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奇跡

皆様方、いつも読んで下さってありがとうございます。

執筆が終わりましたので投稿致します。

お楽しみ頂ければ幸いです。

【あ、あ、あ、ナ、ナナリーさん・・・!?】


力なく膝を付く。

身体の力が無くなって行く。

絶望感が俺を包む。

そんな中、グッタリとしたナナリーさんを抱きしめる。


たった今、逝ってしまった彼女を見て涙が止まらない。


【うわあああぁぁぁ!!!】


涙って!

こういう時にさあ!

頭の中が色々な事を考えてゴチャゴチャだ!


何でだ!

何でこんなに簡単に!

こんな事なら最初から商業ギルドに来ていれば!

いや、ルイス達を放っておく選択肢は無かった。


【駄目だよ、ナナリーさん。こんな所で寝ていると風邪を引きますよ?】


その動かなくなった人にそう問いかける。


【すぐにベッドに連れて行ってあげますからね?暖かくしないと駄目ですよ・・・。】


その逝ってしまった大切な人に言う。


【その前に着替えないと、血塗れですよ?】


そう・・・目の前でいなくなってしまったその人に。


【俺が・・・着替えさせちゃいますよ?】


無駄な事だ。

自分の無力さのあまり大声を上げる!


【・・・何でだよ!『アリステリア様』!祈りは届いていますよね!!!】


そう、これは八つ当たりだった。


・・・希望はあったのだ。


だがこの手から砂の様に簡単に零れ落ちて行った。

泣き崩れた。

ああ、こんな事なら!

・・・今更後悔しても遅い。

ナナリーさんは、もう逝ってしまった。


これが英雄ともてはやされた俺の、大切な人の結末なのか?

だがこれはゲームではない。

現実での【死】なのだ。

大好きな人が死んだ。

こんなにも簡単に・・・。

・・・ん?


ゲームだと!?


脳裏に光が差す!


ふと思い出した事があった。

そう、ゲームでは出来たはずだ!

試してみる価値はある!

皆のおかげで秘薬はあるしマナも十分にある!

これで駄目だったらお別れだ。

だが『アリステリア様』でもそれだけは許さない。

覚悟を決めた。


俺は呪文を唱える。


【闇に囚われし者よ、永遠の時の彼方、その魂は闇に抗い閉ざされし未来への扉を再び開かんと欲す。】


ナナリーさん。


【大いなる根源たるマナよ、未来を紡ぎ、新たな旅路を与えたまえ。】


ナナリーさん!


【希望への扉、息吹くのは今!】


ナナリー!


長い詠唱を終える。


【・・・頼んだぞ! 10th!! ゴスペル・リザレクション!!!】


力のある言葉を唱える!

全てのマナポイントと引き換えに対象を復活させる魔法だ。

どうせ回復するんだ。

チートの9999のポイント、全てを持って行くが良い!


ゲームでは実働時間で一週間は魔法が使えなくなるというペナルティがあった。

この世界ではどんなペナルティがあるのかは分からない。

だが、そんな事でどうでも良い!

どうしようもなく好きで、大切な人を助ける!


そう決めたのだから!


力ある言葉を唱えると、天空に白く輝く魔法陣が現れる。

そこから光のカーテンが降りて来る。

魔法の効果だろうか?

ナナリーさんの体が少しずつ修復して行く。


空から心配そうな顔をした『アリステリア様』が降りて来るのが見えた。

心配?

俺なら大丈夫ですから、この人の事をお願いしますからね?

『アリステリア様』の手を握る。


ナナリーさんが青い光に包まれる。


「・・・ン、・・・クン、トクン、トクン。」


心臓の音が聞こえる!

傷も完全に癒えたようだ。

良かった!

蘇ってくれた!

これで大切な人にまた会う事ができる!

今度こそ!

ん?


・・・あれ?


そこで俺の意識は暗くなった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


何かの呪文を唱えた彼の体がドサっと倒れた。


「ヘファイストス様!?」


何が起こったのか分からない。

光のカーテンのようなものが収まると突然、彼が倒れたのだ。

倒れた彼に近づいて行く。


「・・・ヘファイ・・・ストス様?」


何故か体が震えている。

涙が止まらない。

この感情は何だろうか?

