家庭ごとに味の変わる食べ物
いつも読んで下さって、誠にありがとうございます。
執筆が終わりました。
楽しんでいただけると幸いです。
それでは、お楽しみ下さい。
ミカと一緒にいつもの宿屋へ戻る。
入口を潜ると、女将さんを見つけたので挨拶をする。
「「ただいま!女将さん!」」
「おや、元気っ子も、今日は早いね。稼いできたのかい?」
【もちろんですよ。それで荷物って届いてますか?】
「こいつらの事かい?」
女将さんはそう言って荷物を指さす。
時間が早かったのだが、其処はさすがのバウマンさん。
箱を開けると必要な香辛料が揃っていた。
ああ、久しぶりにアレが食えるぞ!?
そしてミカにカウンターに座ってもらう。
「さあ、今日の晩御飯の実力とやらを見せてもらいましょうか?」
【どっかの赤い人かよ!】
「何よその赤い人って?」
【・・・気のせいだ。まあ時間は掛かるから見ていてくれ、女将さんも見ていて下さいよね。】
「分かったよ、小僧。」
そう言って女将さんはレシピメモを取り出す。
あのメモにラーメンの作り方とかも書いてあるんだぜ?
それで、今から作るヤツも加わるんだぜ?
おっと、さっさと作って行きましょうかね?
そうして俺は、エプロンを付け手を洗うと料理に取り掛かる。
煮込む為の大き目の寸胴鍋と炒める用の大き目のフライパンを取り出す。
元日本人としては、久しぶりだから米で食べたいよね。
うん、米を炊いておこう。
別の竈にも火をくべると鍋を取り出し米を炊き始める。
張り切って作って行きましょうか!
前世ではトマトから作った時の知識しかないがやってみましょうかね。
トマトはヘタを取り皮をむいておく。
同じように玉葱も皮をむいておく。
ジャガイモは皮をむき芽を取り除いて、人参も皮をむいておく。
トマトはざく切りにしておき、じゃがいも、にんじんは一口大に切っておく。
玉葱は一cm幅に切り揃えておく。
今日は牛肉の気分だったのでビーフだ。
これで下準備が出来た。
中火にして油を引き、牛肉を加えて炒める。
牛肉の色が変わったら一度肉を取り出し、その油でスパイスのクミンを入れてなじむまで炒め合わせる。
此処でもう良い匂いがする。
ううん、たまらん。
「なんか、お腹のすく匂いね・・・。」
ミカがうっとりとそう言う。
弱火で熱した鍋に切った玉葱をいれ、すりおろしたニンニク、しょうがを入れる。
玉ねぎがしんなりするまで炒める。
焦がさないように注意だ。
女将さんメモに登録される。
ターメリック、コリアンダー等のスパイスを擂鉢で粉状にしておく。
付け合わせのコーンスープも同時進行で作っている。
ざく切りしたトマトを投入。
更に炒めるとペースト状になった。
ううむ、前に作った時はもっと水分が出ていたような気がする。
やはり作っているトマト等に違いがあるのだろうか?
慌てず粉末にしていたスパイスと塩を入れる。
炒めていた肉と温存していた野菜達を寸胴鍋に入れ水分を足し煮込む。
此処で小麦粉を少し入れて、でんぷんの効果でいっそうのとろみをつける。
そして肉が柔らかくなるまでコトコトと煮込む。
匂いがたまらん・・・。
久しぶりのアレのだ。
ふっふっふ、二人もたまらないだろう?
ミカも女将さんもうっとりしている。
我慢が出来なくなった女将さんとミカが言って来た。
「小僧、味見をさせな!」
「ちょっと味見しても良いわよね?」
【少しですからね?良いですか?少しですからね?】
そう言うとかき混ぜていた木のオタマで小皿に盛り付ける。
二人共、皿を口に運ぶ。
「小僧!美味いじゃないかい!これは何て言う料理だい!」
「美味しいわ!香辛料で作ったにしては辛くないのね!」
【そう、これは『カレー』と言う料理だ!】
ふふふ、さすがの女将さんでも二文字の料理の名前は間違えないだろう。
そうして良い匂いがしている厨房に複数の声が掛かる。
「お兄さん、女将さんとミカさんだけだなんてずるいわよね!」
「ヘファさん・・・是非味見を・・・。」
「良い匂いです、ヘファさん!お腹が鳴りそうです!」
「ヘファさん!お腹が減ったのです!」
「ねえ、貴方。不公平だとは思わないのかしらね?」
「そうです!不公平ですー!」
しまった。
皆は今の時間は、宿の手伝いをしているんだった。
匂いにつられて厨房に集まってきたようだ。
まあ、大量に作っているので大丈夫なのだがね。
ただ、カレーってちょっと食べるとすごくお腹が減るんだよね?
