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原始物語  作者: いそじん
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2. 狩りと火

リュウがタツと話し、火起こしができるミチの悩みを聞きます。

「リュウ、みんながいるのに、ヤリを投げるな。当たったら死ぬだろう」




起きたらタツのイエだった。殴られて倒れてる間に運ばれてきたのか。


アゴと、口の中が痛かった。殴る前のタツの顔を見て、口の奥の歯を強く噛んでおいた。


殴られるのは初めてじゃない。




「リュウのヤリで"大きいの"は倒れた。ヤリはみんなに当たらなかった。なぜタツはリュウを殴った?」




レンがタツに聞いた。そしてアゴを引いて奥の歯を噛んでいる。


タツはレンを見て、殴らず、またこっちを見てきた。


怒ってはいない。だが、目を離したらまた殴ってきそうな、そんな顔をしている。




「ハクが穴を掘っていた。エモノは穴に向かっていた。落ちれば、倒せた。


リュウ、ヤリだけで狩りをするな。エモノはヤリでなくても死ぬ。お前はみんなを生かせ。ヤリも、穴も、川も、みんなだ」




タツの言うことは分からなくはなかった。


ただ分かろうとすると、タツの前にも立てなかった昔の自分を思い出して嫌だった。




「難しい」




今、タツの目を見て言える言葉は、これしか知らなかった。


タツは口の片方の端を上に曲げて歯を見せた。




「ポッケが教えたのか」


「あぁ」


「ポッケとはよく話せ。ポッケは狩りも石はぎも、火起こしもできないが、よく知っている」




それからタツはこっちに指を向けてきた。




「いきなりヤリを投げるときは声を出せ。それでみんな避ける。分かったか」


「分かった」




みんなは運んできたエモノから肉や骨を剥いでいる。戻っていくタツの背中をみて、大きく息を吐いた。


タツの手は血で汚れていた。殴ったときに切れたのだろう。 


次は奥の歯を強く噛むのではなく、手で顔をかばおうと思った。




"大きいの"は"マンモス"というらしい。


ポッケはよく知っている。マンモスも初めてではなかったのか。


マンモスのツノがヤリの先に使えるか気になったので、作った土の山に刺してみた。


そんなによく刺さらなかった。こんなにとがっているのに。折れそうだった。




ずっとマンモスのツノを振り回していると疲れたので、火の前に座った。


ミチがつけた火が、大きくなっている。




火は、イエからイエに移動している"火つけ人"が人を選んで教える。


タツのイエではミチが選ばれた。




目をつぶって小さい声で何か言ったり、こすったり、また何か言ったり、木の皮や草をフサフサにしたよく分からないものに話しかけたりすると、なぜか口からモクモクと煙を吐き始めて、それを大きくすると火になった。とてもマネできることではない。




