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海路にて

いつも読んで下さっていらっしゃる方々、お待たせいたしました。

導入部ですが執筆が終わりました。

お楽しみ頂けると幸いです。

今、俺達は船上に、つまり海の上にいる。


高速艇と呼ばれる船で帝国へと向かっている最中だ。

初めて見る回り中の海原。

うん、冒険だね。

船室に戻ると元気の無い声が聞こえてくる。


「貴方、駄目・・・世界がグルグルするわ。」


そう言う女性は俺の嫁でルイス。

絶賛船酔い中だ。


「ヘファ師匠、陸地はまだでしょうか・・・。」


こちらの女性は俺の弟子になったサーラだ。

同じく船酔い中。


もう一人別室にいるのだが、体調が整っていない所に船酔いで大変らしい。

ダーリンには見せたくないから来なくて良いからね。

と、念を押されてしまったので見舞いにも行けない。


頼みのポーションは船酔いに効く物は無かった。

魔法にも無い。

可哀そうだが耐えてもらうしかない。

ある意味最強のデバフか、船酔い・・・。


【二人とも大丈夫?】


「これが大丈夫に見えるのなら、お医者様はいらないわね。」


「そうですよ・・・ヘファ師匠。」


【そうか、俺はもうちょっと海を見て来るよ!】


「「いってらっしゃ~い・・・。」」


その元気の無い声に送り出されて船室の外に向かう。

高速艇と言うだけあって小さい船の様だ。

一応、対モンスター用の武装は付いているとの事だった。

海のモンスターか、良いねワクワクする。


それにしてもと、太陽を見る。

本日も良い天気だ。

・・・フラグを建ててしまったか?

だが、グレイさんが言うには嵐にはならないだろうとの事。

これ以上三人に負担をかけたくないので、このままの天候であるのならば有難かった。


船長室と木のプレートに書かれたドアをノックする。


「どうぞ。」


返事があったので入室する。


「お、アーサーか、三人のレディはまだ駄目かい?」


そう言ってくるのは俺の親友で大商会の会頭を務めるノモスという男。


【ああ、この光景を見せられないのは残念だよ。】


「それでだ、アーサー。皇帝陛下に出す料理なんだが・・・どんな物を出すか決まっているのかい?」


【大体は決まっているよ、それで厨房の用意は大丈夫?】


「ああ、アーサーの言った通りに作業台なる物を取り付けてあるはずだ。手抜かりは無い。」


【それなら大丈夫だよ、任せてくれ。それで人数なんだけれど・・・。】


「人数は、各席には皇族が着く、まずは皇帝陛下、その息子達である皇子が十七名、それに皇女が七名の合計で二十五名、それと俺とアーサー、ルイス嬢、サーラ嬢がテーブルに着く事になるんだが・・・。」


【俺は料理を作らないといけないしね、二人の事は頼むよ、ノモス。】


「ああ、それより俺は、お前が何を作るかが心配になって来たぞ?」


【小麦を使う料理だろう?だが、皇帝陛下の『口』には合わせるさ。】


「ここだけの話だが、皇帝陛下は病らしき物にかかっておいででな・・・。」


【ああ、それも解決して見せよう。】


「本当か、アーサー!?それが出来るのならば紹介した俺も鼻が高い!」


【まあ、楽しみにしててくれ。】


「ああ、楽しみにしておく。」


ガシッっと握手を交わす。

するとドアが開き人が入ってくる。


「ボス、そろそろだが、カタフニア島が見えて来るぞ。」


この男性は先程言ったグレイさん。

海の上では船長となり一番偉いのだそうだ。


「アーサー殿も見ておいた方が良いぞ、今日は空の機嫌が良い。」


【グレイさんがお勧めするのなら見ておきますよ。】


「ああ、美しい島なんだ。見ておいて損はないぞ。」


早速甲板へと出る。

左手に島影らしきものが見えて来た。

すると見張りから声が上がる。


「船長!シーサーペントだ!一匹だがこっちに向かってくるぜ!」


「戦闘準備!・・・お客人にみっともない所を見せるなよ!」


「「「ヘイ、船長!」」」


高速艇と言えど最低限の備えをしているらしい。

さて、どんな感じで戦うのかな?

