晩餐会・その後
いつも読んで下さっていらっしゃる方々、お待たせいたしました!
執筆完了です。
お楽しみ下されば何よりでございます!
部屋に戻って出かけようとしているとドアがノックされた。
【はーい、どちら様?】
返事がない。
誰だろうと思いドアを開けると寝間着姿のルイスがいた。
【どうしたの、寝ないのルイス?】
「・・・。」
黙ったまま部屋に入って来た。
ベッドに着くと服を脱いでいく。
と、俺が作ったネグリジェ姿になった。
「こ、これで良かったのかしら?」
【ああ・・・綺麗だよルイス。】
「でも絹布一枚だから寒いわ。」
【ああ、上着を出そ】
ルイスが抱き着いてきた。
「貴方に温めてほしいの。」
おお、そうだ。
船の上は別として、旅行に来てからは一日目の夜。
そう、記念すべき初夜である。
ルイスもその事を気にしていたのだろう。
【気付いてあげられなくって、ごめんね、ルイス。それで、今日はどういう風に愛されたいのかな?】
「貴方の好きにして良いのよ?」
【それでは遠慮なく。】
そう言ってベッドに押し倒す。
【今日は寝かさないよ、ルイス。】
「ええ、貴方。」
こうして初夜は無事に過ぎて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ほう、ならば本気で伴侶にすると?」
「はい、皇帝陛下。かの者の強さ、心遣いそして人となり。全てにおいて心奪われました。」
「そなたがそのように乙女の顔をするとはな・・・。」
「皇・・・父上、お願いでございます。何卒、アーサー様に輿入れする事をお許し下さい!」
「我は構わんが・・・アーサー殿は何と言っておるのだ?」
「そ、それは・・・。」
「セリスよ、そなたは性急すぎるきらいがある。まずは相手をその気にさせよ。同意したならば認めてやろう。」
「同意を得られればよろしいのですね、父上!」
「うむ、ただし、セリスよ。」
「は、はい。」
「慌てるな、狩の得物のを追い詰めるがごとく慎重に行うのだ。」
「慎重にでございますか?」
「そうだ、でなければ逃してしまうぞ?」
「・・・かしこまりました、父上の言、忘れないように致しましょう。」
「うむ、見事射止めて見せよ。」
「必ずや!」
そう言うとセリスは下がって行った。
あの娘には幸せになってほしいと思い、色々と縁談を持ち掛けたのだがな・・・
伴侶にしたいか・・・
ふふふ、御転婆姫などと呼ばれている、あのセリスがな。
だが、悪い話ではない。
あの者の人となりは我への料理での心遣いで分かった。
戦いの腕も、セリスが言うのだから間違いはないだろう。
後は利用価値を見極めるとしようか。
鍛冶を行うと言う後日の事に考えを移す。
噂通りの腕前ならば良いのだがな、将来の婿候補よ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城のバルコニーでルーンにマーカーで焼き込む。
紅いマントを羽織ると力ある言葉を唱える。
【4th リターン!】
楽しんでいるとルイスが気絶して動かなくなってしまったので、俺はとある所へ来ていた。
【1th ナイト・サイト。】
遺跡に移動する。
そして内部に踏み込む。
【ティア、いるんだろう?会いに来たよ!】
そうティアの所に様子を見に来たのである。
【・・・。】
返事の無い遺跡の中を進むと、石棺に座って恨めしそうにこちらを見つめているティアを見つけた。
【ティア、なんで返事をしてくれないのさ・・・ティア?】
ツンと顔を背けられてしまった。
側によって声を掛ける。
【遅くなったのは謝るよ、ごめんね、ティア。】
【そうよ!ダーリン!どうして一番最初に会いに来てくれなかったのよ!待っていたのに!期待していたのに!】
【人族には人族の付き合いがあるんだからしょうがないだろう?】
【駄目ね、許さないわ!イライラして気が狂いそうだったんだもの!】
【許してくれるにはどうしたら良いんだい?】
【・・・気持ち良いをさせなさい。】
ふふ、可愛いなぁ。
そう思うとティアを抱き寄せる。
【ごめんね、ティア。もっと早く会いに来たかったんだけれど・・・。】
【そうよ!一番に来なさいよね・・・。】
【一番は無理だけれど、なるべく早く来るよ。】
【・・・ダーリンからあの女の臭いがするわ。】
【あの女?】
凄い力で押し倒された。
ティアが覆いかぶさってくる。
【ティアさんや?突然どうしたのかな?】
【あの女の臭いが消えるまでこうしてあげるわ。】
抱き着かれた。
臭いって言われてもなぁ。
【嬉しいんだけど、ちょっと刺激が強いかな。】
【駄目よ、許さないから!】
【ティアさんや、それは『嫉妬』と言うんじゃないかな?】
【・・・。】
【ティア?】
【この感情は不愉快よ!どうしたら治るのかしら?】
【と、言われてもなあ。】
ティアをギュっと抱きしめる。
