とある工房での一幕
いつも読んで下さり、誠にありがとうございます。
執筆終わりました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
目が覚めると二つの膨らみがあった。
【ん・・・。】
その膨らみを堪能する。
谷間に顔をうずめた所でルイスの物でないと分かって青ざめる。
【ダーリン、起きたのね?】
【お、おはよう、ティア。】
【久しぶりにダーリンを独占する事が出来て満足よ。】
【ちなみに、今何時だかわかる?】
【んー、人族の時間だと十一の時ぐらいかしら?】
【不味い!戻らないと!】
【もっとゆっくりは出来ないの?】
【人族の用事があるんだよ、ごめんね、ティア。】
【あいすくりいむ、期待しているわ。】
【ああ、今夜持ってくるよ。楽しみにしておいで。】
【・・・分かったわ、ダーリン。】
ティアと別れるとリターンで王城のバルコニーに戻る。
【た、ただいまー・・・。】
そーっとドアを開けて室内に入ると、ルイスとサーラからのお叱りが待っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も練兵の予定が入っていたのだが、鍛冶をしていないので久しぶりに鍛冶をする事を許可してもらった。
ここは六人掛けの馬車の中。
帝国で一番と言われる鍛冶工房へ向かっている最中だ。
行くメンバーは俺にルイスとサーラ。
案内係としてノモスとセリスが同乗している。
何故か俺はルイスとセリスの間に座っているのだが・・・?
「セリスさん、そんなにこの人に引っ付かなくても、案内は出来ますよね?」
「いや、接待役なのだ当然の事では無いか。」
「その接待役のノモスさんは反対側で大人しくしていらっしゃるようですが?」
「アーサー様が嫌と言わなければ良いのではないか?」
「貴方からも言ってあげてよ!」
【ルイス、怒ってばかりでなく窓の外を見てごらんよ。帝国には帝国の趣があって良い景観じゃないか。】
「もう!貴方がそんなだから!」
「ルイス嬢、そろそろ着きますよ。」
「ふん!」
ルイスは御機嫌斜めの様だ。
まあ、嫁さんを放ったらかして、御昼までティアの所にいたのだ。
でも、怒っているルイスも可愛いんだけどね。
・・・黙っておこう。
そんな事を考えているうちに馬車は目的地に着いたようだ。
馬車を降りるとその蕭灑な建物の古めかしい風貌に驚く。
更には働いている人が多い。
うん、期待出来そうだ。
そう、そこは俺の本来の戦場である鍛冶屋だった。
ノモスとセリスが工房の人と話をしている。
様子を見ていると言い合いになって来た。
・・・どうやら歓迎されていないようだった。
見掛け倒しかな?
「なんで女なんかがいるんだ!」
「それは私にも言っているのか?」
「ああ、そうだ。女人は入れないって決まりがあるんだ!」
「そこを何とかならないかなと頼んでいるのではないかね?」
「旦那、いくら言われようが変わりませんぜ?第一何だよ。女でも、もっとましなのを連れて来い!」
「貴様、客人に向かって何を言っているか分かっているのか!」
「客人?客人にすらならねえよ?あんなみっともねえ乳をさらしてよ!」
「き、貴様!」
「まあまあ、セリス様。ここは穏便に。」
「セリスだって?っは、御転婆姫様がそれこそ何の用だよ!」
「何を騒いでいやがるんだ!」
「あ、親方。こいつらが工房を見学してえとか言いやがってよ、女人はお断りだって言ってるのに聞いてくれねえんだよ。」
「そうか、お前は仕事に戻れ。後はわしが対応する。」
「へい、親方!」
そう言うと口の悪い従業員は工房の中に入って行った。
うーん、思っていたのと違うぞ。
「セリス様、申し訳ない。あ奴の言う通り女人は入れねえ決まりなんですわ。」
「シディル・ルゴーシ、そこをまげてお願いしているのだ。」
「セリス様には御贔屓にしてもらっているので・・・ん?鍛冶師はそこの坊ちゃんか?」
「坊ちゃんだと!貴様、アーサー様を侮辱するか!」
「セリス様、ここは穏便に!」
剣を抜こうとするセリスをノモスが止めている。
親方さんがなんか俺の方を見ているぞ?