船上戦は初めてなので見ておく事にする。


すると左手の海に長い影が映って来た。

十mぐらいはあるんじゃないか?

モンスター・パニックの映画を見ているようだ。


子供の頃に見た有名な監督が作った鮫の映画を思い出す。

あの映画のせいでしばらくは海が駄目だったなぁ。

懐かしい。


「大物だな、バリスタ、装填しろ!」


バリスタとは簡単に言うと大きなクロスボウの事である。

このバリスタは特殊な大型矢を放つようになっている。

矢の先に抜けないように返しが付いている。

はずと呼ばれる所にはワイヤーがついている。


獲物を仕留めた後に回収でもするのだろうか?


「第一装填完了!」


「第二、装填完了でさあ!」


「第四も完了!」


「まだ遠い、近づくまで待て!良く狙えよ!」


おお、心地良い緊張感に、良く訓練されている船員さん達。

連度が高いのを肌で感じる。


「目標射程内!」


「第一、第二、放て!第四は指示待ち!」


「「発射!」」


ズドン!


ズドン!


「キシャアアアァァァ!」


「第二、命中!」


「再装填急げよ!第四放て!」


「発射!」


ズドン!


「第四命中!船長、やっこさんまだまだ元気だぜ!」


「再装填は?」


「第一、準備中!」


「第二、準備中でさあ!」


【うーん、もしかして近づいて来ちゃう?】


船酔いが酷いルイス達の事を考えると、これ以上は接近させたくなかった。


「グレイがいる、安心して見ていろ、アーサー。」


「第一装填完了!」


「良く狙えよ、放て!」


ズドン!


「ギャシャー!」


「第一命中!」


「第二装填完了!」


「放て!」


ズドン!


「ギャオオオォォォン!」


「第二頭部に命中!・・・目標沈黙!」


「よっしゃ!」


「見たか俺達の力を!」


「高速艇とはいえ、海の上じゃあ、お頭は一番だぜ!」


「どうだ、アーサー。」


【グレイさんは良い船長なんだね。皆に慕われていて信頼もある。それに実力も。】


そう言うと海の男を見上げる。

あー、格好良いね。

こちらも、某海賊映画を思い出させる。


「そうだ、伊達に船長をしている訳では無いのだぞ?」


戦いの後、やはりシーサーペントを回収する様だ。

ああ、スケイル・アーマーの素材になる鱗かな?


「今夜は御馳走ですな!」


「ああ、鱗と肝にある宝石も忘れるなよ!」


「「「へい!」」」


・・・食用だった。

どんな味がするのだろうか?

ちょっと興味があるね。


その後、美しいカタフニア島を横目に航海は続いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夕刻なのだが、三人は船酔いで御飯どころではないらしい。


晩御飯にはシーサーペントのステーキが出された。

淡白だが塩で味付けされた肉は美味しかった。

それと、一樽振舞っておいた。

とても喜ばれた。


海の上では真水は貴重なのかと思っていたが、魔道具で海水から真水を作る物があるらしい。

船尾に付いていたがとても大きかった。

小型化出来たらほしいな。

それにシーサーペントの鱗だ。

スケイル・アーマーを作るのに欲しい所だ。


それに肝にある宝石って何だろうね?

俄然興味がわいたので聞いてみると、どうやら真珠のようだった。

今回のような大物からは三cm程の大きさの真珠が何個か採れるそうなのだ。

真珠って肝石かねえ・・・。

だが、良い事を聞いた。

真珠のネックレスとかブローチなんかも良いよね。


海での初めての夜は、こうして過ぎて行くのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日の朝、昇ってくる太陽に向かって日課の祈りを捧げる。