【これでどうかな?】
【・・・ちょっと治ったわ。このままにしておきなさい。】
【分かったよ、ティア。】
うーん。
良い所が当たって気持ちが良い。
このままだとまずいな。
そう思ったのでティアを横にして腕枕をする。
見つめ合う形だ。
【ティア、寂しかったの?】
【寂しい?これも寂しいと言う事なの?】
【俺は寂しかったよ?】
【分からないわ、ただこの大陸にダーリンの気配がしたと思ったけど、いつまでたっても来ないんだもの!】
【うん、ごめんね、ティア。】
髪を撫でつける。
相変わらず長い髪の毛だ。
【ダーリン、それ、気持ちが良いからもっとやりなさい。】
【分かったよ、ティア。】
言われた通り指で髪をすくように撫でる。
【気分が良いわ。】
【そうかい、機嫌が直って良かったよ。】
【機嫌?】
【気分が悪いのが無くなって来たって事だね。】
【そうね、さっきよりましだわ。】
そうしてこの可愛い悪魔さんの髪を明け方まで撫でていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日が昇って来た。
ダーリンと別れる時間だ。
【・・・今度はもっと早く来るのよ?】
【分かったよ、寂しがりなティア。また来るね。】
そう言うと転移魔法で戻って行った。
【・・・もっと長い時間一緒に居たいわ。】
そう、寂しいと言う感情。
これは嫌だ。
封印が解けてからは一人でもそんな事は思わなかった。
これはダーリンと出会ってから芽生えた感情。
そう思うと心の中が暖かくなる。
【ダーリン、次は早く来てね。】
そう思うとダーリンの行った王城の方を見つめる。
ダーリンが来るのは夜になるだろうが楽しみが増えた。
・・・楽しみ?
まあ良い、今度ダーリンに聞こう。
この感情が何であるのかを。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で、貴方は私を放っておいて他の女に会いに行ったと・・・。」
【いや、ルイスさん。まずは落ち着こうか。】
「落ち着いているわよ?」
その笑顔は怖いからやめようね。
顔を近づけて囁く
【女って言ってもティア、つまり強欲さんの所だよ。】
「ちょっと、なんでそんな危ない所に行っているのよ!」
【話せば分かってくれる良い子なんだよ。それに一人じゃ寂しいじゃないか。】
「はぁ・・・じゃあ、その強欲さんの機嫌を取る為に会いに行っていたのね?」
【うーん、機嫌を取るとかじゃなくて会いたかったんだよ。】
「・・・。」
【だって考えてみてよ。あんな大きな遺跡に一人でいるんだよ?寂しいじゃないか。】
「もう!分かったわよ。でも危険な事はしないでね。」
【ティアは危険じゃないよ?寂しがり屋の普通の女の子なんだよ。】
「でも次からは行く時に言って行くかメモ書きでも良いから残して頂戴。」
【分かったよ、ルイス。】
「なら、よろしい!で、今日の予定はどうなのかしら?」
【ノモスが昨日『ああ』だったから聞けなかったんだよね・・・。】
「どうすれば良いのかしら?」
【ミスリルの剣もいつ打ってくれとも言われていないんだよね。】
「【うーん・・・。】」
【とりあえず朝御飯を食べようか。】
「そうね、サーラさんも呼んで行きましょう。」
【そうしよう。】
サーラを起こして宮殿内をうろつく。
「朝御飯は何処で食べるのかしらね?」
【何処だろうね?】
「ヘファ師匠、何処で食べるんですか?」
「「【ん?】」」
どうやら誰も知らないようだった。
とりあえず昨日の厨房に向かったのだが誰もいなかった。
諦めてそこで料理を作る。
すると何人かの清掃係らしき人達がやってきてこちらを見ている。
勝手に使った事を詫びるとその清掃係の人達にも料理を振舞う。
・・・合計で三十人ぐらいの人が集まって来た。
まだまだ増えそうだった。
仕方が無い。
その日の朝は五十人程の人達に料理を振舞うのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アーサー、済まない。」
今度は場所を聞いておいたので、そこで昼食をとっているとノモスがやってきて頭を下げて来た。
【やあ、これはこれは、貴族様の令嬢相手に俺を売り飛ばそうとしたノモス侯爵様ではございませんか!】
「っぐ、本当に済まない。」
【それで、そのノモス様が私めに何の御用でしょうか?】
「アーサー、悪かった。この通りだ、だから大声で言うのはやめてくれないか?」
【分かったよ、今回は何もなかったからいいさ。それで今日は何をすれば良いんだ?】
「それなんだが・・・。」
「それは私から説明しよう、アーサー様。」
【セリス様!?】
「アーサー様、そんな他人行儀な呼び方などなさらず、セリスとお呼び下さい。」
「「・・・。」」
ルイスはともかくサーラまで目つきが怖いんだけれども?