前を見る。

友達になったナナリーさんとヘファイストス様が倒れている。


感情のままに、このままにはしてはおけないと思った。


「救護班、頒布を持ってくるようにお願いします。」


だが私の声が聞こえないのか誰も寄ってこない。


「救護班、頒布を持ってくるようにお願いします!」


懸命に呼んでいるつもりだが、誰も来ない。

私の小さな声では誰も来ない。

気付いてくれない。

何とも言えない気持ちだ。

なんだろうこの胸のザワザワは?


ウロウロしている一人のギルド員の胸ぐらを捕まえる。

上司のザイクさんだったと思う。

正確な名前は覚えていない。

そんな人だった。


「な、なんなんだよ!アリシア君!?」


「手伝って下さい。友達が倒れているのです。」


「こっちだって手一杯なんだ!他の人を当たってくれ!」


「手一杯と言うのはどういう事でしょうか?貴方は先程からウロウロしているだけですよね?」


心の奥がザワザワする。

この感情は何だろう。


「とにかく忙しいんだ!手を放してくれ!」


「・・・いるのにですか?」


「な、何を言ってるんだよ!?」


「こんなにも頼んでいるのにですか?」


バシン!!!


自然と、その男を張り倒していた。


「こんなにも頼んでいるのにですか!?」


男はキョトンとしていたが、ハッとしたように私を見て言ってきた。


「わ、分かったからそんなに怒らないでくれたまえ。私が悪かったよ!一体、何を手伝うんだよ?」


「この人達を安全な所まで運んで下さい。」


「わ、分かった。皆、ちょっと手伝ってくれ!頒布を持って来い!二枚だ!」


その男は大声で職員に声を掛けると、十人程だろうかが集まって来た。

男を叩いた手を見つめる。

ジンジンとしている。

・・・そうか。


これが怒りと言う感情か!?


そう思っていると頒布を持った職員達が集まって来る。

集まった人達は二人を頒布に乗せ運び出す。

私は運ばれている二人を追いかけている。


「アリシアさん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。二人共、気を失っているようだからね。」


「ザイクさんは優柔不断だからな。」


「っけ、災害のマニュアルにも従えない無能だぜ?」


「そこまでにしておけ、聞こえるぞ?とにかく救護所へ運ぶんだ!」


「アリシアさんは、先輩のナナリーさんがこんな事になったので不安なんだろうよ。」


「見ろよ、この胸の所。赤黒い血だらけだぞ?これで生きてるなんて運が良いぜ。」


「おい、女性の胸なんか見るなよ?」


「分かってるさ!」


「皆さん、ありがとうございます。」


そうか、これが心配と不安か。

気分の良くない感情だ。

手伝ってくれた人達にお礼を言うと救護所のベッドまでついて行く。


簡易ベット寝かせるのを見届けると、もう心配と不安が無いように他の人を助けに行く。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


東の方で、空に魔法陣が浮かんだのが見えた。


「あ、あれは奇跡です!今、『アリステリア様』の奇跡が起こりました!」


ラフィアがそう騒いでいる。

避難していた人達にも見えたのだろう、ザワザワと声が大きくなっていった。


「・・・あれってさ~、アーサー君じゃないんさ~?」


「アンナ!気が付いたのですか!?」


「髪の毛が焦げたのはショックなんさ~。」


「軽口を叩けるのなら大丈夫のようですね。」


「おかげ様なんさ~。で、ラフィアは走って行っちゃったけれど大丈夫なんさ~?」


「じゃあ念の為だ、俺が付いて行くぜ!」


そう言ってダンが走り出す。

フル装備で走るのはどうかと思っていると避難している人達から声が上がる。


「おぉ、奇跡だ!」


「ああ、『アリステリア様』!」


「創造神様!女神様よ!」


「我らをお救い下さい!」


声がどんどん広がって行く。

アーサー、目立つのが嫌だから偽名を使っているのだろうに。

そう思うとまだ魔法の余韻の残っている東の空を見上げる。

そう言えば・・・

預かっていたポーションをアンナに渡す。


「念の為に飲んでおいて下さいって渡されたよ。」


「ありがたいんさ~。」


アンナがポーションを飲み干す。

すると火傷の痕が消える。


「・・・さて、復興が忙しくなりますよ?」


「そうだね~。まあ、お偉いさんからの命令待ちなんさ~。」


現オーカム伯は優秀だから大丈夫だろうと思っていると声がかかる。


「失礼する。オーガの牙のジャスティン殿かな?」


突然、声を掛けられた。

初めて見る人だな。

身なりからして、貴族様だろうか?


