サーラの野心
いつも読んで下さり、誠にありがとうございます!
執筆が終わりました。
楽しんで頂ければ何よりです。
「ヘファ師匠、この服、着て行っても良いですよね?」
【構いませんよ。】
どうやら気に入ってくれたようだ。
作成した物をバックパックにしまうと、サーラさんと一緒に宿へと戻る。
最初に見せていた自信の無さは何処へやら?
ギルドから外に出ると彼女は自信満々に歩き出す。
そしてその美しい腰と足に魅了され振り返る男性達。
「うふふ、ヘファ師匠、楽しいです!」
【そうでしょう?気にする事なんかないんですよ。】
「はい!」
そう答えた彼女の顔には自信が溢れていた。
こういうのを『あか抜けた』と言うのだろうか?
素は悪くはなかったが、自信が無かった彼女は俯いていた。
俺はちょっと、ほんのちょっと後押ししてあげただけだ。
そんな彼女は今では一歩一歩に自信が漲っている。
女性としての目覚めだった。
宿に着き扉を潜ると女将さんに挨拶する。
【ただいま、女将さん!】
「戻りました、女将さん!」
「おや・・・小僧はともかく、良い顔になったね、お嬢ちゃん。」
「はい!ヘファ師匠のおかげなんです。」
「そうかい、さあ、飯の支度だ!小僧、挨拶したら厨房に入りな!」
【女将さん、今日は特別客だけにさせてもらっても良いですか?】
「何でだい?」
【今日の料理は時間が掛かるんですよ。】
「ふむ、仕方がないね、今日は一般客のはアタシが作る、その代わり後で教えな!」
【分かりました!】
そして皆の揃っているテーブルへと向かう。
【ただいま、皆!】
「お帰りなさい、貴方。」
「ヘファ君、お帰りなさいー。」
「「「ヘファさん、お帰りなさいー!」」」
「えへへ、ただいまです、皆さん。」
「「「・・・。」」」
「あれ?」
するとルイスとナナリーさんに詰め寄られる。
一瞬で壁際まで追い詰められた。
早い!
反応出来なかったぞ!?
すると二人が囁いてくる。
『ねえ、ちょっと、何があったのよ!』
『そうです、何があったのですかー!』
『な、何の事!?』
『あの子よ!今朝とは別人じゃないの!それにあの足!』
『何で急に体形が良くなったのですか!?詳しく知りたいですねー!』
『ああ、それね?二人にも後で話すよ、お土産もあるからさ。』
『絶対ですからね!後で必ず聞かせてもらいますからね!』
『絶対ですよ、ヘファ君ー!』
二人は席に戻って行った。
うーん、美に関する女性の執着とは恐ろしい物だ。
ビフォー&アフターがあったらサーラさんの恐ろしいまでの変わりようが分かるのだが・・・。
いや、無くても分かるだろうな・・・。
現に分かっちゃってるし。
まあ、二人の事も後での楽しみとしておこう。
そして厨房へ入ると早速ノモスから聞かれる。
「アーサー、弟子の女の子の豹変ぶりはどうしたんだい?」
【ああ、自信を付けさせてあげたんだよ。】
「それだけではないな、あの体形、腰から足にかけての見せるような曲線、巨乳と言う点を置いても見惚れてしまうよ。」
【そうだろう?あ、そうだ、ノモス・・・ゴムってないかな?】
「ゴム?聞いた事はないな。」
【ああ、伸縮性の凄い素材なんだよ、それがあれば衣料品に革命が起こせる。】
「・・・分かった、アーサー。この一件が片付いたらバウマンに探させよう。」
「お任せ下さい、アーサー様。」
【是非にでも頼みます!】
ノモスと熱い握手をする。
「それで、今日は何を出してくれるんだい?」
【帝国ではチーズは流通しているよね?】
「ああ、それがどうしたんだ?」
【今回も小麦を使った料理でチーズと肉や野菜も使っている料理だ。】
「ほう、楽しみだ。だが、アーサーよ、そんなに小麦を使った料理があるのかい?」
【うーん、『うどん』も小麦粉だったけれどアレは時間が掛かるからね、それに疲れる。】
「つまり、まだまだあるって言う事だな?」
【ああ、細かい所まで言うとかなりの数がある。】
「ふう・・・こちらは助かるが、良いのか?」
【何がさ?】
「今までの料理、特にらーめんだ、料理店を開いたら丸儲けだろう?」
【ああ、俺はそう言うのは良いんだよ、親友にノモスって言う適役がいるんだ。そいつに任せるさ。】
「アーサー・・・。」
【その代わり俺も色々融通してもらっているからね、そういう関係だろう、俺達は。】
「恩に着る、君に最大限の感謝を!」
【大げさだよ、俺だって同じぐらい感謝してるんだからね?】
「アハハハ!では、晩飯と行こうか!」
【お任せを!】
天然酵母があるのでふっくらのハンドトスの生地で行こうかな。
この世界の小麦粉には強力粉とか薄力粉等の区別が無いのでどうなるかな?
