表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その日、空は晴れていた。

作者: 湊かなえ

晴れの日は、雨の日よりも憂鬱になる。

晴れの日は、元気にしてくれる?そんなことは無い。

人それぞれなんだ。晴れの日に、いいことがあるとも、限らないじゃないか。

「おはようリト」

[おはよう、真奈ちゃん]

「今日は友達と飲んでくるからから遅くなるよ」

[わかった、行ってらっしゃい]

「ご飯は、いつものとこね」

[うん]

「じゃあ行ってきます」

[行ってらっしゃい]

いつものように真奈ちゃんは僕の目の前にご飯を置いていってくれた。会話をしてるように見えるかもしれないけど、僕の声は真奈ちゃんには届いてない。当たり前だ、僕、犬だもん。話してるつもり。僕は雑種の犬、仔犬の頃に真奈ちゃんに拾われた。真奈ちゃんは優しくて、いつも僕を撫でてくれる。きっとどんな家の犬より幸せだ。高価なご飯じゃなくても、ふわふわのクッションで寝なくても、僕は真奈ちゃんといるだけで幸せ。最近は散歩になかなか行かないから、外がどんな様子か分からないけど、多分匂い的に、今日は、雨。


「ただいま、リト」

【おかえり、真奈ちゃん】

「ご飯、美味しかった?」

【もちろんさ!】

黙ってこちらをみる真奈ちゃん。今日は疲れてる。ずっと疲れてるように見えるけど、いつも笑顔でいてくれる。

僕の声が、届けばいいのにな____



「リト、」

【なぁに?】

「今日は久々に、お外行こっか」

【やったぁ!】

真奈ちゃんは僕を抱えて靴を履いた。黄色いスニーカー、真奈ちゃんが気に入ってる靴だ。今日は僕の好きな青色のリードはしない。真奈ちゃんが抱っこしててくれるからだろうか。