・・・貫禄のある人だ。


「失礼ですがどちら様ですか?」


「初めましてだな。私はレガイア・フォン・オーカム。伝達が遅くなった事、真に申し訳ない。此方も情報が錯綜さくそうしていてね。」


そう言って頭を下げて来る。

ほう、この人が噂の・・・。

次期名君としても名高い人だ。

この人がいるのならば、この領地は次代も安心なのだろう。


「いえ、自分達はやれる事をやったまでですよ。レガイア様。」


「ヘファイストス、いや、アーサー殿はいらっしゃるかな?」


「アーサーなら東通りにいると思いますよ?」


精神的に疲れていたので敬語になっていない。

まあ、大目に見てくれるだろう。


「騎士団を派遣してある。南通りの避難民の事は任せてくれ。」


「分かりました。じゃあ僕達も行こうかアンナ。」


「そうなんさ~。でも邪魔にならないかな~?」


「アーサーの事です。邪険にはしないでしょう?」


「そうなんさ~?じゃあ行くのさ~。」


「では、レガイア様。済みませんが、お任せ致します。」


「承った。」


「行こうか、アンナ。」


そう言ってアンナと共に東通りへ歩いて行く。

さて、復興は領主様に任せるとしても、悪魔族達への対応はどうなるのだろうか。

そう思ったが、今はアーサーが心配なのでそちらに向かうとしましょう。

歩いている途中で気づいた。


「あ!アンナ。一つ頼まれてくれるかい?」


「何なんさ~?」


「アーサーの思い人が北通りにいるはずなんだ。探し出して言伝を頼んでも良いかい?」


「名前は分かるんさ~?」


「たしか「ルイス」っていう人だったと思うよ。」


昔聞いた名前だ。

・・・アーサー、思い人は変わっていないよね?


「ふむふむ。」


「アーサーが無事って言う事だけでも良いので、伝えてあげてくれるかな?」


「分かったんさ~!」


アンナが北通りに走って行く。


その背中を見送ると僕も東通りへ走るのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あの人の帰りを待っていると東の空に輝く魔法陣が見えた。


アレは絶対にあの人だ。

ああ、また何かやっているのねと心配する。


「『アリステリア様』、あの人が無事であります様に。」


そう祈ると皆の方へ向かう。

皆、疲れているのだろう。

女将さんに寄りかかったり足を枕にして眠っている。


「女将さん、済みません。」


「なあに、孫みたいなもんだからね。それより小僧は大丈夫かね?」


「あの人の事は、心配するだけ無駄ですよ?女将さん。」


「まあ、無事ならそれで良いさね。」


女将さんと話していると騎士の人が声をかけながら移動している。


「南通りの安全は確保できました!移動できる方は移動して下さい!炊き出しもありますので!」


そう言って他の場所に行った。


「・・・まあ、小僧が戻るまではここにいるかね。」


「そうですね、女将さん。」


女将さんも自分の店がどうなっているのか心配だろう。

でも人の無事が一番よね。

そう考えてその話題には触れないようにする。


「この子達が無事だっただけでも良かったです。」


「そうさね、ルイスちゃん。命は金では買えないからね。」


「そうですね。」


女将さんと話をしていると真っ暗の中、誰かが近寄って来た。


「今、ルイスって言ったかな~?」


「は、はい?ルイスは私ですが、貴女は?」


「初めまして~。オーガの牙のアンナだよ~。貴女がアーサー君の思い人で間違いないんさ~?」


「あ、はい。私の大切な人の名前です。」


「なら、先に用件を言うね~。アーサー君は東通りにいるんさ~。」


やっぱりさっきのはあの人が・・・。

今度は一体何をやったのかしら。


「あの人は無事なんでしょうか?」


「あ~っしが直で確認した訳じゃないんだけれど、あの魔法らしきものは、アーサー君しかできないっしょ~?」


「・・・納得しました。連絡ありがとうございます、後で向かいますね。」


「りょ~。じゃあ先に行ってるのさ~!」


そう言うとアンナさんは多分、東通りに走って行った。


その走り去った方角、東通りを見てあの人の無事を『アリステリア様』に祈るのだった。

此処まで読んで下さって、誠にありがとうございます。

まずは、いつものから!

評価、イイネ、ブックマーク等々。

大変に励みになっております!

皆様に最大限の感謝を!

それでは 次話 目覚めない大切な人(仮 でお会いしましょう!

お疲れ様でした!

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