「では、今後の説明を致します。本日は・・・。」
すらすらと予定を言ってくれるが二人の視線が怖くて頭に入ってこない。
「との事でございますので、聖剣を打って頂くのは第二席の藍玉殿が来てからとなります。」
【では、それまでは自由と?】
「はい、女性の皆様方はノモス侯爵の案内で市中を見回って頂きます。アーサー様はよろしければ練兵を見て頂きたく思います。」
【俺は鍛冶師なんだけれど?】
「御謙遜を、その秘めたる技量、このセリス、感服してございます。アーサー様に来て頂ければ、皆の鍛錬にも身が入ると言う物です。」
この子、なんでこんなに得意気なんだろうね?
【ルイス達はそれで良いのかな?】
「そうね、兵隊さん達を見ているよりは市場で皆のお土産を見たりとかお買い物をしたいわね。」
「そうですね、鍛冶の工房とかも見たいですし・・・。」
【じゃあそうしようか。その予定で頼みます、セリス様。】
「セリスで結構でございます、アーサー様。」
【いや、そんなこ】
「どうかセリスとお呼び下さい。」
迫ってきた顔は笑顔だが怖かった。
【は、はい、セリス。】
「今後とも、それでよろしくお願い致します。」
セリスはにっこりと微笑んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、アーサー。こちらの事は任せてくれ。」
【頼んだよ、ノモス。】
「行ってくるわね、貴方。」
「行ってきます、ヘファ師匠!」
【気を付けてね!】
馬車を見送るとセリスの案内で練兵場へと向かう。
練兵場には何事も無くたどり着いた。
昨日も来たが広い場所だった。
東京ドーム四個分ぐらいかなあ?
「アーサー様、指示書を作成しては頂けませんか?」
【指示書、ですか?】
「はい、訓練を効率よく進める為の指示書です。」
うーん、書いた事なんかないぞ?
アレか?
栄養士さんとかから言われる健康な体を作ろう的なヤツか?
小麦なら持久力を付けさせるのが良いだろう。
とにかく走れと、有酸素運動をさせるぐらいしか思い浮かばないな。
書き込み終わると従士達がそれを書き写していく。
「パトリオティス将軍、アーサー殿である!兵を整列させよ!」
「ははっ、全軍集合、待機態勢にて整列!」
ワー!ワー!
ワー!
・・・
ザッ!
「・・・将軍、遅すぎる。もっと迅速にさせよ。」
「かしこまりました、セリス様。」
「傾聴!」
ザッ!
セリスが練兵台の上に立つと約三百人程の兵士達が敬礼してくる。
「諸君、本日よりしばらくの間、武術指南としてそなた達を鍛えて下さるアーサー様だ。知っている者もおるだろうが、かの英雄『紅蓮のアーサー』殿である。」
ザワ・・・ザワ・・・
「静まれ!」
ザワ・・・
・・・
「それでは本日の訓練を行う。と言ってもその実力を信じない者もいると思われる。その者は直接指南を受けると良い。」
あのー・・・俺は鍛冶師なんですけれど?