白パンは上手くいったんだから大丈夫だろう。
まあ、試してみましょうかね。
木のボウルに小麦粉、天然酵母、砂糖を入れ、竹から作っておいたホイッパーでよく混ぜ合わせる。
ボウルに、ぬるま湯とオリーブオイルを注ぎ入れ混ぜる。
竹のヘラでさっとまとまる程度まで混ぜたら、塩を加えて混ぜ合わせる。
生地が軽くまとまってきたら、手でこねる。
ときどき、作業台に生地を叩きつけるようにしながらしっかりこねていく。
生地がなめらかになれば大丈夫だ。
ボウルに入れ、濡れた布をかけて発酵させる。
生地を寝かせている間にトッピングを用意する。
チーズはもちろんとして、ピーマン、玉ねぎ、なす、トマト、じゃがいも、マッシュルーム、アスパラガス、とうもろこし、バジル、ベーコン、サラミ、ソーセージ等だろうか?
この世界ではソーセージとは言わず「腸詰」と呼んでいるが、一応あるのだ。
スキル様と相談してまずはシンプルな物を作る。
ピーマン、玉ねぎ、バジル、トマト、ベーコン、スライスソーセージを選択。
適度に切っておく。
オーブンにも火を入れて用意しておく。
そして生地が発酵したら、小麦粉をまぶした人差し指を生地の真ん中にさして、穴があくか確認する。
所謂、フィンガーテストだ。
穴があけば発酵完了なので、生地をたたいてガス抜きをしていく。
軽くこねてまた生地を寝かせる。
寝かせ終わった生地を、オーブン皿の大きさに合わせて伸ばしていく。
手で生地を引っ張るようにして伸ばす。
生地をクルクルと回す「アレ」が出来れば格好良いんだが、俺にはそんなパフォーマンスは出来ない。
残念だ。
・・・練習しておこう。
生地のふちが高くなるよう、ふちの少し内側を指で押しておく。
こうすることで、耳をきれいに作れるのだ。
これで生地の準備は完了。
後は、具をのせて焼くだけだ。
生地にトマトソースをまんべんなく塗る。
そして用意していたトッピングを乗せる。
皿ごとオーブンに投入。
しばらく待つとスキル様が焼き加減を教えてくれる。
『ピザ』の出来上がりだ!
大きさ的にはLサイズだな。
ピザカッター等は無いので、包丁で切り込みを入れる。
一枚から八ピース作れた。
生地を量産しながら、早速ノモス達に出す。
【ピザという料理だ、まずは味の分かる物を乗せて焼いてみた、食べてみてくれ。】
「ふむ、この赤いソースが良い香りを出しているが、具材も良い匂いを出しているな。これは食欲が出てくる。」
「会頭、色々な具材で試せると言う事は、色々と楽しめると言う事ですぞ?」
「二人とも、まずは食べてみよう。」
【冷めないうちに食べてくれ!】
ノモス達が食べているのを見届けるとどんどんと色々な具材のピザを焼いていく。
そう、うちの子達の胃袋を満たす為に俺は必死なのだ。
特に、リズとマオとアリス。
この三人はものすごく食べる。
成長期なので腹いっぱい食べさせてあげたい所だ。
「アーサー、これも良い。外側はカリッとしているが、内側はふっくらとした生地にこのソースが良く合う!」
「ふふ、大人げなく、次の物が楽しみになりますな。」
「こいつは良い、乗せる食材で味が違うから飽きがこない。」
【そうなんだよ、今度はツナマヨコーンだ、試してくれ。】
「アーサー、コーンは分かるがツナマヨとは何だい?」
【鮪を加工した物とマヨネーズという調味料だ。】
「では早速・・・ほう、これも良い!マヨネーズと言う物が主張してくるが美味い!」
「会頭、早速このレシピも本国に伝えます。」
「良いね、ツナとマヨネーズとやらがこんなに合うとはな。」
【バウマンさん、俺の知っている限りなので細かいレシピになります、詳細は後日お渡し致しますね。】
「お願い致します、アーサー様。」
一般客の物は出し終わったようだ。
女将さんに教えながらだからやたらと忙しい。
しかも、オーブンは一台だ。
一般客からの注文を受けていたら間に合わなかっただろう。
だが、皆も満足しているようだ。
「ヘファさん!」
あれ?
アリスだ、珍しい。
何かあったのかな?
【どうしたんだい、アリス。】
「ツナマヨーがもっと食べたいのです!」
【分かった、焼くよ。少し待ってくれるかな?】
「はいなのです!」
トテトテと自分の席に戻って行った。
ふふ、可愛いね。
さあ、リクエストを焼いていきましょうか!
そうして俺はしばらくピザと格闘していたのだった。
ふう、手ごわい相手だったぜ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
晩御飯が終わると、皆は満足して部屋に戻って行った。
俺は今日も皿を洗っている。
今日は一人だった。
一階は静まり返っている。
厨房に入れる人はまだ見つからないのだろうか?
