新しい商業ギルドのマスター
いつも読んで下さっていらっしゃる皆様方、誠にありがとうございます。
執筆が終わりました。
お楽しみ頂けると幸いです。
しばらくの日々を建築をして過ごしていると、西門に何台かの馬車がやって来た。
どうやら、商業ギルドの新しいマスターが到着したようだ。
俺は建築して気付かなかったのだがドリュカス様とレガイア様が出迎えに出ていたらしい。
丁度、東通りの建築をしていた俺は、その団体を見かける。
レガイア様が代表して、ギルドまで案内をしていたようだ。
馬車がギルドの前に到着すると、その人物は馬車を降り建物を見上げる。
新築したギルドの建物を見ていたその人物は、それまでは温和な方だったそうだ。
「王都のギルドよりも立派じゃないかね・・・。」
するとギルド員が入り口に並びだした。
その数、およそ80名。
馬車を降りてきたその老女に、代表してその中の役職員が声を掛ける。
「『ポリティス様』、ようこそおいで下さいました!職員一同、歓迎致します!」
「おやおや、こんな老骨の為に・・・ありがとうよ。」
「それでは部屋に案内致します。」
「少し待っておくれ。あたしゃあね、ものすごく忙しいって言うんで来たんだけれども、どうして忙しいのにこんな老骨を迎えている暇があるんだろうね?」
「あ、いえ、それは歓迎を・・・ですね・・・。」
「無駄な事さね。その分働いて民に貢献しなさいな。」
「え?か、かしこまりました!皆、持ち場に戻れ!」
すると、職員達が持ち場に散らばって行く。
「さてさて、この調子だと、どんな事になっているのやら?」
その女性は温和だったそうだ。
そう、無事だった資料を見終えるまでは。
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「これも数字が違うじゃないか!どういうこったい!さっきのも違うし、どうなっているんだろうね、このオーカムのギルド支部は!」
「申し訳ございません。前ギルドマスターのブロストンの言うままに仕事をしていたもので・・・。」
「なんでも任せりゃいいんだったら、犬にでもさせておきな!やっているのも人なんだから、考えられる頭があるだろう!」
「し、しかし、命に背けば・・・。」
「それがどうした!アタシがいるんだ、不正は見逃さないよ!どんどん資料を持ってきな!」
「は、はい!」
「ん?ちょっと待ちな!・・・この『ヘファイストス』という人物を呼んで来な!今すぐにだ!」
「そ、その方は無償で働いて頂いておりまして・・・現在は、何処の持ち場にいるのか不明でございます。」
「ばっかもーん!そんな事だから不正をしようって輩が出るんだ!お前も牢獄に行くかい!?」
「し、至急、何処にいるか調べて来て頂きます!」
「そうだ、この人物がいなかったら、まだこのギルドだって建物が建っていないんだ!とっとと連れて来るんだよ!」
「かしこまりました!」
「かーっ!こっちも違うじゃないか!数字を見ていたのは、いったい何処のどいつだい!」
しばらくその怒声は、部屋の中に響いていたらしい。
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俺はいつもの差し入れを食べ終わり、二人と別れると午後も建築の仕事をしている。
この辺り一帯が、一般市民の家族の住居になるようで二階建ての新築だった。
丸太ではなく厚めの木の板で組み立てていくログハウスの様な物だ。
職人さんが切れ込みを入れて行くと、それ人足さんやボランティアさんがを組み上げて行き家にする。
一軒一軒、図面を見ながら作っている。
建物は同じだ。
・・・俺の意見が採用されたようだった。
うむ、さすが未来のログハウス。
落ち着いたら、どっかの田舎でこういう家を建てて、ルイスとナナリーさん達とのんびりと鍛冶をして過ごしたいもんだね。
相変わらず木材は、ノモス経由の物を俺がバックパックに入れて運んでいる。
それを職人さん達が図面通りに、鋸を入れカットし、怪我をしないように加工して、人足さんやボランティアの人が組み立てている。
組み立てた後は、雨漏りのしない様に屋根を加工している職人さんと、家の壁の隙間を埋める職人さんとで別れて分担作業をしている。
その作業速度は驚異的で一日に七軒の家が建つ程だ。
最近は夜遅くまで建築をしている。
これはドリュカス様が考えていた物より、立派な物のようで視察に来ていた時にその建築方式や内装に驚いていた。
「あんちゃんは、色んな事を知っておるな。」
