抜刀術
いつも読んで下さっている方々、こんばんは。
執筆が終わりました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
そして、準備が出来ると皆で冒険者ギルドへ向かう。
ミスリルの凄さを見てもらう為だ。
しばらく歩き冒険者ギルドへ着く。
良かった、元よりも良い建物だ。
此処は損傷が軽微だったので手伝えなかったから心配していたんだよね。
中に入ると俺を見てカウンターのお姉さんが、慌ててギルドマスターのゼパムさんを呼びに行ったようだった。
俺、また何かやっちゃいましたかね?
しばらくするとゼパムさんがやって来て俺に文句を言って来る。
「アーサーよ!酷いじゃないか!」
【会って早々、何ですか?】
「復興の話だ、他のギルドはお前が手伝って立派な建物になったって言うじゃねえかよ?」
【ここだって立派な建物じゃないですか?】
「他のギルドは石造りじゃねえかよ、見ろ!このギルドは木だぞ?」
コンコンと壁を叩く
【趣があって、よろしいかと思われますよ?】
「っち、あーいえばこう言いやがる。相変わらずだな、元気そうで何よりだ!」
【ええ、ゼパムさんこそ!】
そう言ってお互いに握手する。
「で、何しに来たんだよ?依頼なら溜まっているが、お前はそんなに暇じゃねえだろう?」
【丁度良いです、ゼパムさんにも見て頂きたいんですが、お時間ありますか?】
「ああ、冒険者が戻って来たとは言え、新人ばかりで前の三分の一程だからな。時間ならあるぜ?」
【では、面白い物をお見せ致しましょう。】
「・・・アーサーよ、お前また何かやるんじゃねえだろうな?」
【そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。新装備のお披露目で大根を斬るだけです。】
「・・・まあ、良い。見せてもらおうか。」
うーん、そんなに信用が無いのだろうか?
別段、そんな凄い事をするつもりは無いんだけれどね?
皆を伴って訓練場へ行く。
すると、訓練をしている若そうな、いかにも新人と言った冒険者達が視線を送って来る。
そう言えば、俺だって十五歳なんだよね。
中身はおっさんだけれど・・・
「ちょっと見てくれよ?もしかしてアレって、オーガの牙じゃないか?」
「本当だ。最前線パーティーが訓練所に?」
「何かあったのかな?」
「あれが、ジャスティンさん率いるオーガの牙なのね!」
「先頭を行く大楯の持ち主がそうだろう。」
「鉄壁のジャスティンさん。」
「と、言う事は、隣の人が鋼のダンさんか・・・。」
「間違いない、あの両手剣はあの人しか使いこなせないだろう。」
「獣人族の女性、と、言う事は・・・。」
「爆砕姫のアンナさんまでいるぞ!」
「じゃあ、あの神官の人が。」
「ああ。叡智のラフィアさんに違いない。」
「おい。」
「ああ。」
「あの赤フードの人が・・・。」
「間違いない、アーサーさんだ。」
「バルロンデーモンが全く相手にならなかったと言う?」
「実際に見てみたかったぜ!」
・・・注目の的であった。
当たり前だろう。
等級は四級でこの街で最上位、しかも前回の街を守った立役者であり、あの戦争の事も聞いているはずだ。
残念な事に、ディアナはまだ八等級なのと、公国での戦争と前回の襲撃の時には活躍で出来ていなかったのでまだ無名だ。
そんな俺達が揃って訓練場に来たのだ。
皆が訓練を中止して見ているのも仕方が無い。
憧れの眼差しが多かった。
中でも皆が注目したのはジャスティンだろう。
男の子の冒険者達にも大人気だ。
もちろん女の子の冒険者達も熱い視線を送っている。
・・・日頃の行いの違いだろう。
うん、俺も頑張ろう。
【では、ディアナさん。この大根の下の方を両手で握って持っていて下さいね。】
「アーサーの兄貴よ、持ってるだけで良いのかい?」
【ええ、大根だけを斬りますから、そのまま動かないで下さいね。】
「分かったよ、兄貴。」
「アーサー、僕達は見ているだけで良いのかい?」
【ええ、ミスリル、いや、ちょっとした技をお見せ致しますよ。】
「・・・分かりましたよ。」
「どれだけ斬れるんだ?楽しみだな。」
「ちょっと待て、そう言えば、お前らミスリルって・・・何処で手に入れたんだよ!?」
【ゼパムさん。ギルドマスターと言えど、それは秘密です。】
前世の小説で読んだ事があったので試してみる事にしたのだ。
所詮フィクションだろうと馬鹿にしていた物だ。
だが、今の俺になら出来るのではないだろうか?
ぶっつけ本番だがやってみよう。
出来なかったらどうしようか?