「『アリステリア様』、本日も良き日でありますように・・・。」


水平線から見る太陽はとても綺麗だった。

ルイス達にも見せたかったのだが、船酔いでそれどころではないだろう。

今は眠っているので起こさないようにしておいた。


朝御飯を食べる終わると湾が見えて来た。

どうやら、無事に帝国に着きそうだ。

到着時間は十時だと言っていたからまだ時間はあるね。

ルイス達は昨日から水しか飲んでいないから体調が整ったら何か作ろう。


「アーサー、上陸する時に歓迎があるはずだ、マントの用意をしておいた方が良いぞ?」


【そんなに歓迎してくれるの?】


「まあ、無名とは言え、聖剣を作ってくれる相手だ・・・それに彼女ならそれぐらいはやるはずだ。」


【何だって?最後の方が聞こえなかったぞ?】


「とにかく注意しろって事だ。」


【まあ、分かったよ。目立ちたくないからフードを被っておくさ。後、その時はルイス達の事は頼んだ。】


バックパックからいつものフード付きの紅いマントを取り出し装備する。

歓迎か。

パレードとかされたら嫌だなぁ。

ん?


【ノモス、歓迎に注意しろってどういう事さ?】


「後で分かる。そら、お迎えだ。」


大陸の方から五隻の軍船らしき船がこちらに向かって来ているようだった。

物々しいなぁ。


「・・・時間より早いな、何かあったか?」


「ボス、ここに居たか。」


「グレイ、何があった?」


「・・・御転婆皇女が来やがった。」


「何だと!?本当か?確認は取れたのか?」


「ああ、船団の先頭の船に第三皇女の、白薔薇の旗が上がっている。間違いない。」


【どう言う事?】


「待ちきれなかったらしい、御転婆皇女が君を見に来たんだ。」


【御転婆皇女!?】


「そうだ、帝国の第三皇女様だ。」


【その皇女様が俺を見に来た?何で!?】


「おそらく、武勇伝が本当かどうかを確かめる為だろう。」


【武勇伝って・・・どうすれば良いのさ?】


「なあに、適当に相手をしてくれれば良いんだよ、アーサー。」


【相手って、どうするんだよ!仮にも皇女様なんだろう!?】


「ああ、多少お灸をすえてやってくれ、それに君好みの女性だ。」


【俺好みって・・・。】


「見えるか?船首に立っている人物だ。」


【んー・・・。】


「望遠鏡を貸そうか?」


【いや、会った時の楽しみにしておこう。この距離だと金髪ロングの縦ロール、女性用の白いフルプレートメイルを着た女の子としか分からないな。】


船の上でフルプレートメイルかよ。

海に落ちたら溺れるんじゃないか?

・・・フラグが立ったか!?


「これが、彼女流の歓迎だ、アーサー。」


【物々しくて、全く歓迎されていないような気がするんだけれど!?】


「この歓迎で何回の縁談が破談になった事か・・・。」


【ノモス!縁談て何の事だ!?】


「言っていなかったか、アーサー?」


【初耳だよ!】


「それでは、彼女の歓迎を受けてくれ。」


【何故か受ける事が前提なんだが?】


「君なら大丈夫だ。」


【大丈夫の根拠を示してくれ!】


「ほら、接舷するぞ?」


【ノモス!ちょっと待ってくれ!縁談て】


ガゴン


船が接舷すると揺れが来る。

そして接舷した所に橋がかけられて先程の女の子と二人の騎士が乗り込んでくる。

ノモス達が跪く。

慌てて俺も跪こうとするが遅かったようだ。


【そこの紅のマントの者、私が誰か知っているか?】


「初めましてかな?」


「・・・クヴァール帝国、第三皇女、『セリス・フォン・アストゥラピ・クヴァール』である!」


女性用に作られたであろう、白いフルプレートを着た女性が名乗って来たので返答しておく。

ヘルムを被っているので当然だが顔は見えない。

その奥の鋭い視線が俺を見ている。


【初めまして皇女殿下、私はアーサーと申します。】


「知っている、その紅のマント『紅蓮のアーサー』とは貴殿の事であろう。」


【そんな名前で呼ばれる事もありますね。】


「・・・貴殿、そんなに私が欲しければ、その実力を示せ!」


【欲しいとはどう言う事でございますか?】


意味が分からん!?


「・・・我と戦って実力を示せと言っている!」


この世界はバトル・ジャンキーばっかりなのか!?


「いざ!」


仕方なくバックパックから鋼の相棒を取り出すと構える。


「頑張ってくれよ、アーサー!」


ノモス達が下がって行く。

それを確認すると斬りかかって来た。


「参る!」


何故か船の上で戦闘する事になってしまった。


キィン!