「それでは今日よりの訓練指示書だ、百人隊隊長はこの指示書に沿って訓練をする事、なお直接指南を受けたい者はアーサー殿の前に並べ!以上!」
「指示書を受け取った者達より、訓練開始!」
指示書を受け取りに来た人達が百人隊隊長なのだろう。
無表情に行動を開始する。
指南役と言う俺の前に行列が出来ていた。
うん、そうだよね。
実力を知らない人になんか教わりたくないよね。
セリスさんもあんなに煽るから・・・
「それでは、アーサー様、お願い致します。」
【セリスさんや、俺は鍛冶師なんだが?】
「御謙遜を、それでは前の者から順に模擬戦を開始する。それぞれの得意な武器で掛かって良い、遠慮はいらん。それでは双方前へ!」
遠慮はいらんって、せめて刃引きにしませんかね、セリスさんや。
野次馬達が集まりだした。
と、練兵場のほとんどの兵士が集まっているじゃないか。
訓練はしないのかな?
皆さん、娯楽に飢えているのですな・・・。
「やっちまえ!スフィリー!」
「スフィリと申します。お手並みを拝見致したい!」
はあ、仕方が無い。
付き合うとしますか。
武器からするに、この人は棍術かな?
【よろしくお願い致します。】
「両者開始位置へ!」
おや?
この場所は地面が土だぞ?
っと、集中しろ、俺。
セリスの号令の元、指南と言う試合が始まる。
「始め!」
「うおおぉぉ!」
その攻撃を受け流しメイスの先を地面にめり込ませる。
体勢を崩したのでメイスの先端を足で踏み込み地面に完全に食い込ませる。
そこに追撃の拳を鳩尾に打ち込む。
ドゴッ!
「ぐふっ・・・。」
【大振りすぎますね、実戦でやったらすぐに死にますよ?】
「「「ウオオオォォォッ!」」」
苦悶に蠢いていたがしばらくすると動かなくなった。
そのスフィリと言う男は頒布で運ばれて行く。
列に視線を移して数を確認する。
あれ?
今ので、並んでいる人数が少なくなっちゃったぞ?
やりすぎたか?
「次っ!」
「ロンヒと申します!お願い致します。」
【いつでも構いません。】
「始めっ!」
この人の武器は槍。
槍術だね。
今度の人はじりじりと間合いを詰めると、気合を込めた突きが来るがそれを払う。
しばらく様子を見ていると焦れて来たのか構えを変えた。
「っく、ならば、これはどうだ!『ダブル・ストライク!』」
一段目の攻撃をかわし、二段目の攻撃を懐に入ってやり過ごす。
「なっ!?」
ドグォ!
鳩尾に拳を叩き込む。
「ごふっ・・・。」
【スキルに頼りすぎです。その後の事も考えて下さい。】
「「「ウオオオォォォッ!」」」
気絶したロンヒと言う男も頒布に乗せられて運ばれて行く。
その間にも列の人数が減って行く。
「次っ!」
「スパスィと申します!いざ!」
・・・
順に消化していった。
十三人目。
この人で最後のようだ。
「オプロと申す。噂の手練れと仕合えるのは名誉な事ですな!」
【よろしくお願い致します。】
「やっちまえー!オプロ!」
「その高そうな鼻をへし折ってやれー!」
いやいや、高くなってないよ?
「「「ウオオオォォォッ!」」」
さてと、この人は・・・。
あれ?
武器を持っていない。
【武器はどうされました?】
「貴君とは素手で勝負してみたい!」
【・・・分かりました。】
「いざっ!」
「始めっ!」
開始の合図とともにスルスルと地面を進んで来る。
時折フェイントを織り交ぜながら迫って圧力を掛けて来るのだがそれに構わず迎え撃つ。
左ジャブからの右のボディーブロー。
技量はなかなか・・・。
「手は出されないのですかな?」
【それでは失礼して。】
同じように左ジャブを放つ。
「っぐ、お、重い。」
まだ前進は止まらないか。
更に左ジャブで牽制する。
止まらない。
右のボディーブローを左手で受け止める。
しばらくそんな攻防が続く。
さっきから顔を狙ってこないのは、狙っているんだろうな。
そして先読みして右のボディーブローの位置に右手を出す。
「もらいましたぞっ!」
やはりボディーブローは布石か。
左の大砲が俺の顔に迫る。
『フラッシュ・カウンター。』
ドゴォ!