・・・いや、大丈夫だ。
『アリステリア様』からもらったこのスキルの力ならば問題はない。
そう心を奮い立たせる。
絶大な自信をもってディアナに向き合うと構えを取る。
【戦士の二人は目を離さないように、では・・・行きますよ!?】
「ええ、どうぞ。」
「ああ、いつでもいいぜ!」
集中スキルを使う。
音がなくなる。
この世界には自分だけ。
そのぐらい集中する。
そして皆の注目する中・・・。
ッチン
納刀の際の鍔の音がしただけだった。
上手く出来ただろうか?
「「「?」」」
「アンタ、今、何かやったの?」
ミカには見えていなくて当然だろう。
「アーサー?」
「どうした?アーサー?」
うーん、戦士の二人には感じてほしかったな。
「アーサー君~?」
「如何なされましたか?」
「どうしたんだい、兄貴?」
「おいおい、何が凄い事はやらねえだ。」
お?
ゼパムさんには分かったようだ。
流石、ギルドマスターと言ったところか。
「皆、大根を触ってみろ・・・斬れているはずだ。」
ディアナが不思議そうな顔をしている。
ジャスティンが大根を受け取ると不思議そうに見ていた。
「マスター、切れているようには見えませんが?」
「・・・ちょっと貸してみろ。」
ゼパムさんがそんなジャスティンから大根を引っ手繰ると捻るように動かす。
すると大根が斬れていた。
「へえ、これが・・・達人の領域なのね・・・。」
鍛冶師のミカには斬れた事の重要性が分からなかったのだろう。
「斬れている!ば、馬鹿な!?いつの間に・・・。」
「うぉ・・・。」
戦士の二人は事の重大さに気付いたようだ。
「アーサー君、いつ斬ったんさー!?」
「まったく見えませんでしたわ!?」
「あれ?切れてるの持ってましたか?」
「違う、ディアナ!だが、俺もこの目で見るのは初めてだ。」
「ギルドマスターであるゼパムさんですら見た事が無い・・・と?」
「アーサー、これは何て言う剣術なんだよ?」
「刀専用の『抜刀術』で『居合斬り』と言うんだ。」
【へえ、ゼパムさんは知っているんですね。】
「・・・。」
「まったく見えませんでした・・・。」
「ああ、見えなかったぜ・・・。」
戦士の三人の反応は当然だろう。
見えなかった。
いつの間にか斬れていた。
と、言う事はその刃が自分に向いた時に対応出来なかったと言う事だ。
「・・・アーサー君、剣聖どころじゃ無いんさ~!」
「流石ですわ、アーサー様!」
「凄えとは思ってたけど・・・流石だぜ、アーサーの兄貴!」
皆が騒ぎ立てている。
周りの新人達は分かっていない様だった。
それにしても・・・
【ゼパムさんて、見かけに寄らず博識なんですね。】
「余計なお世話だっ!それにしてもお前・・・剣術が五十程度じゃ出来ない芸当だぞ、どうなってやがる?」
やばい、そう言えばそうだった。
【で、出来ちゃったものは仕方が無いですよねー?】
苦しいが誤魔化してみた。
「・・・はぁ、そう言う事にしといてやる。」
苦しいが誤魔化せたかな?
「アーサー、だから、大悪魔の事は頼んだぞ?」
【任せて下さい、今度は被害を出さずに・・・倒して見せます。】
真剣な目でゼパムさんを見つめる。
「それなら安心だ。そうだ、ギルドマスターの権限でアーサーを五等級の冒険者として認めてやる。」
【いや、ゼパムさん、俺は商業ギルドだけで結構ですので・・・。】
「こういうのは受け取っておくと良いぞ?そうすれば箔が付くからな。俺の権限ではさすがに此処までだがな。」
そういう物なのだろうか?
でも、ジャスティン達が四等級で戦っているその中に八等級の俺がいては確かに格好がつかないだろうな。
考えた末に受ける事にした。
【では、遠慮無く頂いておきますね。】
「そうしとけ、これで他の冒険者からも絡まれないで済むだろうよ。」
【ありがとうございます。】
「同じく、ディアナ。」
「は、はいっす!」
「お前も六等級にしてやる、ギルドの為にもっと働いてこい!」
「分かりました!謹んで受けさせて頂きます!」
「良かったですね、ディアナ。」
「これからも厳しくいくぜ、覚悟しろよ?」
「うっす!マスター!ありがとうございます!」
「礼なんかいい、この国、いや街の事を頼んだぞ!オーガの牙!」
「「「応!」」」
俺達がそう答える。
すると大根を見ていたジャスティンが呟く。
「・・・遠いですね。」
「・・・だな、相棒。」
「ですが・・・目標は高ければ高い程やる気が出ますよ!」
「その意気だぜ!相棒!」
何やら、戦士の二人は前向きになったようだ。
良かったのだろうか?
