運命の出会い
いつも読んで下さっている方々、お久しぶりです。
短編として仕上げてみました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
今日も、いつもの朝を迎える。
そう、いつもの朝を・・・。
体を震わせる。
寒い。
隣に居るであろう、ベアトリクスを抱き寄せる。
ああ、こんなに冷えてしまって・・・。
「ルイス姉・・・暖かいです・・・。」
「うん、私もよ。もう少しこちらに寄りなさい、ベアトリクス。」
ぎゅっと抱き付いて来る。
この温もりを守りたい。
せめて石畳でなく藁を引いてあげたい。
でも、藁を買うにも稼ぎが厳しい。
それに、この場所もいつまで見つからないでいられるか・・・。
王都から逃げ出してきた私達は、今のところ、この辺境のオーカムで生きて行くしかない。
貴族の慰み者になるのは御免だった。
あの施設に居ればいずれは・・・。
そう思ってここ、オーカムまで五人で逃げて来たのだ。
大冒険だった。
色々な事があったが今は思いにふけっている時ではない。
少しでも稼ぐ為に、商売をするのだ。
起き上がると拾ってあった櫛で髪を撫でつける。
ここの街は名君と名高いドリュカス様が治めて下さっている。
他の街よりは治安も良い。
王都では暗がりに連れていかれる子供の姿を何回も見た。
あの子達はどうなったのかなど想像もしたくない。
私は無力だ・・・。
「ルイス姉、そろそろ収穫に行く時間だよ?」
「分かったわ、リズベット。マオとアリスは?」
「マオはアリスを起こしてる。で、いつもの予定で良いのよね?」
「ええ、リズベット、怪我には十分に注意しなさい。後、無理はしない事。良いわね?」
「うん、分かってるわよ、ルイス姉。」
「ルイス姉・・・髪をなおしてほしいの・・・。」
「座りなさい、ベアトリクス。」
素直に座ったベアトリクスの髪を櫛で撫でつける。
しばらく撫でつけているとマオが戻って来た。
マオは獣人族の女の子だ。
十二歳になった体は獣人族の特徴で大人の体になっている。
獣人族は青年期と呼ばれる時期が長いらしく、幼年期、つまり子供の体でいられる時間は少ないのだそうだ。
「ルイス姉、井戸が凍ってて顔が洗えないです。」
「そうなのね・・・なら、目やにだけでも落としておきましょう。」
「はーい。アリス、こっちにおいでー!」
「はいなのです。お腹が減ったのです!」
「昨日の売れ残りのリンゴを食べましょう。今日の所はそれで我慢よ?」
「分かったのです!」
そう、朝の御飯も満足に食べさせてあげられない・・・。
悔しい。
まともなお店ならば紹介状が必要だし、私達は保護者がいない。
そのおかげで先日は騙されそうになった。
そうそう、美味しいお話は無いわよね。
気を付けないと。
支度を整えると朝御飯に売れ残ったリンゴを皆で食べる。
・・・酸っぱいわね。
これでは良い値段では売れないだろう。
でも、私程度の頭ではそれしか出来る事、思いつく事が無かった。
朝御飯を食べ終わるとリズベットとマオは狩りに出て行った。
私達はなるべく新鮮な果物を拾って売るのだ。
「じゃあ、拾いに行くわよ?」
「はい・・・ルイス姉・・・。」
「はいなのです!」
「アリス、お客様の前ではちゃんと敬語を使うのよ?」
「分かったのです、ルイスちゃん!」
本当に大丈夫だろうか?
アリスはまだ八歳。
まだまだ遊びたがり、甘えたがりの年頃だ。
でもその年で色々な事を考えてくれている。
ただ、人を疑う事も考えてほしい。
けれどその事ばかりを気にして他人に優しくなれない大人にはなってほしくない。
三人でそろって東門から外に出る。
ああ、滞在許可札の更新がもうすぐね。
それまでに何とかお金を・・・。
「ルイス姉・・・いかないと・・・。」
「そ、そうね。じゃあ拾いに行くわよ!」
「「おー!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「旦那様、ありがとうございます!」
「それではな。」
「また、よろしくお願いします!」
良し!
五個の梨が売れた!
値引きをしても銭貨が十枚だ。
この調子で行きましょう!
「新鮮な梨はいりませんかー?」
だが、その日はいくら頑張ってもそれ以上は売れなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時間なので仕方なく集合場所へと歩く。
こんなんじゃ、更新の四の月まで持たないのではないか?
そんな考えを頭を振って消す。
大丈夫、まだ頑張れるわ!