カウンターが顎を捉える。
「ば、かな・・・。」
ドサッ
「「「・・・。」」」
周りの野次馬達が静まる。
気絶したオプロと言う人は頒布で運ばれて行った。
それと同時に野次馬も口々に感想を述べながら訓練へと戻って行った。
【熟練者相手だと見え見えです。次からは気を付けて下さい。・・・セリス。】
「はい、アーサー様。」
【今のオプロと言う人の軍歴を。】
「はい、現在は第三歩兵隊の百人長を務めております。その前は・・・。」
【あの技量で百人長は勿体ありません、千人長にする事をお勧め致します。】
「左様ですか、すぐに手配致します!」
【あの人にはスキルを使ってしまった・・・。】
「アーサー様、何か?」
【いいえ、独り言です。】
「・・・手配して参ります!」
そう言うとセリスは建物、おそらく指揮所だろう方へ走って行った。
戻ってきたセリスに救護所の場所を聞く。
救護兵にポーションを渡し十三人の戦った猛者達を治療してもらう。
「アーサー様、手持ちの貴重な品を、申し訳ありません。」
【構いませんよ。・・・皆さんは真面目に訓練をしてくれているみたいですね。】
「アーサー様の模擬戦が効いているのでしょう。」
【それならば結構ですね。】
「はい、しかし持久力を付ける訓練が多いような気が致しますが?」
【ええ、麦から作るパンにはタンパク質やビタミンが多く含まれています。その為、筋力は十分でしょう。】
「たんぱくしつ?びたみん?」
【ああ、要するに筋肉は十分なのでそれを生かせるようにスタミナを付けさせる訓練が必要だと言う事です。】
「良くは分かりませんが、スタミナを付けさせるのが良いと?」
【セリス、食べ物の軍費の方はどうなっているのですか?あ、機密なら言わなくて結構ですよ。】
「皇帝陛下から、先日の件で兵達には十分な物を食べさせよと言われておりますので『食』の費用は問題ありません。」
【でしたら、肉を食べさせる事をお勧めします。】
「肉ですか?」
【ええ、タンパク質で更に筋肉を作り、鉄分で貧血を改善させ、亜鉛で免疫力を向上させる。更にアミノ酸で血圧の上昇を抑制してビタミンB1で疲労を回復させる事が出来ます。】
「あみのさん?びたみんびいわん?」
俺も栄養学にはそんなに詳しくない。
【要するに健康に良いと言う事です。】
「グレゴリオ司令官より陛下に報告して頂けるように話をしてみます。」
【それが良いでしょう。それでは訓練を見て回りましょう。】
「はい、アーサー様。」
セリスと共に訓練場を見回る。
うん、走ってる、走ってる。
帝国民の人柄なのだろうか?
訓練に文句を言う人はあまりいなかった。
普通だと、こんな地味なトレーニングなんかやってられるかー!
みたいな展開があってもおかしくはないんだけれどな。
そしてそのトレーニングは夕暮れまで続いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「皇帝陛下!アーサー様の実力は本物でございます!」
ほう、セリスがこのように乙女の顔をするとはな。
「最後の素手での模擬試合、痺れました!」
「セリスよ。」
「はい、陛下!」
「・・・それではアーサー殿との仲は進んでおらんように見えるが?」
「っは!も、申し訳ございません!」
「いや、セリスよ。お主が言い出した事なのだからそれでよいなら・・・よいがな。」
「いえ、陛下!必ずやアーサー様を射止めてごらんに入れます!」
「ふむ、期待しておるぞ。」
「はい!」
「それでどのような試合だったのじゃ?」
「それはもう素晴らしいとしか言いようが無く、あのスフィリを倒した時の素敵な事!それに続いてロンヒの槍をかわしたあの目にも留まらぬ素早さ・・・。」
この娘がこのような顔をするとはな・・・。
二日前には考えもしなかった事だ。
「で、最後のオプロ百人長を倒した技の切れ!いつ技が入ったのか見えませんでした!」
「ほう、そこまでの使い手か?」
「はい、陛下!あの方は帝国にこそ無くてはならないお方です!」
「じゃが、本人がそれを望んでおるまい?」
「左様でございますが・・・。」
「まあ、慌てずにな。まずは御主の事を認めさせる事から始めると良い。」
「はい、陛下!助言の通りに致します!」
「ふむ、今宵は疲れたであろう、下がって良い・・・報告、苦労。」
「それでは、失礼致します!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでですね、ヘファ師匠。私の銅のロングソードが褒められたんですよ!」
【良かったね、サーラ。じゃあ俺の所は卒業して工房に入るのかな?】
「何を言っているんですか、ヘファ師匠?」
【何って・・・サーラの将来をですね・・・。】
「私はヘファ師匠を振り向かせるまで、いえ、ヘファ師匠が私を必要としなくなるまでずっと側にいます!」
いつの間にか目の前まで移動して、しかも手まで握って喋っていた。
【サーラ・・・。】
「ヘファ師匠・・・。」
【嬉しいんだけれど、そろそろ怖いから離れてくれないかな?】
ルイスの視線が怖い。
結婚してからだろうか。
ルイスがすごく焼きもちを焼くようになった。
それはそれで嬉しいんだけれどね。
「済みません・・・そ、そう言えば、帝国にはお風呂は無いんですかね?」
ルイスが怖くて話を変えて来たな。
「そうね、そろそろ入りたいわね。」
【明日にでもノモスに聞いてみよう。今日の所は我慢だね。】
「ええ、聞いてみましょう。」
「わっかりましたー!」
【さてと、今日は遅いから寝ようか。】
「はい、お休みなさい!」
「お休みなさい、サーラさん。」
「・・・あのぉ、ルイスさん。なんで部屋を出て行かないんですか?」
「そ、それは、これから夫婦の話があるのよ?」
【そ、そうなんだよ、サーラ。】
「・・・良いですか!いつか絶対にその中に入って見せますからね!」
バタン!