まあ、良いと言う事にしておこう。
さてと、ミスリルでこうなら、伝説のヒヒイロカネやアポイタカラ等と言った金属はどうなんだろうね?
まぁ、聖剣や魔剣にしか使われていないようだから出会う機会は無いだろうけれどね。
時間があったのでジャスティン達は、新人の冒険者達に訓練をしている様だ。
「ほら、そこは切り込むと反撃を受けますので受け流すのが良いですよ。」
「受け流すってどうすれば?」
「盾が無い場合は武器で行います。」
「武器でですか?」
「そうです、武器は攻撃にも防御にも使えるのですよ?」
「分かりました、ジャスティンさん!訓練に励みます!」
「その意気です、頑張って下さいね。では次の方。」
「よ、よろしくお願い致します!」
ジャスティンは教えるのが上手いなぁ。
俺も見習わないと・・・。
「で、だ、そこでガーっと行くんだ!」
「ガーっとですか?」
「そうだ、ガーっと行くんだ!」
「ダンさん、ガーっとってどうすれば・・・。」
「うーん、例えばだこう来るだろう?」
「はい。」
「そうしたらこうだ!そこで相手がひるんだらガーっと行くんだ!」
「だからそのガーって言うのは・・・。」
対照的に教えるのが壊滅的に下手だな、ダンさんよ。
うーん、誰かフォローを・・・。
周りを見るとアンナは弓術を、ディアナは格闘をそれぞれ教えている。
天才肌のアンナと、猪突猛進のディアナの事だから、ダンと教え方が似ているなぁ。
ラフィアは魔法の基礎を教えていた。
丁寧に教えるんだな。
教えられている皆も納得して指導を聞いているようだった。
流石、ラフィア。
すると、ゼパムさんが話しかけて来た。
「・・・アーサーよ、来たばかりだけどな。俺はこの街が気に入っちまったんだよ。」
【ええ、良い所ですからね。】
「そうだ。だから、もうあんな事は繰り返したくねえ。・・・本当に頼んだぞ?」
【ジャスティン達もいますから、何とかして見せますよ。それに守らなければいけない人達ですからね。】
「そうか・・・お前もこの街が大切なんだな。」
【ええ、それに、ドリュカス様が頑張って下さっていますからね。少しでも応援しないと、ただ、現王国の統治では・・・。】
「そうだな、この国の王様は、統治そっちのけで女遊びをしているらしいぞ・・・。」
【そうなんですか?】
「ああ、宰相様が嘆いていらっしゃるようだ。忠言はことごとく無視されていて両者の仲も悪くなっているんだとさ。」
【このままでは、長くはないと言う事ですね。】
「お前でもそう思うか・・・。」
【ですが、希望も見つけました。この街です、此処の統治は素晴らしいです。】
「そうだな、伯爵様が頑張っているからな。」
【そうですね、いっそこの国を背負って頂けると良いのですが・・・。】
「おいおい、謀反でも起こすつもりか?」
【いえ、内情が変わるのならばな、と、思った次第ですよ。】
「それなら、俺だってそうだ、ギルド組合の上層部の連中には愛想が尽きていた所だ。・・・それでよ、お前が働きかけてくれたんだろう?」
【一体、何の事ですか?】
「ギルドの幹部の総入れ替えだよ。どうせお前がやってくれたんだろう?」
【いいえ、違いますね。ですが、友人が手を回してくれたのでしょう。】
「友人か・・・。そんな友人なら大切にしろよ?」
【ええ、俺にとって、そいつもかけがえのない人ですからね。】
「男の友情が熱いのは分かったけれど、アンタにも教えてほしそうに新人ちゃん達がこっちを見てるわよ?」
それまで黙っていたミカがそう言って指をさして来た。
指の方向を見ると恥ずかし気にしている数人の新人冒険者さん達がいた。
おお、女の子もいるじゃないか!
ふぉっふぉっふぉ、ならば仕方がない。
【・・・じゃあ、僭越ながら俺も冒険者の心得と言う物を教えるかね。】
「アンタに教わる冒険者が可哀そうになって来たわ・・・。」
【ミカ、そこは頭を抱える所じゃないだろう!】
「変な事は教えるんじゃないわよ?」
【変な事ってなんだよ、変な事って!】
ゼパムさんはそんな俺達を微笑んで見ていた。
此処まで読んで頂き、誠にありがとうございます!
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それでは 次話 恥ずかしい物は恥ずかしい。(仮 で、お会い致しましょう。
お疲れさまでした!