その一撃を受け止める。

ほう、なかなかの技量だね。


キン!


カキッ!


「貴殿、手を抜いているな?皇女だからと言って加減はいらんぞ?」


【女の子に怪我をさせる為に剣を振るっている訳では無いのですよ。】


「っく、貴様も私を女と侮るかっ!」


ガギン!


ギイン!


【技量は中々ですが・・・その程度ではオーガの牙の人達には勝てませんね。】


「っく、貴様、本気を出せ!」


【本気は出しませんが、その代わりお手本をお見せ致しましょう。】


「お手本だと!?」


バックパックに相棒をしまう。


「・・・ほ、ほう、こ、ここまでの屈辱は初めてだ。貴様、覚悟は出来ているのであろうな?」


皇女殿下はプルプルと、怒りで震えているようだ。


【その程度の技量ならば、素手でも十分ですよ。】


「っく、言いおったなっ!」


右袈裟切り。


ブン


パシッ!


問題なく掌で受け流す。

更に返しの刃。


ヒュン


パシンッ!


斬撃を掌で受け流す。


「な、何故だ!何故当たらぬ!」


【受け流しているのですよ。それも分からないのですか?】


「おのれ!まだ私を侮るか!」


すると怒りが頂点になったのだろうか大上段の一撃が来る。

皇女様、その大振りは駄目でしょう。

その大振りを避けるようにクルリと体を半回転させ懐に入り込む。

半回転させた事で皇女様の右脇に入ると左肘を鳩尾に当て予備動作を起こす。

至近距離から相手に勁を作用させる。

所謂、寸勁と呼ばれる物である。


【っふ!】


ドゴッ!


皇女様の体が跳ねる。


「ごふっ!?な、にが・・・!?」


頸の通った所の鎧が陥没してしまった。

やりすぎたかな?

彼女の足取りはフラフラとしている。

アレを食らってまだ立っているのか、頑丈さはディアナと同じぐらいかな?

皇女様はよろめき足をもつれさせる。

すると・・・。


ドボン!


「「「殿下!?」」」


ありゃ、海に落ちちゃった!

見事にフラグ回収。

そんな事を言っている場合じゃない!

多分気絶してるから助けに行かないと溺れちゃうぞ?

それにフルプレートだ。


そう思うと行動は早かった。


ドボン!


海に飛び込むと皇女殿下を見つけ体を抱え上げる。

早いうちに拾えて助かった。


【ぷはっ!】


海面に出ると叫ぶ。


【グレイさん、ロープを!】


「ロープだ!急げ!」


武装している人を一人抱えて、しかも着衣での水泳は勘弁願いたい。

だが、さすがの水泳スキル様。

皇女様に海水を飲ませないようにヘルメットを脱がす。

この状況であまりよく見えなかったが、褐色で美しい顔立ちをしていた。

鎧も脱がそうとしたのだがこの状態では厳しかった。


ロープが何本か投げられる。

皇女様の体をロープに括り付けると引き上げてもらう。

俺も船に上がらないとね。

たらされたロープで船上へと戻ると皇女様が転がっていた。


「殿下!お返事を!」


「殿下!?呼吸をされていません!」


「アーサー、大変だ!殿下が息をしていないらしいぞ!」


「アーサー殿、呼吸をしていない!」


慌てて側も駆け寄るとマウスツーマウスで人工呼吸をする。

その間にプレートメイルを脱がせる。

わお!

おっきい!

っと、今はそんな場合じゃない!


心肺停止の恐れがあった為に胸骨圧迫も行う。

所謂、心臓マッサージだ。

胸を触っちゃうけどそんな事を気にしている場合ではない!

マウスツーマウスと胸骨圧迫を繰り返し行う。


「ごふっ!」


「「殿下!」」


海水を吐いた!

息は!?

うん・・・もう大丈夫だね。


【もう大丈夫です、体が冷えていますから、良く拭いて着替えさせてから毛布でくるんで温めてあげて下さい!】


「「は、はい!」」


皇女殿下の護衛だろうか?