【じゃあ、皆、チョットずつだからね?】
そう言って全員にカレーを試食してもらう。
「美味しいわ!お兄さんの料理は美味しい物ばっかりよね!早く結婚して養ってよね!」
その頃には、リズさんにもきっと良い人が見つかるよ。
「大トロも良いですが・・・迷います・・・甲乙つけがたいです・・・。」
そうだね、甲乙つけがたいよね。
「ぶ、武士の情けでお代わりを!」
マオさんや、誰から習ったのか気になりますね?
「ヘファさん、大盛でお代わりなのですー!」
アリスさん、素直でよろしい。
だけど、もうちょっと待ってね。
「これは・・・美味しいわね。独り占めする気だったのかしらね?」
ルイス様、そんなつもりはこれっぽっちも・・・。
「うっうっ、ヘファ君が、お料理上手で良かったですー!」
ナナリーさん、泣かないでおくれ。
その後は皆、我慢するのが大変だったようだ。
そうなのだ、美味さを知っているから色々な誘惑が来る。
特にルイスとナナリーさん。
貴女達は皆より年上ですよね?
肉体的に・・・誘惑して・・・来ちゃったら・・・あふん!?
駄目だ!
夜まで我慢だ!
良いかい、未成年の皆さんや?
こういう所までマネしなくて良いからね?
特にアリスさん!
こうして数々の誘惑をして来る人達を尻目に、カレーは完成したのであった。
カレーが出来上がったので気晴らしに外に出る。
時刻は十七時四十分頃。
この宿のディナータイムは十八時から二十時三十分までだ。
その後は二十一時から0時で終わりになる酒場になる。
ちょっと一息つきに表通りに出る。
外にまでカレーの良い匂いがするね。
通りを行く人達が何の匂いかと足を止める。
ふと、お店の看板を見るとオススメの料理の所にこんな事が書いてあった。
『本日のオススメ!今、食べないと後悔する奇跡のかれー!』
【ぶっふぉっ!】
思わず吹き出してしまった。
何だ奇跡って!
この文面を考えたのはミカだな!
あんにゃろめ!
そう思ったが・・・心の中にカレーを試食した皆の笑顔が浮かぶ。
ま、まあ、たまには良いだろう。
そう思い直すと声が掛かる。
「ねえ、店員さん。初めて聞くけど「奇跡のかれー」ってそんなに美味しいの?」
店員では無いのだが・・・。
文言に引かれたのだろうカップルさんが訪ねて来る。
カレーの美味しさは分かってもらえると嬉しかった俺は大げさに答えてしまった。
「ええ、今日食べないとこの料理は食べられないかもしれませんよ?」
「良い匂いだね、どうする?」
「せっかくだし食べて行きましょうよ。十五分ぐらいだし、並んでおけばいいのかしら?」
「ええ、並んで待っていて下さいね。」
そうカップルに言って宿屋の扉を潜る。
女将さんに報告だ。
宿屋は大きくなったとはいえ、席の数に限りはあるのである。
・・・匂いにつられてだろうか、十八時になる頃には大行列が出来てしまった。
俺は、お客さんの楽しみそうな顔を見ている。
そして十八時。
女将さんがオープンすると、あっという間に席が埋まってしまった。
そしてオススメの料理しか注文が来ない。
外のお客さんの列も減らない。
何故か俺は、今日も忙しく厨房を駆け回る。
ノモスがその様子を見て笑っている。
今日はグレイさんと一緒だった。
バウマンさんは、希少素材の買い付けだろう。
ファリスさんは、今頃、神都で頑張っているはずだ。
ノモスとグレイさんにカレーを出す時に「これにも小麦粉を使っているんですよ。」と言う事も忘れない。
「これは美味いよ、アーサー!これは・・・良い!」
「美味いな。だが俺はもう少しピリッとした方が好みだな。」
一般客の中には家族連れもいるので、子供達も来るだろうと思い甘口にしてある。
リンゴと蜂蜜を隠し味にしてあるのだ。
今度は、グレイさんには辛めのチキンカレーを食べさせて上げたいね。
そうこうしているとお代わりの波が襲い掛かって来る!