サーラはそう言うと部屋を出て行った。
【サーラにも困った物だね・・・。】
「ねえ、疲れている?」
【ルイスの為なら少しぐらいの疲れなんて無いのと同じだよ。】
「今日も可愛がって下さるのでしょう?」
【もちろんだよ、ルイス。】
ルイスをベッドに押し倒す。
こうして夜は更けて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【ティアー、いるかい?】
【ここにいるわ、ダーリン。】
相変わらず石棺の上でこちらに手を振っていた。
【今日はお土産があるんだ。】
【お土産?】
新作のミルクレープを取り出す。
【ミルクレープって言うんだけれど、食べてみてよ。】
【良い香りがするわね。】
【ああ、冷やしてあるから美味しいと思うよ?】
【この丸いのはどうやって食べるのかしら?】
【ああ、切り分けてあげるよ。】
八等分に切り分けると一切れを皿にのせて渡す。
【ナイフで少し切ってフォークで食べてごらん?】
【美味しそうだわ。】
【まあ、食べてごらんよ。】
ナイフとフォークを持って御満悦の様だ。
【んっ!これは美味しいわ!甘いのね・・・とても気に入ったわ!】
夢中で食べている。
切り分けた物があっという間になくなってしまった。
【・・・残念ね。無くなってしまったわ。】
【そんなに美味しかった?】
【ええ、とっても!ダーリンが私だけの為に作ってくれた物でしょう?】
【そうだね、新作なんだ。】
【新作・・・良い響きね。】
【他にも晩餐会でさ、アイスクリームというデザートを出してね。これが結構好評で、あっという間になくなっちゃったんだよ。】
【・・・ダーリン。】
【ん?どうしたのさ、ティア?】
【次は、その、あいすくりいむとやらを持って来て頂戴。もちろん新作のよ?】
【分かったよ、ティア。】
【わ、分かればいいのよ。じゃあ、気持ち良いをさせなさい。】
【ふふ、分かったよ甘えん坊のティア。】
【・・・ダーリンにだけなんだからね。光栄に思いなさい。】
そう言うと抱き着いてくる。
なんか本当にペットを飼っている気分だ。
ただし肉食獣系のね。
そうやって抱き着いているティアが俺の髪を撫でつける。
なんか・・・急に眠気が・・・。
ルイスの所に帰らないと・・・。
【ダーリン・・・そろそろ朝になるわよ?】
【ZZZzzz・・・。】
【ダーリン?】
【ぐー・・・。】
【眠ってしまったのね?お休みなさい、ダーリン。】
寝ているので分からなかったがティアの胸にうずまって眠っていたようだ。
この二日、ろくに眠っていなかったからね。
日が昇りきるまでそうしてティアと過ごしていたようだ。
ここまで読んで下さって、誠にありがとうございました!
それでは、いつものから!
評価、イイネ、ブックマーク等々。
大変に励みになります!
皆様に感謝を!
本当に早い物で、もう七月。
熱さ真っ盛り!
拙者は電気代が高くなったので扇風機で我慢しておる次第です。
・・・図書館に行こうかな。
さてさて 次話 とある工房での一幕(仮 執筆中です!
それでは、また、お会い致しましょう!
お休みなさい!