近寄って来た。
手を見ているね。
ああ、俺の手は豆が出来ても回復しちゃうからねぇ・・・。
「ふん、そんなに言うなら条件を出しましょう。そこのお坊ちゃんの仕事っぷりを見せて頂きましょう。」
「ほう、それで?」
「俺が納得の行く物を打てたのなら、特別に見学を許可しますよ。女人であってもね。」
皆の視線が俺に集まる。
【良いでしょう、そこまで言うなら実力を見せましょう。】
俺はそう言って挑戦を受けた。
まずは俺とノモスが工房に入る。
よそ者を歓迎する雰囲気ではないな。
あちこちから侮蔑の視線を感じる。
まあ、分からなくもない。
見かけは十五歳のがきんちょだからね。
だけど、これで帝国一か。
期待していたんだけどな。
「ここだ、まずは鉄だ。時間内にロングソードを十本打ってもらおうか。」
【ちなみに時間は?】
「日が暮れるまでで良いぞ。まあ、無理だと思うがね。」
「若いの、腰が引けたか?」
「親方も人が悪い、ロングソード十本なんて親方でも・・・。」
「まあ、黙って見ていようぜ。」
「お坊ちゃんが泣いて出て行く様をな!」
「「「ギャハハハハ!」」」
うーん、一言、言っておこう。
【シディル・ルゴーシさんと言いましたよね?】
「何かあるのか?もしかして出来ないとでも言うのか?」
【いえ、貴方は鍛冶師の何たるかを勉強しなおした方が良い。それに人としても、親方としての在り方も。】
「口先だけが達者なおぼっちゃまには分からないだろう、まずはやってみてからお喋りしな!」
「・・・アーサー、大丈夫なんだな?」
【ああ、ちょっと懲らしめてやるよ。そしてその高くなりすぎた鼻を折り曲げてやる。】
「おいおい、お手柔らかにな?」
【ノモス・・・俺は怒っているんだ。鍛冶師とはこんな奴らの事を言うのではない。もっと崇高な物なんだ。】
「あ、ああ、そこで見ている、頑張ってくれ。」
【さてと・・・始めますか!】
支度を整えると鍜治場に立つ。
そしていつもの工程で作り上げて行く。
カーン!カーン!
カーン!
・・・
「・・・ば、馬鹿な二時間も経たずに十本だと!?」
「「「・・・。」」」
周りの鍛冶師達も開いた口が塞がらないのだろう。
【材質が鉄ではないですか。鉄でこの程度の事が出来ないとは、貴方は鍛冶師としても人としても三流以下だ。】
「っへ、何処の坊ちゃんだか知らねえが口には気を付けな!」
【大方、金をとっても碌な物を作れない工房なのでしょう。従業員の人となりを見れば分かる。】
「なんだと!?」
【それに、鍛冶師を馬鹿にするのも大概にしろ!】
「っつ!?」
【場合によっては人の命を預かる物だ。俺の打った剣と貴方の打った剣を比べてみるといい。】
「っく、『鑑定』・・・そんな、ば、馬鹿なっ!?武器ダメージが七十だと!?」
「「「七十ですか!?」」」
「本当ですか親方!」
【これで分かったでしょう?上には上がいるんです。それに貴方の実力では鋼のハイクオリティーは難しいでしょう?】
「っく、そ、そこまで言うなら、鋼で打ってもらおうじゃねえか!」
【懲りない人ですね、それでは見ていて下さい。】
カーン!カーン!
カーン!
・・・
「馬鹿な・・・こんなにも早く、しかもハイクオリティーだと!?」
【お分かりになりましたか?・・・今回の件は皇帝陛下に御報告致しますからね。】
「なっ!?」
【鍛冶師を馬鹿にした事を悔いて下さい。】
「待ってくれ!そんな事をされたら工房が潰れちまう!」
【こんな事をやっているようでは、この工房は遅かれ早かれ潰れますよ。】
「あ、あんたエクスィ・スィデラスなのか!?」
【違いますよ、ヘファイストスと言う一介の鍛冶師です。ノモス、行こう。別の工房を案内してくれ。】
「分かったよ、アーサー。」
「え?ノモスって言うと、まさか・・・プルスィオス商会の会頭のノモス様!?」
「そうだ、そう言えば名乗っていなかったね。」
「待ってくれ、いや、待って下さい。それじゃあ本当に工房が潰れちまう!」
俺にすがり付いて来るが期待しないでもらおうかな。
【待てません、貴方は鍛冶師としての矜持を無くした。それが答えです。】
「うおおおぉぉぉ・・・!」
その声を背に工房から外に出る。
「貴方何があったの?」
【ちょっと懲らしめただけだよ。ノモス、皆、行こう。ここには俺の求めている鍛冶師はいない。】
「ノモス侯爵、アーサー様は怒っていらっしゃるのでは?」
「そうです、この工房はあいつの事を怒らせたんですよ。」
「何故だ?帝国一の工房と名高いのだぞ?」
「その事に驕っていたのです。」
「ふむ、皇帝陛下に御報告して通告してもらうとしよう。」
「それがよろしいかと。」
「しかし、アーサー様でもお怒りになるのだな・・・。」
「それはそうでしょう、矜持を、アイツの大切な所を汚されたのですから。」
「うむ、私も気を付けよう・・・。」
そして次の工房へと向かう。
街工房のような所だった。
「おい、ノモス侯爵!このような所で本当に良いのか?」
「見かけは関係ありませんよ、問題は中身です。」
「そ、そういう物なのか?」
「ええ、ほら見て下さい。アイツの満足そうな顔を。」
