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てんてん転移  作者: 木苺
22/22

夢の中で①

転移先での 子供たちの「健康維持のための食生活確保」に乗り出したら、

なぜか、ローゼンタール王国の未来を背負って「生活改善』というお役目までくっついてきてしまった。


真面目な話し、私はもともと 「記憶するよりもメモをしっかり作って、それを見ながら日々の生活」というタイプなのだ。


だから 今の 子供たち一人一人の身長と体重と年齢にあわせた食材の分量は把握しているが、半年先の子供たちのための『必要栄養所要量』なんて覚えていない。

まして 大人の『労作別必要栄養所要量』なんて、自分が所持する資料のどのページに書いてあるかは覚えていても、その内容など全く記憶していない。


なので ベッドの中でつぶやいた。

「ローゼンタールの神様、無茶ぶりは、やめてください」と。


もちろん返事がかえってくるとこともなく、私は昼間の疲れからストンと眠りにおちた。


夢を見た。

(私はめったに夢をみないが 夢を見るときはめちゃくちゃ臨場感のある夢を見るタイプです)


雪のように白い肌、金色の髪が豊かに波うつ女性がでてきた。

「ごめんなさいね、ローゼンタールの女性達の嘆きを見るに見かねて、

 彼女たちとその子たちを 隠してしまったの」


「教会と宮殿の者たちの腐敗ぶりもひどいものであったから、仕置きしたのだ」

褐色の肌に青い目の白髪の翁も出てきた。


「つまり?」私


「翁と慈母様が、宮殿のある一角を外界と切り離し、

 宮中の女達とこどもたちを、城下町に送ったのだ。」

色白・まっすぐな黒髪に緑の目の男が言った。


(金色の髪の女性が『慈母様」なのかな? 彼女の目は緑だった。)


「それで?」


「我々3人が 主にこのローゼンタールを見ていたのだが、

 わかが たまたま おぬし達に目をとめてな」と翁。


「わか?」


「私は 『若』と呼ばれている。」

小麦色の肌に金髪巻き毛・碧眼の若者が出てきて説明を始めた。


「彼のことを、私は兄様あにさまと呼んでいる」

と、黒髪緑目の男に指先を向ける若。

 指さしではなく、指先をそろえた掌全体で方向を示すところが 育ちの良さの反映かな?


「宮中の女達は、不平不満を言うばかりで、改善策を見いだせないでいたわ」慈母様


「なので、貴族の女達に、市井で暮らすことで、自分たちの生き方を見直させようとしたのだけど、嘆くばかりの者が多くって」慈母様はため息をついた。


「市井の者たちも、男女別に分けてみたのだが、女性たちはともかく、男どもは話にならぬ」翁


「そのうえ、しっかり者の女性たちは、男抜きのライフスタイルを確立させてしまって、そのう 男女関係の改善という方向には一向に向きそうにないんだ。


 そして そこまでの生活力の無い女性たちは 足手まといどころかろくでもないことを画策するばかり。


 なので、生活改善の見込み無しの男女とその子らはまとめて 翁が眠らせ、

 しっかり者の女性たちと子供達にも今は休んでもらっている。


 つまり 今は市井に居る者たちも全員眠っている」アニサマ


「一方、僕は 強いリーダーシップをもって。 この国の者たちにモデルとなる生き方を示せる者がいないかと探すことになった。

 そして 君たち親子を見つけ、こちらの世界に呼ぶことにした」若



(ことわ)りもなく いきなり転移って乱暴過ぎます」私


「界の移動には いろいろと制約があってね、

 問答無用の転移となってしまったことは謝る。」アニサマ


「だけど ほら 君だって 5人の子供の母として孤軍奮闘して大変そうだったもの。


 このさい、こちらの世界で、()(ぜん)()え膳、お手伝いさんつきで 休養かたがたお仕事するのもいいんじゃないかと思って」若。


「それ、今の状態で言われたくないです。

 いきなり拉致らちられて、君のためだよ、なんて」


「ごめん」若


「弟のぶしつけな物言い、申し訳ない」

そう言ってアニサマは 若の頭をはたいた。


「すみません。」若は 頭を下げた。


「ただ 君の知識と経験が、ローゼンタールの現状打破に有効だと考えたから、君たち6人をまとめて転移させたんだ。」アニサマ


「どうして子供たちまで」


「一つには 子供たちには君が必要だから。

 そして 君だって 子供を残して一人だけの異世界転移っていやだろう」アニサマ


「むしろ 私だけ転移させて、こちらでの用事が終われば

 出発した同時刻の同じ場所にもどしてもらった方が、後の始末が簡単だったような気がします。」私


「あの頭の堅い男どもが 女性の話を真面目に聞くもんですか」慈母様


「君たち母子の姿をみせることそのものが、あの者達の気づきを(うなが)し、生活改善の原動力となると考えたのだ」翁


「げんに、彼らは 君の子供たち5人の(とりこ)になっている。

 あの子達の幸せのためなら、自分たちの因習も軋轢あつれきもこだわりも 何もかも捨てて、新しい生活スタイルをとりいれようと燃えているではないか」アニサマ


「それは認めます。

 でも、ここでの体験が はたして子供たちにとって良きものになるのでしょうか?