女性騎士の二人が慌てて行動を起こす。


【他の皆さんは皇女殿下を船室に運んで下さい。】


「「「はい!」」」


【風邪を引かせないように暖かくしてあげて下さいね!】


皇女殿下を乗せた頒布が船へと戻って行く。


「助かったよ、アーサー。」


【ノモスはともかく、グレイさん、何で助けなかったんですか?】


「アーサー殿なら大丈夫だろうとの判断だ、決してやましい事は無い。」


【やましいって・・・それなら良いですけど、っと、俺も服を着替えて来ますね。】


「助かったよ、アーサー。」


手を振りその場から離れる。


「・・・グレイ、上手く行ったな。」


「ああ、ボス、上手く行ったな。」


「ルイス嬢には悪いのだが・・・。」


「そうだな・・・。」


これで、御転婆姫もアーサーの事を認めるだろう。

それに人命救助とはいえ、男に初めて唇を奪われ胸を触られたのだ。

意識しない方がおかしい。


「ふふ、上手く行っているじゃあないか。」


計画通りに事が進んでいると思うと自然と笑いが込み上げてきた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【へーっくしょい!】


下着までびっしょりだよ。

だが助けられて良かった。

ちょっと得な事があったしね!

うっへっへ・・・


「貴方、騒がしかったようだけど何かあったの?」


「何かあったんですか、ヘファ師匠?」


「やだ、びっしょりじゃないの!」


【ああ、ちょっと人命救助をね・・・。】


「「人命救助?」」


【それより、ルイス達は調子は戻ったの?】


「昨日よりましな程度には・・・。」


「少しは慣れたんですかね?」


【調子が良かったら御飯食べるかい?】


「「それは流石に・・・。」」


【そっか、そろそろ陸に上がるよ。】


「「え?陸なの!?」」


【そう、陸。】


「サーラさん!」


「ルイスさん!」


二人がガシッと手をつなぐ。

何か友情が芽生えたようだ。


【へーっくしょい!】


体が冷えていたのだろう。

びしょびしょな服を脱ぎ終わると体を拭き下着を履く。

Tシャツにパンツ姿だ。

さて、ここから服を着るのだが・・・どれを着るか。


「貴方、陸に上がるのはどのぐらいかかるのかしら?」


【時間的に、一時間ぐらいかな?】


「それじゃあ、私達も支度をしないと、サーラさん。」


「そうですね、ルイスさん!」


【じゃあ、バックパックから服を出すよ、どれを着るの?】


俺も着替えないと。


「「全部出して下さい!」」


【お、応。】


二人の迫力に押されてしまった。

部屋中、服だらけになってしまった。


「下着はこれで良いでしょう・・・服は・・・。」


「私はこれにしましょう。」


「サーラさん、このドレスだと失礼にならないかしら?」


「大丈夫だと思いますが・・・帝国の人達の好みが分かりませんね。」


「そうね、貴方は何を着るの?」


【一応、フォーマルのスーツを着てその上にいつものマントを羽織るつもりだよ。】


一着目のマントを乾かしているとルイスが聞いてくる。


「ねえ、どうしたら良いかしら?」


【下着を見せる訳じゃないからそれで良いとして・・・無難に俺と揃えてみるとか?】


「じゃあ、それにするわ。」


【それで良いのかい?】


「貴方の選んだ物だからそれにするわ。」


【ルイス・・・。】


「貴方・・・。」


そのちょっとしたことがうれしくて抱きしめる。

顎に手を当て少し上を向かせる。

ルイスの目がウルウルして頬が染まっている。

やはり期待していたようだ。

そしてキスを・・・。


「おっほん、おっほん、二人とも、私も居るんですけれど・・・。」


「【あっと・・・。】」


そうだった。

残念だがまだチャンスはある。

ルイスが慌てるように話題を変える。


「そ、それで、何で皇女様なんかと戦う事に?」


【実力を見せろってさ、何故か帝国の皇女様と戦う事になったんだよ。】


それを聞くとサーラがルイスを部屋の隅に連れて行く。


『ルイスさん、気を付けた方が良いですよ?』


『何故かしら、サーラさん?』


『それは、アレです。ヘファ師匠なら相手をやっつけているはずですから、その相手が惚れると言うのが・・・。』


『そ、そうね。気を付けるわ。』


さて、俺は着替え終わった。

海水だったからか少しベトベトする様な気がする。

・・・二人は何ををボソボソ言っているのだろうか?


