第零話「プロローグ」
俺はレオンハート家第17代、フィリウス・レオンハート。
歴史ある魔族一家の長男でありながら、現在は密林地帯にロイと二人隠れ住む日々である。
昼は蒸し暑く、夜は極寒のまさに最高の立地だ。
3年も住んでいたら嫌でも慣れてくる。
ついこの間まで、家族から勘当された身としてはそれなりに王国で楽しく暮らしていたはずだったのに、現状はこの有様である。
14年間積み上げてきたものが、たった数日で崩れた。
この、魔族排斥の世界によって。
レオンハート家第16代ルクス王国当主だった父上は、後継を失った。
唯一の後継である次男を事故で失った。
たったそれだけである。
たったそれだけで、当主としての立場を追われ、王国に裏切られる。
あんまりではないか。
父上はレオンハート家が滅びることを許さなかった。
恩を仇で返す王国を許さなかった。
その為に今俺は生きている。
一度縁を切ったにも関わらず、俺に全てを託した。
自分は国に残り、俺たちを逃した。
ただ、実際何をすれば良いのかという考えが浮かんでこない。
それに今はまだ密林地帯での潜伏期間だ。
ただでさえ俺は負の呪いによって魔術が使えない。
最近になって回復魔術が使える事が分かったが、それも色々訳アリである。
魔術を生業とする魔族としての威厳は皆無に等しいと言っていい。
この呪いさえ無ければ、父上も、母上も、弟も、いなくなる事はなかっただろう。
母上は弟を産む必要がなくなり、死ぬ事はなかった。
ペルペトゥスは生まれてくる必要がなくなり、死ぬ事はなかった。
父上は民衆に裏切られることがなくなり、死ぬ事はなかった。
…………少し話がズレてしまった。
書いていて辛くなってきたため今日はこれくらいにしようと思う。
ーーー
「負の呪いさえなければ……か」
木の上にて、書いた日記を眺めながらそう呟いた。
現実逃避をする為に敢えて現実を綴ってみたら案の定逆効果であった。
振り返るような過去は俺にはない。
だから俺は未来を突き進むしかない。
しかし呪いについてもまだわからない事ばかりだ。
俺はこいつを恨んでるが、こいつを理解しなければ俺自身が進化する事はない。
こいつを知る事が最初の一歩となる。
ーーー
そうしてフィリウスは木から降りて、夕方の特訓を始める。
彼が振るうのは杖ではなく、銀色に輝く剣だ。
『四族にはそれぞれ、人族に知恵 魔族に魔術 聖族に聖術 獣族に剣術を与えん』
という有名な言葉があるが、フィリウスには全く関係のないものだった。
彼がこの呪いを『逆子』と名付け、自身の母の名を借り、剣士『アルマ』という偽名を使用し活動を始めるのはもう少し後の話である。