「ルイスちゃーん!」
「ルイス姉・・・。」
「皆はどうだったのかしら?私は銭貨十枚よ?」
「アリスは銭貨二枚なのです・・・。」
「私は・・・銭貨四枚です・・・。」
「二人とも頑張ったわね!じゃあ、戻りましょうか。」
「ルイスちゃん、怒らないのですか?」
「アリス、頑張ってくれてるのは知っているわ。そんなアリスをどうして叱るのかしら?」
「でも、売れなかったのです・・・。」
「私だって売れなかったわよ?ほら、気にしないで戻るわよ!」
「明日はもっと売ってみせるのです!」
「そう、その意気よ、アリス!」
「私も・・・頑張ります・・・。」
「そうね、ベアトリクス。貴女も頑張っているわよ!」
「ルイスちゃん、肉串が食べたいのです!」
「肉串はもっと稼がないと駄目ねー。」
「が、頑張るのです!」
「ええ、頑張りましょうね!」
そんな事を話しながら帰り路を歩いて行く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「ジャジャーン!」」
「リズベット、マオ!その兎はどうしたの!?」
「マオがやってくれたの!」
「狩りで仕留めました!」
「凄いわ!今日は御馳走ね!」
「血抜きはしてあるので、後は焼いて食べるか煮て食べるかよね?」
「じゃあ、私が焼きましょう。」
「「「ルイス姉はやめて!」」」
「もう、何でよ!」
「焼くだけなら私がやるわ!」
「私も出来ます!」
「もう、じゃあお願いするわね。」
「リズ姉、危なかったです。」
「ええ、マオ、危なかったわね。」
「じゃあ捌きますね。」
「手伝うわ、マオ。」
久しぶりのお肉だった。
それに毛皮を売れば銅貨二枚にはなるだろう。
今日は良い事があった。
明日もこんな調子で頑張りましょう!
「ルイス姉のお肉が大きいのです!」
「そんな事は無いわよ?変えてみる?」
「・・・やっぱりこっちが大きいのです。」
「ほら、久しぶりのお肉なんだから良く噛んで食べるのよ?」
「「「はーい!」」」
そう、こんな少しの幸福があればいい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルイス姉、私達の居場所ってあるのかなぁ・・・?」
「今日は・・・寒いです・・・。」
「明日も狩を頑張ります!」
「ルイスちゃん、お腹が減ったのです。」
「ほら、皆。明日も早いのよ?早く寝なさい!」
「「「はーい!」」」
リズの言う通りだ。
私達の居場所。
ここではないのか?
私では皆の居場所になれないのだろうか?
このままでは街の外にも出られなくなってしまう。
最悪、私が身売りすれば・・・。
いや、改めて施設に・・・。
でも、皆と別れる事になる。
それが嫌で王都からはるばる逃げて来たのに。
そんな事を考えて夜を過ごした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
うーん、昨日は考えていて寝不足ね。
商業の神エンボーリオ様、今日こそはいっぱい売れますように・・・。
そう、その日は本当に何となくだった。
「『創造神アリステリア様』どうか、お導きを下さい・・・。」
そう、なんとなく祈りを捧げただけだった。
昨日と同じように皆で出発する。
ベアトリクスとアリスと別れると兎の毛皮を売りに行く。
「お嬢さん、この兎の毛皮だと銅貨一枚と銭貨八枚だね。」
「それは安すぎではありませんか?この質ならば銅貨二枚と銭貨四枚は頂かないと!」
「・・・貧民の巨乳女が偉そうに言わないでくれないかな?醜いその乳に免じて銅貨二枚だ!」
「っく、そ、それで結構です!」
「ほら、持って行きな。乳が醜いと心まで醜くなるのかね?」
「ありがとうございました!」
そう言うと店を出て行く。
やはり身売りなど出来ない。
この胸では二束三文で売られてしまう事だろう。
ごめんね、皆。
出かかる涙を拭うと商売に戻る。
「梨はいりませんかー?」
「新鮮な梨ですよ?」
「そこの旦那様、奥方様へのお土産にどうですか?」
っく、売れない。
それどころか、侮蔑の表情を向けられているような気にさえなる。
っく、好きで大きくなったのではないの!
だが、これが現実なの・・・。
このままでは・・・。
「ルイスちゃーん!」
私を呼ぶ声がする。
アリス!?
集合するには早すぎる。
何かあったの?
「アリス!?どうしたの?何かあったの?」
「えっとですね、お仕事の話をしたいっていう人を連れて来たのです。」
「またなの?アリス。貴女そういう話で何度痛い目にあったか、覚えてるわよね?」
「ヘ、ヘファさんは大丈夫なのです!」
【こんにちは、初めまして。私はヘファイストスと申す者です。長いのでヘファと呼んで下さい。貴女がルイスさんですか?】
そう、この日。
私は・・・運命の出会いを果たしたのだ。
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