【二人とも、コソコソと何をやっているんだよ?服しまっちゃうよ?】


「「ちょっと待って!」」


そう言うと二人とも着替えだした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


船が接舷すると陸から橋がかかる。


【おおー、遠くからは見た事はあったけれどデカい港だな!】


「お、大きいわね・・・。」


「見た事の無い形の船が沢山ありますよ!」


「三人とも、このぐらいで驚いていたら体がもたないぞ?」


「それより陸地よ!」


「ええ、我らが大地!」


二人が地面に頬ずりしそうな雰囲気だったが注意する。


【二人とも、お別れなんだから・・・。】


「「そ、そうでした・・・。」」


そして、皆でエナの方に向き直る。

エナとはここでお別れだ。


「ダーリン、ここでお別れね。」


【ああ、村まで送って行けなくってごめんね、エナ。】


「ううん、仕方が無いわよ。皇帝陛下と会うんでしょう?でも、村には来てね?待っているわ!」


「エナさん、お元気で!」


「また、お会いしましょう!」


エナは馬車に乗ると窓から身を乗り出し手を振りながら出発していった。

この期間にエナの様子を見に村に遊びに行っても良いだろう。


「ボス、本船に戻るぜ。」


「ああ、ご苦労だった。」


「「【グレイさん、ありがとうございました!】」」


俺達がそう言うとグレイさんは手を振って歩いて行ってしまった。


「さあ、ここからは俺が案内する。まずは馬車に乗って王城へ向かうぞ。」


【王城か、遠くから見ただけだが相当にでかかったな。】


「ああ、『フィロドクスィア・カストロ』、その名の通り野心溢れる城だからな。」


【野心溢れる・・・城?】


「ああ、十分に気を付けてくれよ、アーサー。」


【お、おう・・・。】


そう言うと皆で馬車に乗る。

出発すると窓から街の様子を見る。

うーん、やはりここでも路地に子供達の姿が見えるな。

兵士が見回っているから治安はそれなりなのだろう。


「気付いたか、アーサー。」


【答えなのかは分からないけれど、路地に子供が溢れているね。だが、治安はそれなりに良さそうだ。】


「俺はな、この子供達を少なくしたいんだよ。その為に孤児院を立てたり色々とやっているんだがな。」


【良いじゃないか、あとは教育が出来れば良いな。】


「・・・成程、教育か。」


【そうだね、せめて読み書きがと簡単な計算が出来るぐらいになれば仕事はもらえるはずだ。】


「そうだな、そうだ!教育する機関を作る事を進言してみよう。」


【出来ると良いね。】


「実現させるさ。」


【ノモスになら出来るよ。】


っと、二人を置いてけぼりにしてしまった。

二人の方を見ると初めての街並みに驚いているようだった。

楽しく話をしている。

安心した。


しばらくすると景観がガラリと変わる。

馬車が城壁の側を走っているようだった。

更に進むと城門が見えて来た。

馬車が並んでいるようだが、ノモスが衛兵を呼んでいると優先的に通された。


【ノモス、顔パスなんだね。】


「「「かおぱす?」」」


【あー、顔だけで通れるって言う事だよ。】


「ああそうだ、その為に色々と金を使っているんだ。」


賄賂ってか・・・。

あまり気分の良くない話だ。

馬車が城門を潜るともう一つ城門があった。

こちらも顔パスだった。


更に進んで行くとやっと城が見えて来た。

さすが帝都。

城自体もでかい。


そう、まさに教科書や図鑑で見た事があるような白亜の宮殿だった。

ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

まずは、いつものから!

評価、イイネ、ブックマーク等々。

大変に励みになります!

皆様に感謝を!

お待たせいたしました。

第三幕、開始でございます。

さあ、帝国ではどのような事が待ち構えているのでしょうか?

先に作った設定を見返しながら執筆しております。

本格的に始動するのはもう少しかかるかもしれません。

次話 第三幕 第一章:帝国でのあれこれ

第一話、皇帝と言う人物と病の正体 で、お会い致しましょう。

それでは、お休みなさい!

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