 それに 私たち6人全員一緒に 返してもらえるのですか?

 転移した瞬間に?」


「なぜ 転移した瞬間に戻ることにこだわるのだ?」翁


「戻ることが前提なのかしら?」慈母様


「転移した瞬間にこだわるのは、転移前と転移後にブランクがあると、行方不明期間ができてしまって、その行方不明期間のことを人に説明するのが大変だからです。


 戻ることが前提なのは、私も幼い頃に何度か引っ越しした経験がありますけど、その体験から学んだことに基づきます。」


「というと?」翁


「まず第一に、

幼ければ幼いほど、転居というのは、毎日の生活の断絶となって 深く心を切り裂きます。


 幼児にとって 「引っ越し」ということそのものが理解できない事柄なんですね。

 ある日突然 それまでとは違う生活が始まる。

 これまでの出来事がすべて消えて無くなる

 人もモノも一切合切なくなってしまって、別のモノになってしまう。


 お友達も 園の先生も なにもかもが消えてしまうんです。


 小学生くらいになると『別れる』ということがなんとなくわかってきて、「会うことがなくなっても 消えたわけではない」ということもだんだんわかってくるんですけど、

 未就学だと ほんとに 人も家も それまであったものが

急に消えて無くって 別のモノがでてくる、知らない人ばかりの中に放り出されると感じるんです。」


「別の言い方をすると、未就学のころは、まだ『人』という抽象概念ができていないから、

「○○ちゃんがいなくなった。△△先生が消えた」そんな風にしか感じられないのです。


 ”『代わりのお友達・新しい先生』に会えますよ”と言われても、

まだ「友達とか先生が入れ替わっても、隣の教室に行ったら会える」と言う経験そのものがないに等しいから、


「○○ちゃんもxxちゃんも みんな一緒。

 おうちの遠い近いはあっても、園に行ったらまた会える」と思っていた世界が 一瞬にして消えてしまって、もうどうしようもない、としか感じられないのです。


だって 今まで通っていた園そのもが 自分の前から消えてしまった。それをいえば 今まで住んでいた家や家の周りの存在そのもが

自分の前から消えてしまったとしか感じられないのですから。」


「大人は「こどもは すぐに忘れる』って言うけど

それは 新しい出来事に押し流されて、以前の出来事が記憶の底に沈んでいくだけです。

 別に、自分の前から消えて無くなったわけじゃない。

 ただ 過去の思い出が 自分の中から薄れるだけのことなんです。


 そもそも 子供、特に幼児さんというのは、「今」の連続が「生活」なんです。

 だって 「時間」という概念すらまだ成長途中でできあがってはいないのですから。


 だから 「園に行ったらxxちゃんに会える。〇〇先生がいる」

「お家に帰ったら△△をする」といった具合に、

場所とむすびつけて 自分のやることや出来事を覚えています。


あるいは「暗くなったら寝る、朝になったら起きる」のように場の変化と結びつけて覚えていたり、

「ごはんを食べたら歯を磨いて、お風呂に入って寝る」といった具合に、行動の順番として覚えたりしている状態。


よく「3時になったらおやつ」と教えますが、

幼児さんにとっての「3時」は、時間の概念・時の流れとしての3時ではなくて、「時計の二つの針の形と3の位置」として覚えているだけです。



小学校に入ってから、やっと時間と結びつけて自分の行動を覚える・考えることを学ぶわけです。

つまり学校の「時間割」を覚えたり「時間割」通りに動くことを通して「時間の概念」を養うわけです。


その点 未就学のこども つまりうちの子たちに取ったら、「場所」こそが すべての記憶の原点であり、存在の中心なのです。


なのに、その場所から突然引き離されてしまったらどうなると思います?」



「どうなるというのだ?」

私の問いかけに、アニサマは問い直した。


「今までの暮らし、つまり自分の世界が突然消えたのです!」

私は答えた。


「そのわりに お子達は 皆元気に過ごしておるようだが」

翁は反論する。


「それは 母である私がいるからです。

 家族そろって遊んでいるときに、突然冒険が始まって

 今も冒険の真っ最中だからです。


 つまり 子供たちは ちゃんと元の世界に 元の家に 元の時間軸に戻れると思っているからです。


 幸いにも うちの子供たちは、寝る前のお話、本の読み聞かせを通して、異世界転移については良く知っていますからね。

 そして 私が子供たちに話して聞かせた物語は、みんな 突然 冒険がはじまっても またちゃんと元の暮らし、もと居た世界 出発した時間に戻ってくる、そういうお話ばかりでしたから」


「なるほどのう」翁


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