【創造神様の信徒ですからね!】
『アリステリア様』のおかげだと言う事にしておく。
そうしないと何を言われるか分からないからだ。
さすがにこれ以上は勘弁してほしい。
そして一般住宅の方は建てられるだけの木材を運び終わると次は北町に向かう。
此方は多くなってきた避難民の人達の為に、二階建てのアパートを建てて行く。
此処でも前世の知識が役に立った。
設計に携わった事があるのは大学の時以降だが、頭の中に図面は残っていてくれて助かった。
ログハウスは実習で建てた事が一度きりだったが、現状の所は上手くいっているようだ。
此処も職人さん達の力を借りて作り上げていく。
まだ、路上で生活している北町や東町の人の為にも提供する予定との事だ。
このアパートは、二年間は無償で暮らせるとの触れ込みで人が集まって来ている。
さすがドリュカス様。
三年の免税を盾に上手い事をやっていらっしゃる。
一年分の税金は、放出した物資の割り当てにするのだろう。
そうして建物が出来上がると人が住み始める。
これも職人さんや人足さん、ボランティアの人達のおかげだろう。
日々の食事や住まいが落ち着けば、後はお金の心配だろうか?
街が良い方に傾けば、反対側に乗ってバランスを取ろうとする商人達も戻って来た。
その噂を聞きつけて冒険者達も戻って来る。
そして更に住民が増える。
街は、今まで以上に活気が出てきた。
うーん、良い傾向なのだろうか?
そうして皆に建築を任せられるようになると、俺は対悪魔用の準備をする事にした。
まずは、オーガの牙の皆の強化である。
対最上級悪魔族との戦闘である。
何があるか分からないので悔いの無いようにだ。
そろそろ鍛冶の出来る環境にはなっているだろうと思い、商業ギルドに行くとアリシアさんから声が掛かる。
「ヘファイストス様、お久しぶりです。来て頂いた所、申し訳ないのですが、当ギルドのマスターがお会いしたいと探しておられます。お会いになって頂けませんか?」
【っへ?俺なんかやりましたか?】
「それが・・・分からないので、お会いして頂けるとこちらとしては有難いのですが・・・。」
【アリシアさんの頼みなら、嫌とは言えませんね。お会い致しましょう。】
「ありがとうございます。早速面会が出来るか聞いて来ます。申し訳ありませんが、少々お待ち下さい。」
そうするとアリシアさんはギルドマスターの部屋に走って行った。
アリシアさんも、大分自然に対応できるようになってきたじゃないか。
そう言えば、新マスターには挨拶してないな?
いやいや、挨拶はしなくても大丈夫なはずだ。
俺達は何処にでもいる金ランクだしね。
上を見ればいくらでもいるので俺達なんかが挨拶をしてもしょうがないだろうね。
そんな事を思っていた。
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通されたのは執務室ではなく応接室だった。
この部屋も俺達が作ったんだよねー。
あの時の、親方は元気だろうか?
多分まだ元気に働いているんだろうな。
今頃は北町で作業しているかもね。
そう思っているとドアがノックされ老齢の女性が入室してきた。
立ち上がろうとすると手を上げそのままで良いと言うように手を挙げてくれた。
メイドさんが一緒に入室してきて、お茶を出してくれた。
対面に座ると話始める。
「初めまして、貴方様がヘファイストス様ですかね?」
【そうですが・・・あ、挨拶がまだでしたね。】
「ふふ、私は当ギルドのマスターになりました『ポリティス』と申します。以後よろしくお願い致しますね。」
【御丁寧に、ありがとうございます。改めまして、ヘファイストスと申します。】
「ふむ・・・それでね、貴方様を探していたのよ。」
【あのー・・・俺、また何かやっちゃいましたか?】
「ふふ、そうとも言えますが・・・まずは、このギルドの建物を建てて頂いたことにお礼を、ありがとう。」
【いえいえ、頭を上げて下さい。こちらこそ、御世話になっていますので当然ですよ。】
「では、失礼しますよ。それとね、貴方様の貢献度が異常に高いのに何故、金ランクなのかと思いましてお話を伺いたく探しておりました。」
【ん?ランクは良い人と一緒に取っているので金で間違いはありませんが?】
「いえいえ、先程も言いました通り、その貢献度が大であるのに何故かと思いまして。」
【貢献度が大と言うのはどういう事でしょうか?】
「貴方様は、かの英雄であられるジャスティン様達にも、ギルドにて武具を作っておられますよね?」
え!?
