をしている時の名前です。そちらのほうがどちらかと言うと偽名ですね。】
「そうだったんだ・・・。」
あれ?
サーラには言ってなかったっけ?
「ほう、ならばヘファイストス殿と呼んだ方が良いか。」
【いえ、陛下。アーサーで結構ですよ。そちらの方が何かと都合が良いのです。】
「分かった、これまで通りアーサー殿と呼ばせてもらおう。」
【はい、陛下。】
「アーサー殿から見て、あの者の印象はどうじゃった?」
【腕は実際に見てみないと何とも、ただ自信はあるようなので腕は確かではないかとは思われますが・・・。】
「続けよ。」
【蛇のような印象を受けました。狡猾さを持っているかもしれません。注意致しましょう。】
「ふむ、我と同じ印象じゃな。あの手の輩は何をして来るか・・・気を付けるのだぞ?」
【御忠告有難く、それでは陛下、失礼致します。】
「し、失礼致します!」
「うむ、三日後。楽しみにしておる。」
そう言って二人で部屋を退出する。
「ふふふ、三日後が楽しみじゃ。」
ヘファイストスと名乗ったアーサーと言う人物、何処までやるのか楽しみじゃな。
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