そんな事を思いながら皿を洗っているとカウンター越しに声が掛かる。
「ヘファ師匠、なんで皿なんか洗っているんですか?」
【ああ、サーラさんか、この宿での俺の役割みたいなものなんだよ。】
「じゃあ、手伝いますね。私は弟子ですので!」
そう言うと厨房に入ってくる。
【サーラさん、手伝ってくれるのはありがたいんだけれど、せっかくの服が汚れちゃうよ?】
「エプロンの予備はありませんか?」
【じゃあ、これを使いなよ。】
バックパックからエプロンを取り出す。
エプロンをすると隣に来て皿を洗ってくれる。
「ヘファ師匠は、家庭的なんですね。」
【急にどうしたのさ?】
「いえ・・・。」
何か言いたそうだ。
何だろうか?
っは!
ギルドの部屋でエッチな事をしたのをルイスとナナリーさんに言いつけるとか・・・。
いやいや、あれは仕方がない事じゃないか?
そうだ、後ろめたい事は無いぞ?
・・・無いからね?
「ヘファ師匠と出会わなければ、私は一生この世界を知りませんでした。俯いて生きて行く事しか出来なかったんです。」
【そうかな?】
「そうですよ。」
木皿をたわしで洗うガシガシという音しか聞こえなくなってしまった。
こう言う沈黙は怖いな。
特にこんな状況で美人の女の子と二人っきりなんて経験が無いぞ?
「ヘファ師匠・・・。」
【何かな?】
「私を見つけ出してくれて、ありがとうございます。」
【どう言う事?】
「うふふ、何でもありません。」
【俺じゃなくても、サーラさんは誰かが見つけてくれたと思うよ?】
「そんな事はありません!私を見つけてくれたのはヘファ師匠だけです!」
【そんな事は無いと思うよ?】
「あるんです!」
いきなり距離を縮めてきたので驚いてしまった。
なんか、このままキス出来そうな・・・。
顔が近づいてくる。
【サーラさん・・・?】
「ヘファ師匠・・・。」
唇が重なる。
フレンチ・キスだった。
離れると顔を赤くして言ってくる。
「ふふ、口づけなんて初めて・・・それに、こんな気持ちも初めてです。」
【初めてって・・・サーラさん、もっと自分を大切にしないと駄目だよ。】
「ヘファ師匠の事を考えるだけで、切ないんです。」
【いやいや、ちょっと待とう?】
「一生ついて行きます、ヘファ師匠。」
もう一度キスをしてきた。
甘酸っぱい。
ルイスの時もこんな事は無かった。
ナナリーさんの時は事が事だったし。
でも、この子は・・・。
【サーラさん、俺には大切な人が、良い人が二人いるんだよ。】
「分かってます。」
【だったら、自分を大切に】
人差し指で唇を塞がれる。
「私も、その中に入れるように努力しますね。」
【・・・。】
「今日はここまでですね、皆さんが下りて来ちゃいました。」
風呂の為であろう、皆が階段を下りてくる声が聞こえる。
「ふふ、絶対に私も入って見せますからね?」
そう耳元で囁くとサーラさんは皆の所に行ってしまった。
・・・変な汗が出てきた。
いやいや、出会って二日だぞ?
勘違いするな。
前世でも、それで痛い目にもあった事があるじゃないか。
そうだ、勘違いするな、俺。
そう思いなおすと皿洗いを続けるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
勢いで口づけをしてしまった。
でも、この溢れる思いに正直になりたかった。
そう、あの人。
ヘファイストス。
出会ってまだ二日。
そう、二日。
だが、それが何だと言うのか?
この出会いは運命だ。
絶対に逃したくない。
これ以上の相手など見つからないだろう。
それに、心配事が一つ消えた。
実家の事はもう心配ないだろう。
なにせ領主様が立ち上がって下さったのだ。
それも、あの人のおかげ。
黒玉様にも弟子になる事を進められた。
最初は仕方なくであった。
だが、今では感謝している。
そう、最高の相手と出会わせてくれた。
そして嫁も二人。
女性の扱いには慣れているだろう。
初めての女ならば逆に喜んでくれるのではないだろうか?
夜の営みも問題ないはずだ。
最大の問題。
私の巨乳の体だ。
村では巨乳が醜いと言われ、父親にもさげすまれてきた。
が、なんとあの人は美しいと、好みだと言ってくれた!
それに、あの人は自分の魅力を気付かせてくれた唯一の人だ。
更に、才能溢れる人。
残念ながら野心はなさそうだ。
そして決定的なものがあった。
アーサー。
かの英雄、紅蓮のアーサー。
同じ名前だが間違いはないだろう。
きっとあの人の事だ。
だが、問題が一つ。
二人の嫁の存在。
疑問が一つ。
何故アーサーではなくヘファイストスなのだろうか?
だが、そうこれは運命。
出会ったのも。
実家の事も。
弟子になったのも。
そして、体の事も。
今後、このような出会いはもうないだろう。
私は、絶対にこの機会を逃したくない。
その為ならば、なんだってやってやる。
愛しのヘファイストス様、この出会いは逃がしはしない。
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それでは 次話 下着と女性の美意識への執着(仮 で、お会い致しましょう!
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