ミチが火起こしを覚えると、"火つけ人"は別のイエのところにさっさと行ってしまった。


ミチは火をつけると、大きくなった火をいつも見つめている。


顔をつついても気づかなそうな、逃げるのが遅いエモノのような顔をしている。


隣に座った。




「ミチ、大きい火だな。木の皮になんて話しかけたんだ?」


「何も。息を吹いてるだけだよ」


「それじゃあ火にならないだろう。教えてくれ。アイツに何を聞いたら、草と話せるようになる?」


「草とは話せないよ。ゆっくり息をかければ火が付く。火起こしは、見た目より簡単なんだ」


「カンタン?分からん。なんだそれは」


「川でしっこするようなものさ。誰でもできる。ポッケから聞いた言葉だ」


「もうあったのか。そんな言葉が」




ミチは体が薄いし小さい。ヤリも飛ばないし、石で刃も作れない。


火起こしができるので、みんなはミチをよく呼ぶ。




ミチはみんなと少ししか話さない。


よく火をつけては、座ってその火を見て、また呼ばれて火をつけにいくのだ。


ずっと火を見ているミチの顔を見ると、どこかに行ってしまうような気がするので、よく話しかけている。


いつものミチはあまり話さないが、今のミチはなぜだかよく話した。




「・・・怖いんだ」


「分からん。何が怖いんだ?草に何か言われたのか?いや、ミチは草と話さないんだったか」


「それが難しいんだ。どうすればいいか分からない」


「な、なに?さっき火起こしはカンタンと言ったじゃないか!何が難しい?」


「火起こしは簡単なんだ。それが難しい。誰でもできる。教えることもできる。そしたらみんな火を起こせるだろう?それが怖い」


「分からん。みんなが火起こしすれば、ミチはもっと簡単なんじゃないのか?」


「簡単なんてものじゃない。みんなミチを呼ばなくなる。火起こしに要らないから。それが怖い」




ミチが目をつぶって頭を抱えた。髪をワサワサと触っているので、髪についていた煤が舞った。


変な動きだ。初めて見る。ミチは火起こしと変な動きができるのだな、と思った。




元のミチに戻ってほしくなったので、変なミチの肩を両手でつかみ、顔に近づいて話した。


目は閉じてて見えないだろうが、耳は聞こえるだろう。




「ミチ、聞こえるか?分からんぞ。ミチの言う"難しい"も、"怖い"も、よく分からん。みんなが火を起こしても、きっとみんなミチを呼ぶぞ。ミチに火を見てもらいたいからな」


「見たってなんにもならないよ。火は火さ」


「そうなのか?ミチはなんでつけた火を見る?」


「要らない火は消すだろう?要るから火をつける。ミチが火だったら、いつまでついてるんだろう、と火を見て思うんだ」




思わずミチの変な動きをマネしていた。




「あああ!分からん!ミチは火じゃないぞ!ミチはポッケみたいだ!分からん!」


「リュウには分からん!!!」




いきなりミチが大きな声を出した。ミチが初めて怒っている。


なぜか顔が濡れていた。火に近づきすぎたのか。




「リュウはヤリを誰よりもよく投げる!みんなはリュウみたいに投げられない!だからリュウは狩りに呼ばれる!ミチは?ミチは火を起こせる。みんなは火を起こせない!みんなが火を起こせたら?誰もミチを呼ばない!火がついたら、それで終わりだ!ついた火をミチが見なくてもいいんだ!誰も・・・ミチを見なくていいんだ・・・」


「ミチ・・・」


「リュウは大きいし強い!石はぎも上手い!ミチの"難しい"が分かるわけがない!」


「ミチ!!!」




ミチの小さく速く震えている肩を掴んだ。


ミチは怒っているが、それが嬉しかった。




「ミチ。息を吸って、吐け。吸うだけ吸って、吐くだけ吐け」




ミチの顔を拭いた。拭いたところだけ煤が洗えたので、ますます変なミチになった。




「ミチ。何となく分かったぞ。それが嬉しい。また怒るなよ?」


「リュウ・・・」


「よく聞け。リュウは誰よりもよくヤリを投げる、と言ったな」


「あぁ」


「じゃあ、ミチは誰よりもよく火をつけろ」




ミチの目が少し大きくなった。




「みんなが火を起こせても、ミチみたいに火を起こせなかったら、きっと火をつけてからミチを呼ぶぞ」


「あぁ。そうだな・・・」


「みんなが火を起こせたら、みんな喜ぶ。ミチがもっとよく火を起こせたら、みんなもっと喜ぶ」


「あぁ、みんな喜ぶ」


「これでミチの"難しい"はすこし"簡単"になったか?」


「いや、もっと"難しい"になった。誰よりもよく火を起こせないといけないからな」




ミチは歯を見せた。顔は濡れていないし、怒ってもいないようだ。


タツも、怒ってないのに歯を見せていた。




「もしかして、それは"腹が減る"なのか?」


「なんだそれは?マンモスを食べたから腹は減ってないぞ?」


「そうか。よく分からん。レンに聞け。あと、カンタンって言葉を教えてやれ」


「分かった」




ミチが離れてからも、座って火を見つめ続けた。


タツやミチを思い出して歯をむき出してみる。口の端を上げると、歯をむき出せるようだ。簡単だった。


そのまま息を吐くと、フシュッッと音が鳴った。レンを思い出した。


そしてマンモスをまだ食べていないことを思い出し、腹が減ってきたので立ち上がった。

読んでいただきありがとうございます。


いっぱい書いたつもりなのに、3000字しかいきませんでした。

相変わらず原始人のことをよく知らずに書いています。

もっとよく知ってたら、もっと書けるかもしれませんね。

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