履歴が残るのか?
と、言う事は・・・この人も俺の事がアーサーだと知っているのか?
【あ、あのー、何処まで知っておいでですか?】
「アーサーと言う偽名を使っていても、武具には作られた方の魂の一部が刷り込まれているのですよ。例えば・・・そうですね、貴方様が持っている剣を見せてごらんなさい。」
【はい、分かりました。】
もう、ここまでバレている以上、俺には隠し事をする事は出来ない。
言われた通り、バックパックから相棒を取り出す。
「その剣に『武器学』のスキルを使って見て下さいませ。」
【分かりました。「武器学」スキル。】
そうすると武器に刻まれた情報が見える。
おお、これはゲームには無かったね。
成程、成程・・・あれまー、倒した敵や数、それに製作者の名前が載っている。
武器学って、こんな便利スキルだったんだ・・・。
とりあえず、ありがとう相棒。
感謝をしてバックパックにしまう。
「お分かりになりましたか?」
【はい、それで貢献度とは?】
「それはこちらの仕事なのですが、貴方様には露店での商売以外にも、今回の食料の買い付け、それにこのギルドの建物の建築や街の再建等々。貢献度がアダマンタイトクラスなのですよ?」
【あー、そこまで分かっちゃう物なんですね?でも、俺は良い人と一緒で良いんですよ。】
「ふむふむ、貴方様の意思は固いようなので、これ以上は言いませんが、その貢献をもってすれば今まで以上の人助けも可能ですよ?」
【そう言うのは、俺の手の届く所だけで精一杯なんですよ。今回の騒動で思い知りましたし、良い人と一緒に歩むのも悪くないですよ?】
「ふふふ、良いですね。若いと言う事は、本当に良い物ですね。」
【若さの特権と言うヤツですよ。ただ今の事は良い勉強になりました。ありがとうございます。】
「いえ、こちらこそ。前マスターの不手際で逸材を逃していたのかと思うと夜も眠れませんでしたよ。」
【今後共、よろしくお願いしますね。マスター・ポリティス。】
「ふふふ、貴方様にならポリティスでも良いのですよ?」
【それでは、ポリティスさんと。】
「はい、それで結構です。」
【御用件はそれだけで大丈夫ですか?】
「後、これは個人的なお願いですが・・・ベルフゴールの魔の手から、この街をお救い下さいね。アーサー様。」
深々と頭を下げられる。
【今回は言わせて頂きます。必ずや守って見せましょう。】
「ふふ、それでこそ創造神様の御子。期待しておりますよ?」
【ポリティスさんも創造神様を信仰されていらっしゃるのですか?】
「表向きは商業神ですが。裏向きですね。こんな事を言うと怒られてしまいそうですがね、ふふふ。」
【分かりました、秘密にしておきます。御用が御済みでしたら、私は武具を作りに行きますね。】
「貴方様の良い様に。鍛冶場の用意は整っておりますよ。と、言っても建築したのは貴方でしたね。」
【左様ですが、あまり言いふらすのはやめて下さいね?】
「分かっておりますよ。貴方様に創造神様の加護があります様に。」
【ありがとうございます。それでは、失礼致します。】
そう言うと一礼して部屋を出て行く。
「『アリステリア様』、貴女様の御子が、万難を排する戦いに赴こうとしております。どうかご加護を!」
そう祈るとポリティスさんは業務に戻るのだった。
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それでは、次話 鋼という鋼物の性能の限界(仮 で、お会い致しましょう。
お休みなさいませ~。