「リト、外久々だね。最近はよく雨が降るよー。」

【雨、僕は好きだけど。真奈ちゃんは雨の日憂鬱そう】

「雨の日は頭痛くってさ、私的には辛いんだよねぇ」

偏頭痛とかいうやつだろう。低気圧(?)とかが理由だった気がする。

「リト、ちょっと軽くなったね。」

【今まで重かった!?】

「重かったって訳では無いけど、ちょっと悲しい」

【??】

たまに真奈ちゃん、難しいことを言う。僕には理解できないけど、ちょっと悲しそうな顔をしてた。

「やっぱ家が落ち着くなぁ」

お家到着。お散歩をしてその後ドッグフードを買いに行って、僕からしたら久々の大冒険だった。

「夜ご飯、何にしようかな」

【真奈ちゃんの好きな唐揚げは?】

「あ、まだお刺身残ってるんだった」

いやお刺身、昨日も食べたけど。

「リトはダメだよ?リトはこっち」

ドッグフードを少しふやかしたやつ。美味しいけど

「はぁ。ほんと疲れた」

【大丈夫?】

「仕事ってやんなっちゃうね。リトと一緒にいたいなぁ」

【気持ちは嬉しいけど、お仕事大事でしょ?】

「仕事よりもリトがいいよ」

ちょっと照れる。でもお仕事はしないと、ご飯食べれなくなっちゃう。

「よし、もう寝よ。やなことぜーんぶ忘れてさ」

【うん!そうしよう!】



「おはよう、リト」

【おはよう】

「今日は、どうだろ、専務になんて言われるかだけど、遅くなるかも」

【僕は大丈夫だよ】

「ごめんね、行ってきます」

【行ってらっしゃい】

真奈ちゃんはいつものようにご飯を置いていった。

元気がなくなってる。まだ、笑顔だけど。

匂い的に、今日も雨だ。


「ただいま」

【おかえり】

「あれ、ご飯、いや、当たり前か」

【…どうしたの?】

「今日、ごめんね。もう2時か。夜ご飯。。」

【大丈夫だよ、遅くまでお疲れ様】

「ダメだ、食べたくない…リトの分。。」

ガシャンッ

「あぁ、お皿、割っちゃった」

【ちょっと、大丈夫!?】

「あ、大丈夫だよ、うん大丈夫」

真奈ちゃんは笑っていた。引きつってる笑顔だ。

可愛くないよ、その顔。


___________


「おはよう」

【おはよう】

「はい、ご飯ね」

【今日も、少なめだね】

「ちょっと、急いでるから配分間違えてるかも」

【大丈夫。無理しないで】

「じゃあ、行ってきます」

【行ってらっしゃい】

この会話、何回したんだろう。

最近ずっと真奈ちゃんが同じことをリピートみたく言ってる。毎朝、今までは色んなこと話してくれたのに。

きっと、会社ってところでたくさん働いて、疲れてるんだと思う。休ませてあげたいけど、僕は何も出来ない。


「ただいま」

【おかえり】

「今日、早く帰ってこれた」

にへっと真奈ちゃんが笑った。全然早くない、もう1時だ。

おかしい。絶対に。

「明日お休みだから、会社行かなくちゃ」

【え?】

おかしいんだ。ずっと。今日はこんなことばかり言っている。

休みの日に当たり前のように会社に行って、いつも夜中に帰ってくる。

最近は僕のご飯しか作らない。自分のを、作らない。

「おかしいなぁ、ご飯、減ってないよ?」

「美味しくなかった?ならごめんねぇ。リト。」

狂ったように笑ってる。変な真奈ちゃん。

「あたりまえか。」

突然、我に返ったように、僕に向かって言った。

「今日ダメだ。うん、寝る。」

よかった、真奈ちゃんが戻ってきた。

「リト、明日、晴れるといいね」

【そうだね】

匂い的に、今日も雨だった。


「おはよう」

【おはよう】

今日の真奈ちゃんは自然な笑顔。ちょっと安心した。

真奈ちゃんが笑顔なら僕も嬉しい。

「ねぇ、リト、吠えてもいいんだよ」

突然、真奈ちゃんはそう放った。

「お隣さんに文句言われても、リトが元気ならそれでいいんだよ」

今まで何回か、僕が吠えすぎてお隣さんに怒られたことがあった。

「リト、ご飯ももっと食べてよ。たくさん作るから、お腹いっぱい食べなよ。」

僕は元々食いしん坊で、真奈ちゃんがくれると嬉しくて、どれだけでも食べられた。

「走り回って部屋を荒らしてもいい」

走り回っては真奈ちゃんの大切なものを壊して、怒られたね。

「私の友達に、噛み付いたっていいよ」

真奈ちゃんの友達が初めて来た時、僕は怖くて噛み付いた。

「脱走しても、帰ってきてくれればいいよ…」

1度だけ、脱走した。窓が少し空いてて、そこから外に出た。真奈ちゃんのいない外は怖かったけど、真奈ちゃんが見つけてくれた時、すごく安心してすぐに寝ちゃった。

あの時、寝なければ、よかったな。

「だからさ、帰ってきてよ、リト」

大丈夫、僕はここにいるよ

「私、もう、リトがいないと、辛くて、」

大丈夫、真奈ちゃんは強いんだから、僕が居なくても、

「もう、生きてるの辛いの」

ダメ、ダメだよ。

「会社ね、最初は楽しかった、みんな優しかったから」

うん。知ってる、毎日楽しそうに笑ってた。

「でもね、日に日に酷くなった。残業を強いられるようになった」

毎日辛かったよね、それでも笑顔でいてくれてありがとう。

「ずっと辛かった、けど、リトがいたから耐えられた」

うん。

「でももう、無理だよ。」

ダメだよ、ダメ、来ちゃダメ。

「私もさ、そっち行くから」

ダメだ、ダメなんだよ。まだはやいよ。お仕事はやめて、違うところ探そ?

「辞めさせてくれないんだよ、辞めようとすると怒鳴られるの、怖いよ」

でも、それだけはダメ、やめて、お願い。

「リトも、止めないでくれるでしょ?」

止めるよ、止めるに決まってるでしょ

「お願い、もう、楽になりたい」

そっち行かないで、ダメだよ、

「なんか、5階って意外と高いね」

何してるの、何するつもりなの

(何しようとしてるかは、分かってたけど、分かりたくなか った

「リト、会いに行くね。」

真奈ちゃん、ダメ、やめて!真奈ちゃん!



今日、外は晴れていた。

はじめまして、作者の湊かなえです。

この作品を手に取ってくださり、ありがとうございます。短い作品でしたが、楽しんでいただけたでしょうか。

感動系を書こうとしたら、なんだかこんな感じになってしまい、自分でも驚いています(笑)

今作は、人の心の脆さをテーマに書いてみました。このテーマが読者様に伝わるか不安ですが。。

さて、今回、歯切れの悪い終わり方にさせて頂きました。あの先は、読者の方に完結して頂きたいと思います。それぞれのクライマックスで構いません。どうか、想像をお楽しみください。

初投稿ということで、手探りしながらの投稿ですので、何か間違えた点があれば教えてくれるとありがたいです。

以上、湊かなえでした。今後とも、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