【ここは素晴らしい工房ですね、失礼ですが妻と弟子に仕事を見せたいのですがよろしいですか?】
「ええ、構いませんよ。」
落ち着いた所でルイスとサーラに鍛冶仕事を見せる。
ルイスは初めての俺の仕事っぷりに驚いていた。
サーラは相変わらずメモを取っていた。
仕事が終わると工房主に声を掛ける。
【それで、この工房が流行らないのは何故ですか?】
「ああ、帝都内に大型の鍛冶工房がございましてね、そこが優先に仕事を持って行ってしまうんですよ。」
【じゃあ、これから忙しくなりますよ・・・きっと。】
「そうだと良いんですがね。」
のちに俺の鋼で打ったその剣が、大きくなった工房の目標となる事はまた別のお話。
こうして昼間の視察と言う工房見学は終わったのであった。
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「・・・そうか、帝国一の工房も落ちた物だな。」
「左様です、皇帝陛下からと言う事で解体の通告文を出しておきました。」
「うむ、で、セリスよ。」
「はい、陛下。」
「アーサー殿との仲は進んでおるのか?」
「そ、それが・・・ですがまだ時間はあります!」
「そうか、それでは引き続き励むと良い。」
「はい!陛下!」
「報告苦労、下がるが良い。」
「失礼致します!」
「皇帝陛下に申し上げます!」
「何か?」
「エクスィ・スィデラス、藍玉様が四日後の昼頃に到着する予定です。」
「ほう、では歓迎の準備を致せ、抜かりなくな。」
「ははっ!」
「そうだ、料理はアーサー殿に頼め、我からの願いであるとな。」
「かしこまりました!」
「ふふふ、今度はどんな料理で楽しませてくれるのか楽しみだな。」
来るべき聖剣の出来上がるその日を心待ちにする。
二人の鍛冶師はどのような仕事をするのか楽しみだ。
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【え?歓迎の料理を俺が作る?何で?】
「それが、父上、皇帝陛下からの頼みなのだ。引き受けてはくれまいか?」
【セリス、俺は】
「鍛冶師だ!でございますよね。分かってはいるのですが、どうしてもアーサー様にお頼み致したく・・・。」
セリスを責めるのはお門違いだろう。
陛下め、自分の国の賓客だろうに。
何で俺が料理を作らないといけないんだよ。
まあ、今回は貸しにしておこうかな。
【はあ、分かりましたよ、セリス。それで誰がいつ来るんですか?】
「御客様は四日後の昼頃に到着する予定なのです。」
【それなら昼御飯だね?】
「左様です。御迎えする相手は、エクスィ・スィデラスの藍玉殿になります。」
あれ?
エクスィ・スィデラスの藍玉ってミカの同僚じゃねえか?
【分かったよ、精一杯もてなそうじゃないか。】
「アーサー様、助かります。」
【皇帝陛下とセリスの頼みですからね。それでは相手の詳細を、味の好みなども分かればお願い致します。】
「そう言うと思いまして、資料はこちらに。」
【・・・最初から断らないと思っておりましたね?】
「私の頼みです、アーサー様が断るなどとは思っておりません!」
大丈夫か、この御姫様?
「それと、もし聖剣に認められれば私の武具も作っては頂けないかと・・・。」
【それは構いませんが、認められるとは?】
「奉納した聖剣には、偉大なる『創造神アリステリア様』からの祝福が与えられるのです。」
【そんな事があるのかい?】
「ええ、それなので負けないで下さいね、アーサー様!」
【鍛冶仕事には勝ち負けはありませんよ?良い物を作れれば良いんです、ですが全力を尽くす事を誓いましょう。】
「それでこそ・・・それでこそアーサー様です!」
『アリステリア様』からの祝福・・・か、この前は会えなかったんだよね。
そう言えば神都に行くのを忘れていたよ。
落ち着いたら今度は皆で行けると良いね。
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話が終わるとアイスクリームを持ってティアの所に向かう。
【ティアー、来たよー?】
【こっちよ、ダーリン。】
【今日は石棺の所じゃないんだね。】
【たまには星を見たくなるのよ。】
【そうそう、アイスクリームを持ってきたよ、もちろん新作だ。】
【早く食べたいわ!】
【まあ、待って待って、今取り出すから。】
皿にいれたアイスを取り出す。
【今日は十二個作って来たよ。全部味が違うんだぜ?】
【嬉しいわ、ダーリン!】
【ほら、抱き着いてないで食べなさい。溶けちゃうぞ?】
【溶ける?】
【氷菓子なんだよ。】
【それなら一個ずつ出して頂戴ね?】
【分かってるよ、ティア。】
今夜も楽しくティアと過ごすのだった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
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それでは 次話 第三幕 第二章:神事 藍玉という鍛冶師 でお会い致しましょう!
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