「女将さん!奇跡のかれーをお代わりだ!」
「こちらにも下さいな!」
「女将さん、大盛で頼む!」
「奇跡のかれーを三人前頼むよ!」
「オススメの奇跡のかれーを四人分頼むよ!」
今日の厨房は、女将さんと俺で回しているのだが忙しすぎる。
配膳は新しい女性が二名だ。
まだ慣れていないので大変だろう。
ルイス達は十七時で上がりなので配膳には加わっていない。
厨房の俺の様子を見てノモスが笑い。
ミカがお代わりを連発する。
はい、うちの子達もお代わりですね!?
こうしてカレーが無くなるまで、お代わりと新規のお客さんは続いたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
・・・終わった。
看板に『売り切れ』の紙を貼る。
燃え尽きたぜ?
そう、食べるものが何も無いのだ。
女将さんに、まかないに何か作れと言われてオムライスを作っている。
俺もカレーが食いたかった。
ぐすん・・・今度また作ろう。
そうしてふわっトロのオムライスを作る。
ノモスとグレイさんは酒を飲みながらつまみに刺身を食べている。
二人で黙って飲んでいる様だった。
まかない食が終わると片付けの時間だ。
俺はいつもの通り皿洗いをする。
配膳の女性の二人はちょっと露出多めの衣装に着替えている。
酔客からのチップ目当てなのだと言う。
良く見ると首から口が開いたままの子袋を下げている。
酔うと、胸やお尻を触ってくるお客がいるらしく、触られた時にその子袋の中へチップを入れてもらうらしい。
入れてくれない客やチップの少ない客には、ビンタをしても良いと女将さんから言われているらしい。
逞しいね。
俺は皿洗いが終わるとお風呂に入る。
カポーン・・・
元日本人としては、やはり湯舟だよね。
そう言えば、確か灰汁から石鹸が出来るんだったっけかな?
そう、次のお金儲けの戦略として石鹸を考えていたのだが作り方が良く思い出せない。
某動画サイトで良くサバイバルの動画を見ていたのだが、まさかこんな所で使う事になろうとは思わなかった。
水に灰汁をゆっくり加えて、灰汁溶液を作って油を加えて良く混ぜる・・・。
うーん、こんな感じだったような気がする。
まあ、そのうち思い出せたら良い匂いのする石鹸をノモス達に作ってもらおう。
そんな事を考えながら湯船につかる。
風呂上り。
脱衣所で、腰に手を当ててバックパックから出した冷えた牛乳を飲む。
美味い!
これがたまらん!
その後着替えてから、歯磨き棒で歯を磨いていると酒場が騒がしい。
何だろうと思って覗いてみるとノモスと兵士さんが話をしていた。
どうやら、爺さんからの使いが来ていたようだった。
しばらく見ていると俺にウインクしてグレイさんと兵士さんと外に出て行った。
何か急ぎの用かな?
その時の俺はそんな事を思っていた。
そして部屋に戻ると日課のポーションを作る。
最近作っていなかったからね。
ちょっと気合を入れて作ろうかな。
作っていると、ルイスとナナリーさんが左右からしなだれかかって来る。
「貴方、今日もお疲れ様。でも、今夜も頑張ってくれるのよね?」
「ヘファ君、お疲れ様です。私もよろしいですかー?」
いつものお誘いがあったので応えておく。
二人を満足させると俺にも睡魔が襲って来た。
ポーション作りはまた今度だね。
こうして俺は、今日も二人の胸の間で眠りにつくのであった。
此処まで読んで下さって、誠にありがとうございます。
まずは、いつものから!
評価、イイネ、ブックマーク、等々。
大変に励みになります。
評価者様が、なんと100名を超えておりました!
拙者の稚拙な文章をこれだけの方々が評価して下さっている。
感謝しかございません。
皆様に感謝を!
それでは 次話 ミスリルの武具(仮 で、お会い致しましょう!
お疲れさまでした!